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发表于 2005-1-12 12:59:20
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健太は痛い思いをしながら、あざみの花のきれいなのを選んで手折っています。でも、やっぱりあの輪のトンボが気になって、辺りをきょろきょろ見回しています。お母さんが言ったようにほんとに二匹のトンボが手をつなぐように輪を作っているのかどうか、ぜひ自分の目で確かめたいと思います。しかし、そのめずらしいトンボは現われません。河原のあちこちでは、友達が思い思いの美華子へのプレゼントを作っています。
健太は『ちょっとたくさん自分の友達を呼びすぎたかな』と内心思いましたが、美華子はまだ学校に行ってなくて友達が少ないから、普段も自分の友達や高太兄ちゃんの友達と遊んでいるのだから、きっと喜ぶにちがいないと思い直しました。できたらあの輪になったトンボを見せてあげたいとも思って、しきりに空を気にしています。左手をポケットにつっこんで、すっかりぬれてしまった残りの一粒のピーナッツを握りしめながら。突然昭子が、「わたし、帰る。お家で美華ちゃんのプレゼントを作るから。あした、何時なの」と、健太に声をかけました。
「十二時だよ!!」
「じゃあ、あしたね」
と、手を振って、昭子は帰っていきました。
一郎はかにと遊んでいるうちに、かにを家に持って帰りたくなりました。
「ちょっと家からバケツ持ってくる」
と言って走って行きました。
太郎はひとりゴムマリで遊んでは、何か美華子にあげるきれいな花はないかと、目をきょろきょろさせています。
洋一も真剣な表情で、すてきな花を探しています。青々とした葉っぱはたくさんあるのですが、美華子が喜びそうな花は見つかりません。
「洋ちゃん、いいこと教えてあげるよ。こっちへおいでよ」と、健太が呼びました。健太は右手にあざみの花束を持って、河原の平べったい岩に腰を下ろしています。目は空中を絶えず見回しているようです。
「何してんの。何かあるの」と洋一が走り寄ってきました。
「洋ちゃん、輪になったトンボ見たことあるか」「ないよ。そんなのいないよ」「でも、いたんだ。きょう朝早く見つけたんだ。ほんとうだよ。もう一度見たいんだ。だから、洋ちゃんもここにすわって一緒に見つけてよ」
健太は真剣です。洋一はそんなトンボ居るはずがないとおもいながら、健太がとても一生懸命なので、一緒に見つけることにしました。空が曇り始めて、すこし涼しく感じます。二人は仲良く岩にすわって、空中を見回しています。
「輪のトンボが見つかったら、花束をそれに通して美華ちゃんに持っていこうよ」と、洋一がいいました。「うん、そうしよう」と、健太は大賛成しました。いいアイデアだと二人は思い、顔を見合わせて満足そうにほほえみました。
「でも、美華に見せたら放してやるんだ」「うん、それがいいね」と、洋一も賛成しました。それから二人は、明日の美華子の誕生会のことを思い浮かべました。珍しいトンボの輪でまとめた花束を見た時、美華子がどんな顔をするか楽しみだし、友達もきっと驚くにちがいありません。黄色の蝶が二匹、鬼ごっこをしているように追いつ追われつしながら通り過ぎていきます。
健太は、お母さんから聞いたことを洋一に話しました。ますます興味を持った洋一は、「早く来ないかなあ」と待ち切れないようです。風が急にざわざわと吹いてきました。二人の目にふんわりと小さな輪が、飛んで来るのが見えました。と同時にトンボの何万倍もあろうかと思われるぎらぎらと光る飛行機が、目に飛び込んできたように思ったとたん、「あっ、トン–––––
