昔、ある家の倉に、お金持ちの鼠がお嫁さんと二人で住んでいました。
お米も、麦もアワも、豆も持ち、たいそう豊な正確をしていました。ところが困ったことに、この鼠には子供がありませんでした。
そこで、二人は神様のところへ行って、「どうか、子供を授けてください」と頼みました。
すると、まもなく可愛い女の赤ちゃんが生まれました。二人は大喜びでその子鼠をを大事に育てました。
子鼠はすくすく大きくなって、鼠の国で一番の美しい娘になりました。お父さんもお母さんも嬉しくて、いつも娘の自慢話をしています。
「こんな綺麗な娘の婿さんになるような鼠は一人もいませんよ」とお母さんが言いました。「そうとも、内の娘は世界一のお婿さんでなくちゃ」とお父さんが言いました。二人は相談して、世界で一番偉いのはいつも世界中を照らしているお日様だと思いました。そこで、三人は空へ昇っていきました。
「お日様、あなたは世界で一番偉い方です。どうぞ私の娘をお嫁にもらってください」と丁寧に頼みました。すると、お日様はにこにこ笑って、「いや、私より、もっと偉い物がいるよ」と言いました。
「へぇ、お日様より偉い方がいるのですか。それは一体どなたです」お父さんは目を丸くして聞き返しました。
「雲さんだよ。わたしがいくら頑張っても雲さんが出てきたら、もう世界中を照らすことはできないからね」
「なるほど、そのとおりですね」鼠は関心して、雲さんの所へ行きました。
「雲さん、雲さん、貴方は世界で一番偉い方です。どうぞ、私の娘をお嫁さんにもらってください」
すると、雲さんは、曇った顔をして、「いや、私よりもっと偉い者がいるよ」と言いました。お父さんはまた目を丸くして聞きました。
「へえ、雲さんより偉い方がいるのですか。それは一体どなたです」
「風さんだよ。私がいくら頑張っても風さんには敵わないよ。ぴゅッと吹き飛ばされてしまうからね」
「なるほど、その通りですね」
そこで鼠の親子は、直ぐに風さんの所へ行きました。「風さん、風さん、あなたは世界で一番偉い方です。どうぞ、私の娘をお嫁さんにもらってください」
「いや、私よりもっと偉いのがいるよ」と風さんが言いました。
「へぇ、雲さんより偉い方がいるのですか。それは一体どなたです」とお父さんはびっくりして聞きました。
「壁さんだよ。壁さんは、どっしり強くて、私がいくら強く吹いても、びくともしないからね。壁さんには敵わないよ」
「なるほど、そうですね」
鼠の親子は空からおりて、それから壁のところへ行って、「壁さん、壁さん、あなたが世界で一番偉い方とは知りませんでした。どうぞ、私の娘をお嫁さんにもらってください」と頼みました。すると、壁さんは不思議な顔をして言いました。
「いや、わしよりもっと偉いものがいるよ」
「ええ、まだあなたより偉い方がいるのですか。一体、それはどなたです」
「それは誰でもない。貴方達鼠さんだよ。わしがいくらどっしり立っていても、鼠さんの強い歯でがりがり穴をあけられてしまうからね」
「なるほど、そうでした。そうでした」と鼠のお父さんは何度もうなずいてから、お母さんに言いました。
「やっぱり鼠が世界で一番偉いらしい。どうして今までそのことに気が付かなかったんだろう」
そして、居えに帰ると早速、お隣さんの忠助鼠を娘のお婿さんにしました。
若いお婿さんとお嫁さんは仲良く暮らして、お母さんとお父さんを大事にしました。そしてたくさん子供を生んで、お倉の鼠一家はますます栄えました。 |