■小説(発表年順)
二葉亭四迷「あひゞき」 明治21年 約24枚
ツルゲーネフの「猟人日記」の一部を翻訳した作品。秋の自然を背景として、男と、彼に捨てられる女との最後の逢引が描かれている。斬新な言文一致と自然描写により、後代に大きな影響を与えた。
幸田露伴「五重塔」 明治24~25年 約148枚
腕前は抜群ながら、世渡りが下手なために不遇を余儀なくされている大工・十兵衛が、周囲の猛反対を押し切り、五重塔の建立に名乗りを上げる作品。
樋口一葉「たけくらべ」 明治28~29年 約76枚
吉原遊郭に隣接した大音寺前を舞台に、少年少女の恋のめざめを描いた作品。
泉鏡花「高野聖」 明治33年 約105枚
旅の僧が旧道をたどっているうちに、妖しい美女の住む非日常の世界へまぎれこんでしまう幻想的な作品。
国木田独歩「春の鳥」 明治37年 約22枚
白痴の少年を描いた浪漫主義的作品。
夏目漱石「坊っちゃん」 明治39年 約234枚
四国の中学に赴任した、正義感あふれる青年教師を主人公とした作品。自由闊達な語り口で、江戸っ子らしい侠気と諧謔に満ちている。
島崎藤村「破戒」 明治39年 約563枚
父の戒めに従い、被差別部落出身であることを隠し続けてきた小学校教員が、社会の不当な差別とたたかうために、新しい人生を志す作品。
田山花袋「蒲団」 明治40年 約127枚
近代日本文学史の流れを大きく変えた問題作で、作者に師事していた女性との関係が露骨に告白されている。
国木田独歩「竹の木戸」 明治41年 約36枚
貧乏な職人夫妻が苦しまぎれに炭を盗むものの、不安と羞恥のために妻が自殺してしまう作品。
森鴎外「ヰタ・セクスアリス」 明治42年 約160枚
性の問題に焦点を絞った自伝的小説。作者の作品としては唯一、発禁処分となった。
長塚節「土」 明治43年 約630枚
ある貧しい小作人一家の生活を精細に描いた作品。農民文学の最高傑作とされる。
有島武郎「或る女」 明治44~大正8年 前編・約415枚 後編・約573枚
先進的な知性と強烈な自我を持ちながら、その才覚を発揮する場所に恵まれず、やがては自滅していく女性を描いた作品。
森鴎外「阿部一族」 大正2年 約73枚
肥後熊本の藩主・細川忠利の死に際しての殉死をめぐる作品。感情を拒否した明晰な文体で、歴史小説の傑作とされる。
夏目漱石「こころ」 大正3年 約446枚
ある大学生の目を通して描かれる、謎の多い「先生」を主人公とした作品。実は「先生」には、親友を裏切り、自殺に追い込んでしまった過去があった。
徳田秋声「あらくれ」 大正4年 約349枚
不幸な生い立ちを持った、気性の激しい女性を主人公とした作品。義理人情などに頓着しない、きわめて行動的な流転の半生が描かれている。
夏目漱石「道草」 大正4年 約432枚
作者の唯一の自伝的小説であり、夫婦間の軋轢や、親族との金銭トラブルなどを通じて、人間存在の奥深い暗部が追求されている。
夏目漱石「明暗」 大正5年 約944枚
夫婦、親子、兄弟、友人、親戚などの複雑な人間関係を、愛情や金銭の問題を絡め、精密に描いた作品。作者の死去により未完に終わったが、近代日本文学を代表する本格小説として高い評価を受けている。
有島武郎「カインの末裔」 大正6年 約88枚
北海道の酷烈な自然の中、粗暴で本能のままに生きる小作人を主人公とした作品。
芥川龍之介「地獄変」 大正7年 約74枚
天才画師・良秀が、最愛の娘の命と引き換えに地獄変の屏風を完成させる作品。作者の芸術至上主義が前面に出ている。
菊池寛「恩讐の彼方に」 大正8年 約61枚
主を殺して江戸を逐電した後、改心して出家し、慈善事業に打ち込む男を主人公とした作品。
梶井基次郎「檸檬」 大正14年 約13枚
鬱屈した青年が、なにげなく買ったレモンによって気を散ずる作品。青春文学の傑作とされる。
葉山嘉樹「淫売婦」 大正14年 約37枚
被搾取階級の悲惨な運命の女性を描いた作品。プロレタリア文学ながら、芸術性の高い幻想的な美しさをもっている。
葉山嘉樹「海に生くる人々」 大正15年 約447枚
海上労働者たちのさまざまな人間像と、その階級的な目覚めを描いた作品。スケールの大きな叙事詩的作品で、プロレタリア文学における記念碑的傑作とされる。
芥川龍之介「河童」 昭和2年 約107枚
河童の国へ迷い込んだ男を主人公とした作品。自殺直前の作者の思想が色濃く反映されており、河童の世界を描くことで人間社会が痛烈に批判されている。
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」 昭和2年 約107枚
孤独な少年・ジョバンニが、友達のカムパネルラとともに銀河鉄道の旅にでかける童話作品。
嘉村礒多「業苦」 昭和3年 約46枚
田舎に妻子を残し、愛人と駆落ちして上京した体験を描いた私小説で、「私小説の極北」とも評される作者の出世作。
