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僕は昔一度入ったことのある飲み屋に入って酒を少し飲み、簡単な食事をした。汚くて、うるさくて、安くて、美味い店だった。僕はひとりで外で食事をするときはいつもなるべくうるさそうな店を選ぶことにしていた。その方が落ち着くのだ。淋しくないし、独り言を言っても誰にも聞こえない。
食事を終えてもまだ何となく物足りなかったので、僕はもう少し酒を注文した。そして熱い日本酒を胃の中にゆっくり流し込みながら、僕はいったいこんなところで何をやっているんだろうと思った。いるかホテルはもう存在しないのだ。僕がそこに何を求めていたにせよ、とにかくいるかホテルはさっぱりと消えてなくなってしまったのだ。もう存在していないのだ。そのあとには『スター?ウォーズ』の秘密基地みたいなあの馬鹿気たハイテク?ホテルが建っている。すべてはただの時期遅れの夢だったのだ。僕は取り壊されて消滅してしまったいるかホテルの夢を見て、出口から出ていって消えてしまったキキの夢を見ていたにすぎないのだ。たしかにそこでは誰かが僕のために泣いていたかもしれない。でももうそれも終わってしまったのだ。もうこの場所には何も残ってはいない。これ以上ここでお前は何を求めようというのだ?
そうだな、と僕は思った。あるいは口に出してそう独り言を言ったかもしれない。そうだ。ここにはもう何も残ってはいない。ここには僕が求めるべき何物もない。
僕は唇を固く結んでしばらくじっとカウンターの上の醤油さしを眺めていた。
長く一人で生活していると、いろんなものをじっと眺めるようになる。ときどき独り言を言うようになる。賑やかな店で食事をするようになる。中古のスバルに親密な愛情を抱くようになる。そして少しずつ時代遅れになっていく。
僕は店を出て、ホテルに戻った。けっこう遠くまで来ていたが、ホテルに戻る道をみつけるのは簡単だった。首を上にあげれば街のどこからでもドルフィン?ホテルが見えたからだ。東方の三博士が夜空の星を目標に簡単にエルサレムだかベッレヘムだかにたどりついたみたいに、僕も簡単にドルフィン?ホテルに帰りついた。
部屋に戻って風呂に入り、髪を乾かしながら窓の外に広がる札幌の街を眺めた。昔のいるかホテルに泊まったときは、そういえば窓の外に小さな会社が見えたなと僕は思った。何の会社かは全然わからなかったけれど、でもとにかく会社だった。人々が忙しそうに働いていた。僕は部屋の窓から一日そういう風景を眺めていたものだった。あの会社はどうなったんだろう?綺麗な女の子が一人いた。あの子はどうなったんだろう?でも、あれはそもそも何をしている会社だったんだろうな?
やることがないので、僕はしばらく部屋の中をあてもなくうろうろと歩きまわった。それから椅子に座ってTVを見た。ひどい番組しかやっていなかった。いろんな種類のつくりものの反吐を見せられているみたいな気がした。つくりものだから別に汚くはないのだが、じっと見ていると本物の反吐に見えてくるのだ。僕はTVを消して服を着て、二十六階にあるバーに行った。そしてカウンターに座ってソーダで割ってレモンをしぼったウォッカを飲んだ。バーの壁は全部ガラス窓になっていて、そこから札幌の夜景が見えた。ここにある何もかもが僕に『スター?ウォーズ』の宇宙都市を思い起こさせた。でもそれを別にすれば感じの良い静かなバーだった。酒の作り方もきちんとしていた。グラスも上等なものだった。グラスとグラスが触れあうととても良い音がした。客は僕の他には三人しかいなかった。ふたりづれの中年の男が奥まったテーブル席でウィスキーを飲みながらひそひそと声をひそめて話をしていた。何だかはわからなかったけれど、見たところすごく大事な話みたいだった。あるいはダースヴェーダーの暗殺計画を練っているのかもしれない。
我去了曾经去过一次的小酒馆,少喝了点酒,筒单吃了点东西。有点脏还吵闹,但是便宜而味道也不错的饭馆。当我一个人在外吃饭时总会选择一个比较吵闹的饭馆。在那样的饭馆里情绪比较稳定坦然。那样不寂寞,自言自语说话谁也听不见。
吃完饭后还有什么不充足,我又要了一点酒。当加热的日本酒慢慢地流到胃中时,突然想出我在这个地方到底要做什么呢?那个海豚宾馆已经不存在了。无论我在那里寻求什么,但海豚宾馆完全消失了。已经不存在了。在其原地上建设了像是“スター?ウォーズ”秘密基地的很傻气不像样的高科技宾馆。所有的都是一般时期迟到的梦罢了。我做的梦是被拆除而消失的海豚宾馆的梦,也只不过是从出口走出去而消失的奇奇的梦而已。也许是谁真的在这里为我而哭。可是那也已经完全结束了。在这个地方已经什么也不存在了。除此之外在这里你还有什么可求的?
是这样的。我想。或者说出那样的话是自言自语。是的。在这里已经什么东西也没有留下了。在这里我所寻找的东西也没有了。
我紧闭嘴唇,专心看了一会儿放在桌子上的醤油壶。
长时间一个人生活时,对什么东西都那么专心地看了,还不时地也开始自言自语,也开始在热闹的酒馆吃起饭,对那半新的斯巴鲁汽车抱有亲密的情感。就这样稍微落伍于时代。
从酒馆出来我回到宾馆。虽然走得很远,但找到回宾馆的路很方便。只要抬起头从街的哪个地方看也都可以看到海豚宾馆。就像东方的三博士把夜空中的星星当目标就能到达エルサレム或约旦西部那样,我也能简单地返回到海豚宾馆。
回到房间洗澡之后,一边吹干头发一边眺望窗外札幌广阔的大街。我想起了住在老的海豚宾馆的时候看到了窗外那一个小的公司。是什么公司完全不知道,总之那是一个公司。公司里的人们在忙碌地工作。我曾经在一全天之中透过窗户望着那样的景况。那个公司变成什么样了?有一位漂亮的女孩。那女孩变成什么样了?那原本是做什么的公司呢?
因无事可做,我在房中无目的地转来转去。之后坐在椅子上看电视。都是些粗暴的节目。让人觉得是在让看各种做作的呕吐方式。因为做作的表演,也没有特别的弄脏。但若专注地看就像是看到原本呕吐那样。我关掉电视穿上衣服去在二十六层开着的酒吧。坐在柜台那里喝上了加有苏打和柠檬汁伏特加。酒吧的墙壁全部是玻璃墙,从那里也可以看到札幌的夜景。在这里的什么东西让我想起スター?ウォーズ的宇宙都市。若不考虑那些,这里倒是感觉良好很安静的酒吧。酒的制作方法也很正统。玻璃杯也很上等。玻璃杯与玻璃杯相碰触也发出悦耳的声音。客人除我之外只有三人。有两个中年男的在最里边的桌位喝着威士忌悄悄地轻声说话。具体在做什么并不明白,但看上去像是在谈很重要的事。也许是在研究ダースヴェーダー的暗杀计划。 |
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