厳しい寒さの中を、二千里の果てから、別れて二十年にもなる故郷へ、わたしは帰った。
もう真冬の候であった。 ① 、故郷へ近づくにつれて、空模様は怪しくなり、冷たい風がヒューヒュー音を立てて、船の中まで吹き込んできた。苫のすき間からそどをうかがうと、鉛色の空の下、わびしい樹々が、いささかの活気もなく、あちこちに横たわっていた。覚えず寂寥の感がこみ上げた。
ああ、これが二十年来、片時も忘れることのなかった故郷であろうか。
私の覚えている故郷は、まるでこんなふうではなかった。わたしの故郷は、もっとずっとよかった。その美しさを思い浮かべ、その長所を言葉に表そうとすると、然し,その姿はかき消え去れ、言葉は失われてしまう。やはりこんなふうだったかもしれないという気がしてくる。
② 、私は、こう自分に言い聞かせた。もともと故郷はこんなふうなのだ——進歩もない代わりに、私が感じるような寂寥もありはしない。 ③ 、今度の帰郷は、決して楽しいものではないのだから。
今度は故郷に別れを告げにきたのである。私たちが長いこと一族で住んでいた古い家は、今はもう他人の持ち物になってしまった。明渡しの期限は、今年いっぱいである。どうしても旧暦の正月の前に、住み慣れた古い家に別れ、馴染み深い故郷を後にして、わたしが今暮らしを立てている異郷の地へ引っ越さねばならない。
(1) ①~③の中に、次のどれをいれたらよいでしょうか。適当と思うものを選んで、その記号をかきなさい。
ア、しかし イ、ところが ウ、そこで
エ、そのうえ オ、つまり か、なぜなら
(2)「わたし」はそこに着いて、どんな気持ちを持ったでしょうか。文中の(二字熟語)で答えなさい。
(3)_____線部の一文は、わたしのどんな気持ちを表していますか、次の中から主も適当なものを選び、記号で答えなさい。
ア、あまりにも変化した故郷の姿を見て、懐かしさで胸がいっぱいになった。
イ、あまりにも侘しい姿にかわっていた故郷を見て、故郷への愛着が失望へと変わった。
ウ、二十年ぶりで故郷の姿を見て、故郷への愛着の念がますます強まった。
エ、二十年ぶりで故郷に帰って懐かしい人達に一刻も早く会いたい気持ちにかられた。
答案:
(1)1、エ 2、ウ 3、カ
(2)寂寥
(3)イ |