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このメルマガを読んでいるみなさんは、中国語の通翻訳者になりたい人や現
役バリバリの通訳者・翻訳者が多いと思いますので、今さら文法?と思われて
も仕方がないんですが、中国語は文の区切りが明確でないことが多いですし、
ひとつの漢字や単語が複数の用法、品詞を持つため、文章を読み間違える危険
性がとても高いのです。翻訳者は専門分野の勉強やそれに付随する生詞の収集
には力を入れるものですが、文法はおろそかになりがちです。以下、実例を交
えて読み間違いをしやすい文章とそういう文章に引っかからないための文法知
識を紹介します。
「連と離合詞」
おなじみの単語「連」は、非常に多くの用法を持つ単語です。「連~也」や
「連~都」などの形式で使用されますが、こうした用法以外にも、動詞や副詞、
介詞、助詞、果ては名詞としての機能まで備えています。以下、例文です。
1.党和人民心連心。 (動詞用法)(~と~が)つながっている
2.苹果連皮吃営養好。 (介詞用法)~ごと(食べる)
3.敵人連吃了好几次敗仗。(副詞用法)続けて(負ける)
こうした用法については、読み違えることはないと思いますが、問題はいわ
ゆる「連字句」と言われる構文です。一般の辞書は「連~也」や「連~都」に
おける「連」を介詞に分類していますが、最近大陸で出版されている文法書の
中には、この「連」を助詞として分類するものも出ています。「連字句」で使
われる「連」が無くても、その文の大意が変わらないことから判断して、この
分類の方が現実的だと思われます。
4.別人不理解我,連他也不理解我。
5.連字也不認識几个。
上記例文のように、連字句における「連」の働きは強調にあります。ですか
ら、例文4は「人は私をわかってくれない。彼までも私をわかってくれない」
と訳せますが、仮に「連」が無くても「人は私をわかってくれない。彼も私を
わかってくれない」となり、文意に大きな変化はありません。とても親しい彼
までもが理解してくれない、と「彼」を強調するためだけに用いられているか
らです。例文5にいたっては、「字もあまり知らない」と「連」を意識せずに
訳す方が自然です。介詞であれば、述語やより大きな句を修飾するのでその働
きを意識せざるを得ませんが、助詞であればその存在を無視した方が読みやす
くなることがあるのです。
ここからようやく本題です。次の例文をまず訳してみてください。
6.連路也走不動了
「道も歩けなくなった」と訳してしまった場合は、意味はなんとなく通じま
すがぎこちないですね。この連字句はかなり特殊で、動詞の中でも離合詞に分
類される「走路」が前後に分割され、さらに「走」に補語成分がひっついてい
ると考えた方がわかりやすいと思います。「離合詞」はもともと動詞+名詞の
構造になっていて、動作とその対象が並んでいる形になっています。ですから、
ここでの「路」は動作の主体ではなく、動作の対象だと考えればすっきりしま
す。動作の主体だと見なしてしまうと「(工事などで)道が歩けなくなった」
と無理矢理こじつけたような訳文になってしまいます。ここは素直に「歩くこ
とすら出来なくなった」とします。
せっかくですから、同じ構造の連字句を見てみましょう。今度はもう迷いま
せんね。
7.連澡也洗不了了
こうした複雑な構造を持った連字句を読む際は、連は助詞だから削除してみ
たり、離合詞を元の形に戻してみるなど、正しい文法知識に照らして文の分解
を行うことが大切です。これは連字句に限らず、翻訳のあらゆる場面で必要に
なる知識です。ある程度力がついてくると、文法の勉強はおざなりになりがち
ですが、筆者が校正作業などで見かける誤訳のほとんどは、こうした基本的な
文法ミスです。最近はわかりやすい文法書も多数出版されていますので、ひま
な時にページを繰ってみるといいでしょう。
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