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38(6)
「憎んだりしないよ」と僕は微笑んで言った。「君の言ったことを鵜のみにもしない。でもいずれにせよ、いつかは本当のことが現れてくる。霧が引くようにそれは現れてくるんだ。僕にはそれがわかるんだ。もし君の言ったことが本当だとしても、たまたま君を通してその真実が姿をあらわしただけなんだ。君のせいじゃない。君のせいじゃないことはよくわかっている。いずれにせよ、とにかく僕は自分でそれを確かめてみる。そうしないことには何もかたづかない」
「彼に会うの?」
「もちろん会う。そして直接に訊いてみる。それしかないさ」
ユキは肩をすぼめた。「私のことを怒ってない?」
「怒ってないよ、もちろん」と僕は言った。「君のことを怒るわけがないじゃないか。君は何も間違ったことをしていない」
「あなたすごく良い人だったわ」と彼女は言った。どうして過去形で話すんだ、と僕は思った。「あなたみたいな人に会ったのは初めて」
「僕も君みたいな女の子に会ったのは初めてだ」
「さよなら」とエキは言った。そして僕をじっと見た。彼女は何となくもじもじしていた。何かつけ加えて言うか、僕の手を握るか、あるいは頬にキスするかしたそうに見えた。でももちろんそんなことはしなかった。
帰りの車の中には彼女のそんなもじもじとした可能性が漂っていた。僕はわけのわからない音楽を聴き、前方にしっかりと神経を注ぎながら車を運転して、東京にもどった。東名高速を出るあたりで雨がやんだ。でも僕は渋谷のいつもの駐車場に車を停めるまで、ワイパーを切り忘れていた。雨が止んだのには気がついたのに、ワイパーを止めることに気がまわらなかったのだ。頭が混乱している。何とかしなくちゃいけない。僕は駐車したスバルの中でハンドルを握ったまま長い間ぼんやりとしていた。ハンドルから手をもぎはなすのに時間がかかった。
“不会憎恨的呀!”我微笑着说。“也不会简单处理你所说的事。不管怎样,到一定时候真实的事总会出现的。等将雾驱开必然会出现的。我会明白这一点。假如你讲的事是真实的,通过你那些事会逐渐把真实表现出来。并不是因为你。不因为你,这一点我很明白。不管怎样,我自己会确认那些事。不那样做的话什么也无法解决。”
“还会见他吗?”
“当然要见。而且会直接要问。只能那样做。”
雪耸耸肩。“对我不生气吗?”
“当然不生气了。”我说。“对你生气的理由也没有呀。你也没有做错什么事。”
“你真是个大好人呀!”她说。这时我想:为什么用过去式讲话呢?“见到你这样的人还是第一次。”
“和你这样的女人见面,我也是第一次。”
“再见了。”雪说。然后一直看着我。她有点扭扭捏捏。看上去要这样似的:是还要说什么呢?还要握我的手呢?或者要亲吻我的脸呢?可是那样的事什么也没有做。
在回去的车中她那种扭捏的可能性还漂存着。我听着不明白的音乐,注目前方贯注神经开着车,回到了东京。在出东名高速路时雨停了。直到把车停到渋谷的日常停车场,我都忘了关掉雨刮器。尽管注意到了雨已经停了,却没有转到要关掉雨刮器。因为头脑在混乱中。什么事也做不成。在停下来的斯巴鲁车中仍紧坚地握着方向盘,晕头转向了很长一段时间。把手从方向盘上拿下来需要很长时间。 |
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