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发表于 2005-10-21 09:50:18
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しかし君の家庭が君に待ち設けていたものは、そんな余裕の有る生活ではなかった。年のいった父上と、どっちかと言えば漁夫としての健康は持ち合わせていない兄上とが、普通の漁夫と少しも変わりのない服装で網をすきながら君の帰りを迎えた時、大きい漁場の持ち主という風(ふう)が家の中から根こそぎ無くなっているのをまのあたりに見やった時、君はそれまでの考えののんき過ぎたのに気がついたに違いない。充分の思慮もせずにこんな生活の渦巻(うずまき)の中に我れから飛び込んだのを、君の芸術的欲求はどこかで悔やんでいた。その晩、磯臭(いそくさ)い空気のこもった部屋(へや)の中で、枕(まくら)につきながら、陥穽(おとしあな)にかかった獣のようないらだたしさを感じて、まぶたを合わす事ができなかったと君は私に告白した。そうだったろう。その晩一晩だけの君の心持ちをくわしく考えただけで、私は一つの力強い小品を作り上げる事ができると思う。
然而,你的家庭等待你的并不是那种悠闲的生活。上了年纪的父亲以及作为渔夫来说身体欠佳的兄弟,身穿与普通渔夫没有差别的衣服织着渔网迎接你归去的时候;作为大渔场主的家道已经从家中彻底荡尽的惨状展现在你面前的时候;你一定发现你以前的想法过于悠裕,容不得你细想便投身到这种生活的漩涡中去了。你的艺术追求在你的某处懊恼不已。你告诉我,那天晚上,你在怪石嶙峋下的房间里头枕枕头,感到自己就像一头掉进陷阱急得团团转的野兽,翻来覆去不能合眼。我想你没有骗我。只要仔细琢磨你那个通宵的心情,也许就足够我写出一篇感人肺腑的短文了。
しかし親思いで素直な心を持って生まれた君は、君を迎え入れようとする生活からのがれ出る事をしなかったのだ。詰(つ)め襟(えり)のホックをかけずに着慣れた学校服を脱ぎ捨てて、君は厚衣(あつし)を羽織る身になった。明鯛(すけそう)から鱈(たら)、鱈から鰊(にしん)、鰊から烏伲àい─趣いΔ瑜Δ恕⑺募窘~える事のない忙(いそが)しい漁撈(ぎょろう)の仕事にたずさわりながら、君は一年じゅうかの北海の荒波や激しい気候と戦って、さびしい漁夫の生活に没頭しなければならなかった。しかも港内に築かれた防波堤が、技師の飛んでもない計算違いから、波を防ぐ代わりに、砂をどんどん港内に流し入れるはめになってから、船がかりのよかった海岸は見る見る浅瀬に変わって、出漁には都合のいい目ぬきの位置にあった君の漁場はすたれ物同様になってしまい、やむなく高い駄賃(だちん)を出して他人の漁場を使わなければならなくなったのと、北海道第一と言われた鰊の群来(くき)が年々減って行くために、さらぬだに生活の圧迫を感じて来ていた君の家は、親子が気心をそろえ力を合わして、命がけに働いても年々貧窮に追い迫られ勝ちになって行った。
然而,生来体贴父母,心地朴实的你没有逃避生活对你的选择。你脱掉穿惯了的不扣立领风纪扣的校服,一跃变成了身披厚袄的渔夫。你不得不一边从事从明鲷到鳕鱼,从鳕鱼到鲱鱼,从鲱鱼到墨鱼,四季不断的繁忙捕鱼作业,一边与北海一年中的汹涌波涛和复杂多变的气候搏斗,埋头在单调乏味的渔夫生活中。而且,修建在港内的防波堤由于工程师的错误设计,不但不能阻挡波浪,相反却让砂砾滚滚流进港内。在这种窘况下,以船为生的海岸眼睁睁变成了浅滩,处于出海便利,占据显要位置的你的渔场变成了一块废场,你家不得不以高昂的价格租用他人的渔场。此外,由于号称北海道第一的鲱鱼群一年少似一年,加上你家越来越感到生活的压迫,尽管父子同心协力,殊死劳作,但还是不能摆脱贫困的纠缠。
