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『みかんの木』
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( \( t+ }* Z; ~2 L" | s1 X ごみごみとした商店街の一角に、小さな洋服屋さんがありました。洋服屋さんといっても、子供用の服しかない本当に小さなお店です。8 ]& f- n5 w8 f" `0 `
/ D1 M' p" s2 x そのお店では、年老いたおばあさんが一人で店番をしています。でも、なんだか元気がありません。なぜなら、もうお昼をすぎたというのに、お客さんが一人も来ないからです。% {; y8 h5 k$ A+ v' ^# }
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それもそのはずです。この小さなお店では、もう何年も新しい洋服を仕入れていないのですから。流行おくれのデザインのスカートや、日に焼けてうす茶色に変色してしまった白いブラウスなどが、堂々と店先にならんでいるのです。
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おばあさんはそんな洋服たちに向かって、にっこりと笑いかけました。
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「安心おし。わたしは、おまえたちを見捨てたりはしないからね」
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1 T) U* \7 u& {7 } 茶色く焼けてしまったブラウスを、やさしくなでながら、おばあさんはそういいました。3 f( Y8 P! d* m+ B
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「おまえたちがいつか買われてゆく日まで、わたしがしっかりとめんどうを見てあげるからね…」 v/ G; Z9 `. K4 a- g* l1 s7 z
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+ _# H. P) G2 q おばあさんのお店の名前は『みかんの木』といいます。店先の植え込みに、小さなみかんの木が植えられているからでした。みかんの木は夏の初めになると、白いかわいらしい花をつけます。その花を見るのが、おばあさんの楽しみでもありました。
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5 b6 D" H4 }) | 今年も夏が始まろうとしていました。季節が移り変わるのを待っていたように、みかんの木は白い花を開きはじめました。その花の白さといったら、まるで夏の空にわきあがる入道雲のようです。おばあさんはうれしそうに、愛らしい白い花を、お店の中からながめていました。" I/ m; }, A1 G% X4 [7 r5 ^
7 {, o% R. ]) z# a( O「お母さん、わたし新しいお洋服がほしいよう」. V: n) i( R2 }% z: B
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お店の前で、女の子がお母さんにおねだりをはじめました。おばあさんは久しぶりのお客さんに、心がおどります。今日こそ洋服が売れるかもしれない。おばあさんは期待に胸がふくらみました。7 m( R; i9 c" G J
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「でも… ほら… このブラウス…」8 n# g7 O( j2 [% ~
# v9 |, a# G5 H+ r } しかし女のこのお母さんは、しかめっつらで店先のブラウスを見ています。日に焼けてしまって、茶色く変色してしまったブラウスを。
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: ^% I! R# X; w0 h* R3 N/ Z; q「よそのお店で買ってあげましょうね。さっ、行きましょう」+ t7 e/ |# g, z9 I+ p
& Q: ^) Y& O* O 女の子はうなずき、お母さんに手を引かれて商店街の人ごみに消えてゆきました。8 b% Z* H/ Q U9 |2 | P
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おばあさんはがっかりです。茶色くなってしまったブラウスでは、やっぱり買ってもらえません。だからといって、処分してしまうにはあまりにも愛着があります。おばあさんは悲しそうに肩をおとしました。
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そのときです。咲いたばかりのみかんの花が一輪、風に吹かれてちりました。そしてひらひらと空中を舞い、茶色く焼けたブラウスの肩口に、静かに落ちました。: c0 i/ e) E B# K) x' q
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「おやおや、どうしたことだろう。咲いたばかりの花がちってしまうなんて…」
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おばあさんは心配そうにみかんの木を見て,首をかしげました。おばあさんの心配をよそに、みかんの木はとても元気そうに見えます。ところが、せっかく咲いた白い花は、次々とちってゆきます。そしてどの花も、申し合わせたようにブラウスの肩口に静かに落ちました。( A4 _7 A9 c; d0 ~
0 _: i6 U" Q X# X. ^6 _; m8 J$ u おばあさんはあわてて店の中に入り、じょうろにくんだ水と、園芸用の肥料を持ってきました。みかんの木が枯れてしまう…おばあさんはそう思ったのです。
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水をやり、肥料をまいて、おばあさんは安心しました。どうみてもみかんの木は元気いっぱいに見えるのです。もう花もちってはいないようです。おばあさんはホッとして、店の中に入りました。
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" z; ~: _; t- ~% Z' j「お母さん、やっぱりわたしここのがいいよう」, I: B% x7 ]: f/ J* [
7 r9 w8 F! G! i4 N4 \ さっきの女の子が、今度はお母さんの手を引いてもどってきました。 q2 q3 s( e5 g' K/ _
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「だめよ。そこのは日に焼けて茶色くなっちゃってるから。あら?あらら?」4 d& e8 P) _4 w9 O
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お母さんはブラウスを見て、おかしな声をあげました。9 ?0 A, e, c3 z
, H5 ^# K8 c5 ]& v「新しいのを出したのかしら?とてもきれいな白いブラウスね。それになんだか甘い香りまでするわ…」
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6 _# i( j/ @* u, h( g# m お母さんのその言葉に、おばあさんはおどろきました。新しい物を出した覚えはありません。それどころか、おばあさんのお店に在庫などないのです。6 v0 s, y. l4 g; g2 [# |
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「すみません、このブラウスいただきたいのですが」
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8 k5 J- k/ u# a7 c お母さんが手にしているブラウスを見て、おばあさんはまたまたびっくりしました。そして自分の目をうたがいました。茶色く変色していたはずのブラウスが、真白になっていたのです。それはまるでみかんの花のように。
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女の子はそのブラウスがよほど気に入ったようで、とてもうれしそうです。そんな女の子を見て、おばあさんはやさしくいいました。) U z b+ a8 B% k4 y
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「大切に着てあげてくださいね」! L# ^: V5 ^! z8 N8 l2 w
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