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发表于 2006-10-10 04:01:59
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「そのあとで十六階に行ったことはある?」と僕は訊いた。& ~2 |! }. W8 y) j
「何度も」と彼女は平板な声で言った。「仕事場だから行きたくなくても行かなくちゃならない時はあるでしょう?でも行くのは昼間だけ。夜は行かない。何があっても行かない。もう二度とあんな目にはあいたくないもの。だから遅番もやらないことにしたの。やりたくないって上の人に言ったの。はっきりと」0 q4 L0 [' [, c9 b1 w3 J' M0 ~' C& G
「これまで誰にもその話をしてないんだね?」; A5 }" d7 C5 Y; O
彼女は一度だけ短かく首を振った。「さっきも言ったように誰かに話したのは今日が初めてよ。話そうにも話す相手がいなかったの。それにひょっとしてあなたがそのことについて何か心当たりでもあるんじゃないかと思ったから。その十六階の出来事について」$ h& f3 L! F0 X3 h( N- e9 K4 |
「僕が?どうしてそう思ったの?」; V; r5 h* X) A& I F% R# d3 R
彼女は漠然とした目で僕を見た。「よくわからないけど……あなたは前のドルフィン・ホテルのことを知っていたし、そのホテルがなくなった事情について聞きたがっていたし……それで何か私の経験したことについて思いあたることがあるんじゃないかという気がしたの」
I# U8 Y+ s, V* C3 v+ J 「とくに思い当たることはないようだね」と僕は少し考えてから言った。「それに僕もそのホテルについて特に詳しく知っているわけじゃないんだ。小さな、あまりはやっていないホテルだった。四年ほど前にそのホテルに泊まって、そこの主人と知り合って、それでまた訪ねてきたんだ。それだけだよ。昔のドルフィン・ホテルはごく普通のホテルだった。別に何かの因縁があったというような話も聞いてないね」 I2 u: v4 }2 q& ~; |% b& O
いるかホテルが普通のホテルだとはとても思えなかったけれど、僕としては今のところこれ以上話の間口を広げたくなかった。
& X0 d8 g Q& C, }+ q) }' G 「でも今日の午後私がドルフィン・ホテルってまともなホテルだったんですかって訊いた時、あなたは話が長くなるって言ったでしょう。それはどうしてかしら?」3 {9 @' H s- v1 t' f2 I
「その話というのはとても個人的なことなんだ」と僕は説明した。「それを話し始めると長くなる。でも今君が話してくれたこととはたぶん直接的な関係はないと思うんだ」$ ~) w# Z# X9 J$ `* ]* x2 x# [
僕がそう言うと彼女は少しがっかりしたようだった。彼女は唇をゆがめてしばらく自分の両手の甲を見ていた。
3 n9 a9 K/ M# ? 「役に立てなくて申し訳ないね。せっかく話してくれたのに」と僕は言った。
. ^9 C* \8 `) R 「いいの」と彼女は言った。「あなたのせいじゃない。それにとにかく話せてよかったわ。話しちゃって幾分すっきりしたから。こういうのってじっと一人で抱え込んでると、気持ちが落ち着かないの」" m2 C1 m6 h! _9 I# c( W- }
「そうだろうね」と僕は言った。「誰にも言わないで一人で抱えこんでると、頭の中でそれがどんどん膨れあがってくるんだ」僕は両手を広げて風船が膨らむ真似をした。
A, Y: ~( w4 i% s5 F) w) S 彼女は黙って肯いた。そしてリングをくるくる回して最後に指から引き抜き、またもとに戻した。% M j0 m' j- U
「ねえ、私の話を信じてくれる?その十六階の話?」と彼女は自分の指を見ながら言った。
, D+ t$ r& t2 P 「もちろん信じる」と僕は言った。: s4 t5 B7 [4 b0 D' |4 p5 ]8 [
「本当に?でもそういうのって、異常な話じゃない?」2 J. F( O6 j4 ~' N+ t$ p! R
「たしかに異常かもしれない。でもそういうことってあるんだよ。僕にはわかる。だから君の言うことは信じるよ。何かと何かがふと繋がっちゃうんだ。何かの加減で」# b0 ~: P- Y( E/ r; ?