親身(しんみ)な、やさしい、そして男らしい心に生まれた君は、黙ってこのありさまを見て過ごす事はできなくなった。君は君に近いものの生活のために、正しい汗を額に流すのを悔いたり恥じたりしてはいられなくなった。そして君はまっしぐらに労働生活のまっただ中に仱瓿訾筏俊:瞍炔à悉趣Γ─攘Δ铯钉然膜炷肖椁趣谓护铯辘暇谓罟扦榷刃丐趣蜮煠韦瑜Δ隋懁ㄉ悉菠俊>悉工工却竽兢韦瑜Δ摔郡蓼筏胜盲俊
「岩内にも漁夫(りょうし)は多いども腕力(うでぢから)にかけておらにかなうものは一人だっていねえ」
君はあたりまえの事を言って聞かせるようにこう言った。私の前にすわった君の姿は私にそれを信ぜしめる。
生来具有孝顺善良之心和男子汉气概的你不能默默望着眼前的惨景度日。为了家庭的生活,你不后悔,不耻于额头淌下正直的汗水。你勇猛地投身到劳动生活的激流险滩中。在与寒暑波涛的战斗中,在繁重体力劳动和与粗犷男子汉的交往中,你炼出了一副钢铁般的筋骨和意志。你犹如一颗大树迅速地强壮起来。
“在岩内虽然有很多渔夫,论体魄没有谁比得上我。”
你斩钉截铁地对我说道。望着坐在眼前的你,我相信这是实话。
パンのために生活のどん底まで沈み切った十年の月日――それは短いものではない。たいていの人はおそらくその年月の間にそういう生活からはね返る力を失ってしまうだろう。世の中を見渡すと、何百万、何千万の人々が、こんな生活にその天授の特異な力を踏みしだかれて、むなしく墳墓の草となってしまったろう。それは全く悲しい事だ。そして不条理な事だ。しかしだれがこの不条理な世相に非難の石をなげうつ事ができるだろう。これは悲しくも私たちの一人一人が肩の上に背負わなければならない不条理だ。特異な力を埋め尽くしてまでも、当面の生活に没頭しなければならない人々に対して、私たちは尊敬に近い同情をすらささげねばならぬ悲しい人生の事実だ。あるがままの実相だ。パンのために精力のあらん限りを用い尽くさねばならぬ十年――それは短いものではない。それにもかかわらず、君は性格の中に植え込まれた憧憬(どうけい)を一刻も捨てなかったのだ。捨てる事ができなかったのだ。
为了生存,十年来你沉到了生活的最底层——十年的岁月不是短暂的。对大多数人来说,在这样长的时间里恐怕早已丧失了挽救苦难生活的力量。放眼社会,大概有几百万、几千万人被这样的生活压迫得失去了那种大自然赋予的超常力量,枉自变成了坟墓上的一棵野草。那是非常可悲,非常不合理的。然而,有谁能向这个不合理的社会掷去一块非难的石子呢?这是既可悲却又强加在我们每个人肩上的不合理。对那些既拥有超常力量又能埋头于眼前生活的人们,这是我们必须给予近乎尊敬般同情的可悲的人生事实,是不折不扣的社会实况。为了生存,十年来你不得不发挥你的全部精力——十年不是短暂的。尽管如此,你每时每刻都没有放弃过扎根在你性格中的憧憬。你不能放弃。
