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中国への返還10周年を前に、香港民主派の象徴的存在、李柱銘(マーティン・リー)立法会議員は産経新聞のインタビューに応じ、この10年について「われわれは目標を失った」と失望感を滲ませた。強まる中国の香港支配に、香港の民主派は戦い方を見失いつつある。(香港 福島香織)
「失望している。10年前、私は2007年に行政長官選挙の民主化を基本法(香港のミニ憲法)に従って、実現できると期待していた」。この10年間、民主化実現のために先頭を切って闘ってきた李議員の声にはかつての気迫がない。
「全国人民代表大会(全人代)常務委員会は04年4月26日、07年の民主化選挙は早すぎると宣言した。民主化のタイムテーブルはまだ示されていない」
李議員によれば、中国政府はむしろ香港支配を強化する傾向にあるという。
「北京は本来はもっと香港の自治を認めるつもりだったろうが、03年7月1日、国家安全条例に抵抗する50万人の大規模デモで、中国は1国2制度が失敗しかねない状況にまで追い込まれ、態度を変えた。香港の政策は北京が決めている。この10周年記念を過ぎた後、さらに香港へ締め付けが厳しくなる」と警戒する。
その根拠として、呉邦国全人代常務委員長が「香港の自治権は中国が与えたものだ」と発言した例を挙げる。こういった発言を行うのは、中国政府が香港支配に自信をもてておらず、特に本来民主派傾向の強い曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官への牽制(けんせい)とみる。「曽長官よ、お前の権力は北京が与えたものだ、といいたいわけだ」
今後、10年の間に普通選挙が実現するかどうかについては「わからない。実現しても、きっと候補者は北京が選び、北京がコントロールするだろう」と悲観的だ。しかし、「私は長期的には楽観論者だ。香港はいずれ完全な民主化を実現する。それは香港人がそう望んでいるからだ」と、変わらぬ信念をみせた。
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【プロフィル】李柱銘氏
立法会(香港議会)の民主党議員。1938年生まれ、香港政庁の弁護士を経て、85年に基本法起草委員に就任。89年に、天安門事件を機に香港の民主化要求運動の先頭にたったことで起草委員を解任される。90年に香港民主同盟を旗揚げ、94年に他の民主派政党と合同で民主党を結成、主席に就任。98年の第1回立法会選挙で議員に当選。2002年に主席を退任。 |
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