彼女はそれについてひとしきり考えていた。「あなたはそういうのをこれまでに経験したことあるの?」
5 X/ B2 {& `4 [! s; P6 f 「ある」と僕は言った。「あると思う」( o, j; u+ _5 H- J" k# c3 E% F1 x
「怖かった、その時?」と彼女が訊いた。% K: M, @4 C- P7 _7 {0 g: q: v
「いや、怖いというんじゃないな」と僕は答えた。「つまりね、いろんな繋がり方があるんだよ。僕の場合は……」
8 s! B3 D* z. M; n8 |& B( I でもそこで言葉が突然ふっと消えてしまった。遠くの方で誰かが電話のコードを引抜いたような感じだった。僕は一口ウィスキーを飲んでから、わからないと言った。「上手く言えない。でもそういうことってたしかにあるんだよ。だから信じる。他の誰が信じなくても僕は君の言うことを信じる。嘘じゃない」
7 u) ?4 }3 ~$ c6 t: c0 e 彼女は顔を上げて微笑んだ。これまでの微笑みとは少し感じの違う微笑みだった。個人的微笑み、と僕は思った。彼女は話をしてしまったことで少しリラックスしたのだ。「どうしてかしら?あなたと話してるとなんだかよくわからないけれど、気持ちが落ち着いてくるみたいなの。私、すごく人見知りする方で、初対面の人とはあまりうまく話すことができないんだけれど、あなたにはすんなり話せる」
* {4 Q/ b. p1 T" x# M) i 「それは我々二人のあいだにどこかしら相通じるところがあるからじゃないかな」と僕はにっこりと笑って言った。
: G+ }% G( G4 _! R! M9 O8 ?. R 彼女はそれに対してどう答えようかとしばらく迷っていたが、結局何も言わなかった。大きく溜め息をついただけだった。でも悪い感じのするため息でなかった。ただ単に呼吸を調整しただけだった。「ねえ、何か食べない?急におなかが空いてきたような気がする」 & b$ J, o# Z. H6 z' Q% I
僕は何処かにきちんと夕食を食べにいこうと誘ってみが、彼女はここで軽く食べるくら
% T3 x; e/ ]7 i- l8 }2 V: {いでいいと言った。それで僕らはウェイターを呼んでピッツァとサラダを注文した。" s$ E, g/ X9 g: X" g; S
食事をしながら僕らはいろんな話をした。彼女のホテルの仕事のことや、札幌での生活について。彼女は自分自身について話してくれた。彼女は二十三だった。高校を出て、ホテの従業員教育をする専門学校で二年勉強した後、東京のホテルで二年働き、それからドルフイン・ホテルの募集広告に応募して採用され、札幌にやってきたのはのは彼女にとっては好都合だった。というのは、彼女の実家は旭川の近くで旅館を経営していたからだ。; y ]! a, U) G: x3 N
「わりにいい旅館なのよ。古くからやっていて」と彼女は言った。
% v4 N+ k2 ]) g2 c8 P2 `1 g7 I 「じゃあここで君は見習いとか修業のようなことをやっているわけ、家業を継ぐための?」と僕は訊いてみた。; J, j6 O% b# t4 `. E
「というのでもないの」と彼女は言った。そしてまた眼鏡のブリッジに手をやった。「継ぐとかそういう先のことまでは全然考えてないの、まだ。私はただただ単純に好きなのよ、ホテルで働くのが。いろんな人が来て、泊まって、去っていく、そういうのが。そういう中にいるととてもほっとするの。安心できるの。子供の頃からそういう環境にいるでしょう。馴れてるのね」 Z7 m0 K* H5 ]$ |2 B
「なるほどね」と僕は言った。
3 a$ V' V9 k2 W5 U 「どうしてなるほどなの?」1 e$ E C' `% @; w r. y/ `, J: M
「フロントに立っていると君は何だかホテルの精みたいに見える」
5 K/ {% |% }! z 「ホテルの精?」と彼女は言って笑った。「素敵な言葉。そういうのになれたら素敵でしょうね」
- J" ?) K9 g- F+ Q, _8 L9 k* H; | 「君なら、努力すればなれる」と僕は言って微笑んだ。「でも、ホテルには誰も留まらないよ。それでいいの?みんなやってきてただ通り過ぎて行くだけだよ」
2 @ ^) W8 [, {& S4 S4 J 「そうね」と彼女は言った。「でも何かが留まると、怖いような気がするの。どうしてかしら?臆病なのかしら?みんながやってきて、そして去っていくの。でもそれでほっとするの。変よね、そんなのって。普通の女の子ってそんな風には思わないでしょう?普通の女の子って何か確かな物を求めているものなのよ。違う?でも私はそうじゃない。どうしてだろう?わからないわ」
, v% ^6 Y9 j# |6 y7 [+ a7 i- @0 ~ 「君は変じゃないと思う」と僕は言った。「まだ定まってないだけなんだ」7 R5 J( A+ N0 M. e9 R
彼女は不思議そうに僕を見た。「ねえ、どうしてそんなことがあなたにわかるの?」7 A) u: X' `- W
「どうしてだろう?」と僕は言った。「でも何となくわかるんだ」
" S+ Q. p9 f n, ~ 彼女はしばらくそれについて考えていた。1 h Q! v! ~5 V# I# X5 q( S D( v
「あなたの話をして」と彼女は言った。
