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2 十二滝町の更なる転落と羊たち(4)
僕はあわてて網棚から二人ぶんの荷物を下ろすと彼女の肩を何度か叩いて起こし、列車を降りた。プラットフォームを吹く風には既に秋の終りを想わせる冷やかさがあった。太陽は早くも中空を滑り下りて、黒々とした山の影を宿命的なしみのように地面に這わせていた。方向を異にするふたつの山なみが町の眼前で合流し、マッチの炎を風からまもるためにあらわれせた手のひらのように町をすっぽりと包んでいた。細長いプラットフォームはそびえ立つ巨大な波にまさにつっこんでいこうとする貧弱なボートだった。
我々はあっけにとられて、しばらくそんな風景を眺めていた。
「羊博士の昔の牧場はどこにあるの?」と彼女が訊ねた。
「山の上だよ。車で三時間かかる」
「今からすぐに行くの?」
「いや」と僕は言った。「今から行くと夜中になっちゃうからね。今日はどこかに泊まって明日の朝出発する」
駅の正面にはがらんとして人気のない小さなロータリーがあった。タクシー乗り場にはタクシーの姿はなく、ロータリーのまんなかにある鳥の形をした噴水には水がなかった。鳥はくちばしを開いたままなんということもなく無表情に空を見上げていた。噴水のまわりをマリゴールドの花壇が丸く取り囲んでいた。町が十年前より遥かにさびれていることは一目でわかった。通りには人の姿は殆んどなく、たまにすれ違う人々はさびれた町に住む人々特有のとりとめのない表情お浮かべていた。
ロータリーの右手には輪送を鉄道に頼っていた時代に建てられた古い倉庫が半ダースばかり並んでいた。古い煉瓦造りで屋根は高く、鉄の扉は何度も塗りなおされたあとで、あきらめて放り出されていた。倉庫の屋根には巨大なからすが一列に並び、無言で町を見下ろしていた。倉庫の隣りの空地にはせいたかあわだち草が密林のように茂り、そのまんなかに古い自動車が二台雨ざらしになっていた。どちらの車にもタイヤはなく、ボンネットは開けられて内臓をひきずり出されていた。
閉鎖されたスケートリンクのようなロータリーには町の案内板が立っていたが、殆んどの文字は風雨にさらされて判読できなかった、きちんと読みとることができたのは「十二滝町」という文字と「大規模稲作北限地」という文句だけだった。
ロータリーの正面には小さな商店街があった。商店街はたいていの町の商店街と同じようなものだったが、道路だけがいやに広く、それが町の印象を一層寒々しいものにしていた。広い道路の両側に並んだななかまどは鮮やかに紅葉していたが、寒々しさに変りはなかった。それは街の運命とは無関係にそれぞれの生命を気の向くままに楽しんでいた。そこに住む人々とそのささやかな日々の営みだけが寒々しさの中にすっぽりとのみこまれていた。
我急忙从行李架上取下两人的行李,敲打几次她的肩膀叫醒她下了列车。吹在站台上的风让人感觉到凉飕飕,秋天已经结束了。太阳很早已从天空滑下去了,把黑乎乎的山影弄成宿命的污垢斜照在地面上。因为方向的问题两个山脉的影子在镇的边缘合在一起,就像用手保护被风吹的火柴的火苗那样,阴影全部把镇包围起来。细长的站台像是将要被耸立的巨大的波浪冲击的贫弱的小船。
我们感到惊愕,眺望了一下那样的风景。
“羊博士过去的牧场在什么地方?”她问。
“在山的上面。开车去的话需要三个小时。”
“现在马上要去吗?”
“不了。”我说。“现在去的话,深夜才能到那里。今天在什么地方住下,明天一早出发。”
在车站的正面很空旷,那里有一个没有人气的很小的交通环岛。在出租车车场看不到出租车的影子。在环岛的中间有一种鸟形的喷水装置但并没有水。鸟张着嘴无所事事无表情地仰望天空。菊花坛围绕在喷水池的周围。一眼就能看得出这镇比十年前要萧条多了。大街上几乎没有人影,偶尔有交错的人们就浮现出居住在这个萧条镇上特有的发木的表情。
在环岛的右侧,有几个依靠铁道运输时代而建造的老仓库在那里排到着。用老砖建造的屋顶特高,铁门也有几次涂漆,被豪无吝啬地丢弃了。在仓库的屋顶上巨大的乌鸦一列排开,无语地俯视着城市。在仓库旁边的空地上多年生的草密茂如林,中间两辆陈旧的车变成了两个防雨布。两辆车都没有了轮胎,前车盖被打开着里面的东西已经被掏空。
像是被关闭的滑冰场那样环岛内竖立着镇上的导向板,所有的文字经风雨所蚀都已辨认不清了。能够连续读出来的也只是“十二瀑布镇”和“大规模稻作北限地”而已。
在环岛的正面有个很小的商业街。商业街大概和一般镇上的商业街相同,只是道路相当地宽阔,因为它使我们对镇上的印象真是雪上加霜。在宽广道路的两侧并排的楸树红叶很鲜艳,但也并没有改变道路的冷清。它和大街的命运无关系似地,更热衷于自己的生命而快乐着。在那里居住的人们和那些简单的日子营生被寒冷包围着。 |
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