数億個の雷が一度に落ちたような地鳴りと、地面のミクロの砂塵(さじん)まで照らし尽くすような光と、全てを灰にしてしまいそうな高熱がおおいつくしました。後にはぶつぶつに火傷(やけど)をした岩が河原にごろごろところがっているだけでした。
健太と洋一の姿は、その一瞬の光と熱と地鳴りにかき消されたのでしょうか、どこにも見当たりません。河原で花摘みに夢中だった和子の姿も太郎の姿も、もちろんありませんでした。
健太の家では、お母さんが明日の美華子の誕生日に、約束のきな粉だんごを作ってやろうと、土間にむしろを敷いて石うすを出しています。大豆を煎って石うすをひくと香ばしいきな粉ができます。田舎のお婆ちゃんから、思いがけずも小麦粉が届いたばかりで、手持ちのドングリの粉と混ぜると少しはおいしいはずですし、量も多くなるのでお友達が増えても大丈夫だと一安心。重い石うすをひくのも心がはずみます。
美華子は、出来上がったばかりのお洋服を胸に抱きしめて、お母さんの回りを飛びはねています。そして時々足を止めて、大切そうに広げて体にあわせては、「ねえ、着てもいい!」と、お母さんにおねだりしています。「あとでね」と、お母さんは忙しそうに大豆を石うすの小さな穴の中に入れながらゴロゴロとひき続けています。辺りにひきたてのきな粉のかおりがただよって、美華子の腹ぺこのお腹がグーとなりました。
時計が十一時を知らせています。お母さんは急に手を止め、「もうこんな時間なの。お昼の支度しなくっちゃ。じゃあ、こっちへきてごらん。でもちょっとだけよ。明日着て見せるんでしょ、お友達に」「わあい!着てもい――――
突然、地球が破裂してしまったような衝撃(しょうげき)がはしりました。と、同時に健太の家は押しつぶされてしまいました。まもなくあちこちから火の手があがり、赤や青みがかった炎が地上をどこまでもなめ尽くしました。健太の家があった所には、高熱で表面がぶつぶつになった石うすが、ぽつんと残っているだけでした。
高太は、防空壕を出ると芋畑に急ぎました。なるべく早く芋を掘り終えて麻子の家に行ってやろうと思ったからです。できればトマトも、もいで持っていけば、きっと喜んでくれるにちがいありません。美華子の誕生日にお母さんが、トマトも採ってくるように言ったから、麻子にも少し分けてやろうと思いつきました。
空には、雲も出ていて時々太陽が見え隠れしたりするのですが、暑さは厳しくなるばかりで、鍬(くわ)を振り下ろす度に汗が飛び散ります。なるべく大きめの芋を選び氦巳毪臁⒔穸趣辖摔ⅳ毳去蕙犬xに行って赤くなったトマトを見つけては、氦巳毪欷皮い蓼埂:がいっぱいになったので、高太は顔や手の泥を手ぬぐいで拭いて、身支度を整えました。麻子にきたないと思われたくなかったから、いつもより丁寧に泥を落とし汗も拭きました。
坂を下って麻子の家の階段を上りかけた時、麻子がちょうど家から出て来るのが見えました。高太は小走りに階段をかけ上がって行って、持ってきた氦蚵樽婴畏饯夭瞍烦訾筏啤ⅰ嘎椁沥悚蟆ⅳ长煊螭去去蕤C––––––
麻子は、お母さんの熱が下がらないので、昨夜からずっと水で冷やしてあげていたのですが、やっと熱が下がってきたので回覧板を高太の所へ届けようと、玄関の引き戸を開けたところでした。高太が階段をかけ上がって来るのを見て、なんだかほっとした気持ちになり、麻子も二三段降りたところで、「高ちゃん、ちょうどよか–––––
二人がもう少しでお互いに持ってきた物を交換しようとした時でした。猛烈な光と熱と振動に一瞬にして巻き込まれたのは。麻子の家もかき消えて、高太も麻子も、悪魔の一吹きのような地上の全てを巻き上げてしまった竜巻に巻き込まれたのでしょうか、姿がありません。
