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北国風光 北国の風光よ
千里冰封 千里冰封じ
万里雪飄 万里雪 飄る
望 長城内外 長城の内と外を望めば
惟余莽莽 惟だ莽莽たるを余すのみ
大河上下 大河の上下
頓失滔滔 たちまち 滔滔たるを失う
山舞銀蛇 山には 銀蛇舞い
原馳蝋象 原には 蝋象馳り
欲与天公試比高 天公と高さを比ぶるを試んとす
須晴日 晴れし日を須ち
看 紅装素裹 紅の装と素き裹を看れば
分外妖嬈 ことのほか妖しくなまめかしからん
江山如此多嬌 江山かくのごとく多嬌かしく引無数英雄競折腰 無数英雄を引て われがちにじぎをせしめぬ
惜 秦皇漢武 惜むらくは 秦皇漢武
略輸文采 すこしく 文采においてまけ
唐宗宋祖 唐宗宋祖
稍遜風騒 稍 風騒においてゆずる
一代天驕 一代の天驕
成吉思汗 成吉思汗も
只識彎弓射大雕 ただ 弓をひいて大雕を射るを 識るのみ
倶往矣 みな すぎにけり
数風流人物 風流の人物を数えんには
還看今朝 なお今朝を看よ
北国の風光のすばらしさはどうだ。千里のかなたまで氷におおわれ、万里の空間に雪は舞う。
眼をこらして眺望するが、長城の内も外も、ただどこまでも白い。黄河の上流も下流も、はや氷が張って、滔滔たる流れが見えないのが惜しい。山には銀蛇が舞うような吹雪、そして、白い聖象が走るような高原。美しいばかりでなく、天の太陽と高さをくらべようとする溌剌たる生気にあふれているこの北方の大自然。
晴れた日になれば、太陽の赤い光が雪のうえに燃え、赤と白と、まるで美人の衣裳のようにあでやかに映えることだろう。
ああ、わが祖国の山河は、かくも人を魅する力をもっている。この魅力にひかされて、歴史上、数えきれぬ英雄たちが、功業をこの祖国のためにささげ、祖国に敬意を示したのだ。
だが、その英難たち---秦の始皇帝や漢の武帝はなるほど文化面に功績はなくはなかったが、文章の力量においてややもの足りぬところがあり、唐の太宗、宋の太祖もなかなか文化的な君主ではあったが、後人に追慕される文学上の魅力においてやや劣るところがある。
天の驕児として一世を風靡したジンギス汗はどうか---弓を満月のようにひきしぼって、おおわしを射落すことだけは、上手だった。
すべては過去の人物だ。
思想も感情も豊富で、新しい社会の意気を創造する、すぐれた人物いでよ、と待望するなら、過去にではなく、この現代の、革命的な人民大衆にこそ、眼をむけなければならない。 |