倒れそうになった才人《さいと》をルイズは抱きしめた。その顔を優しく両手で包み、唇を重ねる。
才人の身体《からだ》から、力が抜けていく……。
さっきの水には、才人の言ったとおり、眠りの魔法薬《ポーシヨン》が仕込んであったのだ。
才人を優しく抱きしめながら、ルイズは眩《つぶや》いた。
「さよなら……、わたしの優しい人。さよなら、わたしの騎士《シユヴアリエ》」
ひっく、とルイズは鳴咽《おえつ》を漏らした。
どれほどルイズは才人を抱きしめていただろうか。ゆっくりと才人をベッドに横たえ、しばらく身を寄せたあと、ルイズは立ち上がる。
「……いいわ」
そう告げると、後ろで扉が開いた。ジュリオが立って、にっこりと笑みを浮かべる。
「ほんとにいいのかい?」
まったくの無表情で、ルイズは頷《うなず》いた。
「ええ。サイトのために、“世界扉《ワールド?ドア》”を開いてあげて」
「で、そのためにきみは……」
「喜んで、あなたたちに協力するわ。ミョズニトニルンを捕まえることも、聖地を取り返すことも……。すべてよ。それだけじゃない。あなたたちとハルケギニアの理想のために、この一生を捧《ささ》げるわ。虚無の担い手として。ハルケギニアの貴族として……」
ジュリオは頷いた。
「“聖女“の誕生だね。じゃあ、さっそくこっちに来てくれ。彼がいなくなった以上、予定は変更だ。明日の計画を説明する」
部屋を出るときに、ルイズは一度だけ振り返った。涙がとめどなく溢《あふ》れ、頬《ほお》を伝う。涙を拭《ぬぐ》うこともせずに、ルイズは岐いた。
「さよなら。わたしの世界で一番大事な人」
 |