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[好书连载] [高橋弥七郎] 灼眼のシャナ番外編「リシャッフル」

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发表于 2006-8-4 23:01:23 | 显示全部楼层 |阅读模式
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灼眼のシャナ 番外編「リシャッフル」
高橋弥七郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)〝紅世《ぐぜ》の| 徒 《ともがら》?

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いつの間にか正座している[#「いつの間にか正座している」に傍点]
-------------------------------------------------------
<img height=600 src="img\51.jpg">

 澱《よど》んだ闇の中に、鮮烈な紅蓮《ぐ れん》が点っている。
 ときおり揺れて、同色の火の粉を舞い咲かせるそれは、流れるようなストレートの長髪。
『炎髪《えんぱつ》』と称される、フレイムヘイズ『炎髪《えんぱつ》灼眼《しゃくがん》の討《う》ち手《て》』の証である。
 その名の由来《ゆ らい》たるもう一つの証、同じく紅蓮《ぐ れん》に煌《きらめ》く『灼眼《しゃくがん》』は正座する手元、玩具《おもちゃ》の山を崩し、道具を取り、一瞬だけ吟味して、後ろに放り捨てる、という流れ作業に向けられている。
 と、少し離れた暗がりから、
「ふいぃ、暑ぅ......シャナー?」
 一人の少年が声をかけた。
 坂井《さかい 》悠二《ゆうじ 》。世の裏に跋扈《ばっこ 》する〝紅世《ぐぜ》の| 徒 《ともがら》?に存在を喰われた人間、その残り滓《かす》から作られた代替物〝トーチ?にして、身の内に宝具《ほうぐ 》を宿す〝ミステス?である。
 もっとも今、汗染《あせじ 》みたシャツの襟《えり》を掴《つか》みバタバタと換気する姿は、どこにでもいる、ごく普通の少年にしか見えない。
 そんな彼に、
「なに?」
 と短く答える『炎髪《えんぱつ》灼眼《しゃくがん》の討ち手』シャナは、涼しげ、とまではいかないものの、端然と座って作業を続けている。今日は半そでブラウスにミニスカートという格好なので、膝《ひざ》を崩さない。
 少女の炎髪《えんぱつ》灼眼《しゃくがん》に照らされる周囲は全て、玩具《おもちゃ》の山。
 その中、動かない空気の蒸し暑さに、悠二は額の汗を拭う。
「部屋を涼しくする自在法《じ ざいほう》とか、ないの?」
「私はクーラーじゃない」
 シャナは再び、素っ気無く答えた。実は彼女も面《おもて》に表さないだけで、同様に暑さは感じてイライラしているのである。
「できないのかあ」
 という残念そうな少年の感想に、少しムッとなる。
「私は、そういう細かい自在法とか嫌いなの」
 好き嫌いの問題かなあ、と悠二は思うが、口論する気力もないので、そのまま黙った。
 彼らは今、闇の中に広がり積み重なる、玩具《おもちゃ》の山の中にいた。ここは、御崎《み さき》市の中心に建つ廃ビル?旧|依田《よだ》デパートの閉め切られた一階層で、かつて二人と(シャナ9:悠二1くらいの比率で)戦った〝紅世《ぐぜ》の王?がアジトとして使っていた場所である。
 その〝王?――〝狩人《かりゅうど》?フリアグネは世に知られた宝具の収集家で、持てる性癖の一端として人形や玩具《おもちゃ》を多数、というより無数、アジトに溜め込んでいた。
 二人は、十日ほど前に起きた騒動に際して、この場所があることをフレイムヘイズ『弔詞《ちょうし》の詠《よ》み手《て》』マージョリー?ドーから聞かされた。しばらく騒がしかった身辺も落ち着いた今ようやく、貴重な夏休みの一日を割いて、つかえる宝具がないか捜すことにしたのだった。
 とはいえ、元デパートの一階層をほとんど埋め尽くすほどの量である。ここに踏み込んだ悠二がまず思い浮かべたのは、『砂漠で針を探す』という例えだった。
 そうでなくとも、宝具というのはどんな形をしているのか分からない。この世にあるための根源的な力たる〝存在の力?を込めることで発動するかどうか、一つ一つ手にとって確かめていくしかなかった。おまけに、広いとはいえ真夏の、窓も塞《ふさ》がれた密閉空間での作業である。雰囲気《ふんい き 》も含めた場の暑苦しさに、ぼやきの一つも出ようというものだった。
(でもまあ、〝| 徒 《ともがら》?と戦うために、宝具は多いにこしたことはないし……)
 切迫した必要性から悠二は思い、また汗を拭う。
「早く佐藤たち、帰ってこないかなあ」
 二人のクラスメートにして親しい友人、そしてマージョリーの子分という立場から〝紅世《ぐぜ》?の事情を知る佐藤|啓作《けいさく》と田中|栄太《えいた 》は、ここで落ち合ってすぐ出て行った。廃ビルとなった依田デパートで唯一《ゆいいつ》営業している地下の食品売り場まで、アイスクリームを買いに降りたのである。
「どうせ俺たちには宝具の見分けはつかないからなー」
「そーそー、姐《あね》さんが来るまで、俺たちにはやることないんだし」
 と彼らは言ったが、実は地下街の冷気に当たるのが目的であることは、そのわざとらしい口調で丸分かりだった。ちなみに、彼らの親分たるマージョリーは、寝坊したため遅れてくる、とのことである。
 超絶|甘党《あまとう》のシャナは、そんな二人が持ってくるはずの大量のアイスクリーム(彼女は『持てるだけ』との注文とともに万札を渡している)のことを思い、
「うん」
 僅かに手を止めたが、またすぐ作業を再開する。怪獣のビニール人形を取って後ろに放り、サイコロ型のクッションをとって後ろに放り、手作り風な緑色のカップを取って後ろに放る。
 悠二も少女に倣《なら》い、再び自分の前へと目線を戻す。
 暗がりに積みあがる、玩具《おもちゃ》、玩具、玩具......床に胡座をかいて座り込んでいるため、天井の他は自分たちを取り巻く玩具の外輪山しか見えない。
 この暗がりの中、光源たる少女と二人っきり......ではない。
「それにしても多いなあ。武器とか、一目で分かる物ならいいんだけど」
「戦闘用の宝具は、〝狩人?自身が所持していたはずだ」
 シャナの胸元からもう一人、遠雷の轟《とどろ》くような重く低い声が響いた。フレイムヘイズと契約し異能の力を与える〝紅世《ぐぜ》の王?――〝天壌《てんじょう》の劫火《ごうか 》?アラストールのものである。
「貴様も見たであろう、攻防いずれも強力な宝具の数々を」
 悠二は、数ヶ月前に繰り広げられたフリアグネとの戦いを、用いられた宝具を思い出す。
 火除《ひよ》けの指輪、無数に分裂して破壊の怒涛《ど とう》となるカード、武器殺しの鎖と化すコイン、下僕たる怪物〝燐子《りんね 》?を爆弾にするハンドベル、そしてフレイムヘイズ必殺の銃……他にも剣の形にしたものを、数多くの〝燐子《りんね 》?が持っていた。
「武具に類する物は、彼奴《き ゃ つ》と共に吹き飛ばした可能性が高い」
 シャナが、師にして友、父にして兄たる魔神の声に頷き、悠二へと灼眼《しゃくがん》を向ける。
「うん。でも『玻璃《はり》壇《だん》』はここに遺されたままだったから、悠二も見た、あのオルゴールのように、一見してそれと分からない物が、まだ残されてるかもしれない」
 闇中|煌《きらめ》く相貌《そうぼう》に見惚《みほ》れる悠二を、再びアラストールが声で叩く。
「これも鍛錬の一つと思え。手に取るだけではなく、〝存在の力?を周囲に拡散させるのだ。物によっては反応があろう」
 シャナの言った宝具『オルゴール』は、たしかにその名前のまま、平凡な仕掛け木箱の形をしていた。山と積まれた玩具《おもちゃ》の中に紛れている可能性は大いにある。
(でも......反応、ねえ)
 悠二はもう一度、自分の周りに気を払う。
 シャナと出会ってからの数ヶ月、彼女とアラストールから、朝は体術、夜は〝存在の力?の繰《く》りについての鍛錬を受けてきたが、まだその扱いにしたとはとても言えない。つい先日も、その未熟さから加減を見誤り、危うく彼女の親代わりたるフレイムヘイズを殺しかけた。
(どんな物に、との程度の力を注げばいいか、分からないんだけど)
 暗がりに聳《そび》える玩具《おもちゃ》の山は、なにかを秘めているようにも、いないようにも思える。
「力を入れすぎて、ドカン、と爆発するような宝具があったりして」
「うん、あるかも」
「......」
ドヨンと沈む少年には構わず、シャナはまた、玩具《おもちゃ》を拾っては放る作業を再開する。
(でも、これがシャナなんだなあ)
 悠二は溜息を吐いて、今できる作業に取り掛かる。
 と、
「......ん?」
 その真ん前、玩具《おもちゃ》の山の中から、黒い棒のようなものが突き出ている。
(なんだろう)
 手を延ばして引っ張ると、簡単に抜けた。
 卒業証書を入れる筒にも似たそれは空で、両端にレンズが嵌めてあった。
(望遠鏡かな?)
