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42(2)
いちばん遠くの、淡い暗がりの中にある椅子の上で何かが動いたように見えた。僕は目をこらしてみた。その何かはすっと立ちあがり、こつこつというあの靴音を響かせてこちらにやってきた。キキだった。彼女はゆっくりと闇の中から現れ、光の中を横切り、食卓の椅子に座った。彼女は前と同じ格好をしていた。ブルーのワンピースに白いショルダー?バッグ。
キキはそこに座って、じっと僕を見ていた。彼女の表情はとても穏やかだった。彼女は光の領域でも影の領域でもない、ちょうどその中間のあたりに位置していた。僕は立ち上がってそこまで行こうかと思ったが、なんとなく気後れがしてやめた。それにこめかみにはまだ微かな痛みが残っていた。
「白骨は何処に行ったんだろう?」と僕は言った。
「さあ」とキキは微笑みながら言った。「消えたんでしょう」
「君が消したの?」
「いいえ、ただ消えちゃったのよ。あなたが消したんじゃないかしら?」
僕の隣に置いた電話機にふと目をやった。そして指先で軽くこめかみを押さえた。
「あれはいったい何を意味してたんだろう?六体の白骨」
「あなた自身よ」とキキは言った。「ここはあなたの部屋なんだもの、ここにあるのはみんなあなた自身なのよ。何もかも」
「僕の部屋」と僕は言った。「じゃあ、いるかホテルは?あそこはどうなんだい?」
「あそこもあなたの部屋よ、もちろん。あそこには羊男がいる。そしてここには私がいる」
光の柱は揺らがない。硬く、均質だ。その中の空気が微かに揺れているだけだった。僕はその揺れを見るともなく見ていた。
「いろんなところに僕の部屋がある」と僕は言った。「ねえ、僕はずっと夢を見てたんだ。いるかホテルの夢だよ。そこでは誰かが僕の為に泣いていた。毎日のようにその同じ夢を見てたんだ。いるかホテルがひどく細長い形をしていて、そこで誰かが僕の為に泣いていたんだ。僕はそれが君だと思っていた。それで、どうしても君に会わなくてはならないような気がしたんだ」
「誰もがあなたの為に泣いているのよ」とキキが言った。とても静かな、神経を慰撫するような声だった。「だってそれはあなたの為の場所なんだもの。そこでは誰もがあなたのために泣くのよ」
在最远处的微暗中的椅子上有什么东西在动着。我集中目光望过去。那个东西马上站起来,咯噔咯噔地发出鞋声由远而近。是奇奇。她缓慢地从微暗中走出来,横穿光中,坐到餐桌旁边的椅子上。她和原来一样,蓝色的裙子配白色的手提包。
奇奇坐在那里死盯着我。她的表情很沉着。她没有在光照中也没有在黑影中,正好在中间位置。我想站起来走到那里,可有点儿害怕停了下来。为此太阳穴还有一点痛。
“那些白骨都去哪里了?”我说。
“那个,”奇奇微笑着说。“应该消失了吧。”
“是你弄消失了吗?”
“不,已经自己消失了。你不认为消失了?”
我突然把目光投向了放在旁边的电话机。接着用指尖摁了一下太阳穴。
“那些到底是什么意思呢?那六个白骨。”
“你自身的问题。”奇奇说。“这里是你自己的房间,这里的东西都是你自身。没有别的。”
“我的房间?”我说。“这么,是海豚宾馆吗?那里怎么样呢?”
“那里也是你的房间,当然了。那里有羊男,而且那里也有我。”
光柱一动不动,坚挺,均质的。只是其中的空气微微漂动着。我注意了一下那空气的漂动。
“各地都有我的房间。”我说。“那个,我一直在做梦。海豚宾馆的梦。在那里有谁在为我哭着。每天都要做那相同的梦。海豚宾馆变成很细长的形状,有谁在那里在为我哭着。我想那应该是你。为此,总是想要见到你。”
“谁在为你而哭着呢?”奇奇说。非常安静的、安抚神经的声音。“假如那里是为了你的场所的话。在那里有谁在为你哭吧。” |
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