≪宿業師山房待丁大不至≫
夕陽度西嶺 夕陽、西嶺を渡り
羣壑倏已暝 羣壑(ぐんがく) 倏(しゅく)として已(すで)
に暝(く)る
松月生夜涼 松月 夜涼を生じ
風泉満清聴 風泉 清聴を満たす
樵人帰欲盡 樵人 帰りて尽きんと欲し
煙鳥棲初定 煙鳥 棲んで初めて定まる
之子期宿来 之子、宿を期して来たり
孤琴候蘿徑 孤琴 蘿徑(らけい)に候(ま)つ
夕日が西の山へ沈み
あっというまにここ谷間は日が暮れてしまった。
松の木にかかった月が夜の涼しさをかもし出し
泉が風にさわいで清い響きが耳に届く。
木こりはもう家に帰ったし
山もやに住む鳥たちもねぐらに戻った。
君がここへきて泊まるというものだから
私はかずらの小道で一人琴を弾いて待っているのだ。
下馬飲君酒 馬より下りて君に酒を飲ましめ
問君何所之 君に問う 何(いず)くにか之(ゆ)く所ぞと
君言不得意 君は言う 意を得ず
帰臥南山陲 南山の陲(ほとり)に帰臥(きが)せんと
但去莫復問 但だ去れ 復た問うこと莫(な)けん
白雲無盡時 白雲は尽くる時無からん
馬から下りて、君に酒を勧めよう(別れの盃)
「これからどうするのだ。」
「世の中思い通りにならないので、南山へ帰ってどこかその片隅にでも住むさ。」
「そうか。それじゃあ、行きたまえ。もう何も聞かないよ。
白雲が尽きることも無く沸き起こっているんだろうね。
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