 悠二は乏しい知識から見当をつけるが、太さは均一。試しに片端から向こうを覗いてみても、象が歪むくらいで、拡大はされない。遊びのつもりで、覗きながら体の向きを変えてみる。レンズ越しに、ポイポイと玩具《おもちゃ》を見ては放り捨てているシャナが見えた。呑気《のんき 》に呼びかける、
「シャナー」
 とたん、視界が暗転した。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:02:07 | 显示全部楼层
 突如訪れた暗闇の中、
「な、なに?」「シャナ!?」
 シャナと悠二は驚いて声を上げ、黙った。
「......?」「......?」
 数秒、さっき上げた声の在り得ない奇妙さに、黙る。
「悠二」「シャナ」
 同時に声を出して、また黙った。
「......――」「......――」
 その奇妙さの意味を理解するまで、また数秒。
「悠二!」
 とシャナは悠二の声で怒り[#「シャナは悠二の声で怒り」に傍点]、
「わあっ!?」

 悠二はシャナの声で縮こまった[#「悠二はシャナの声で縮こまった」に傍点]。
「へ、変な声出さないで!」
「そっちこそ、僕の声で女喋りは止めてくれよ!」
「ヘニャヘニャした声出してるのは悠二の方でしょ!」
「だからその喋りは......」
 混乱から言い争うことの馬鹿らしさに気づいて、悠二は声を切った。
 シャナも口をつぐんだことで、暗闇だけが二人の世界を満たす。
 悠二はとりあえず、シャナがなにか対策を打つまで、迷惑をかけないようじっとしていることにとた。いつの間にか正座している[#「いつの間にか正座している」に傍点]足の下には、ふかふかのクッションが敷いてあった。
(まさか)
 思いつつ、膝の上に揃えた手を強く握り締める。ひどくか細い実感に、恐怖さえ覚えた。手の下は、長ズボンをはいていたはずなのに、なぜか膝が剥《む》き出しで、腰から下がやけにスースーした。僅かに腰を折ると、肩にさらりと、しなやかな髪のかかる感触がある。
(まさか、そんな)
 ガサガサと、シャナが気配を頼りに近づいて来ているらしいが、真っ暗でなにも見えない。
 と、その闇の中から、いきなり腕をつかまれた。
「っわ!?」
 さっきから自分が出していたシャナのような少女の声[#「シャナのような少女の声」に傍点]で叫んでいた。
 その掌の大きさと硬さに驚く間も僅か、強引に引き寄せられる。
「静かにして」
 さっきから聞こえていた、シャナらしい少年の声[#「シャナらしい少年の声」に傍点]が短く言った。
 悠二はシャナの握った場所から、僅かに〝存在の力?が流れ出すのを感じる。夜の鍛錬で行っている、力の受け渡しと同じ感触だった。
 それが今、紅蓮《ぐ れん》の灯火となって、二人の傍らに浮かび上がった。
 ようやく暗闇が追い払われ、再びの光が二人を照らし出す。
「......」「......」
 目の前に鏡がある。
 と、既に自分たちの置かれた状況を推測、理解しつつ、それでも二人はそう誤認した。
 悠二の前には、悠二がいて、
 シャナの前には、シャナがいて、
 しかし、互いに、そうではなかった。
 傍目には、全く当たり前の光景しかない。
 悠二の前にはシャナがいる、それだけである。
 シャナはなぜか瞳と髪を人間時の黒に戻してポカンと間抜けに口を開き、悠二は厳しく引き締まった表情で眉根を寄せている。やがて確かめ合うように、
「シャナ?」
 とシャナの顔で悠二が訊き、
「悠二?」
 と悠二の顔でシャナが答えた。
 状況を唯一、傍から眺めることのできるアラストールが、シャナの姿をした悠二の胸元から、苦しく重く訊く。
「なにをした、坂井悠二」
「えっ、や、やっぱり、僕の、せい......?」
 悠二は、シャナの顔でオロオロとみっともなく動揺の様をみせた。
 自分がそんな態度を取ることに我慢できなくなったシャナは、悠二の顔で強く訊き直す。
「いいから、なにをしたか話して!」
 自分に問い質《ただ》された悠二は、言い訳する風に上目遣いで答える。
「なにって......さっき黒い望遠鏡みたいな筒を拾って、それを覗いただけ、なんだけど」
「アラストール?」
 自分に向かって確とした表情で話しかける坂井悠二、という妙な光景への戸惑いと共に、アラストールは答えた。
「む......黒い、望遠鏡のような筒......『リシャッフル』か。この馬鹿者めが」
 自分の真上の表情がションボリとなるのにまた戸惑うが、中身は悠二であると強く念じ、ことさらに声を強くする。
「つまり、見てのとおり、|覗《のぞ》いた者と覗かれた者の意志|総体《そうたい》を交換する宝具《ほうぐ 》だ」
 宣告に衝撃を受ける二人を安心させるため、すぐに言葉を継ぐ。
「しかし、案ずることはない。再び|覗《のぞ》けば、元に戻るはずだ」
「なんだ、それなら話は簡《かん》た――」
 悠二はほっと胸を撫で下ろしかけて、
「――んぎゅっ!?」
 肩を思いきり引っ叩かれ、吹っ飛んだ。
「どこ触るつも、あっ!?」
 言いかけて、シャナは驚いた。いつもより大きな悠二の手に、相応の〝存在の力?による強化を施していたため、自分の小さな体に予想外の大打撃を加えてしまったのである。
 シャナの体をした悠二は三メートルは飛んで、玩具《おもちゃ》の山にめり込んでいた。悠二の体だと間抜けな格好で済むが、今は、
「ば、馬鹿悠二! なんて格好するのよ!?」
 シャナは悠二の顔を真っ赤にして叫んだ。
「そ、そんな、こと言っても、シャナがうわっ!?」
<img height=600 src="img\53.jpg">
 自分の前に、はしたなく大股開きになって、短いスカートもまくれたシャナの下半身がある。というか、そんな格好をした自分を見下《みお》ろしていた。慌てて脚を閉じ、スカートの裾《すそ》を押さえる。そうしてから、なんとなくもったいないと思
「ぐげっ!?」
「なな、なに、ど、どこ、どこ見てたのよ~~~!!」
 自分に首を絞《し》められて殺されそうになる、という悠二の珍奇《ちんき 》な体験は幸い、胸元からの、
「よせ、あー、シャナ[#「シャナ」に傍点]」
 というアラストールの声で中断された。
「――っぜは、ひ、し、死ぬ......ホントに死ぬ」
「勝手に私の体で変な格好するからよ!」
「......張り飛ばしたのはシャナだろ」
「うるさいうるさいうるさい!」
 中身がシャナと分かっていても、目の前にある『真っ赤になって涙目で怒鳴《どな》る自分』という図はとても情けない、と悠二は思った。
「と、とにかくその『リシャッフル』とかいう宝具を探そうよ」
「......ふん」
 やはり、『腕を組んでプイとそっぽを向く自分』も、変な感じである。なんにせよ、悪趣味な仮装はもう懲《こ》り懲《ご》りだった。自分の体が座っていた場所に転がっているはずの黒い筒を......
