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楼主: 村上春树

世界の終りとハードボイルドワンダーランド“ THE END OF THE WORLD ”

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 楼主| 发表于 2004-12-30 13:34:13 | 显示全部楼层
「その最後のページをよく見て下さい。シャフリング?システムの使用許可がついているはずです」
 私は言われたとおり、最後のページを開いて目をとおしてみた。たしかにそこにはシャフリング?システムの使用許可がついていた。何度も読みかえしてみたが、それは正式なものだった。サインが五つもついている。まったく上層部の人間が何を考えているのか私には見当もつかない。穴を掘ったら次はそれを埋めろと言い、埋めたら今度はまたそれを掘れと言う。迷惑するのはいつも私のような現場の人間なのだ。
「この依頼書類をひととおり全部カラー?コピーして下さい。それがないといざというときに私が非常に困った立場に追いこまれることになりますからね」
「もちろんですとも」と老人は言った。「もちろんコピーはおわたしします。心配することなど何もないです。手続きはすべて一点の曇りもない正式なものです。料金は今日半額、引きわたし時に残りの半額を支払います。それでよろしいかな?」
「結構です。洗いだし《ブレイン?ウオッシュ》は今ここでやります。そして洗いだし済みの数値をもって家に戻《もど》り、そこでシャフリングをやります。シャフリングにはいろいろと用意が必要なんです。そしてそのシャフリング済みのデータを持ってまたここにうかがいます」
「三日後の正午までにはどうしても必要なんだが?」
「十分です」と私は言った。
「くれぐれも遅れんようにな」と老人は念を押した。「それに遅れると大変なことになるです」
「世界が崩壊でもするんですか?」と私は訊いてみた。
「ある意味ではね《???????》」と老人はふくみのある言い方をした。
「大丈夫です。期限に遅れたことは一度もありません」と私は言った。「できればポットに入った熱いブラック?コーヒーと氷水を用意して下さい。それから簡単につまめる夕食。どうやら長い仕事になりそうですからね」 案の定それは長い仕事になった。数値の配列自体は比較的単純なものだったが、ケース設定の段階数が多かったので、計算は見かけよりずっと手間どった。私は与えられた数値を右側の脳に入れ、まったくべつの記号に転換してから左側の脳に移し、左側の脳に移したものを最初とはまったく違った数字としてとりだし、それをタイプ用紙にうちつけていくわけである。これが洗いだし《ブレイン?ウオッシュ》だ。ごく簡単に言えばそういうことになる。転換のコードは計算士によってそれぞれに違う。このコードが乱数表とまったく異っている点はその図形性にある。つまり右脳と左脳(これはもちろん便宜的な区分だ。決して本当に左右にわかれているわけではない)の割れ方にキイが隠されている。図にするとこういうことになる。
?
 要するにこのギザギザの面をぴたりとあわせないことには、でてきた数値をもとに戻すことは不可能である。しかし記号士たちはコンピューターから盗んだ数値に仮設ブリッジをかけて解読しようとする。つまり数値を分析してホログラフにそのギザギザを再現するわけだ。それはうまくいくときもあるし、うまくいかないときもある。我々がその技術を高度化すれば彼らもその対抗技術を高度化する。我々はデータを守り、彼らはデータを盗む。古典的な警官と泥棒《どろぼう》のパターンだ。
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 楼主| 发表于 2004-12-30 13:34:41 | 显示全部楼层
記号士たちは不法に入手したデータを主として情報のブラック?マーケットに流し、莫《ばく》大《だい》な利益を得る。そしてもっと悪いことには彼らはその情報のうちのもっとも重要なものを自分たちの手にとどめ、自らの組織のために有効に使用するのである。
 我々の組織は一般に『組織《システム》』と呼ばれ、記号士たちの組織は『工場《ファクトリー》』と呼ばれている。『組織《システム》』は本来は私的な複合企業《コングロマリット》だがその重要性が高まるにつれて、半官営的な色彩を帯びるようになった。仕組としてはアメリカのベル?カンパニーに似ているかもしれない。我々末端の計算士は税理士や弁護士と同じように個人で独立して仕事を行うが、国家の与えるライセンスが必要だし、仕事は『組織《システム》』あるいは『組織《システム》』の認めるオフィシャル?エージェントを通してまわってきたものしか引き受けてはならない。これは『工場《ファクトリー》』に技術を悪用されないための措置で、違反した場合には懲罰を受け、ライセンスを没収される。しかしそういう措置が正しいことなのかどうか私にはよくわからない。何故なら資格を奪われた計算士は往々にして『工場《ファクトリー》』に吸収されて地下にもぐり、記号士になってしまうからだ。
