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キキの出てくるシーンはそこだけだった。彼女はその日曜日の朝に五反田君と寝る。五反田君は土曜日の夜にどこかで酔っぱらって彼女を拾い、自分のアパートに連れてきたのだ。そして朝にもう一度彼女を抱く。そこに教え子である主人公の女の子がやってくる。まずいことにドアに鍵をかけわすれている。そういうシーン。キキの台詞はたったひとことだけ。「どうしたっていうのよ?」と言うだけ。主人公の女の子がショックを受けて走って行ってしまったあとで五反田君が茫然としていると、キキがそう言うのだ。ひどい台詞だった。でもそれが彼女の語る唯一の言葉だった。
「どうしたっていうのよ?」
その声が本当にキキの声なのかどうか、僕には確信が持てなかった。僕はそれほど正確にキキの声を記憶しているわけではなかったし、それに映画館のスピーカーの音もひどかった。でも彼女の体には覚えがあった。背中の形や首筋やつるりとした乳房は僕の覚えているとおりのキキだった。僕は体を固くこわばらせたままスクリーンの上のキキをじっと見ていた。そのシーンは時間にして五分か六分か、たぶんそんなものだったと思う。彼女は五反田君に抱かれ、愛撫され、気持ち良さそうに目を閉じて唇を微かに震わせていた。小さく溜め息もついた。それが演技なのかどうか、僕には判断がつかなかった。まあ、演技なのだろう。これは映画なんだから。でも僕にはキキが演技をするということ自体が全然呑み込めなかった。僕はそれでずいぶん混乱してしまった。というのは、もしそれが演技でなかったとしたら、彼女は本当に五反田君に抱かれて陶酔しているということになるし、もし演技だったとしたら、僕の中での彼女の存在意義が狂ってくる。そう、彼女は演技したりするべきではないのだ。いずれにせよ僕はその映画に対して激しく嫉妬した。
スイミング?スクール、それから映画。僕はいろんなものに嫉妬しはじめている。これは良い徴候なのだろうか?
それから主人公の女の子がドアを開ける。そして彼女は二人が裸で抱き合っているところを目撃する。息を呑む。目を閉じる。そして走って行ってしまう。五反田君が茫然とする。キキが言う。「どうしたっていうのよ?」。茫然としている五反田君のアッブ。フェイドアウト。
それっきりキキは画面には登場しなかった。僕は筋なんかとばして、ただじっと注意深く画面を睨んでいたのだが、彼女の姿はそれっきりちらりとも出てこなかった。彼女は五反田君と何処かで知り合って、彼と寝て、そして彼の人生のワンシーンに立ち会い、そして消えていく。そういう役まわりなのだ。僕の場合と同じように。ふと現れて、立ち会って、消えていく。
奇奇的出场也只就在这里。她在那个星期日的早上和五反田睡了。五反田在星期六的晚上不知在哪里喝醉了见到了她,然后把她带到了自己的公寓。接着在早上又一次抱了她。这时女主人公——学生来了。最糟糕的事情是忘了锁门。就那个场面。奇奇的台词只有这一句。“这是怎么回事?”女主人公受到打击后生气地跑掉,五反田一片茫然。奇奇这样说。很无情的台词。而且是她说的唯一台词。
“这是怎么回事?”
那声音是不是真的是奇奇的声音呢?我还不能确信。我并没有那么能正确地记住奇奇的声音,而且电影院的扩音器也使声音变样了。但我还记得她的身体。后背的形状、脖子、光滑的乳房等,我都还记着。我身体僵硬地看着银幕上的奇奇。那个场景就五分六分钟,大概也只想那个东西。她被五反田拥抱、爱抚、心情良好地闭上眼睛嘴唇在擅抖。然后小喘了一口气。那是真的演技吗?我还不能判断。哎,那应该是演技。因为这是电影。奇奇表演这个事我全然没有理解。我处于十分混乱之中。之所以这么说是因为,假如那不是表演,她的确被五反田抱着处于陶醉之中;假如那是表演,在我体内她存在的意识正在狂乱之中。不,她肯定不是表演。总之我对那部电影强烈地嫉妒。
游泳池之后是电影。我开始对各种东西嫉妒起来。这是良好的征兆吗?
之后女主人公把门打开。她目击了二人裸体抱着。停止呼吸,闭上眼睛。然后走掉了。五反田茫然。奇奇说:“这是怎么回事呢?”茫然之中的五反田镜头结束。画面渐隐。
之后奇奇再没有出场。我不再注意故事梗概,虽然还在集中精力看那画面,但还没有脱离开她的身影。她和五反田在什么地方相识,然后和他睡觉,而且进入到他的人生场面,然后消失。就是这么一个角色。和我的场景一样。突然出现,进入场面,然后消失。
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