|
早速例文を見ていきましょう。
1.観戦的囲棋行家一致認為,常昊的棋已逐漸走向成熟,用不了多久便可挑
起中国囲棋的重任。
2.学生們在這里成熟着思想,孕育着願望,企[目分]着成為国家棟梁。
3.广東商品市場発育較早,発展得比較成熟。
4.有関資料顕示,一个成熟的技術工人需要15年-20年的培養和磨練。
5.从目前的経済形勢看,実施貨幣改革的条件已経成熟。
まずはざっと眺めて、頭の中でも構いませんから訳出をしてみてください。
ちなみに今回のポイントは「成熟」です。
以下、試訳となります。
1.観戦的囲棋行家一致認為,常昊的棋已逐漸走向成熟,用不了多久便可挑
起中国囲棋的重任。
観戦していた囲碁のプロ達は、常昊の碁が成熟しつつあることを認め、
遠からず中国棋界を背負って立つことになるだろうと口を揃えた。
2.学生們在這里成熟着思想,孕育着願望,企[目分]着成為国家棟梁。
学生達はここで思想と希望をはぐくみ、国家の柱となることを願うので
ある。
3.广東商品市場発育較早,発展得比較成熟。
広東の商品市場は早くから発達したため、比較的成熟した市場となって
いる。
4.有関資料顕示,一个成熟的技術工人需要15年-20年的培養和磨練。
関連資料では、熟練の技術工を育てるには15年から20年の教育・訓練が
必要とされている。
5.从目前的経済形勢看,実施貨幣改革的条件已経成熟。
現在の経済状況から判断して、貨幣改革を行う条件はすでに整っている。
原文を理解するのは簡単ですが、訳出となると手強い文章ばかりですね。そ
れでは「成熟」の訳を意識しながら一文ずつ見ていきましょう。例文 1では成
熟は名詞として使われていますが、試訳では動詞として訳出しました。「徐々
に成熟に向かっている」と訳出してもいいのですが、筆者の感覚ではやや生硬
に感じたのでこのように訳出してあります。この例文は「成熟」をそのまま
「成熟」と訳出できるケースですね。日本語の成熟と同じ使い方なので迷うこ
ともないと思います。ただ、ここでは主体が「碁」という特殊な技能だったの
で「成熟」と訳出しましたが、一般的な動作、例えば水泳であれば、「上達」
などとした方が適切な場面もあります。
例文 2の成熟は時態助詞「着」を伴っていることからもわかるように、動詞
として使われています。一般的な辞書には自動詞としての用法しか載っていな
いことが多いのですが、ここでの成熟は他動詞です。試訳では後方の「孕育」
とまとめて「はぐくむ」としました。どうも今ひとつしっくり来ませんが、筆
者の力不足と言うことでご容赦下さい。
なお、他動詞としての「成熟」は事物を完成の域に持っていくための動作を
表しますので、場合によっては「鍛える・育てる」などでもいいと思います。
文脈に注意して適切な日本語を当てはめることになります。
例文 3の成熟は形容詞ですね。程度副詞「比較」の修飾を受けた上で、動詞
「発展」の補語成分となっています。日本でも「成熟した市場」という風に使
いますので、ここではそのまま「成熟」とするのがいいと思います。
例文 4の成熟は何詞でしょう?動詞のようでもあるし、形容詞のようでもあ
りますが、形容詞と判断していいと思います。さて、例文 3では形容詞の成熟
を成熟と訳出しましたが、ここでも成熟と訳出していいでしょうか?少し立ち
止まって考えた方が良さそうです。仮に「成熟した技術工」とした時、この日
本語は自然でしょうか?確かに日本語では「成熟した大人」という風に人間を
表現する際に「成熟」を用いることが出来ますが、ある職人が長年の研鑽を経
て優れた技術を体得しているのを表現するのであれば、より適切な訳語があり
そうです。原文本来の文脈から考えると「一人前の」と訳出しても構わないの
ですが、ここでは単文なので「熟練」を選択しました。
例文 5の成熟は形容詞とする文法書が多いですが、時間副詞に修飾されてい
ますし、自動詞と判断して差し支えないと思います。ここでは「条件」が「成
熟」している、となっているわけですが、「成熟」という漢字に引っ張られて、
「条件が熟した」と訳出すると意味は分かるのですが、かなりぎくしゃくした
訳文になります。条件という言葉に結びつく適切な日本語であれば、やはり
「整う」を使うのが良さそうです。
という感じで、これら五つの例文における「成熟」の用法と訳出方法を見て
きましたが、例文を並べて何が言いたかったかというと、翻訳する際は原文の
文法構造をそのままターゲット言語の文法構造に置き換えることが出来ないと
言うことがまずひとつ。もうひとつは例え同じ品詞で、同じ用法で使われてい
る単語であっても、翻訳する際はターゲット言語の言語習慣にあわせて、適切
な訳語を選択する必要があると言うことです。
つまり、例え原文で形容詞として使われていても、日本語に訳出する時には
動詞にしたり名詞にして訳出しないと生硬な訳文になってしまうし、同じよう
に使われている単語でも文脈によっては訳語をきちんと選択する必要がある、
と言うことなのです。
そんなことは常識なんですが、中国語と日本語は同じ漢字を使っているので、
問題をきちんと把握して、意識的に練習をしないと適切な訳語を選択すること
は難しいと思います。辞書は我々の必須ツールですが、収録されている例文に
限りがありますのでこの手の問題の解決には役立ちません。類義語辞典も便利
ですが、万能ではありませんので、やはり日頃の積み重ねということになりま
す。言葉は場面ごとにどんどん姿を変える変幻自在なもので、名詞を除けば固
定した訳は存在しないんだろうと、それくらいの気持ちで謙虚に付き合うのが
いいんじゃないかと思います。
|
|