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1 十二滝町の誕生と発展と転落(6)
牧場に来たのはサウスダウン羊三十六頭シュロップシャー羊二十一頭、それにボーダー?コリー犬が二匹だった。アイヌ青年はすぐに有能な羊伺いとなり、羊と犬は毎年増えつづけた。彼は羊と犬を心から愛するようになった。役人は満足した。仔犬たちは優良牧羊犬として各地の牧場に引き取られていった。
日露戦争が始まると村からは五人の青年が徴兵され、中国大陸の前線に送られた。彼らは五人とも同じ部隊に入られたが、小さな丘の争奪戦の際に敵の榴弾が部隊の右側面で破裂し、二人が死に、一人が左腕を失った。戦闘は三日後に終り、残りの二人がばらばらになった同郷の戦死者の骨を拾い集めた。彼らはみな第一期と第二期の入植者たちの息子だった。戦死者の一人は羊伺いとなったアイヌ青年の長男だった。彼らは羊毛の軍用外套を着て死んでいた。
「どうして外国まで出かけていって戦争なんかするんですか?」とアイヌ人の羊伺いは人々に訊ねてまわった。その時彼は既に四十五になっていた。
誰も彼の問いには答えてはくれなかった。アイヌ人の羊伺いは村を離れ、牧場にこもって羊と寝起きを共にするようになった。妻は五年前に肺炎をこじらせて死んでいたし、残された二人の娘も既に嫁いでいたのだ。村は羊の世話をする報酬として彼に幾許かの給金と食料を与えた。
彼は息子を失くしてからはすっかり気むずかしい老人となり、六十二で死んだ。羊の世話を手伝っていた少年がある冬の朝、牧舎の床の上に横たわった彼の死体を発見した。凍死だった。初代のボーダー?コリーの孫に当たる犬が二匹彼の死体の両わきで絶望的な目をしてくんくんと鼻を鳴らしていた。羊たちは何も知らずに柵の中に敷きつめられた草を食べていた。羊たちが歯をかみあわすかたかたという音が静かな牧舎の中にカスタネットの合奏(がっそう)のように響きわたっていた。
十二滝町の歴史はまだつづいていたが、アイヌ青年にとっての歴史はそこで終っていた。僕は便所に立ってビール二缶ぶんの小便をした。席に帰ってみると、彼女は目覚めていて、窓の外の風景をぼんやりと眺めていた。窓の外には水田が広がっていた。時折サイロの姿も見えた。川が近づき、そして去っていった。僕は煙草を吸いながら風景と、その風景を眺めている彼女の横顔をしばらく眺めていた。彼女はひとこともしゃべらなかった。僕は煙草を吸い終るとまた本に戻った。鉄橋の影が本の上でちらちらと揺れた。
来到牧场的有一种羊三十六头、另一种羊二十一头,还有两只牧犬。阿依奴青年很快成为养羊的能手,其养的羊和狗的数量每年都在持续增长。他从心里开始爱护羊和狗。政府人员很满意。小狗们被当作优良的牧羊犬送到各地牧场使用。
日俄战争一开始村里就有五位青年被征兵,被送到中国大陆的前线。他们五人参加了同一部队,在一座小丘的争夺战中敌人的炮弹在部队的右侧爆炸,有两人死亡,一人失去了左手腕。战争在三天后结束,没有死掉的二人收拾了同乡战死者零乱地的骨灰。他们都是第一期第二期开拓者的孩子。战死者的一人就是养羊阿依奴青年的大儿子。他们是穿着羊毛军用外套衣服而死去的。
“为什么要到国外发动战争呢?”阿依奴的养羊人见人就去问。那时他已经四十五岁了。
谁也没有能回答他的提问。养羊人离开村子居住在牧场和羊一起睡觉。妻子在五年前犯了肺炎而死去,剩下的两位姑娘也已经出嫁。村里给了他一定的工资和食品当做是养护羊的报酬。
自从失去孩子以后他完全成为一个不好对付的老人,六十二岁时去世。养羊接班人的少年在冬天的一早晨,发现了横躺在牧舍地板上的他的尸体。是冻死的。两只第一代牧羊犬的孙子围在尸体的旁边放着绝望的目光发出声音。羊们什么也不知道在栅栏里面吃着放在那里的草。羊们磨着牙齿发出喀达喀达的声音协配着牧舍中响板传递着。
十二瀑布村的历史还没有结束,而阿依奴青年的历史也就到此为止了。我站在厕所里在排泄二瓶啤酒的小便。回到座位上看到,她睁着眼睛眺望着窗外的景色。车窗外的水田很开阔。偶尔也看到仓库的样子。慢慢接近河流但马上又远去。我抽着烟看着风景,又看着正在眺望风景的她的脸,看了一会儿。她一句话也不说。我抽完烟又回到了书中。铁桥的影子在书上闪闪摇晃着。 |
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