赤ひげ:(苦しげな息をしている殿様へ)かねて申し上げたとおり、殿はご病気とは申せません。しかも、病気よりははるかに好ましからぬ状態になっておられる。これはすべて、贅沢で安易な生活によるものです。美食をお腹一杯召し上がって、重いものといっては箸しかお持ちにならない。これでは、内臓全体に脂がたまって衰弱し吸収と排泄の調和が全くご家老、お献立を
家老:ここ三日間のお膳の品です。
赤ひげ:御家老、白米はお命を縮めるとあれほど。。。。
家老:それが...その。。。
赤ひげ:(献立を直しながら)主食は麦七に米三の割りで一食に一膳。鶏肉卵は厳禁魚介と塩梅も指定の量を超えてはなりません。これを向こう百日間お守りください。では。(退席しながら)ところで御家老、今日の薬礼を頂きたい。
家老:は、いかほど。
赤ひげ:五十両(場面が変わる。赤ひげ、両替屋から出ようとする)
徳兵衛:両替して赤ひげに)三十両。。。。で御座いましたかな。
赤ひげ:さよう
徳兵衛:つかぬことを伺いますが、医者は生死のことに預からずということがあるそうで御座いますな。
赤ひげ:あるようだが
徳兵衛:すると何ですか、ええ、治る病人は治る,死ぬ病人は死ぬ,医者の知った事ではない、というわけで御座いますかな。
赤ひげ:そういう意味もあるだろうな。
徳兵衛:すると藪医者も名医も差別はない、高い薬も町で売る売薬も同じことだというわけになるのでしょうかな、ああ、もちろん、新出先生のようなご高名な方は別としてですが。
赤ひげ:わしを別にする事はない。遠慮はいらん。他にもっと言いたい事が有れば何でも言え。
徳兵衛:はっこれはどうも、ご機嫌を損ねたようでございますな。
赤ひげ:いや、なかなか如何して。これぐらいの事で腹で立つようでは、金持ちの太鼓医者は勤まらん。
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