「その最後のページをよく見て下さい。シャフリング?システムの使用許可がついているはずです」
私は言われたとおり、最後のページを開いて目をとおしてみた。たしかにそこにはシャフリング?システムの使用許可がついていた。何度も読みかえしてみたが、それは正式なものだった。サインが五つもついている。まったく上層部の人間が何を考えているのか私には見当もつかない。穴を掘ったら次はそれを埋めろと言い、埋めたら今度はまたそれを掘れと言う。迷惑するのはいつも私のような現場の人間なのだ。
「この依頼書類をひととおり全部カラー?コピーして下さい。それがないといざというときに私が非常に困った立場に追いこまれることになりますからね」
「もちろんですとも」と老人は言った。「もちろんコピーはおわたしします。心配することなど何もないです。手続きはすべて一点の曇りもない正式なものです。料金は今日半額、引きわたし時に残りの半額を支払います。それでよろしいかな?」
「結構です。洗いだし《ブレイン?ウオッシュ》は今ここでやります。そして洗いだし済みの数値をもって家に戻《もど》り、そこでシャフリングをやります。シャフリングにはいろいろと用意が必要なんです。そしてそのシャフリング済みのデータを持ってまたここにうかがいます」
「三日後の正午までにはどうしても必要なんだが?」
「十分です」と私は言った。
「くれぐれも遅れんようにな」と老人は念を押した。「それに遅れると大変なことになるです」
「世界が崩壊でもするんですか?」と私は訊いてみた。
「ある意味ではね《???????》」と老人はふくみのある言い方をした。
「大丈夫です。期限に遅れたことは一度もありません」と私は言った。「できればポットに入った熱いブラック?コーヒーと氷水を用意して下さい。それから簡単につまめる夕食。どうやら長い仕事になりそうですからね」 案の定それは長い仕事になった。数値の配列自体は比較的単純なものだったが、ケース設定の段階数が多かったので、計算は見かけよりずっと手間どった。私は与えられた数値を右側の脳に入れ、まったくべつの記号に転換してから左側の脳に移し、左側の脳に移したものを最初とはまったく違った数字としてとりだし、それをタイプ用紙にうちつけていくわけである。これが洗いだし《ブレイン?ウオッシュ》だ。ごく簡単に言えばそういうことになる。転換のコードは計算士によってそれぞれに違う。このコードが乱数表とまったく異っている点はその図形性にある。つまり右脳と左脳(これはもちろん便宜的な区分だ。決して本当に左右にわかれているわけではない)の割れ方にキイが隠されている。図にするとこういうことになる。
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要するにこのギザギザの面をぴたりとあわせないことには、でてきた数値をもとに戻すことは不可能である。しかし記号士たちはコンピューターから盗んだ数値に仮設ブリッジをかけて解読しようとする。つまり数値を分析してホログラフにそのギザギザを再現するわけだ。それはうまくいくときもあるし、うまくいかないときもある。我々がその技術を高度化すれば彼らもその対抗技術を高度化する。我々はデータを守り、彼らはデータを盗む。古典的な警官と泥棒《どろぼう》のパターンだ。 |