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「ねえ、ユミヨシさん」と僕はかすれた声で言った。
「なあに?」
「君は本当にそこにいるの?」
「もちろん」と彼女は言った。
「何処にも消えてないんだね?」
「消えてない。そんなに簡単に人は消えないのょ」
「夢を見てた」と僕は言った。
「知ってるわ。じっとあなたのことを見てたの。あなたが眠って夢を見て私 の名前を呼んでるのを見てたの。真っ暗な中で。ねえ、何かを真剣に見ようとすれば、真っ暗な中でもちゃんと見えるものなのね」
僕は時計を見た。四時少し前だった。夜明け前の小さな時間。思いが深まり屈曲する時間。僕の体は冷えて、まだ固くこわばっていた。あれは本当に夢だったんだろうか?あの闇の中で羊男は消え、そしてユミヨシさんも消えた。僕はその時の行き場のない絶望的な孤独感をはっきりと思い出すことができた。ユミヨシさんの手の感触を思い出すこともできた。それはまだ僕の中にしっかりと残っていた。それは現実以上にリアルだった。現実はまだ十分なリアリティーを取り戻してはいなかった。
「ねえ、ユミヨシさん」と僕は言った。
「なあに?」
「どうして服を着てるの?」
「服を着てあなたを見ていたかったの」と彼女は言った。「なんとなく」
「もう一度脱いでくれないかな?」と僕は訊いた。僕は確かめたかったのだ。彼女がちゃんここにいるということを。そしてこれがこちらの世界なんだということを。
「もちろん」と彼女は言った。彼女は時計を外してテーブルの上に置いた。靴を脱いで床に揃えた。ブラウスのボタンをひとつずつ外し、ストッキングを脱ぎ、スカートを脱ぎ、それからきちんと畳んだ。眼鏡をとって、いつものようにかたんという音を立ててテーブルに置いた。そして裸足で音もなく床を横切り、毛布をそっと持ち上げて僕のとなりに入ってきた。僕は彼女をしっかりと抱き寄せた。彼女の体は温かく、滑らかだった。そしてきちんと現実を持っていた。
「消えてない」と僕は言った。
“唉,ユミヨシ。”我用嘶哑的声音说。
“怎么啦?”
“你真的在那里吗?”
“当然啦。”她说。
“没有消失到什么地方吗?”
“没有消失。人不会那么简单地消失。”
“做梦了。”我说。
“我知道呀。我一直在看着你。发现你在睡觉做梦还叫我的名字。在一片漆黑之中,那个,若真要看见什么的话,在漆黑当中会有什么可见的东西。”
我看了一下钟表。马上就到四点钟。离天亮还有一小段时间。是思想深刻变化的时间。我身体冰凉,而且还僵硬之中。那真的是在做梦吗?在那黑暗之中羊男消失了,而且ユミヨシ也消失了。我能清醒地回想起无可去处的绝望的孤独感。也回想起ユミヨシ手的感触。而且还牢固地保留在我的体中。那是比现实还要真实的现实。现实还不能收回足够的现实感。
“那个,ユミヨシ。”我说。
“怎么啦?”
“你怎么穿着衣服呢?”
“想穿着衣服看你呀。”她说。“这也没有什么呀。”
“不能再脱一次吗?”我问道。就是想再确认一下,她是不是真的在这里。而且还确认这里是不是这一个侧面的世界。
“当然可以。”她说。她摘掉手表并放到桌子上。脱掉鞋放到地板上。一个一个解开衬衣的扣子,脱下长筒袜,脱下裙子,把它们整齐地叠好。摘下眼镜,和以前一样咔嗒发出声音放到桌子上。她光着脚无声地穿过地板,轻轻拿起毛毯钻到我的旁边。我把她紧紧抱在怀里。她的身体温暖、光滑。这真是现实的重现。
“没有消失。”我说。 |
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