「......ええ、と?」
 見つけられない。
(ぶっ飛ばされる前に座ってたのが、今、僕――じゃない、シャナのいる所で、玩具《おもちゃ》の山があそこにあって、窪地《くぼち 》がこうで、つまり、あそこら辺に転がってるはず、なんだけど......?)
 浮かぶ灯火《ともしび》を背に、大まかな場所の見当をつけるが、それらしい物は見当たらない。
「シャナ」
 普段と違うひ弱《よわ》なシャナの声、そうさせる中身[#「中身」に傍点]に、少年はそこはかとない落胆《らくたん》を覚えた。
「僕と入れ替わったとき、手に持ってた物......『リシャッフル』なんだけど、どこにやった?」
「たしか、寸前まで宝具《ほうぐ 》を確かめてたから、後ろに放り投げたと思う」
 シャナによる、自分の引き締まった格好いい声が、そこに追い討ちをかける。
「えー、と、後ろ......」
 見れば、そこには当然のように玩具の山が。
「びっくりして、少し強めに投げたかも。時間をかけて慎重に探せば――」
「いかん」
 と突然、アラストールが切迫した一言で、その方針を却下した。
「急ぐのだ。余人《よ じん》、特にフレイムヘイズらに、この状態のあることを知られてはならん」
 常には見られない彼の慌《あわ》てように、悠二は不安感を抱いた。
「えっ、なにか知られるとまずいことでもあるのか? 宝具が働かなくなるとか?」
 シャナも表情を曇《くも》らせる。
「どういうこと、アラス――」
「おっ待たせー、アイスどっさり買ってきたぞー」
 暗闇に響いた佐藤の陽気な声が、質問を中途で打ち切らせた。
「ありゃ、やけに暗いな。帰ったのか? お-い!」
 田中の不審げな声も聞こえる。
 体を入れ替えた少年と少女は、お互いをお互いの顔で見つめ合わせ、立ち上がった。
 悠二は、視界が妙に低く、大男のような自分が目の前にあるという変な世界の中、その不安を小さく潜めた声に表して訊く。
「どうしよう、シャナ」
 シャナも小声で返す。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:09:21 | 显示全部楼层
「その顔で弱音を吐かないで」
「で、でも」
「......まず、『夜笠《よ がさ》』を出して」
 悠二の顔をきつく顰《しか》めて、シャナは指示した。
「宝具を投げた辺にある玩具《おもちゃ》を全部、一旦『夜笠《よ がさ》』の中にしまって、悠二の部屋で改めて探す。いいよね、アラストール?」
「うむ」
 言われた悠二は、シャナを見上げてあたふたする。
「ぼ、僕がフレイムヘイズの力を?」
「そう」
「でも、いきなりだし......シャナは使えないの?」
 自分の情けない姿にイライラしつつも、シャナは辛抱強く丁寧に答える。
「さっき、明かりを点《つ》ける前に試したけどダメだった。見かけが変わったんじゃない、お互いの体を、交換された意志《いし》総体《そうたい》が使ってるのよ。さあ、早く!」
「そんなこと言われても、どうやれば?」
「内に満《み》ちる〝存在の力?は感じてるでしょ……ええ、と」
 自分が普段、息をするように歩くようも行っていることを言葉にするため、数秒考える。
「気分を爆発的に高めて、望む力を現す[#「望む力を現す」に傍点]の」
「ちゅ、抽象《ちゅうしょう》的すぎるよ」
「弱音|吐《は》かないでって言ったでしょ。『炎髪灼眼《えんぱつしゃくがん》の討《う》ち手《て》』の姿や強さを思い描いて......それを身の内に満《み》ちる力で表現するの!」
 眼前に迫る、鏡でない自分の顔に、思わず悠二は後ろに仰《の》け反《ぞ》る。
「わ、分かったから、その顔で女言葉を使わないでくれよ......ええ、と」
(シャナの姿と、力)
 いつも見ていた紅蓮の煌きとともに凛々《りり》しく立つ少女の姿を――憧憬《どうけい》さえ感じさせる、あらゆる強さを現す『炎髪灼眼《えんぱつしゃくがん》の討《う》ち手《て》』を――誰よりもはっきりと、思い浮かべる。
 そんな根拠のない自惚《う ぬ ぼ》れとともに、小さく叫ぶ。
「こうか!」
 なにも起きなかった。
「......」「......」
 アラストールとシャナの沈黙が痛い。
 悠二はさっきまでの自惚れもどこへやら、意気の消沈《しょうちん》を顔にまで表すが、
「もう一度」
 猶予《ゆうよ 》の少ない状況の中、シャナは容赦《ようしゃ》なく次の行動を求めた。
「よ、よし、今度こそ」
(シャナの、強くてかっこいい、姿――)
「――はあっ!」
「......」「もう一度」
「やっぱり、いきなりフレイムヘイズの力を使うなんてできないよ」
 さっそく泣きの入った悠二を、
「やるのだ」「弱音は受けつけない」
 二人は同時に、断固とした口調《くちょう》で叩く。
「......分かったよ」
 渋々《しぶしぶ》答えつつ、悠二は思いを巡らす。
(シャナの力、どんなだっけ、ええと、ああ、もう――)
 しかし、必死に思い出そうとすればするほど、最初あれほどはっきりと思い描いていたはずの姿は、上手くいかないもどかしさと自己《じこ》嫌悪《けんお 》の彼方《か な た》にぼやけてしまう。
 そこに、
「見た目のイメージじゃない。感じた私に、力を重ねて」
 シャナが、語感《ご かん》だけで指南した。
 悠二は、それを繰り返す。
「感じた、シャナに」
 幾多《いくた 》の戦いの中、掴んでいた『シャナの存在[#「シャナの存在」に傍点]』......その鮮烈《せんれつ》で明確な感覚に、
「力を、重ねる」
 ボン、と炎髪灼眼が紅蓮の火の粉の放出とともに煌《きらめ》き、黒衣『夜笠《よ がさ》』が鋭く広がった。
「――やった!」
「ん」
 満足げな自分の笑顔に、悠二も少女の顔で弾けるような笑顔を返す。
 と、ついでにその腰から、ガチャン、と『贄殿遮那《にえとののしゃな》』が落ちた。
「......それはいらないから」
「わ、分かってるよ」
 悠二は『炎髪灼眼の討ち手』の姿としてワンセットに思い浮かべた大太刀《おおだ ち 》を、気恥ずかしさの中で取り上げる。そんな彼の耳に、
「ん? なんか聞こえたな」
「やっぱいるのか。なにしてるんだー、ドライアイス入ってても、溶《と》けるもんは溶けるぞー?」
 佐藤と田中が、つい叫んだ声か大太刀の落ちた音かを聞いたらしい。
 二人が近づいてくることに焦りつつ、悠二はいつも少女がやっているように、(割と憧《あこが》れだった)身の丈《たけ》ほどもある細身厚刃《ほそみ あつば 》の大太刀を握《にぎ》り、(やたら重いのを|我慢《が まん》しながら)格好をつけて腰に収め――ようとして、
「――シャナ、収める鞘《さや》が見当たらないんだけど」
「抜き身でもらったから、元々鞘はないの。『夜笠《よ がさ》』の内側に、アラストールの畳《たた》まれた翼《つばさ》を限定的に顕現《けんげん》させて、そこにねじ込んでしまう感じ」