小林多喜二「蟹工船」 昭和4年 約182枚
蟹工船で働く労働者たちが、奴隷のような労働に反撥し、ストライキを起こす作品。国家・財閥・軍隊の一元的構造や、植民地的搾取の実態が描かれている。
島崎藤村「夜明け前」 昭和4~10年 第一部・約1095枚 第二部・約1112枚
作者の父をモデルとし、明治維新前後の動乱を描いた歴史小説。近代日本文学史上、屈指の傑作とされる。
横光利一「機械」 昭和5年 約55枚
小さなネームプレート製造所で働く男たちと、その人間関係から生じる心理的葛藤を精密に描いた作品。
牧野信一「ゼーロン」 昭和6年 約39枚
駄馬ゼーロンにまたがって、森深くにある知人の家に向かう男を描いた作品。淀みのない朗吟調の文体で、現実とも妄想ともつかないユーモラスな道中が描かれている。
武田麟太郎「日本三文オペラ」 昭和7年 約47枚
ユーモアと抒情味のある筆致で、浅草のアパートに生活する雑多な男女の姿を描いた作品。
北条民雄「いのちの初夜」 昭和11年 約67枚
ハンセン病の宣告を受けた男の、心理的葛藤を描いた作品。
堀辰雄「風立ちぬ」 昭和11~13年 約158枚
高原の療養所で、肺結核で入院している婚約者に付き添う男を主人公とした作品。死を前にした愛と生のあり方が追求されている。
岡本かの子「老妓抄」 昭和13年 約44枚
財をなした老妓が、自らの夢を若い電気器具屋の男に託し、その生活を援助する作品。
田中英光「オリンポスの果実」 昭和15年 約203枚
オリンピック日本代表としてロサンゼルスに向かう青年を主人公とした青春小説。
織田作之助「夫婦善哉」 昭和15年 約79枚
ぐうたらな夫を抱えた女房が、さまざまな商売を遍歴して奮闘する作品。生粋の大阪町人の根性と生活力が描かれている。
中島敦「李陵」 昭和18年 約90枚
中国の史書を典拠として、李陵、司馬遷、蘇武の三人を描いた歴史小説で、人間の生の極限が追求されている。
島木健作「赤蛙」 昭和21年 約18枚
必死に岸を渡ろうとする赤蛙の姿に、作者自身の運命を重ね合わせた作品。
宮本百合子「播州平野」 昭和21~22年 約305枚
プロレタリア文学の代表的作家として、戦時中、投獄や執筆禁止などの弾圧を受けた作者が、戦時中の裁判の回想や、終戦直後の体験を描いた自伝的小説。
坂口安吾「白痴」 昭和21年 約59枚
戦争末期、薄汚い安アパートに住む男が、白痴の女と生活をともにする作品。
坂口安吾「桜の森の満開の下」 昭和22年 約47枚
鈴鹿峠に住む山賊が、残忍で美しい女に服従し、都で人を殺し続ける作品。桜の森の美しさが、非人間的で残酷なものとして描かれている。
原民喜「夏の花」 昭和22年 約35枚
自らの被爆体験を、悲憤や感傷を抑えた文体で描いた作品で、原爆の悲惨さを、静かに、重く訴えている。
太宰治「斜陽」 昭和22年 約259枚
敗戦による没落貴族の家庭を背景として、母、姉、弟、小説家の四人を描いた作品。
太宰治「人間失格」 昭和23年 約202枚
道化を演じ続けた少年時代から、左翼運動、心中未遂、妻の裏切り、モルヒネ中毒などを経て、精神病院で廃人となっている男を描いた作品。作者自身の人生を色濃く反映しているとされる。
■評論(発表年順)
北村透谷「厭世詩家と女性」 明治25年 約17枚
恋愛の意義や、文学者と現実社会との関係などを論じた評論。恋愛に溺れることを戒める風潮が強かった時代に、恋愛の重要性を説いた画期的な論文で、当時の文壇に大きな衝撃を与えた。
正岡子規「歌よみに与ふる書」 明治31年 約52枚
俳句の改革者として名を上げた筆者が、続けて短歌の改革にも乗りだした際の評論。極めて戦闘的な論調で、旧来の歌人や同時代の歌人が徹底的に批判されている。
石川啄木「時代閉塞の現状」 明治43年 約28枚
大逆事件の直後に執筆され、国家=強権との対峙を強く呼びかけた評論。明治後期の文芸評論の中で、最も先鋭的かつ重要な論文とされる。
有島武郎「宣言一つ」 大正11年 約13枚
当時、勃興しつつあったプロレタリア階級に対し、芸術家としての自己の態度を表明した評論。筆者の潔癖な性格がよくあらわれている。
折口信夫「国文学の発生(第一稿)」 大正13年 約20枚
近代日本の文学や思想に多大な影響を与えた折口民俗学の代表的論文。日本文学の起源を神の呪言にみるという独創的な論が展開されている。
坂口安吾「日本文化私観」 昭和17年 約57枚
「京都の寺や奈良の仏像が全滅しても困らないが、電車が動かなくては困るのだ。」という認識のもとに展開される斬新な日本文化論。
坂口安吾「堕落論」 昭和21年 約20枚
戦前戦中の倫理観をいっさい否定し、徹底的に堕ちきることで主体的に生きることを説いた評論。終戦直後に発表され、戦後日本の新しい倫理観を代表するものとして大きな反響を呼んだ。