ふしぎ工房症候群9 [卒业]
~語り:緑川光
01- prologue
日常で起こる些細で不可思議な出来事、それが人の思考と行動に影響を与えていく過程と結末を知りたいとは思いませんか。この物語はあなた自身の好奇心と願望に基づいて構成されています。ともすれば身をとしてしまいがちないつもの風景の中にあなたが不思議工房を見つけることができるようにお手伝いしましょう。
02-親友からの手紙
「久しぶり。もうだいぶ会ってないけど、元気にしてる?君のこと考えたらちょっと手紙書きたくなっちゃって、最近昔のことをよく思い出すんだ。一緒に遊んだ頃が懐かしいな。覚えてる?僕が小学校に転入してきて、最初に声掛けてきてくれたこと。ずっと忘れてないよ。すぐに仲良くしてくれて本当に嬉しかった。学校の隣の公園で夜遅くまで遊んで迎えに来た親にひどく叱られたこともあったよね。あの公園は今でも思い出の場所だよ。中学高校も一緒に楽しく過ごしたね。でも、君が大学に行くことになって街を出る時は、正直寂しかったな。就職決まったって聞いた。おめでとう。君のことだからきっとすごい仕事をすると思う。僕の尊敬する人だし、今でも君を誇りに思っている。応援してるからね。気が向いたら手紙でもください。また会えたらいいね。その時が来るのを楽しみにしています。」
「手紙、ありがとう。あれから時間ばかり経っちゃって本当にごめん。仕事も始めてみないと分からないけど、とにかく頑張るよ。それでさ、もう少ししたら冬休みだから、年末に一回そっちに帰ろうと思う。全然帰ってなかったからさ。そしたら、一緒にあの公園に行ってみようか?久しぶりに会うの楽しみだな。じゃ、また。」
親友からの手紙。その返事をポストに投函して、空を見上げた。空気がしんとして都会には珍しく透き通るような青空が広がっている。ふと飛行機雲の向こうに、彼の顔と懐かしい郷里の風景が浮かんだ。僕は帰省するかどうか迷っていた。いや、本来なら帰れない。大学に入ったものの目標もなく、一年の夏には勝手に休学届けを出してしまった。親には元気に学校に通っている。学費は自分で払うから心配ないと嘘をつき、アルバイトをしながら適当に生活している。もちろん就職なんて決まっていない。どうしてこんなことになってしまったんだろう。自分でもよく分からない。僕には輝かしい未来が約束されていたはずだ。それを自ら捨てて、無気力な生活に甘んじるようになった。それはそれで気楽に生きられるから、満足していると自分に言い聞かせてみるが、空しいだけだったりする。あまりに周りに期待されすぎて、僕はそのプレシャーに耐えられなかった。そのくせ、みんな裏切ったことを知られたくなくて、こうして都会で一人気ままに暮らしている。情けないと思う。かといって、どうこうしようという気力は生まれない。このまま適当に生きていけばいいじゃないかという、もう一人の自分の声が聞こえてくる。今の僕は親友に尊敬され、誇りに思われる立場になんかないんだ。そう思ったら泣けてきた。久しぶりの彼の手紙が心に痛い。僕のほうこそ彼を尊敬している。彼こそ僕にとって乗り越えなきゃいけない大きな存在だった。なのにどうして僕は
03- 「転入生」
彼と初めて会ったのは小学校五年生の時だった。転入生として紹介された時、一瞬教室がざわついた。彼は重度の小児麻痺で左手と左足が思うように動かない。それは誰が見ても明らかだった。それでも彼は一生懸命に歩き、教壇の前に立つと胸を張って自己紹介し、仲良くしてくださいと頭を下げた。その姿に僕は幼心に感動した。ハンデを背負ってもたくましく生きている。そんな印象だった。でも子供は素直で残酷だ。異質なものを見る目付きで誰も彼に近付こうとしない。「ヤー」僕は教室で一人ぼっちになってる彼に声を掛けた。それから振り向いてクラス全員に仲良くしようと呼び掛けた。自分で言うのもなんだが、成績は学年で一番、スポーツ万能でクラス員長もやっていたから、誰もが僕に従った。その僕を彼は羨望のまなざしで見詰めていた。今思えば、心のどこかで優越感に浸っていた。何より感動したというのは実は嫉妬だったように思う。大人顔負けの偽善者だったかもしれない。一方、彼は驚くほど素直で真っ直ぐな性格だった。困難をものともしない強い心を持っていて決して自分を恥じるような素振りを見せなかった。それが僕には眩しく、いってみれば最大のライバルが現れたと直感したのだ。誰にも負けてはいけない。両親や周りの人間に期待されて育った僕に僅かだが焦りが承知だ。普通なら彼を敵視することもあるだ ろう。だが、僕はそうしなかった。彼の側にいることで自分の優秀さをアピールするという作戦に出たのだ。本当に嫌な子供だった。だが、彼と一緒にいればいる ほど僕は彼の純粋さに打ちのめされる結果となった。放課後はよく二人で学校の隣にある公園で遊んだ。校門が閉まった後はそこが絶好の遊び場で僕は彼をそこに招待したのだ。しかし、木の枝を折ったり花を抜いたりといたずら僕を決まって彼がたしなめた。その度に僕は口を曲げた。学校ではできない密かな楽しみを奪われた気がして、頭に来たからだな。同時に言い付けられると思う恐怖もあって黙った。しかし、彼は決してそんなことしなかった。ある日、公園の管理人 から学校に苦情が入った。いたずらしている児童がいると教室で先生からそれを告げられると、僕は心臓が止まりそうになった。みんなの前で恥をかきたくないという思いが頭を駆け巡り、青ざめで下を向いていると不意に僕ですという声が聞こえた。顔上げると彼が席から立って、ごめんなさいと先生に頭を下げていた。 虫取りをしていた時のことだった。僕がカマキリを殺して遊んでいると、いきなり彼に突き飛ばされた。何をするんだと睨みつけると彼は命は大切だからといって 涙を流した。道を歩いていても彼は困っている人を見つけると、躊躇なく助けようとする。横断歩道で老人の手を引いたり、重い荷物を持ってやったり、お前のほうがよっぽと大変だぞとずっと思いながら、僕は慌てて彼を手伝った。彼に聞いたことがある。なぜそんなことまでやるのかと。彼の答えは僕を圧倒した。「僕は人の 役に立ちたいんだ。こんな体でも役に立てるって、世の中に必要とされているって思いたいんだ。じゃないと、僕が生きている価値がなくなっちゃう。それが怖いんだ。」正直すごいやつだと思った。と同時に、こいつには勝てないのではと心の底で思った。今まで陰で助けてもらっているくせに、嫉妬で我を失いそうになって、この時は彼をおいて家に帰ってしまった。普段はみんな、彼のことを僕の子分かなんかのように思っている。しかし、実は対等以上に彼の存在が大きく、それに自分で気づくことさえいやだった。
[ 本帖最后由 抹茶兔 于 2007-1-6 11:06 编辑 ] |