社説:
IBMがパソコン事業を中国企業に売却すると発表した。かつてハイテクを代表したパソコンも、テレビやビデオデッキのような薄利多売の商品になっている。IT(情報技術)産業の変化の速さを改めて印象づけた。
現在使われている大半のパソコンはIBMがつくった規格をもとにしている。また、言葉のため独自仕様だった日本に米国など世界で使われているパソコンを持ち込んで使用できるようにしたのもIBMだった。
中核となる演算用の半導体と基本ソフトを外部から調達したこと、そしてIBMが公開した仕様をもとに部品をつくるメーカーが相次いだことにより、IBM互換パソコンが次々に登場することになった。オリジナルの基本ソフトの投入で巻き返しを図ろうとしたこともあるが、主導権を回復することはできなかった。
パソコンの登場でビジネスのやり方は大きく変わった。ネットワークの普及とともに通信機器としての役割も備え、家庭にも入り込んできたパソコンはライフスタイルも変えることになった。
しかし、パソコンの部品はネジに至るまで規格化されている。しかも、基本的な性能に大差がないため激しい価格競争が展開されており、淘汰(とうた)も激しい。
IBMとしては利益の出ないパソコン事業より、収益性の高いサービス部門を拡大する戦略をとった。そして、必要となるパソコンは、事業を売却した中国企業から調達すればいいと判断した。
世界のパソコンのかなりの部分が中国や台湾でつくられている。IBM製のパソコンも例外ではない。日本のメーカーが販売しているパソコンの多くも中国や台湾のメーカーに委託生産したものだ。
80年代半ば日本製パソコンは技術的に最も進んでいると言われていた。しかし、この優位を保つことができず存在感を失い、現在ではIBMと同様に苦戦している。
しかし、半導体の製造装置や高密度の磁気ディスクといった分野で日本メーカーは優位に立っている。こうした分野で競争力を維持できるかが、今の日本の産業界に問われていることだ。
一方、IT産業の開発競争は、第3世代携帯電話や高画質映像をネットワークを使って利用できる情報家電に移っている。高速大容量のネットワークと無線通信を利用し、映像コンテンツの配信や、認証・課金サービス、電子商取引、ホームセキュリティーなどのサービスを展開すべく競っている。
日本は光回線の敷設で世界の先端を走っているが、こうした新たな産業を育てるには機器の開発に加え通信分野で自由に活動できる環境が必要だ。
新しい技術を導入する際、既存の仕組みへの影響を気にするあまり後れをとるケースが過去にしばしばみられた。これからは広帯域の無線通信の実現や光回線の利用の拡大、次世代インターネットの普及がポイントとなるが、それが可能となるよう、規制や制度の見直しを迅速に進めてほしい。 |