「......全然分からない」
 シャナは額に青筋《あおすじ》を立て、それでも緊急の場ということから辛抱強く教える。
「その『夜笠《よ がさ》』は、アラストールの翼の一部を顕現させたものなの。形は私の思ったとおりになってるけど、本当は大きな翼の皮膜《ひ まく》の部分にあたる......見たんでしょ?」
「うん」
 悠二は一度だけ見た〝紅世《ぐぜ》?真正《しんせい》の炎の魔神〝天壌《てんじょう》の劫火《ごうか 》?アラストールの完全なる顕現の威容《い よう》――高層ビルを上から覗き込むほどに巨大な存在――紅蓮に燃え上がる炎の内に黒い塊を秘めた体躯――視界一面を覆って広がる、黒い皮膜を持った翼――を思い浮かべた。
「翼の、皮膜?」
 シャナは、格好よさ溢《あふ》れる坂井悠二の姿で頷《うなず》く。
「そう、それを畳んだところを想像して、その|隙間《すきま 》に押し込むようにするの。できるだけ具体的に思い描けば、すんなりできるはず」
「ええ、と......」
 あの魔神がせせこましく体を丸めて翼を畳むという、間抜けな姿を想像する。
 それを感じてか、アラストールがことさらに低く険悪《けんあく》な声で、念を押す。
「しっかりと、思い描くのだ」
「わ、分かってるよ......やっ!」
 悠二は言って、いつもシャナが見事に収めている姿をなぞるように、格好をつけながら『贄殿遮那《にえとののしゃな》』を左腰の脇に収めた。大きな場所に自然と吸い込まれてゆくような感覚があり、切っ先がコートの裾《すそ》を突き抜けることもなく、長い刀身全てが| 懐 《ふところ》の内に消える。
「やった、今度は一度ででき、っ痛《い》だっ!?」
 感嘆《かんたん》の声をあげる途中でいきなり顔をぶん殴られて、悠二は再びすっ転んだ。
 シャナはその様子に、転んだ悠二の方ではなく、自分の拳を見る。
「あっ、まだ、強いか......」
「な、なに、するんだよ。うまくいったじゃ――」
「いってない。私の体を真っ二つにする気?」
「へ?」
 悠二《ゆうじ 》は、自分の姿が偉《えら》そうに顎《あご》で指すという、微妙にムカつく仕草《し ぐさ》の意味するところを、とりあえず見た。見て、ぞっとなった。
「あっ――」
 黒衣『夜笠』の|内 懐《うちぶところ》、ブラウスの脇腹が、スッパリと一線《いっせん》切れている。どうやら収めるとき、刃を自分の腹に向けていたらしかった。
「格好つけるよりも、確実にやって。千草《ち ぐさ》には、悠二が破ったって言うからね」
「そ、そんな......ん、あれ?」
 破った、というか斬ったのは確かに『シャナの体を持った悠二』だが、叱られるのは必然的に『悠二の体を持ったシャナ』になる。叱られる役はシャナの方にならないか。
 その妙な現象に、言ったシャナも気がついたらしい。顔をムッとさせて急《せ》かす。
「ほら、もうコツは分かったでしょ。さっさと周囲の玩具《おもちゃ》を『夜笠』の中にしまって」
「でも、どうすれば......?」
「さっきと同じように、『夜笠』の中にしまうこと、そのものをイメージすればいい。ある程度は吸い込んでくれる。早く、二人が来ちゃう」
 その危惧《きぐ》に答えるように、
「おーい、シャナちゃんの金で買ったんだぞ?」
「溶けたらさすがに食わんだろー?」
 ガシャガシャと玩具《おもちゃ》を踏みながら、佐藤と田中の気配《け はい》が近づいてくる。
(僕のくせに[#「僕のくせに」に傍点]、なにが『来ちゃう』だよ、まったく)
 心中でぼやきつつ、悠二はさっきの、物が大きな場所に吸い込まれる感覚を思い出す。それをできるだけ大きく、自分がいた場所に及ぼすように思い描く......
 カラン、とブロックが一つ転がり近づき、ふわり、とプラスチックのバットが宙を漂い、やがてプラモデルの箱や釣竿《つりざお》、ボードゲームにラケット、周囲に横み重なっていた玩具《おもちゃ》の山がどんどん、雪崩《な だ れ》を起こすようにシャナの体を待った悠二、その黒衣の内懐へと|殺到《さっとう》する。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:10:08 | 显示全部楼层
「うわ、わ......!?」
 その雪崩の行き着く先で一人、小さな体を立たせて受け止める悠二は、倒れもせず抵抗も感じない、しかし驚きと戸惑《と まど》いを表して、黒衣の内に吸い込まれてゆく玩具《おもちゃ》を見やる。
「もう、いいわ」
「え、と、止まれ、わぶっ!?」
 悠二は収納を止めた途端《と たん》、玩具《おもちゃ》の流れに押し流された。何度も転がって生き埋めになる。重さも苦しさも大して感じないが、
「......いきなり止めたらどうなるかくらい、分からないの?」
 自分の呆《あき》れた声が、ただ耳に痛い。なんとか身を起こして、せめての文句を言う、
「は、初めてだから、しようが、ないだろ」
 その上、未だ積み重なる玩具の山の上から、懐中電灯《かいちゅうでんとう》の光が二つ差した。
「あ、こんなとこに。なんで返事しないんだよ」
「シャナちゃん、なに埋まってんだ?」
 収納の騒音《そうおん》を聞きつけた佐藤と田中だった。二人とも、懐中電灯を持った手も含めて四つ、アイスを入れたものらしい大きなビニール袋を提《さ》げている。
 シャナは自分の体、その首にかけられたペンダントに短く問う。
「アラストール?」
 やはり黙っているべきなのか、という意味である。
 アラストールも短く答える。
「うむ」
「ほら、悠《ゆう》......シャナ[#「シャナ」に傍点]、いつまで埋まってる......んだ」
 シャナは、できるだけ悠二っぽく見せよう、と下手な演技で悠二に言った。
(ああ、そうか)
 悠二もやり取りの意味を察《さっ》して、シャナっぽいやりとりはこうか、と返す。
「えーと、んー、うるさいうるさいうるさい[#「うるさいうるさいうるさい」に傍点]」
 ムカッ、とシャナが悠二の顔の奥で、その偏見に満ちた演技への怒りを湧《わ》き上がらせた。
 佐藤と田中は怪訝《け げん》な面持《おもも 》ちで、そんな『シャナと悠二』を交互に見る。
「どうしたんだい、二人とも。あはははは」
 と変に力を抜いて、シャナは悠二の顔をヘラヘラと笑わせた。
(僕はそんな間抜けな笑い方しないぞ)
 今度は悠二が密《ひそ》かに怒って、玩具《おもちゃ》の中から立ち上がる。
「それより二人とも、早くアイスクリームちょうだい」
 シャナを演じる、という大義名分の下、悠二は過度《かど》に子供っぽい仕草で、二人に手を差し出す。微妙に気持ち悪い朗《ほが》らかさに溢《あふ》れた笑顔を浮かべて。
(ゆ?う?じ~~!)