金さんは、暗い防空壕の中で気を失っていたのですが、いきなり暗かったのが昼間のように照らし出され、山が動いているような激しい揺れに正気を取り戻しました。大きな爆弾が近くに落ちたにちがいないと思いました。防空壕の壁から石ころや土が崩れ落ちてきます。ここに居ると生き埋めになるかもしれないと思い、やっとの思いで外に出ました。
目の前に広がっていたのは、びっちりと並んでいた家々がすべてぺったんこにつぶれ、どこまでも見通せる広っぱでした。そして、あちらこちらから不気味な色をした炎が地上を這い回ろうといているではありませんか。
金さんの立っている所は小高い丘で、浦上の町がひと目で見渡せました。緑におおわれていた健太の遊び場だった小さな滝つぼも、すっかり裸になっていて、川の流れが、くっきりと地図を見るように大地に線を引いているのでした。
金さんは、一瞬何が起きたか理解できませんでした。
頭に浮かんだのは、健太のいたずらっぽい笑顔でした。すぐに健太を探さねばと思い、ポケットの中の健太の小さな布袋を握りしめました。すると、手に触る物がありました。さっき仲間にピーナッツをあげる時は気がつきませんでした。急いでポケットから出してみると、くしゃくしゃな紙切れに健太からの伝言が書いてありました。ついでに、紙に挟まった一粒のピーナッツもぽろりと転げ落ちました。金さんは、慌ててピーナッツを拾ってポケットに入れると、紙切れを読みました。大きなひらがなで、『あしたは、いもうとの、たんじょうびで、きなこだんごを、おかあさんがつくります。だから、きむさんのかえりに、ふくろをなげます。たのしみにしていてください。 けんた』
金さんはひらがなは読めましたから、健太のやさしい気持ちがよくわかります。早く健太の家に行ってみなければ、と自分のぐあいが悪いこともすっかり忘れて、丘を下り始めました。
ところが、たくさんの人々が列をなして丘のほうへ上ってきていて、金さんが下りるのを止めるのでした。行列の後ろの方には、薄い布を引きずってよろよろ歩いてくる人がいます。良く見ると、布ではなくその人の皮膚でした。顔が焼けてひぶくれして、誰か見分けがつかないような人、手足に火傷をして今にも倒れそうな人、髪の毛が総立ちになって目の玉が飛び出した人など、とても悲惨な姿の人々でいっぱいです。金さんは、大きな人の流れに逆らえなくて、押されるように同じ方向へ歩き始めていました。
浦上地区は真っ赤な炎に包まれ、空はもうもうと燃え上がる炎と煙に赤兢蓼辍ⅳ趣皮馊摔问坤趣纤激à胜で榫挨扦筏俊
夜になって、かんかんに怒ったような真っ赤な月が東の空に不気味に輝いて、地上の惨状を照らし出していました。金さんは歩き疲れ、山沿いの道端で倒れるように寝込みました。ずいぶん歩いたように思うのですが、実はまだ浦上地区の丘をうろうろしたにすぎませんでした。
金さんの口の中には、一粒のピーナッツが入っていました。あれほど何も食べたくなかったはずなのに、口の中に何か入っていると元気が出るような気がするのでした。
金さんの回りには、傷ついた人々が大勢横たわっていました。金さんはピーナッツをしゃぶりながら、どうしても健太の家まで行ってみようと思いました。
翌日、朝早く起きるとそろそろと丘を下り、健太の家の方向へ歩いて行きました。いつの間にか浦上天主堂のあった所に来ていました。大聖堂は見る影もなく破壊され、マリア像が手をもぎ取られ、鼻をそがれて悲しげに空を仰いでいました。途中にある小学校には元気に遊ぶ子供の姿はなく、まっ长菠摔胜盲咳碎gが邉訄訾韦ⅳ沥长沥艘姢椁欷蓼筏俊
