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水曜の午後ピクニック(3)
もちろん厳密に定義するなら、彼女は誰とでも寝たというわけではない。そこには彼女なりの規準が存在したはずだ。
当然,若是严密地来定义的话,也并不是她和谁都能睡觉。对那些事她还是有自己的准则。
とはいうものの現実問題として眺めてみれば、彼女は大抵の男と寝た。
从实际情况来看,她和一般的男的睡觉。
僕は一度だけ、純粋(じゅんすい)な好奇心(こうきしん)から、その規準について彼女に質問したことがある。
完全从纯粹的好奇心出发,我也只有一次,曾经对她的准则做了提问。
「そうねえ――」彼女は三十秒ばかり考えて込んだ。「もちろん誰とでもいいってわけじゃないのよ。嫌だなって思う時もあるわ。でもね、結局のところ私はいろんな人を知りたいのかもしれない。あるいは、私にとっての世界の成り立ちかたのようなものをね」
“是这样的。”她也只沉思了30秒。“当然也并不是和谁都可以。让人讨厌的时候也有。可是,一般情况下我想了解各种各样的人。或者说,了解有关我的世界的组成是什么样的。”
「一緒に寝ることで?」
“通过一起睡觉这件事?”
「うん」
“是的。”
今度は僕が考え込む番だった。
这时轮到我深入思考了。
「それで……それで少しはわかったのかい?」
“那么,通过这些事就能稍微明白了一点?”
「少しはね」と彼女は言った。
“是,能稍微明白一点。”她这样说。
六九年の冬から七〇年の夏のかけて、彼女とは殆んど顔を合わせなかった。大学は閉鎖(へいさ)とロックアウトをくりかえしていたし、僕は僕でそれとはべつにちょうっとした個人的なトラブルを抱え込んでいたのだ。
从69年的冬天到70年的夏天,我和她几乎没有见过面。大学关门、工厂倒闭,这些都在重复连锁反应着,我也因为我陷进了和这个略有不同的个人纠纷中。
七〇年の秋に僕がその店を訪れた時、客の顔ぶれはもうすっかり変っていて、知った顔は彼女ひとりという有様だった。あいかわらずハードロックこそかかってはいたものの、あのピリピリとした空気はもう消え失せていた。彼女と不味いコーヒーだけが一年前と同じだった。僕は彼女の向かいの椅子に腰を下ろし、コーヒーを飲みながら、昔の連中の話をした。
在70年的秋天我去那个小店的时候,客人的面孔已经全变了,所认识的人也只有她一人。依然还照旧的只是那老摇滚乐,那热闹的气氛已经消失了。也只是她和那苦涩咖啡与一年前一样。我坐到她对面的椅子上,一边喝咖啡一边聊老朋友的事。
彼らの多くは大学をやめていた。一人の自殺し、一人は行方をくらませていた。そんな話だ。
他们一帮人有很多休学了。有一个人自杀了,有一个人去向不明。也就聊一些那样的话题。
「一年間何をしてたの?」と彼女は僕に訊ねた。
“那在这一年里你做什么了?”她问我。
「いろいろさ」と僕はいった。
“瞎混。”我说。
「少しは賢くなったの?」
“是不是成熟了一点?”
「少しはね」
“也许有一点了吧。”
そしてその夜、僕は始めて彼女と寝た。
也就从那一晚上开始,我和她睡觉了。
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