 二人の手前、今度は殴るわけにもいかず、シャナはつかつかとその傍《かたわ》らに歩み寄る。
「な、なんかシャナちゃん、おかしくない?」
「そう? それよりアイスちょーだいっ!」
 悠二は田中の問いをはぐらかして、アイスを満載《まんさい》したビニール袋を二つ、取り上げる。
「坂井《さかい 》、今日のシャナちゃん、どーしたんわっ!?」
 近寄ってきた悠二に|訊《き》こうとした佐藤は、その顔に浮かぶ憤怒《ふんぬ 》の表情に思わず飛び退《の》いた。
 その隙《すき》に残りのビニール袋二つをもぎ取った、見かけだけの悠二は、自分の傍《かたわ》らに立つ。
「シャナ[#「シャナ」に傍点]、あんまり食べ過ぎるとお腹を壊す、よっ」
「んぎゃっ!?」
「あっ、ごめん、足踏んじゃった。僕、よくボーっとしてるから」
 あははは、と再び変に力を抜いて笑う悠二と、
「ベ、別にいいわよ。それより私、甘いものがないと死んじゃう、ンガング」
 アイスをいきなり、誰にも渡さない勢いでガツガツ貪り始めるシャナ、
 佐藤は、双方に漂う険悪《けんあく》さへの説明を求めようと、少女の胸元のペンダントに声をかけた。
「あの、アラストールさん......?」
「火急《かきゅう》の要事《ようじ 》を思い出した。帰るぞ二人とも」
 声をかけられた〝紅世《ぐぜ》?の魔神は、いきなり説明責任を放棄して二人を促《うなが》す。
「そうだね、早く帰らないと、あはは」
「それじゃあ、またね二人ともングガ」
 逃げるように、奇妙な二人は玩具《おもちゃ》の山を駆け上がっていく。
「な、なんて格好すん――してるんだよ!」
 つい脚を大きく開いてよじ登る姿勢《し せい》になっていたシャナに言う悠二、
「しようがない、でしょ! まだ、いや、今はうまく動けないんだから!」
 やけに強い声色《こわいろ》で怒鳴る悠二に拗《す》ねるように叫び返すシャナ、
 二人が去ってから数秒、懐中電灯の明かりの中に残された佐藤と田中は、
「マージョリーさん、まだかな」
「アイス、全部取られた......」
 と、それぞれどうでもいいことを呟いた。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:10:29 | 显示全部楼层
 彼らの秘密基地となっている旧|依田《よだ》デパートの出口、地下街の端から、地上への階段を二人はバタバタ足音を鳴らして上がる。上がりながら、
「なんでアイス、あんなに食べるのよ......ン、あぐ」
 と少年の声でシャナが恨《うら》めしそうに言って、残ったアイスを頬張《ほおば 》り、
「シャナだったら当然、あーしてただろ?」
 と少女の声で悠二が拗《す》ねるように言って、そらっとぼけた。
 二人の装《よそお》いは、先刻《せんこく》と少し違っている。『贄殿遮那《にえとののしゃな》』収納時の失敗により、シャナの体はブラウスの脇腹を下着ごと斬られていたので、上に悠二のシャツを羽織《はお》っていた。
「これじゃ暑いよ」
 と二枚重ねをぼやく悠二に、
「私の服を脱がせたりしたら、バラバラに切り刻《きざ》むわよ」
 中に着ていたTシャツのみの格好となったシャナは、悠二の声で脅迫《きょうはく》した。
(だから、今の状態だと、切り刻まれるのはシャナの方じゃないのかなあ)
 などと思いつつ、悠二はつい着せられたシャツについて、
「汗|臭《くさ》いなあ――ぁだっ!?」
 と余計な感想を漏らしたため、アイスの袋で横っ面を張り飛ばされた。
「悠二の汗でしょ!」
「そ、そりゃそうだけど......これじゃ、シャナの体の方が汗だくになるよ」
「汗なんかかかなきゃいい、あむ」
 シャナは素っ気無く言って、アイスを頬張る。
「そんな無茶な」
「元に戻ったときに変な臭《にお》いが移ってたら、また殴るからね、んむ」
 また頬張る。大きな口は食べやすい。
「清めの炎《ほのお》とか使えばいいじゃないか。だいたい、移してるのはシャナなんだし」
「うるさいうるさいうるさい。気分の問題なの!」
 叫ぶ間に、二人は地上に出た。
 やや曇天《どんてん》の下に広がるそこは、車の代わりに人ごみで溢れる大通りである。
 とある〝紅世《ぐぜ》の王?の襲撃を受けて全壊した御崎《み さき》市駅から続く大通りは、交通規制が敷《し》かれ歩行者天国となっていた。夏の盛りにもかかわらず、どこから溢れ出るのか、歩く物売りやオープンカフェ、露店やストリートミュージシャンなどで大通りはごった返していた。
 その人ごみを掻《か》き分け、急ぎ家に帰ろうとする二人に、
「あら、チビジャリと坊やじゃない」
「え? あっ、ホントだ。シャナちゃーん、坂井《さかい 》くーん」
 傍らのオープンカフェから、声がかけられた。
 なんでこんなときに、と思いつつ二人が目を向ければ、なんとフレイムヘイズ『弔詞《ちょうし》の詠《よ》み手《て》』マージョリー?ドーとクラスメイトの緒方《お がた》真竹《ま たけ》が、一緒のテーブルについている。
「こんなところでなにしてんの?」
 呑気に訊く緒方に、シャナは曖昧《あいまい》に頷《うなず》きつつ、大通りに店を広げるオープンカフェに歩み寄る。二人のいる、大きな日傘を中心に差したテーブルに手をついて、まず緒方を見た。手に提げたアイス入りビニール袋の重みで、テーブルと、その上に置かれていた空のコップが揺《ゆ》れる。
 シャナは、『この世の本当のこと』をなにも知らない緒方に、マージョリーが要らぬ知識を吹き込もうとしているのではないか、と疑ったのである。もしそうなら、フレイムヘイズとして厳しく強く糾弾《きゅうだん》してやろうと思う――その矢先、
「な、なに、坂井君?」
 緒方の不審げな声で、
「えっ?」
 シャナは、自分が今、悠二であることを、やっと思い出した。すぐ前で驚きに目を見張っている鋭い同業者《マージョリー》に、今の状態を勘《かん》づかれるわけにはいかなかった。
(――「余人《よ じん》、特にフレイムヘイズらに、この状態のことを知られてはならん」――)
 本能《ほんのう》のように胸元を見るが、そこに意見を求める相手はいない。彼は今、悠二の胸の上にいる。恐《おそ》らくは、あの『リシャッフル』とかいう宝具の働きにとって、なにか不都合があるのだろう。そうでなくても『弔詞の詠み手』に、この珍妙な事態を知られて笑われるのは、誇りある『炎髪灼眼《えんぱつしゃくがん》の討《う》ち手《て》』として、非常に、全く、甚《はなは》だ、面白くない。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:10:59 | 显示全部楼层
緒方とマージョリーが訝《いぶか》しげな顔で、机に手をついた自分を見つめている。
(ど、どうやって誤魔化《ごまか》そう......えと、悠二は、こういうとき‥......)
 と心中惑《しんちゅうまど》うシャナのシャツの裾《すそ》を、悠二が後ろから引っ張った。
「ダメだろ、もう......はは、珍しいね、二人とも。こんな所でなにしてるの?」
 と適当にとりなそうとする内に、
「......?」「......?」
(あっ――しまった!)
 彼はその、いつも自分の使う手法が、かえって相手を驚かせていることに気づいた。
 シャナという少女が普通に世間話を始めた[#「シャナという少女が普通に世間話を始めた」に傍点]。
 普段の、無愛想《ぶ あいそう》で効率重視で余計なお喋りなどしない彼女を知っている者にとっての、この事態の異様《い よう》さが自分でも分かって、悠二は激しい後悔に襲われる。
 ところが幸《さいわ》いなことに、
「......う、うん、さっき、ここでバッタリ会っちゃったの。前のとき[#「前のとき」に傍点]みたいに、少しだけ相談に乗ってもらってたんだ、へへー」
 素直な緒方は不審を追及《ついきゅう》する前に、まず訊かれたことに答えた。
「ふ、ふうん」
 悠二はとりあえず、その|可愛《か わ い》らしい照れ笑いに、適当な相槌《あいづち》を打っておいた。前のとき[#「前のとき」に傍点]、というのがなんのことなのか全く分からず、そもそもこの二人が知り合いであることにも驚いていたが、とりあえず今は、そのあたりを詳しく尋《たずね》ねていられる状況ではない。
 思う間に、マージョリーの方が問いかけてきた。
「あんた、なんか今日、変じゃな――」
「それじゃ、ちょっと急いでるから!」
 シャナが持て余し気味な体を翻《ひるがえ》して、小さな悠二を乱暴に引っ張った。
「すっ、裾が伸びるよ!」
「なにしてんのよ、馬鹿!」
「自分がやったんだろ!?」
 どこかおかしなやり取りを置いて、二人は全く唐突《とうとつ》に、人込みの中へと去った。
「どーしたの、あいつら」
「さあ......?」
 残された女性二人は、
「んで、エータをデートに誘う、って話だっけ?」
「あっ、はい。やっぱり二人っきりがいいでしょうか、それとも――」
 切り替えも早く、自分たちの話題に戻った。


 アイスというお菓子を、あくまで舐《な》めずに齧《かじ》る傍ら、シャナは言う。
「はむ、まったく、なんでこんな目に」
「ごめん......」
「その顔でしょぼくれないで、んむ」
「......」
 二人は言葉を切って、坂井家のある住宅地に続く、御崎大橋に向かう筋を曲がった。
 やがてシャナは、二十本以上はあったアイスを全部|平《たい》らげ、その袋を歩道脇のゴミ箱に放り捨てる。そのついでのように、あくまで小さく、人ごみの喧騒《けんそう》に紛《まぎ》らせて呟《つぶや》いた。
「別に、怒ってるわけじゃ、ないけど」
「......ん」
 悠二も小さく答えて、さっきとは違う沈黙の中、二人は並んで歩く。
 その背後から、
「よっ、坂ぃ――」
 悠二[#「悠二」に傍点]に声をかけたつもりの少年が、肩に置こうとした手を取られ、
「――っうおわあっ、だっ!?」
 前方に投げ落とされた。
「シャナッ!?」
 悠二は咄嗟《とっさ 》のことでつい、声をあげていた。
「ん?」
 シャナが、投げ落とした不審者を見れば、
「あたた......な、なんだよいきなり」
 クラスメートの『メガネマン』こと池《いけ》速人《はやと 》である。
 悠二は思わず、打った尻《しり》を押さえる親友の前に屈《かが》み込んでいた。
「大丈夫か?」
「へっ!? あ、ああ」
 池は、いきなり少女の顔が近づいたことに驚き、思わず身を引いた。
 悠二も自分たちの現状を思い出し、それらしい言葉で忠告する。
「えと、今ちょっと、悠二は機嫌が悪いから」
(シャナ!)
