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彼女は疲れていて、何処かで休みたかったのだろう、と僕は思った。僕はとまり木みたいなものなのだ。僕は彼女が疲れていることに対して気の毒に思った。彼女のような若くて綺麗な女の子がそんなに疲れるというのは理不尽で公正でないように思えたからだ。でも考えてみればそれは理不尽でも不公正でもなかった。疲労というのは美醜や年齢とは無関係にやってくるものなのだ。雨や地震や落雪や洪水と同じように。
五分たつと、彼女は頭を上げて僕の側を離れ、上着を取って着た。そしてまたソファに腰を降ろした。そして小指の指輪をいじっていた。上着を着ると彼女はまた少し緊張してよそよそしくなったように見えた。
僕はベッドに腰かけたまま彼女を見ていた。
「ねえ、君がその十六階で変な目にあった時のことだけどね」と僕は聞いてみた。「そのとき何か普段とは別のことをしなかった?エレベーターに乗る前か、あるいは乗ってから?」
彼女は少し首をかしげて考えていた。「そうね……,どうかしら?何も変わったことはしなかったと思うけど。……思いだせないわ」
「何かいつもとは違う変な徴候みたいなのもなかった?」
「普通よ」と彼女は言って肩をすぼめた。「変なことなんか何もなし。ごく普通にエレベーターに乗って、ついてドアが開いたら真っ暗だったの。それだけ」
僕は肯いた。「ねえ、今日何処かで一緒に食事でもしないか?」
彼女は首を振った。「ごめんなさい。悪いけど、今日はちょっと約束があるの」
「明日はどう?」
「明日はスイミング?スクールに行くの」
「スイミング?スクール」と僕は言った。そして微笑んだ。「古代エジプトにもスイミング?スクールがあったの知ってる?」
「そんなこと知らないわ」と彼女は言った。「嘘でしょう?」
「本当だよ。仕事の関係で一度資料を調べたことがあるんだ」と僕は言った。でも本当だからといって、それでどうなるものでもなかった。
彼女は時計を見て立ち上がった。「有り難う」と彼女は言った。そして来たときと同じように音もなくするりと外に出ていった。それがその日の唯一の取り柄だった。ささやかなことだ。でも古代エジプト人だって、日々のささやかな出来事に喜びを見出しつつささやかな人生を送って、そして死んでいったのだろう。水泳を習ったり、ミイラを作ったりしながら。そういうものの集積を人は文明と呼ぶのだ。
她是不是累了,想找个地方休息。我这样想。我就像是小烏的栖木。我对她的疲痨有点过意不去。我想,像她这样年轻漂亮的的女孩却那么得疲劳,有点不讲理不公平。疲劳这个东西与美丑、年龄都没没有关系。就像和雨、地震、下雪和洪水突发一样。
五分钟之后,她抬起头从我旁边走开并把上衣取下穿在身上。然后又坐到了沙发上,注目看上了小指的戒指。穿上上衣后她有点紧张疏远的感觉。
我仍坐在床上看着她。
“那个,你在十六层遇到的那个怪东西时,”我试着问道。“那个时候有什么和普通不一样的事情?乘电梯之前或乘电梯以后?”
她稍歪头想了起来。“那个什么,有什么事呢?大概也没有什么事变化。……已经想不起来了。”
“和平时不同的征兆,没有看到吗?”
“平时吗,”她说着耸耸肩。“不同的事也没有什么。和平时一样乘电梯,等到门打开时一片漆黑。就这些。”
我点点头。“那个,今天在什么地方一起吃饭如何?”
她摇摇头。“对不起。不行。今天有个安排。”
“明天如何?”
“明天要去游泳学校。”
“游泳学校?”我说后微笑一下。“你知道吗?在古代埃及就有游泳学校。”
“我可不知道那样的事。”她说。“你在说假话吗?”
“那是真的。因工作关系曾查过一次资料。”我说。虽说那是真的,但并不存在。
她看了一下表站了起来。“谢谢。”她说。然后和来时相同一声不响地迅速走了出去。那是在那一天唯一的收获。非常细小的一件事。古代的埃及人,日复一日每做出那些微小的事情就无比地高兴,就度过微不足道的人生,接着就死去。一边学习游泳,一边做不乃尹。人们把那样的生活叫做文明。 |
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