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8 風の特殊なとおり道(7)
「どうしてここに隠れて住むようになったの?」
「きっとあんた笑うよ」と羊男は言った。
「たぶん笑わないと思うよ」と僕は言った。いったい何を笑えばいいのか見当もつかない。
「誰にも言わない?」
「誰にも言わないよ」
「戦争に行きたくなかったからさ」
我々はそのまましばらく黙って歩いた。並んで歩いていると、羊男の頭が僕の肩先で揺れた。
「どこの国との戦争?」と僕は訊ねてみた。
「知らないよ」羊男はこんこんと咳をした。「でも戦争に行きたくないんだ。だから羊のままでいるんだよ。羊のままでここから働けないんだ」
「十二滝町の生まれかい?」
「うん。でも誰にも言わないでくれよ」
「言わないよ」と僕は言った。「町の嫌い?」
「下の町かい?」
「うん」
「好きじゃないよ。兵隊でいっぱいだからね」羊男はもう一度咳をした。「あんたはどこから来た?」
「東京からだよ」
「戦争の話は聞いたかい?」
「いや」
羊男はそれで僕に対する興味を失ったようだった。我々は草原の入口に着くまで何もしゃべらなかった。
「家に寄っていかないか?」と僕は羊男に尋ねてみた。
「冬の仕度があるんだ」と彼は言った。「とても忙しい。また今度にするよ」
「僕の友だちに会いたいんだ」と僕は言った。「あと一週間のうちにどうしても彼に会わなきゃいけない理由があるんだ」
羊男は哀し気に首を振った。耳がぱたぱたと揺れた。「悪いけど、前にも言ったように、おいらには何もできないよ」
「もし伝えられたらでいいよ」
「うん」と羊男は言った。
「どうもありがとう」と僕は言った。
そして我々は別れた。
「出歩くときはくれぐれも鈴を忘れないようにね」と別れ際に羊男が言った。
そして僕はまっすぐいえに戻り、羊男は前と同じように東の林に消えた。冬色にくすんだ無言の緑の草原が我々のあいだを隔てた。
“是什么原因会隐居在这里呢?”
“你肯定会笑话的。”羊男说。
“我想不会笑的。”我说。到底有什么可笑的还捉摸不透。
“你对谁都不说?”
“对谁都不说!”
“因为不想去参加战争。”
在这种状态下我们没有说话走了一会儿。就这样并行走的时候年男的头在我的肩头附近晃动。
“和哪个国家的战争?”我问了问。
“不知道。”羊男吭吭地咳嗽一下。“总之不想去战争。所以就一直保持羊的模样。因为保持羊的模样就不能离开这里了。”
“是十二瀑布镇出生的吗?”
“是的,对谁都不能说。”
“不说。”我说。“不喜欢这个镇?”
“下面那个镇?”
“是。”
“并不喜欢。满镇都是部队。”羊男又咳嗽了一次。“你是从哪里来的?”
“从东京来的。”
“想说战争的了吗?”
“没有。”
为此羊男好像对我失去了的兴趣似的。我们走到草原入口一直什么也没有说。
“顺便到你家中去如何?”我向羊男问道。
“为了准备过冬。”他说。“非常忙。而且现在要做完。”
“非常想见到我的朋友。”我说。“在后面一个星期内无论如何要见到他。”
羊男很遗憾地摇头。耳朵呼啦呼啦地摇动。“虽然我不好,但以前已经说了,我什么也不能做。”
“假如转告,不可以吗?”
“不可以。”羊男说。
“非常感谢。”我说。
然后我们就分开了。
“出门走路时不要大意忘了带铃铛。”在分别时羊男说。
之后我马上回到家里,羊男也和以前一样消失在东面的森林里。冬天里没有光泽的无言的绿草原在中间把我们隔开。 |
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