 言う傍ら肘《ひじ》で突っついて、自分の体を持つシャナに、彼を助け起こすよう促《うなが》す。
「ん、ええと、大丈夫か。ついうっかり、ごめん」
 ムチャクチャな言葉の並びで言いつつ、シャナはクラスメートに手を差し伸べる。声色も、台本を棒読みするような平坦さ。どうも彼女には演技力というものが皆無であるらしかった。
「ああ......ホント、どっか悪いのか?」
 流れすぎる雑踏の中、ようやく助けを受けて立った池は、しげしげと悠二の顔[#「悠二の顔」に傍点]を眺める。
「どうしたの、池君――あっ?」
 背後から声をかけ、また驚く気配に振り向いたシャナと悠二は同時に、あるいは今、最も会いたくなかった顔を人ごみの中に見つけていた。
 池と同じくクラスメート、しかしそれ以外にもいろいろと複雑な関係を持つ少女、
 吉田《よしだ 》一美《かずみ 》である。
 悠二は思わず天を仰《あお》いで、自分たちの運命を呪った。
(なんでこういう日に限って、次々知り合いと会うんだ)
 吉田は輝くような笑顔で悠二の姿をしたシャナに駆け寄り、ぺこりと頭を下げる。
「こんにちは、坂井君。前のファンシーパーク、楽しかったです」
「そ、そう......」
 シャナは複雑な面持《おもも 》ちで、少女の、無邪気でありながら、どこか押しの強い笑顔に答えた。
 吉田は次《つ》いで、シャナの姿をした悠二に顔を向け、変わらない笑顔で短く告げる。
「こんにちは、シャナちゃん」
「う、ん」
 悠二は、なぜか彼女の短い言葉、変わらない笑顔に、緊張する自分を感じた。微妙なプレッシャーが、全身を強張《こわば 》らせる。
(よ、吉田さんって、こんなに恐かったっけ......?)
 普段、彼女の好意に甘えている少年は、初めてその違う一面、勝負する女性の部分に相対《あいたい》していた。そこから逃れるように、自分の顔に戸惑いを揺らす少女を問い詰める。
「池は声かけただけなのに、なんでいきなり投げ飛ばしたりしたん――したの」
 シャナはムッとなって、不本意《ふ ほんい 》とばかり反論した。
「声だけじゃない。後ろから肩を掴もうとしたから投げた」
「今がどういう場合か、分かってるでしょ?」
「ちゃんとダメージは最小限にした。さっきまでの行動で、力の加減が分かったから」
「そういうことじゃなくて」
 言い争う二人を、投げられた当人である池が、いつものように仲裁《ちゅうさい》する。
「いいよ、シャナちゃん。別に怪我したわけじゃないんだし」
「ほら、池速人もいいって」
「まあ、そうだけど......」
 腕を組んで開き直る偉《えら》そうな自分に、悠二は呆れの溜息をつく。
 吉田はそんな確信と強さに満ち溢れた少年の姿に思わず胸を高鳴《たかな 》らせた。
(なんだか今日の坂井君、かっこいい......?)
 しかしその、彼らしからぬ態度だけではない、なにか、どこかに、違和感も覚えていた。
「にしても、坂井の機嫌がこんなに悪いなんて珍しいな。いつもと逆みたいだよ」
 苦笑する池、偶然の図星に、二人はギョッとなった。彼は緒方と同じく〝紅世《ぐぜ》?に関連する事柄を何も知らないのだが……やはりメガネマンは鋭い男だった。
 誤魔化すために、悠二は話題を変える。さっき不審がられた反省から、言葉|少《すく》なに。
「二人は、一緒だったの?」
 吉田は素直に頷《うなず》いた。
「うん。昨日、家の近くの本屋さんでたまたま会ったときに、いい参考書がないかって話になって。駅前の大きな本屋さんを回ってたの」
 池も肩をすくめて補足《ほ そく》する。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:11:39 | 显示全部楼层
「佐藤と田中に宿題教えてやるって約束してたから、あいつらも誘ったんだけど......こういうときに限って留守なんだよな。おかげで僕は、吉田さんと二人っきりでデート気分さ」
「えっ!? い、池君!」
 唐突《とうとつ》で予想外な彼の発言に、吉田は驚き慌てた。
 池は非難を避けるように、中身がシャナである悠二の後ろに隠れて茶化《ちゃか 》す。
「はは、ジョークジョーク。そんなむきになって否定すると余計怪しまれるよ」
「もう」
 膨れる吉田の可愛さに、悠二は自分の姿を忘れて、ついクスリと笑った。
 そんなライバルの様子に、吉田はさらに膨れる。
 同じく笑っていた池は、不意にポツリと、
「実は結構、本気なんだけどな」
 隠れた悠二の耳元で呟《つぶや》いた。
「っ!?」
 それを聞いたのは、以前彼に、その|想《おも》いのあることを告げられた少年ではなかった。
 聞いて、衝撃を受けたのは、なにも知らなかった少女――自分以外の、自分を介《かい》さない人の間にも、自分と同じ|想《おも》いの綾《あや》が交錯《こうさく》していることに初めて気づかされた、少女だった。


 急用があるから、と吉田と池の元から逃げ出して、悠二とシャナはようやく一息ついた。
「やれやれ、会うときには会うもんだなあ......」
 悠二は小さな体から、疲労そのもののような声を吐き出した。
 うん、とシャナは領く仕草《し ぐさ》だけで答える。
 悠二には、吉田や池と別れてからの彼女がどこか沈んでいるように、なにか考え事をして、他のことに構《かま》う余裕がなくなっているように見えた。
(別に、なにかしたわけじゃないと思うけど......)