雨のためとか、風のためとか、一日も安閑としてはいられない漁夫の生活にも、なす事なく日を過ごさねばならぬ幾日かが、一年の間にはたまに来る。そういう時に、君は一冊のスケッチ帳(小学校用の粗雑な画学紙を不器用に網糸でつづったそれ)と一本の鉛筆とを、魚の鱗(うろこ)や肉片がこびりついたまま、ごわごわにかわいた仕事着のふところにねじ込んで、ぶらりと朝から家を出るのだ。
在风里来雨里去,每天忙忙碌碌的渔夫生活中,一年里偶尔也有那么几天清闲的日子。这时候,你便带上一册速写本(将小学生用的粗糙学画纸用线简陋装订成的本子)和一支铅笔,怀揣在沾满鱼鳞、肉沫的硬梆梆的劳动服里,一大早就心惊胆颤地离开了家门。
「会う人はおら事気違いだというんです。けんどおら山をじっとこう見ていると、何もかも忘れてしまうです。だれだったか何かの雑誌で『愛は奪う』というものを書いて、人間が物を愛するのはその物を強奪(ふんだく)るだと言っていたようだが、おら山を見ていると、そんな気は起こしたくも起こらないね。山がしっくりおら事引きずり込んでしまって、おらただあきれて見ているだけです。その心持ちがかいてみたくって、あんな下手(へた)なものをやってみるが、からだめです。あんな山の心持ちをかいた絵があらば、見るだけでも見たいもんだが、ありませんね。天気のいい気持ちのいい日にうんと力こぶを入れてやってみたらと思うけんど、暮らしも忙(せわ)しいし、やってもおらにはやっぱり[#「やっぱり」に傍点]手に余るだろう。色もつけてみたいが、絵の具は国に引っ込む時、絵の好きな友だちにくれてしまったから、おらのような絵にはまた買うのも惜しいし。海を見れば海でいいが、山を見れば山でいい。もったいないくらいそこいらにすばらしいいいものがあるんだが、力が足んねえです」
と言ったりする君の言葉も様子も私には忘れる事のできないものになった。その時はあぐらにした両脛(りょうすね)を手でつぶれそうに堅く握って、胸に余る興奮を静かな太い声でおとなしく言い現わそうとしていた。
“每次碰到人都把我当成一个疯子,但是,当我目不转睛看山的时候就什么都忘了。曾经有人在什么杂志上发表过《夺爱》这篇小说,好像说爱物就是为了占有。我看山的时候完全没有这种想法。山石与我融合在一起。我只是对山怀着一种肃然起敬的心情。我想画出那种心情,也做过那种蠢事,可是白费工夫。要是有画出那种心情的画,我真想看一看,可是没有。我曾想在天气好心情也好的日子里尽力试试,但是生活太忙,即使画我也没有那个能力。我也曾想给它们涂上颜色瞧瞧,因为从札幌回来的时候把画具全都送给喜爱画画的朋友了,所以,像我这样的画再买又可惜。看海海好,看山山好,令人心醉的美景多得很,可惜我力不从心。”
你这样讲述着。我不能忘记你的话语和你讲话的神态。那时,你似乎要掐碎似地,死死地握着席地而坐的双腿,平静而又宏亮的声音娓娓述说着心中的兴奋。
私どもが一時過ぎまで語り合って寝床にはいって後も、吹きまく吹雪(ふぶき)は露ほども力をゆるめなかった。君は君で、私は私で、妙に寝つかれない一夜だった。踏まれても踏まれても、自然が与えた美妙な優しい心を失わない、失い得ない君の事を思った。仁王(におう)のようなたくましい君の肉体に、少女のように敏感な魂を見いだすのは、この上なく美しい事に私には思えた。君一人が人生の生活というものを明るくしているようにさえ思えた。そして私はだんだん私の仕事の事を考えた。どんなにもがいてみてもまだまだほんとうに自分の所有を見いだす事ができないで、ややもするとこじれた反抗や敵愾心(てきがいしん)から一時的な満足を求めたり、生活をゆがんで見る事に興味を得ようとしたりする心の貧しさ――それが私を無念がらせた。そしてその夜は、君のいかにも自然な大きな生長と、その生長に対して君が持つ無意識な謙譲と執着とが私の心に強い感激を起こさせた。