金さんは逃げるようにそこを離れると、大きな木を目印に健太の家を探しました。木はかろうじて残っていましたが、大きな幹にがらんと穴が開き、むこうの焼け野原が透(す)けて見えます。家も人影もなく、ただぽっつんと石うすがありました。金さんが石うすの上段を持ち上げてみようとすると、くっついたようになかなかとれません。やっとのことで持ち上げると、长菠未蠖工蓼懒!─韦蓼蓼遣肖盲皮い蓼筏俊¥史郅长膊枭摔胜盲剖Δ工摔长婴辘膜い皮い啤ⅳ工长废悚肖筏に`がしています。金さんは無意識にその大豆ときな粉をきれいに集め、健太の小さい袋に入れました。辺りは、異様な匂いと地面からむんむんする熱が上がっていました。
金さんはもう一度人影がないか確かめ、いつも健太が遊んでいた河原へ下りていきました。そこには、丘の上から見えなかった恐ろしい光景が広がっていました。おそらく水を求めて怪我をした人達が集まってきたのでしょう、折り重なって大勢の人が死んでいました。そのすべてがあまりにも変わりすぎていて、誰が誰なのか分かりません。中には、犬や猫や大きな馬まで焼け死んでいます。この中から健太を探すのは、難しいことでした。もしかしたらどこか避難していて、ひょっこり『金さん、おれ!』って出て来るかもしれないと思い直して、金さんは歩き出しました。でも、浦上地区の子どもたちは、ほとんどが二度と戻っては来ませんでした。世界で二つ目の原子爆弾(げんしばくだん)が落とされ、子どもたちの言いかけの言葉をかきさらっていってしまったのです。
「あっ、トン――――
「わあい!着てもい――――
「麻ちゃん、これ芋とトマ――――
「高ちゃん、ちょうどよか――――
健太、美華子、高太、麻子、洋一、和子、一郎、太郎……
それから二十年近くの歳月が流れました。祖国に帰った金さんは、長い間体の調子が悪く、あまり働くことができずに貧しい生活が続きました。幸い家族に恵まれ、かわいい男の子もでき、少しずつ幸せになってきていました。男の子が大きくなるにしたがって、健太のことが思い出されました。戦争に巻き込んだ日本は許せなくっても、自分を救ってくれた日本の少年には感謝を忘れたことはありませんでした。
金さんは、日本の新聞の『尋ね人』(たずねびと)の欄に健太のことを出してもらい、健太のお父さんを探し当てました。健太のお父さんは、戦地から無事に帰ってきたのですが、家族は誰も生き残っていませんでしたから、家族の最期がどうだったか全く分かっていませんでした。健太のお父さんも家族の消息を知っている人を、必死に探しつづけていたのでした。
金さんは、二十数年目の八月九日、あの大きな楠のある庭に立っていました。楠は昔のように元気に葉っぱを付けていましたが、かつて美華子をすっぽり抱きこんでくれたり、健太が金さんを毎朝待っていた幹の窪みは、筒抜けになって風が吹き抜けていました。
そこには、もう一人白髪の目立つ男の人が、金さんの手をしっかり握って涙をながしています。健太のお父さんでした。
二人の手の中には、古ぼけた小さな袋がありました。袋の中には、健太が金さんに書いたあの朝の伝言と炭のようになった一粒の大豆が入っていました。金さんは、あの日お腹をこわして死にそうになっていた自分が助かって、元気な子どもたちが犠牲になってしまったことが信じられませんでした。これまでも、きっと健太はどこかで生きているにちがいないと、かすかな望みをつないできたのでした。そして、今ここに自分が立っていられるのは、あの時健太がくれたピーナッツと石うすの中に残っていたわずかな大豆とその粉が命をつないでくれたからだと、健太のお父さんに伝え、心から感謝しました。
二人はいつまでも小さな袋を握りしめて立ちつくしていました…。
おわり |
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