 だいたい、こんな格好じゃなにをしようもない、と自分の姿を見下ろす。慌てて逃げ出したこと、人ごみを歩いていること、薄曇《うすぐも》りとはいえ真夏の野外《や がい》であることなどから、いい加減汗だくである。
(スカートってのは|涼《すず》しくていいけど、かわりにパンツがぴったり過ぎるんだよなあ)
 などと少々下品なことを考えたりする。
(フレイムヘイズも汗をかく、か......涙だって出るんだし、当然といえば当然かな)
 その、心中徒然《しんちゅうつれづれ》に浮かびあがった単語から、ふと想起《そうき 》する。
「今日、これだけ会えば、もう大丈夫だよね」
「......え?」
 シャナが、頭一つ上から|訊《き》いてくる。見上げると、どことなく顔色が悪かった。
「もう知り合いには会わないだろう、ってこと」
「ヴィルヘルミナのこと? 今日は駅前の被害状況を調査する、って言ってたから、この辺りのどこかにはいると思うけど」
 少女は少年の目、高い視線から、背後の駅前まで伸びている大通りを一望《いちぼう》する。
 この街にいる三人目のフレイムヘイズ、『万条《ばんじょう》の仕手《して》』ヴィルヘルミナ?カルメルは、シャナを『炎髪灼眼《えんぱつしゃくがん》の討《う》ち手《て》』とすべく育て上げた人物であり、現在、シャナが滞在する平井《ひらい 》家唯一の同居人でもある(トーチとなっていた家族たちは、消滅してしまった)。
 彼女は、この街に残された戦いの痕跡《こんせき》を『人間が納得できる、もっともらしい嘘』によって隠蔽《いんぺい》するため、フレイムヘイズの情報交換?支援施設たる外界宿《アウトロー》から派遣されてきた。きたのだが、先のような間柄《あいだがら》から、娘として溺愛《できあい》する少女との生活の方を、主に堪能《たんのう》している。
 もちろん、そんなわけ[#「そんなわけ」に傍点]で、彼女と悠二の相性は最悪である。つい先日など、悠二は本当に殺されかけた。今ではシャナによる実力行使《じつりょくこうし》他の説得によって、その心配はなくなっていたが、未《いま》だ彼女が悠二を警戒?敵視していることに変わりはない。
 そんな彼女に今の状態で会うのは、かなり危険なことと言えた。
 もっとも、大通りと歩行者天国、建物や地下街を出たり入ったり、二人の周りは見渡す限りの人、人、人で、この中の一人に行き逢う偶然が起きるとは、さすがに考えにくかった。
 ずっと黙っていたアラストールが念を押す。
「もし出会ったとしても決して現状を悟《さと》られてはならんぞ。いいな、決して[#「決して」に傍点]だ」
「そうまで隠さなきゃならない秘密が、あの『リシャッフル』にあ」
 シャナの声で言う自分、という立場になんとなく慣れつつあった悠二は、固まった。
「どうしたの、悠《ゆう》」
 シャナも固まった。
 二人が見る、ファーストフードショップのガラス。
 その透けて見える店内で、一人の女性が、丁度《ちょうど》こちら向きに座ってハンバーガーを食べていた。
「......」「......」「......」
 三者の目線は、すでに合っている。
 その女性、ヴィルヘルミナ?カルメルは、情感《じょうかん》に乏《とぼ》しい表情の中、小さな口に残りのハンバーガーを詰め込み、数回モギュモギュさせてから飲み込んだ。固まる二人を他所《よそ》に、落ち着いた挙措《きょそ 》で傍《かたわ》らにあるカップの蓋《ふた》を外し、これを飲み干すと、おもむろに立ち上がる。床に置いてあった大きな登山用のザックを軽々と背負い、出口に向かう。
 二人の前方で自動ドアが開き、純白のヘッドドレスとエプロン、丈長《たけなが》のワンピースに編上《あみあ 》げの革靴、背には巨大なザックという、貫禄《かんろく》溢れるメイドが、路上に姿を現す。周囲の雑踏が、その奇天烈《き て れつ》な姿に思わず道を開けるため、彼女はすぐ、二人の前に立つことができた。
「......今日は〝狩人《かりゅうど》?の隠《かく》れ家《が》で、宝具の探索をするはずでは?」
 宿題を放《ほ》っぽって外に遊びに出た子供を見つけた母親のような、詰問の口調である。
「そ、それは――」
「あなたには訊いていないのであります」
 言いかけたシャナを悠二と思い、一言で制《せい》する。
 彼女に殺されかけた当人である悠二は、その彼女の愛する少女の格好をしている、という状況の恐ろしさに震え出しそうな体を必死で押さえ、縮こまった下から、なんとか答える。
「いや、これは別に、サボっている、わけじゃなくて」
「馬鹿!」
 シャナとしては、緊張しすぎて口調が元に戻ってる、と注意したつもりだったのだが、もちろんヴィルヘルミナの方はそう取らない。『愛する少女を罵《ののし》った身の程知らずな〝ミステス?』に対する怒りが、ビシッ、と青筋《あおすじ》として現れる。
 その様子に、アラストールが慌てて助け舟を出す。
「ちと急ぎの用があるのだ、行くぞ二人とも」
「う、うん、分かった」
 悠二はぎこちなく言い、
「じゃあ、後でね、ヴィルヘルミナ[#「ヴィルヘルミナ」に傍点]」
 シャナは気の急《せ》くまま、つい常のように彼女をファーストネームで呼び捨てにしていた。
 怒れるヴィルヘルミナ、
「――ッ!!」
 その先鞭《せんべん》として、目にも留《と》まらぬ速さで少年の側頭《そくとう》めがけ走った白いリボンが、
 ボン!
 と|破裂《は れつ》にも似た音を残して、防がれた。
 悠二の体を待ったシャナが、ボクシングにおけるガードの姿勢を片腕で取るように、顔の横に腕を立てていた。その前腕部《ぜんわんぶ 》に広がる打撃の余韻《よ いん》に、少年の顔を顰《しか》める。
 周囲の人々は、突然の破裂音がどこで起きたのか分からず、上空や周囲を見回す。
 ヴィルヘルミナの振るった神速のリボンは、防がれるや彼女の後ろ腰、エプロンの結び目に戻っているので、常人にはなにが起こったのか理解できない。
「......!?」
 罰《ばつ》として与えたはずの一撃を防がれたヴィルヘルミナは、驚きとともに少年を見た。
 悠二の中でシャナは、自分の迂闊《う かつ》さに歯噛《はが》みする。
(しまった、焦ってたから[#「焦ってたから」に傍点]、つい反射で......)
 リボンの一撃に込められた力は、まともに打たれても転ぶ程度のものでしかなかった。
 それを下手に防いだ[#「下手に防いだ」に傍点]ことで、かえって彼女の怒りを煽る結果となっている。非常に、まずい。
 同じく次の脅威を感じた悠二は、できるだけシャナっぽい制止を試《こころ》みる。
「ヴィルヘルミナ、もう、いいでしょ」
 しかし、強情《ごうじょう》な彼女はそれには答えず、もう一撃。
 パパン!
 とさっきより一段大きな音が響いた。
「ガ、ガス爆発か?」「誰か悪ふざけで風船割ってんじゃない」「銃とかじゃないよね」
 周囲の雑踏はざわめき言い合いつつ、脚を速めて入れ替わってゆく。
 その中に取り残され、道の真ん中に立つ三人だけが、事態の真実を知っている。
 ヴィルヘルミナのリボン、今度は左右からの見えない二連撃《に れんげき》だった。
 シャナは再び悠二の体で、腰を低く沈めた、両腕によるガードの姿勢を取っている。
(今度は、吹っ飛ばすほどの力だった)
 次はさらに強い一撃で来るだろう。もう素直に攻撃を受け続けるわけにはいかない。
(こんなこと、してる暇はないのにぃ......!)
 どうしてヴィルヘルミナはこんなに負けず嫌いで意地っ張りなの、とシャナは自分のことを棚に上げて呆れ、なにより焦る。
 そんな緊急事態に、悠二は少女の姿でオロオロし、なんとか諍《いさか》いを避ける方法を模索する。危難に際して鋭く切れる、と定評のある彼の頭は、このとき働いたのか働かなかったのか。
 とにかくいきなり、シャナの声で叫んでいた。
「ヴィルヘルミナ、大好き!」
<img height=600 src="img\58.jpg">
 人々が足を止め、周囲の時間が止まったような静寂があり......そして、声を受けた養育係の女性は殺気を霧散《む さん》させ、耳まで真っ赤に染めて固まった。この隙《すき》に、
「逃げるよ!」
 悠二は高い場所にある自分の手を取って、咄嗟《とっさ 》に駆け出した。
「あっ!? ......な、なんてこと、言うのよ」

 羞恥《しゅうち》に頬《ほお》を染める自分、という嫌な絵面《え づら》を見ないよう先に走りつつ、悠二は答える。
「嘘じゃないだろ。前の仕返しのつもりで、逆のことを言ってやったのさ」
「そりゃ、たしかに嘘じゃ、ないけど......」
 ムニュムニュと口の中だけで文句を言うシャナを引いて、悠二は走り続けた。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:12:23 | 显示全部楼层
程なく、様々《さまざま》無駄《むだ》尽《づ》くしな波乱を越えた二人は、坂井家の門前にたどり着いた。
 疲労の極《きわ》みにあった悠二は、ほっと安堵の吐息を漏らす。
「や、やっと、帰ってきた......」
 大きくなった体でいつもの大股《おおまた》早足に歩いてきたシャナを、逆に縮んだ体で追いかけていた悠二は、ヘトヘトになっていたのである。そんな彼の情けない姿を、
「容易に疲労するのは、まだ〝存在の力?を上手く使えていないからよ」
 シャナは一言の元に斬り捨て、また早足で玄関に向かう。
「それが分かってるんなら、もう少しゆっくり歩いてくれても......」
「辛さを感じないと、それを改善する意欲は湧《わ》かないでしょ。この体だって、さっきみたいにヴィルヘルミナの攻撃を防ぐくらいは十分できる。人間として顕現《けんげん》する以上の力が、常に有り余ってるんだから。あとはそれをどう使うかよ」
 また早口で言い捨てると、すぐさま扉を開ける。
「ただいま!」
(なんだか、本当に急いでる?)
