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水曜の午後ピクニック(5)
一九七〇年十一月二十五日のあの奇妙な午後を、僕は今でもはっきりと覚えている。強い雨に叩き落とされた銀杏の葉が、雑木林にはさまれた小径を干上がった川のように黄色く染めていた。僕と彼女はコートのポケットに両手をつっこんだまま、そんな道をぐるぐると歩きまわった。落ち葉は踏む二人の靴音と鋭い鳥の声の他には何もなかった。
在1970年11月25日那个奇妙的下午,我至今还记忆优新。被大雨击落的银杏叶布满并染黄了夹在树林间的小路,像是条干河。我和她把两手插到大衣兜中,在那条道上来回走着。除去二人踏上落叶的靴声和尖锐的鸟鸣声之外再没有其它声音了。
「あなたはいったい何を抱え込んでいるの?」と彼女が突然僕に訊ねた。
“你到底有什么想做的事情吗?”她突然问我。
「たいしたことじゃないよ」と僕は言った。
“也没有什么具体的想法。”我回答说。
彼女は少し先に進んでから道ばたに腰を下ろし、煙草をふかした。僕もその隣りに並んで腰を下ろした。
她朝前走了几步之后坐到路边,抽起了烟。我也坐到她的身旁。
「いつも嫌な夢を見るの?」
“你总是做不好的梦吗?”
「よく嫌な夢を見るよ。大抵は自動販売機の釣り銭が出てこない夢だけどね」
“经常做。很多都是自动贩卖机吐不出零钱。”
彼女は笑って僕の膝に手のひらを置き、それからひっこめた。
她笑着把手放到我的膝盖上,然后又缩了回去。
「きっとあまりしゃべりたくないのね?」
“你是不是不太想说?”
「きっとうまくしゃべられないことなんだ」
“实际上也没有什么可说的呀。”
彼女は半分吸った煙草を地面に捨てて、運動靴で丁寧に踏み消した。「本当にしゃべりたいことは、うまくしゃべれないものなのね。そう思わない?」
她把吸了还剩半截的烟扔到了地上,用运动鞋用心地踩灭。“是不是本想说的事,却不能很好地表达出来?不是这样想吗?”
「わからないな」と僕は言った。
“这个我也弄不明白。”我说。
ばたばたという音を立てて地面から二羽の鳥が飛びたち、雲ひとつない空に吸い込まれるように消えていった。我々はしばらく鳥の消えたあたりを黙って眺めていた。それから彼女は枯れた小枝で地面に分けのわからない図形を幾つか描いた。
两只鸟从地面上飞起来发出呼啦呼啦翅膀的拍打声,然后消失到没有一丝云彩的天空中。我们默默地注视着鸟刚刚所消失而去的天空。过一会儿,她用干枯的树枝在地面上画着让人看不明白的图形。
「あなたと一緒に寝ていると、時々とても悲しくなっちゃうの」
“和你一起睡觉的时候,经常让人很悲伤。”
「済まないと思うよ」と僕は言った。
“让你不尽人意吗?”我问她。
「ああたのせいじゃないわ。それにあなたが私を抱(だ)いている時に別の女の子のことを考えているせいでもないのよ。そんなのはどうでもいいの。私が」彼女はそこで突然を閉じてゆっくりと地面に三本平行線を引いた。「わかんないわ」
“也并不是你的原因。尽管如此,是不是因为你在抱着我的时候还正在想别的女人?那样做都无所谓。”她突然停下来,慢慢地在地面上划了三条平行线。“我真是不明白。”
「別に心を閉じているつもりはないんだ」と僕は少し間をおいて言った。「何が起こったのか自分でもまだうまくつかめないだけなんだよ。僕はいろんなことをできるだけ公平につかみたいと思っている。必要以上に誇張したり、必要以上に現実的になったりしたくない。でもそれには時間がかかるんだ」
“并没有特别想关闭自己的心。”我稍等了一会儿说。“是什么原因引起的,我自己也把握不住。我尽力在想做到让各种事情能平衡。并不想那么夸张,也不想那么过分地现实。总之,那毕竟需要时间的。”
「どれくらい時間?」
“需要多长时间?”
僕は首を振った。「わからない。一年で済むかもしれないし、十年かかるかもしれない」
我摇摇头。“这个还不明白。也许是一年就可以,也许是十年。”
彼女は小枝を地面に捨て、立ち上がってコートについた枯草を払った。「ねえ、十年って永遠みたいだと思わない?」
她扔掉手中的小树枝,站起来拍掉粘在大衣上的枯草。“哎,若是十年的话,没想一想那是多么遥远?”
「そうだね」と僕は言った。
“也是的。”我说。
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