|
3 羊博士おおいに食べ、おおいに語る(5)
老人はライターと写真を調べるとぱちんと音を立ててスタンドのスイッチを切り、太い指で両目をこすった。それはまるで眼球を頭蓋骨(ずがいこつ)の中に押しこもうとしているかのように見えた。指を離した時、目は兎のように赤く淀んでいた。
「悪かったな」と羊博士は言った。「ずっと阿呆どもにとり囲まれていたせいで、人が信じられなくなったんだ」
「いいです」と僕は言った。
ガール?フレンドはにっこりと微笑んだ。
「君は思念のみが存在し、表現が根こそぎもぎとられた状態と言うものを想像できるか?」と羊博士が訊ねた。
「わかりません」と僕は言った。
「地獄だよ。思念のみが渦まく地獄だ。一筋の光もなくひとすくいの水もない地底の地獄だ。そしてそれがこの四十二年間の私の生活だったんだ」
「羊のせいなんですね?」
「そうだよ。羊のせいだ。羊が私をそんな中におきざりにしたんだ。一九三六年の春のことだ」
「そこで羊を探すために農林省を辞めたんですね?」
「役人なんてみんな馬鹿だからな。奴らには物事の真の価値などわからんのだ。あの羊の持つ意味の重大さも奴らには永遠にわからんだろう」
ドアにノックの音がして、「お食事を持ちしました」と女の声が言った。
「置いていけ」と羊博士がどなった。
床に盆を置くかたんという音がして、それから足音が遠ざかっていった。僕のガール?フレンドがドアを開けて、食事を羊博士の机まで運んだ。盆の上には羊博士のためにスープとサラダとロールパンと肉団子が、我々ためにコーヒーが二杯載っていた。
「君らは飯を食ったか?」と羊博士は訊ねた。
「済ませました」と我々は言った。
「何を食った?」
「仔牛のワイン煮」と僕は言った。
「焼いた海老」と彼女が言った。
「ふうん」と羊博士はうなった。それからスープを飲み、クルトンをこりこりと齧った。「悪いが食事をしながら話をさせてもらう。腹が減ってるんだ」
「どうぞどうぞ」と我々は言った。
羊博士はスープを飲み、我々はコーヒーをすすった。羊博士はじっとスープの皿をのぞきこみながらスープを飲んだ。
「その写真の土地がどこだか御存じですか?」と僕は訊ねた。
「知ってるよ。よく知ってる」
「教えていただけますか?」
「まあ待て」と羊博士は言った。そして空になったスープ皿をわきにどけた。「物事には順番というものがある。まず一九三六年の話をしよう。最初に私が話す。それから君が話す」
僕は肯いた。
老人看完打火机和照片之后,咔地一声把台灯关掉,用粗手指揉着两眼。那简直就像是要把眼球挤进头盖骨中那样。当手指离开的时候,眼睛就像兔子的眼睛那样痛红浑浊。
“太讨厌了。”羊博士说。“一直被这帮傻子们困扰着,不能让人相信。”
“没有关系。”我说。
女朋友微笑着。
“只有思念存在,其表现是连根都被除掉的状态。你可以这样想像吗?”羊博士问。
“我不明白。”我说。
“真是地狱。是思绪混乱的地狱。一丝光线一滴水都没有的地下地狱。而且这是四十二年间我的生活了。”
“是因为羊的原因?”
“是的,是羊的原因。是羊把我抛在了那里。是一九三六年春天的故事。”
“那么为了找羊辞掉了农林部的工作?”
“那些当官的都是混蛋。他们不明白事物的真正价值。那种羊所具有的重要性,他们永运不会明白。”
有敲门的声音,一位女的说:“给您送饭了。”
“放到那里。”羊博士喊着。
有把托盘放到地上的声音,然后脚步声远去。我的女朋友把门打开,把那些吃的东西放到羊博士的桌子上。托盘里面有为羊博士准备的汤、色拉、面包和肉团子,还有为我们准备的两杯咖啡。
“你们已经吃过饭了?”羊博士问。
“我们已经吃过了。”我们说。
“吃的什么?”
“酒炖牛肉。”我说。
“烤虾。”她说。
“噢。”羊博士点头。然后喝汤,咔哧咔哧地嚼面包。“不好意思,一边吃一边说可以吗,我的肚子已经饿了。”
“请,请。”我们说。
羊博士喝汤,我们喝咖啡。羊博士喝汤始终盯着汤盆。
“那个照片所记载的地方是什么地方?您知道吗?”我问。
“知道的。我很清楚。”
“可以告诉我吗?”
“稍等。”羊博士说。接着把空汤盆放到旁边。“事情要有个顺序。先说一九三六年的事。我先讲,然后你们再讲。”
我点头。 |
|