森:森半太夫です。此処は相当きついでうがね。しかし、そのつもりになれば、勉強する事が多いし、将来きっと役に立ちますよ。まあ、一緒に頑張りましょう。
保本:私はこんなところに押し込められる気はありません。私は幕府の御番医になるために長崎へ遊学したのです。また江戸へ帰れば御目見医の席が与えられるはずだった。それが...いいですか、聞いてください。私の父はただの町医者ですが、その父の知人に法印天野玄白という人が居て...
津川:天野玄白といえば幕府の表御番医でしょう。
保本:そうです。その人が私のために長崎遊学の便宜も図ってくれたんです。また、御目見医に推薦する約束もしてくれたんです。
津川:はあ。それなのに、如何してこんな事に?
保本:分かりません。狐につままれたみたいで、全く。いや...
津川:何か有りそうですね。しかし、何ですな、天野玄白などという立派な後ろ盾があるのに、こう言うことになったとすると、まあ、締めるより仕方がないですな。我々もあなたが来るのを半月も前から知ってたんだし、どうやらあなたは赤ひげの眼鏡に適ったようだし。赤ひげはね、自分の気に入った者には変に無愛想なんですよ。私なんか気に入らないと見えて、小言一つ言ってもらえない。要するに全く無視されてるって訳ですよ。
保本:私は決して彼の思うままにはありません、これは狡猾に仕組まれた事なんだ。私はね、赤ひげなんと言おうとすぐ此処から出て行きますよ。
津川:それがね、保本さん、此処は町奉行の支配下に有るんですが、そこから正式にあなたの辞令が出てるんですよ。つまり、あなたは逃げも隠れも出来ないってわけですな。おかげで私はここから出て行かれる。さあ、あなたの部屋へ案内しましょう。といっても、私が出て行くまでは、私と二人の部屋ですからね。どうもお邪魔しました。(廊下へ出た保本の後ろを追って)あの男はね、なかなか秀才なんですよ。私とはどうも馬が合いませんがね。此処が私達の部屋です。おう、あなたの荷物がもう着いていますよ。ほう、’何処へ行くんです?逃げ出したりすると面倒な事になりますよ。保本さん!
お杉:(保本を追っかける津川を掴まえて)あの、あの...また差込が起こったんですけど、薬が切れてしまってないんです。すみませんがすぐに作って頂けないで...
津川:あの薬は赤ひげ先生のほか手をつけられないんだ。先生はお部屋にいる保本さん!(追っかける)保本さん、保本さん!(もがいている女を拘禁している部屋の前に来る)ここへはね、誰でも来ちゃいけないんですよ、赤ひげの他はね。(保本を掴んで)あの女、お杉は別ですがね。(お杉が走っていくのを見て)あれは付き添いです。 |