『工場《ファクトリー》』がどのように構成されているのか私にはわからない。最初それは小規模のベンチャー?ビジネスとして生まれ、急激に成長したということである。『データ?マフィア』と呼ぶ人もいるが、様々な種類のアンダーグラウンド組織に根をはりめぐらせているという点ではたしかにそれはマフィアに似ているかもしれない。彼らがマフィアと違う点は情報しかとり扱わないという点にある。情報はきれいだし、金になる。彼らは狙いをつけたコンピューターを確実にモニターし、その情報をかすめとる。 私はコーヒーをポット一杯ぶん飲みながら洗いだし《ブレイン?ウオッシュ》をつづけた。一時間働くと三十分休む――というのが規則だった。そうしないと右脳と左脳のあわせめが不明確になり、出てきた数値が混濁してしまうのである。
 その三十分の休憩のあいだに、私は老人といろいろな世間話をした。なんでもいいから口を動かしてしゃべるのが脳の疲労の最良の回復方法なのだ。
「これはいったい何についての数値なのですか?」と私はたずねてみた。
「実験測定数値ですな」と老人は言った。「私のこの一年間に及ぶ研究の成果です。それぞれの動物の頭蓋骨及び口蓋の容積の三次元映像を数値転換したものと、その発声を三要素分解したものをくみあわせてあるです。さきほど私は骨の固有の音を聴きとるのに三十年かかったと申しあげたですが、この計算が完成すると、我々は経験的《???》にではなく理論《??》的《?》にその音を抽出できるようになるです」
「そしてそれを人為的にコントロールすることができるようになると?」
「そのとおり」と老人は言った。
「人為的にコントロールすると、いったい何が起るんですか?」
 老人は舌先で上唇《うわくちびる》をなめながら、しばらく黙っていた。
「いろんなことが起るですよ」と彼は少しあとで言った。「実にいろんなことが起るです。これは私の口から申しあげることはできんですが、ちょっとあんたに想像もつかんようなことが起るです」
「音抜きもそのひとつですね」と私は質問した。
 老人はまたふおっほっほと楽しそうに笑った。「そう、そのとおり。人間の頭蓋骨の固有の信号にあわせて、音を抜いたり増やしたりすることができるです。人それぞれに頭蓋骨の形は違うから完全には抜けんが、かなり小さくすることはできるです。簡単に言えば音と反音の振動をあわせて共鳴させるわけですな。音抜きは研究成果の中ではもっとも害のないもののひとつです」
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 楼主| 发表于 2004-12-30 13:35:06 | 显示全部楼层
あれで害がないというのなら、あとは推して知るべしである。私は世の中の人々がめいめい好き勝手に音を消したり増やしたりしている様を想像して、ちょっとうんざりした。
「音抜きは発声と聴覚の両方向から可能です」と老人は言った。「つまりさっきのように水音だけを聴覚から消去することもできるし、あるいはまた発声を消去してしまうこともできるです。発声の場合は個人的なものだから百パーセント消去することも可能ですな」
「これは世間に発表なさるつもりなんですか?」
「まさか」と老人は言って手を振った。「こんな面白いことを他人に知らせるつもりはないですな。私は個人的な楽しみでこれをやっとるです」
 そう言って老人はまたふおっほっほと笑った。私も笑った。
「私の研究発表はきわめて専門的な学術レベルに限るつもりですし、音声学になんて殆《ほと》んど誰も興味を持ちゃせんです」と老人は言った。「それに世間のバカ学者どもに私の理論が読みとれるわけはないです。ただでさえ私は学界では相手にされとらんですからな」
「しかし記号士たちはバカではないですよ。連中は解析にかけては天才的です。彼らはあなたの研究をぜんぶきれいに読みとってしまうでしょう」
「その点は私も用心しておるです。だからデータとプロセスはぜんぶ隠して、理論だけを仮説の形で発表する。これなら彼らに読みとられる心配はない。たぶん私は学界では相手にもされんだろうが、そんなことはどうでもいいです。百年後に私の理論は証明されるですし、それだけで十分というもんです」
「ふーむ」と私は言った。
「そういうわけで、すべてはあんたの洗いだしとシャッフルにかかっておるですよ」
「なるほど」と私は言った。 それから一時間、私は神経を計算に集中した。そしてまた休憩がやってきた。
「ひとつ質問があるんですが」と私は言った。
「なんだろう?」と老人は言った。
「入口にいた若い女性のことですが。あの、ピンクのスーツを着た肉づきの良い……」と私は言った。
「あれは私の孫娘です」と老人は言った。「非常によくできた子で、若いながら私の研究を手伝ってくれておるです」
「それで私の質問はですね、彼女は生まれつき口がきけないのか、それとも音抜きされてああなったのか、ということなんですが……」
「いかん」と老人は片方の手でぴしゃりと膝《ひざ》を打った。「すっかり忘れておったです。音抜きの実験をしたまま、もとに戻すことをやらなかったです。いかんいかん。すぐに行ってもとに戻してこなくては」
「その方がよさそうですね」と私は言った。
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