我们交谈了一个多小时,上床休息以后,暴风雪还在猛烈地刮着。你是你,我是我,这一晚都意外地没有入眠。我在想,你尽管遭受了这样和那样的不幸,但没有失去也不可能失去大自然赋予的那颗美丽和善良的心。在你金刚一般魁伟的躯体里,我发现了一颗宛若少女的敏感灵魂,不由得使我感到至高无上的美,甚至使我感到你自然地照亮着人生的生活。后来,我渐渐想到了自己的工作。虽然在痛苦地抗扎,但远远没有发现自己真正拥有的东西,往往只是从肤浅的扭曲的反抗和一吐为快的泄愤中寻求暂时的满足;把兴趣放在扭曲的生活中——这种内心的贫乏使我懊丧。在那天夜里,你完全顺乎自然迅速成长以及成长过程中所具备的无意识的谦逊和执著使我受到了强烈的震撼。
次の日の朝、こうしてはいられないと言って、君はあらしの中に帰りじたくをした。農場の男たちすらもう少し空模様を見てからにしろとしいて止めるのも聞かず、君は素足にかちんかちん[#「かちんかちん」に傍点]に凍った兵隊長靴(ながぐつ)をはいて、ね馓祝àい趣Γ─颏筏盲辏郏!袱筏盲辍工税悖葑扭长螭峭灵gに立った。北国の冬の日暮らしにはことさら客がなつかしまれるものだ。なごりを心から惜しんでだろう、農場の人たちも親身(しんみ)にかれこれと君をいたわった。すっかり[#「すっかり」に傍点]頭巾(ずきん)をかぶって、十二分に身じたくをしてから出かけたらいいだろうとみんなが寄って勧めたけれども、君は素朴(そぼく)なはばかりから帽子もかぶらずに、重々しい口調で別れの挨拶(あいさつ)をすますと、ガラス戸を引きあけて戸外に出た。
次日早晨,你说不能这样呆下去了,就开始准备重返暴风雪中,甚至农场的人们也不能劝动你天好之后再走。你光脚伸进冻得硬绑绑的旧军用长统靴里,仔细穿好发黑的外套,站在没有“榻榻咪”的房间里。也许是北国的冬天特别牵动人的情怀,农场的人们恋恋不舍深情地安慰着你。大家围在旁边劝你裹好头巾,好好打扮结实之后出发;但是,你怀着质朴的礼仪,连风帽也没有戴,郑重地说完道别的话,拉开玻璃门出到了户外。
私はガラス窓をこずいて外面に降り積んだ雪を落としながら、吹きたまったまっ白な雪の中をこいで行く君を見送った。君のぷ摔熄D―やはり頭巾をかぶらないままで、頭をむき出しにして雪になぶらせた――君のぷ摔稀驻さ孛妞搜蓼锹瘠蓼盲啤ⅳⅳ毪い蠞猡ⅳⅳ毪い媳·⒖c(しま)になって横降りに降りしきる雪の中を、ただ一人だんだん遠ざかって、とうとうかすんで見えなくなってしまった。
そして君に取り残された事務所は、君の来る前のような単調なさびしさと降りつむ雪とに閉じこめられてしまった。
私がそこを発(た)って東京に帰ったのは、それから三四日後の事だった。
我推开玻璃窗一边扒掉窗外的积雪一边目送你头顶漫天飞雪,在雪地里犁开一条雪道。你的黑色身影——依然没有裹上头巾,头露在外面迎着飞雪——你的黑色的身影被银白的地面埋至腰深,时而浓,时而淡,变成一座孤岛,在横飞的雪中独自渐渐远去,最终模模糊糊消失了。你走后,事务所又恢复到你来之前的样子,回到单调和积雪封闭的寂寞中去了。
你走后又过了三、四天,我也离开农场回到了东京。 |
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