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平日の昼間だったから、映画館は言うまでもなくがらがらだった。椅子は固く、押し入れの中にいるみたいな匂いがした。僕は休憩時間にチョコレートを買ってユキに与えた。僕も何か食べようと思ったが、残念ながら僕の食欲をそそるようなものは売店にはひとつも置いてなかった。売り子の若い女の子も積極的に何かを売ろうというタイプではなかった。それで、ユキのチョコレートをひとかけらだけ食べた。チョコレートを食べたのは殆ど一年振りくらいだった。僕がそう言うとユキは「へえ」と言った。
「チョコレートが好きじゃないの?」
「興味が持てないんだ」と僕は言った。「好きでも嫌いでもない。ただ単に興味が持てない」
「変な人」とユキは言った。「チョコレートに興味が持てないなんて、精神に異常があるわよ」
「全然変じゃないよ。そういうことってある。君はダライ?ラマは好き?」
「何よ、それ?」
「チベットの一番偉い坊主だよ」
「知らないわよ、そんなの」
「じゃあ君はパナマ運河が好きかい?」
「好きでも嫌いでもないわよ」
「あるいは、君は日付変更線が好きか嫌いか?円周率はどうだ?独占禁止法は好き?ジュラ紀は好きか嫌いか?セネガル国歌はどう?一九八七年の十一月八日は好きか嫌いか?」
「うるさいわね、もう。本当に馬鹿みたい。よく次から次へと思いつくわね」とユキはうんざりしたように言った。「わかったわよ、よく。あなたはチョコレートが嫌いでも好きでもなくて、ただ興味が持てないだけのことなのね。わかったわよ」
「わかってくれればいいんだ」と僕は言った。
やがて映画が始まった。僕は筋を全部知っていたから、ろくに映画なんか見ないで考え事をしていた。ユキもこの映画をひどいと思っているようだった。時々溜め息をついたり、鼻を鳴らしたりするのでそれがわかった。
因为是平日的白天,电影院没有像说的那样空荡荡。椅子很硬,有壁橱中那样的香味。在休息时间我买了巧克力给雪。我本想也吃点什么,可是引起我食欲的东西在商店中什么也没有。况且那店员年轻的女孩也并不是积极向我推销什么类型的人。为此,雪一点一点地吃巧克力。那样吃巧克力恐怕需要一年的时间。我说完这之后雪“哎”的一下。
“不喜欢巧克力吗?”
“没有兴趣。”我说。“说不上喜欢,也说不上讨厌。连一点兴趣都没有。”
“是个特殊的人。”雪说。“对巧克力没有兴趣什么的,精神上有异常。”
“完全不异常。若是那样的事。你喜欢达赖喇嘛吗?”
“是什么,那个东西?”
“是西藏最伟大的住持。”
“不知道,那是什么?”
“那么你喜欢巴拿马运河吗?”
“说不上喜欢和讨厌。”
“或者说,你是否喜欢讨厌日时变更线?对圆周率呢?喜欢独占禁止法吗?喜欢讨厌侏罗系吗?塞内加尔国歌怎么样?喜欢讨厌一九八七年十一月八日吗?”
“太吵闹了。真是个混蛋。经常这样从前往后瞎想。”雪很讨厌的样子说。“已经明白了。你对巧克力谈不上喜欢谈不上讨厌,连一点兴趣都没有。明白了。”
“弄明白就好了。”我说。
电影马上开始了。因为我知道其所有梗概,所以就不认真看电影只是在想事。雪也不喜欢这部电影。时不时地喘气,鼻子发出声音。就凭她这动作就可以证明。 |
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