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24(9)
「みたところ君もなかなか頑固そうな男だな」と彼は言った。
「頑固ではないです。僕には僕なりの考え方のシステムというものがあるだけです」
「システム」と彼は言った。そしてまた耳たぶを指でいじった。「もうそういうものはあまり意味を持たないんだよ。手作りの真空管アンプと同じだ。手間暇かけてそんなもの作るよりはオーディオ?ショップに行って新品のトランジスタ?アンプを買った方が安いし、音だって良いんだ。壊れたらすぐ修理に来てくれる。新品を買う時には下取りだってしてくれる。考え方のシステムがどうこうなんて時代じゃない。そういうものが価値を持っていた時代もたしかにあった。でも今は違う。何でも金で買える。考え方だってそうだ。適当なのを買ってきて繋げばいいんだ。簡単だよ。その日からもう使える。AをBに差し込めばいいんだ。あっという間にできる。古くなったら取り換えりゃいい。その方が便利だ。システムなんてことにこだわってると時代に取り残される。小回りがきかない。他人にうっとうしがられる」
「高度資本主義社会」と僕は要約した。
「そうだ」と牧村拓は言った。そしてまたしばらく沈黙の中に沈みこんだ。
あたりはずいぶん暗くなっていた。近くで犬が神経質そうに吠えていた。誰かがつっかえながらモーツァルトのピアノ?ソナタを弾いていた。牧村拓は廊下に座って脚を組み、何事かじっと考えながらビールを飲んでいた。東京に帰って以来どうも奇妙な人間にばかり会ってるな、と僕は思った。五反田君、二人のハイ?クラスの娼婦(一人は死んだ)、二人組のタフな刑事、牧村拓と書生のフライ一デー。暗い庭を眺めながらぼんやりと犬の声やピアノの音に耳を澄ませていると、現実がだんだん溶解して闇の中に溶けて吸い込まれていってしまうような気がした。いろんな物がその本来の形を失って混ざりあい、意味を失ってひとつのカオスとなる。キキの背中を撫でる五反田君の優雅な指も、雪の降りしきる札幌の街も、「かっこう」と言う山羊のメイも、刑事がぱたぱたと手のひらを叩いていたブラスティックの定規も、暗い廊下の奥でじっと僕を待っている羊男の姿も、何もかもが溶けてひとつになっていった。疲れているんだろうか?と僕は思った。でも疲れてはいなかった。ただ現実がすうっと溶けていっているだけなのだ。溶けて一つの丸いカオスの球になっている。まるである種の天体みたいなかたちに。そしてピアノが鳴って、犬が吠えている。誰かが何かを言っている。誰かが何かを僕に言っている。
「なあ」と牧村拓が僕に話しかけていた。
僕は顔を上げて彼を見た。
“看上去你也是个很顽固的家伙。”他说。
“并不是顽固。我只有我自有的思想系统而已。”
“系统。”他说。接着又用手指摆弄着耳垂儿。“那样的事已经没有多大意义。和自己做的真空管放大器相同。和自己下功夫做相比,去专业店买新品会更便宜,而且音质好。若坏了还能马上来维修。买新品的时候还可以以旧换新。思想系统已经不符合时代。那个系统有价值的时代的确已经过去。而现今却不同。无论什么都可以用钱来买。连思考系统也一样。购买合适的东西就会连接地很好。这很简单。从当天就可以使用了。把A插入到B中就很好。马上就可用。等到旧了就可以以旧换新。那种方式很方便。拘泥于系统什么的话就会落伍时代。就不能随机应变。就会让人讨厌。”
“这就是高度资本主义社会。”我概要地说。
“是的。”牧村拓说。然后沉浸到静默之中。
周围已经漆黑。附近的狗有神经质似地吠叫着。不知是谁不流畅地弹着钢琴奏鸣曲。牧村拓坐在走廊盘起腿像是在认真思考什么,还喝了啤酒。我想,回到东京以后怎么总遇到奇怪的人。五反田、两位高级娼妇(一人已死)、两人一组健壮的刑警、牧村拓和书童。望着那黑暗的院落听着模糊的狗叫声和钢琴声,使耳朵清晰起来。感觉到,现实慢慢地溶解开来,被吸叫到黑暗之中。各种东西失去本来的形状搀杂在一起,也把原有意义失掉变成一个无秩序的。抚摩奇奇后背的五反田优雅的手指、雪下个不停的札榥的街、说了“很好”那个叫山羊的メイ、刑警啪啪打着手掌的塑料尺、在黑暗走廊深处一直等待我的羊男的身影,等等,什么都溶解开演变成了一个东西。是太累了吗?我这样想。可是也不能累。只是现实正在快速地溶解下去。溶解后变成一个圆的无秩序的球。简直就像某种天体那样的形状。钢琴在奏鸣着,狗在叫着。还有谁在说着什么。是谁在向我说什么。
“那么。”牧村拓开始对我说。
我抬着头望着他。 |
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