$ C' s& _8 R- | r; n 「面白くない話だよ」と僕は言った。それでもいいから聞きたいと彼女は言った。それで僕は少しだけ自分のことを話した。三十四で、離婚経験があって、文章を書く半端仕事をして生計を立てている。スバルの中古に乗っている。中古だけれど、カー・ステレオとエアコンがついている。; s+ Z X$ V/ `3 ?! N% \2 }% ^
自己紹介。客観的事実。! Z" x" g4 d$ K: \: Y+ H
でも彼女は僕の仕事の内容についてもっと知りたがった。隠す必要もないので、僕は説明した。最近やった女優のインタビューの話と、函館の食べ物屋の取材の話をした。
1 b. m" X& N/ t0 U; j F 「そういう仕事ってとても面白そうだわ」と彼女は言った。「面白いと思ったことなんて一度もないよ。文章を書くこと自体は別に苦痛じゃない。文章を書くのは嫌いじゃないんだ。書いているとリラックスする。でも書いている内容はゼロなんだよ。何の意味もない」
& T5 S* N, a, I F2 L1 v, h 「たとえばどういうところが?」* D5 V8 Z" G7 K8 u: d+ y
「たとえば一日に十五軒もレストランやら料理屋やらを回って、出てきた料理を一口ずつ食べて、あとは全部残すなんてことが。そういうのってどこかが決定的に間違ってると僕は思うんだ」
5 _. _6 Q7 i3 O 「でも全部食べるわけにもいかないんでしょう?」
: p8 W+ `; ^/ }9 T) o9 H& D 「もちろんいかない。そんなことしたら三日で死んでしまう。みんな僕のことを馬鹿だと思う。そんなことして死んでも誰も同情してくれない」+ E. \! g. H5 ~& {9 }
「じゃあ、仕方ないでしょう?」と彼女は笑いながら言った。& O5 I# f6 [2 c5 S$ G
「仕方ないよ」と僕は言った。「それはわかっているんだ。だから雪かきのようなものだよ。仕方ないからやってるんだ。面白くてやっているわけじゃない」
" t6 D' ~; n$ P( P 「雪かき」と彼女は言った。
l* W7 @' Z+ O( `& b$ L 「文化的雪かき」と僕は言った。: \% _9 {- ?7 A
それから彼女は僕の離婚について知りたがった。
6 ]( C, M+ q1 G 「僕が離婚しようと思って離婚したわけじゃない。彼女の方がある日突然出ていったんだ。男と一緒に」" E( v6 g) p4 C4 q1 u1 c1 [0 g4 P
「傷ついた?」) J9 j' ^: S1 ]
「そういう立場に立てば普通の人間なら誰でも多少傷つくんじゃないかな」
" q; e/ @! `+ ` s+ N 彼女はテーブルに頬杖をついて僕の目を見た。「ごめんなさい。変な訊きかたをして。
2 @' e' b) r$ z2 Dでもあなたはどういうふうに傷つくのか、うまく想像できなかったの。あなたってどういう風に傷つくのかしら?傷つくとどうなるのかしら?」
& S! z; x! S3 E% K! B* Y 「キース・へリングのバッジをコートにつけるようになる」彼女は笑った。「それだけ?」8 o% D9 g6 p, K5 `: k
「僕が言いたいのは」と僕は言った。「そういうのって慢性化するってことなんだ。日常に飲み込まれて、どれが傷なのかわからなくなっちゃうんだ。でもそれはそこにある。傷というのはそういうものなんだ。これといって取り出して見せることのできるものじゃないし、見せることのできるものは、そんなの大した傷じゃない」- @, k$ _* P! Q! a1 }. q* Q3 B3 c
「あなたの言いたいことはすごくよくわかる」9 h0 v/ |( K+ j$ i% h
「そう?」% n; p& V9 v: G2 C+ \4 t
「そうは見えないかもしれないけれど、私だっていろんなことで傷ついたのよ、ずいぶん」と彼女は小さな声で言った。「それでいろいろあって結局東京のホテルも辞めちゃったの。傷ついたの。辛かったし。私ってある種のことが上手く人並みに処理できないの」 8 j# p. A8 z5 r \5 p6 n6 E& G( Q
「うん」と僕は言った。
) s4 u# t0 @! N3 R. V( c 「今でもまだ傷ついている。そのこと考えると今でも時々ふっと死んでしまいたくなる」
* B; ^& @9 Q# c& O! B 彼女はまた指輪を外して、またもとに戻した。それからブラディー・マリーを飲み、眼鏡をいじった。そしてにっこりと笑った。# I5 P3 o' M) ]( o0 i
僕らはけっこう酒を飲んでいた。何杯注文したのかわからなくなるくらい飲んでいた。時計はもう十一時を回っていた。彼女は腕時計を見て、明日の朝早いからもう帰ると言った。家までタクシーで送ると僕は言った。彼女のアパートは車で十分ほどのところにあった。僕が勘定を払った。外に出るとまだ雪がちらついていた。たいした雪ではないが、路面は凍りついてつるつると滑った。それで僕らは腕をしっかりと組んでタクシー乗り場まで歩いた。彼女は少し酔っぱらってふらふらしていた。3 v- }' A5 L4 U( r$ i% P0 k
「ねえ、その土地買収のごたごたについて書いた週刊誌のことだけどね」と僕はふと思い出して言った。「その週刊誌の名前は覚えてる?それと大体の発売日と」 |
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