に
[格助]
①動作・作用や状態の成立にかかわる物事を補う。物事の内容は、述部の意味により、~のような種類に分かれる。
動作・作用の成立に深く関わる場所を表す。
㋐存在の場所や所有する者を表す。 「机の上に本がある」「母は部屋にいる」「この公園に砂場がない」「彼には子供が三人いる」「彼女には責任感が欠けている」 「?道ばたに犬が死ぬ」「?ベッドに男が眠ねむる」のように、動詞だけでは「に」をとれないものでも、「ている」が付いたり、連体修飾語になったりすると、「道ばたに犬が死んでいる」「ベッドに眠る男」のように、「そこにそういう状態で ある/いる」という意味を表すものもある。
㋑物事が生じる発生・出現・新設などの場所を表す。 「枝先に芽が出る」「スカートにしわができる」「庭に小屋を建てる」
㋒《移動や設置などを表す動詞とともに使って》移動先や設置の場所や方向を表す。 「成田に着く」「東京に向かう」「プールに飛び込む」「銃口を市民に向ける」「リボンは胸に付けなさい」「服に泥が付く」「南に向いた窓」 ものの設置よりも、動きの方向性を重視するときは「へ」に言い換えられる。⇒ へ(格助)
動作・作用の向けられる先を表す。
㋓動作の向けられる相手を表す。 「友達に話す」「家に電話する」「弟に教えてやる」「人に飛びかかる」
㋔精神作用の向けられる目標を表す。 「母に甘える」「スターにあこがれる」「幼馴染みに恋する」「スポーツに熱中する」「勉強に打ち込む」
動作・作用の結果、状態や目的などを表す。
㋕《変化を表す表現とともに使って》変化の結果としてもたらされる、物事・立場・状態などを表す。 「新しい車に変える」「友達になる」「王様に扮ふんする」「朱に染まる」「壁をブルーに塗る」 変化の結果がモノからサマに傾くと、形容動詞や形容詞の連用形による表現と極めて近くなる。「美人になる(格助詞の例)」「きれいに/美しく なる」
㋖資格や見立て、名目などを表す。…として。 「この作品をグランプリに選出する」「有力者を候補者に立てる」「鈴木君を助手に採用する」「本を枕まくらにする」「おみやげに菓子をもらう」「お礼にひとこと」
㋗《下に移動を表す動詞を伴い、動詞連用形や動作性名詞に付いて》移動の目的を表す。 「映画を見に行く」「家まで忘れ物を取りに帰る」「町に買い物に出る」
㋘動作・作用のあり方や付帯的な状況を表す。 「一気に飲み干す」「振り向きざまに矢を放つ」「手を左右に振る」「言われた通りに作る」「何も考えずに行動する」「仕方なしに元に戻す」
動作や作用、状態の基準を表す。
㋙一方の状態を表すために、他方を基準として示す。 「このマンションは駅に近い」「無関心は賛成したのに等しい」「長女は母に似ている」 「長女と母とは似ている」は両者を対等に表すのに対して、「長女は母と似ている」や「長女は母に似ている」は、一方を基準とした表現。「~に」のほうが「~と」よりも固定的な基準になる。
㋚その状態が適切かどうかを判断するための、個別の基準を表す。 「私には大きい」「子供には無理だ」
㋛優劣の判定や評価の対象となる側面や部門を表す。…の面[点]で。 「試合に負ける」「勝負に勝つ」「知力にまさる」「開発力に優れた企業」「総合力に劣る」
㋜存在のあり方が問題にされる内容物や付帯物を表す。 「養分に富む」「責任感に欠ける」「想像力に乏しい」「やる気に満ちあふれた態度」 「彼が責任感に欠ける」を、「彼に責任感が欠ける」のように言い換えると、(ア)の意となる。
㋝配分の基準となる単位を表す。…につき。 「一日に三回食べる」「お一人様に一本ずつ、生ビールをサービスします」
動作や作用・状態のきっかけとなる物事を表す。
㋞主体に働きかけて、ある状態をもたらす物事を表す。 「病やまいに倒れる」「日に焼ける」「風にそよぐ」「弟に負ける」
㋟対応や処置の動作・作用を起こすきっかけとなる物事を表す。…に対して。 「騒音に抗議する」「提案に賛成する」「議長案に反論する」「台風に備える」「呼びかけに応じる」「音に反応するセンサー」
㋠感覚や感情が生じるきっかけとなる物事を表す。 「無責任な態度に憤る」「美しい音楽にうっとりする」「事故の善後策に悩む」「突然の訪問にとまどう」
②《使役や受身、やりもらいなどの表現とともに使って》もとの動作・作用の主体を表す。
㋐《受身や授受の表現とともに使って》動作をしかけてくる側の物事を表す。 「友達に(=から)もらう」「先生に(=から)教わる」「警官に(=から)助けてもらう」「時間に追われる」「波に飲まれる」 ものや精神作用などが向けられるときは「から」とも。⇒ から(格助) (7)
㋑使役の動作を仕向けられる側の人を表す。 「太郎に書かせる」「息子に習い事をさせる」 「子供を立たせる」など、もとの動詞が自動詞の場合は「を」とも。「赤ん坊 ○ を/ × に 立たせる」など、仕向けられる側の自主性が弱い場合は「に」にならない。⇒ を(格助) (1)(セ)
③時を表す。
㋐《時点を表す名詞に付いて》出来事が起こる時点を表す。 「三時に起きる」「九時に始める」「月曜に来る」 「今日」「翌日」「去年」「翌年」「来月」など、「に」の付かないものもある。
㋑《「…までに」「…のうちに」「…の間に」「…以内に」などの形で、期間を表す語に付いて》期限を表す。 「あすまでにやる」「おれがいる間に仕上げろ」「一週間以内に読んでおくこと」
④〔文語的な言い方で〕動作・作用が行われる場や手段などを表す。…で。…にて。
㋐動作・作用が行われる場を表す。 「駅前に待つ」「母校に会す」「会館に昼食する」
㋑手段を表す。…で。 「寒風を襟に防ぐ」
㋒原因を表す。…で。 「暴風雨に落ちた果実」
⑤《「には」「にも」などの形で》尊敬する人が主語であることを表す。 「先生にはお元気でお過ごしの由よし」「あなた様にもお変わりないご様子」
⑥取り合わせを表す。また、同類のものを並べ挙げるのに使う。 「梅にウグイス」「割れ鍋なべに綴とじ蓋ぶた」「東男に京女」「おせんにキャラメル」「国語に算数に理科に社会」
⑦《動詞連用形に付き、同じ動詞を続けて》意味を強める。 「泣きに泣いた」「飲みに飲んだ」「待ちに待ったこの日」
⑧《「AするにはAするが」の形で、同じ動詞を繰り返して》譲歩の気持ちを表す。 「読むには読んだが、よく理解できない」「話すには話してみるが、いい返事は期待しないでくれ」
[接助]
①《「…ようにも」「…まいに」などの形で》逆接を表す。 「進もうにも風が強くて歩けない」「そんなことはあるまいに」
②《動詞連体形に付き、同じ動詞の可能打消の形を続けて》…したくてもできない意を表す。 「泣きたくも泣くに泣けない」「風雨が強く、行くに行けない」「越すに越されぬ大井川」「押すに押されぬ名代の役者」
③《「思うに」「考えるに」「要するに」などの形で》発言の前触れとして使う。 「思うに、あなたは誤解している」「私が考えるに、この案には問題がある」 |