 叫んで、靴を脱ぎ捨てる様《さま》も、妙に乱暴である。彼女の早足が、いつもの大股な歩き方と歩幅《ほ はば》以外......焦りもあったのではないか、と悠二はようやくの疑念を抱いた。
(そんなに早く元に戻りたいのかな......まあ、気持ちは分かるけど)
 思って、自分のものではない体を見下《みお》ろす。当たり前のように動かしていたもの、その全ての尺度《しゃくど》が狂うという違和感には、やはり慣れることができなかった。なにより、少女の体を勝手に動かしている、という事実には、微妙な後ろめたさがあって落ち着かない。
 と、困ったような顔で物思《ものおも》いに耽《ふけ》る彼を、少女が取り替えた彼の声で叩いた。
「なにしてるの、早く!」
「なにをそんなに慌《あわ》ててるんだ?」
「いいから」
 シャナは余裕のない声で会話をすぐに切った。やはり、相当に焦っているらしい。
 悠二の疑念が不安に変わる。後を追って我が家の戸口を潜《くぐ》った。
(まさか、あの宝具、なにか副作用でもあるんじゃ)
 思い、玄関を上がった前、|廊下《ろうか 》の奥から、悠二の母?千草が顔を出した。
「あら、おかえりなさい。遅くなるんじゃなかったの?」
「予定が早まった」
 また短く言って、悠二を装ったシャナは|廊下《ろうか 》の中ほどにある階段を上がった。
(えーと、シャナは『ただいま』って言ったっけ?)
 考えつつ、階段を上がろうとした悠二は、千草に裾《すそ》を引っ張られた。
「あ、シャナちゃん」
「なに、母《かあ》――」
 さん、と言いかけ、慌てて口をつぐむ。
 行きと微妙に違う格好へと|一旦《いったん》目をやった千草は、しかし別のことを言った。
「汗びっしょりになってるじゃない。お風呂、沸《わ》かしてあるからすぐ入っちゃいなさい」
「え、でも」
 悠二は階段の上を見る。
(シャナはなんだか急いでるようだし、お風呂なんかに入ってる暇は――)
 とまで考えてから、
(――お、風、呂?)
 ようやく提案の意味、その行為がもたらす結果、というか映像に思い至って、思い浮かべそうになって慌てて打ち消して僅《わず》かに未練《み れん》を持ってとにかく、足が震えるほどに動転《どうてん》した。
(お、おおおお風呂っ!? お風呂って、まさか、まさかあの、お風呂!?)
「どうしたの、シャナちゃん?」
 首を傾げる母の提案を、しどろもどろに拒否する。
「いいけど、いや、いいといっても、決してそういうつもりじゃ、でも、今はちょっと、ダメかも」
「?」
「早く! なにをグズグズして......」
 階段の上から怒鳴ったシャナは、千草に睨まれて声を切った。
「悠《ゆう》ちゃん、女の子になんて口をきくの?」
「あ、う......」
 今度ばかりは見当違いな弾劾の視線が、少女に突き刺さる。
「降りてらっしゃい。ちゃんとシャナちゃんに謝《あやま》らないと」
「でも」
「でもじゃありません」
 有無《うむ》を言わせない、大好きな女性の命令だったが、今は譲《ゆず》れない。
「ごめん、お願いだから、早く――!」
「......?」
 二人の様子がおかしいことに、ようやく千草も気づいた。
 目の前の|可愛《か わ い》らしい少女は、珍しく締《し》まりのない笑みに顔を緩《ゆる》ませているし、階段の上にいる息子も、いつになく強い口調で、相当に切羽詰まった強張りを見せている。
「......あとで話、ちゃんと聞かせてくれる?」
 千草は言って、上と下からそれぞれ、ガクガクと大振《おおぶ 》りな肯定《こうてい》の頷《うなず》きを得る。
 許可を得た、と理解したシャナは鋭く叫ぶ。
「早く!」
 その声に、悠二は不安の動悸《どうき 》が高まるのを感じた。
(や、やっぱり、あの宝具はなにか危険な物だったのか!?)
 呑気でいい気な妄想に呆《ほう》けていた馬鹿な自分を心中で引っ叩くと、
「それじゃ」
 母に言い置いて階段を駆け上がり、シャナとともに自分の部屋に飛び込む。
「シャ、シャナ! どうしたんだよ、その顔色!?」
 扉を閉めて向き直った彼は、蒼白《そうはく》を通り過ぎ、ほとんど真っ白になった苦悶《く もん》の表情を、そこに見出した。重傷を負っても、自分がこんな顔をするかどうか。
「早く戻さないと! なんで言ってくれなかったんだよ、アラストール!?」
 猛烈な後悔に襲われた悠二は、常は畏敬の念をもって接している魔神を思わず怒鳴りつけていた。
 しかし、アラストールの声はなぜか不審気《ふ しんげ 》である。
「......いや、それは......?」
 その頼りなさに、悠二は焦燥感を覚える。
 彼でさえ知らない事象なら、なおさら危険だった。もし『リシャッフル』という宝具の用途が、〝| 徒 《ともがら》?同士の意志総体を交換することのみに限定されていたとしたら。もしフレイムヘイズや〝ミステス?が、その適用外《てきようがい》なのだとしたら。もし適用外の交換を行った場合、片方が大ダメージを受けたり、最悪の場合、死んでしまったりするのだとしたら。
(僕は、なんてことを)
 自分の失策で、今も何ともない自分だけが生き残って、シャナが死ぬ。
 そんな、これまで一度たりと考えたこともなかった、かけがえのないものの喪失《そうしつ》への恐怖、あまりに愚かな自分への怒り、冷たさと熱さが胸の中に湧き起こり、荒れ狂った。
「アラストール、あの宝具をもう一度使えば、元の状態に戻れるんだよな!?」
「う、うむ」
 やや曖昧な返事を受けて、それでも悠二は今できることを必死に行う。
「今すぐ中のものを取り出して探すから――シャナ、待ってて!」
 ゴウッ、と燃えるような煌きとともに、炎髪灼眼《えんぱつしゃくがん》、そして黒衣『夜笠《よ がさ》』が一度で現れた。すぐさま収納時の吸い込むような感触、その逆を思い浮かべ、焦りの中で事象を現出《げんしゅつ》させる。
「っ出ろ!!」
「あ、馬鹿っ!?」
 シャナの叫びが中途で切れるほどの膨大な質量の怒涛《ど とう》が、瞬間的に部屋の中に溢れた。
「悠二!!」
 物がのしかかってくる悪寒の中、シャナは|怒涛《ど とう》に呑まれる自分の体、そこにいる少年[#「そこにいる少年」に傍点]へと飛びついていた。上下左右もこんがらがる翻弄《ほんろう》から、四方八方から襲いかかってくる重量から、胸の内にある小さな存在を、必死に守る。
 やがて、静寂が訪れ......シャナは目を開いた。
 重みに擦《こす》れ合う物と物、それだけが見える。
「っ悠二!?」
 ハッとなって、腕の中を見る。眼下《がんか 》、ちょうど自分が上から覆い被さる形で、少女の体が抱かれていた。衝撃で気絶しているらしい。精根《せいこん》抜けるような、心からの安堵が全身に広がる。
「ふう――」
 悠二の体による吐息が、目をつむる自分の顔にかかるのを、また悠二の頬に感じる。
 それほどの近さで、互いの顔が向き合っていた。
 ふと、気づいた。
「......」
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:12:45 | 显示全部楼层
ほんの数センチ、顔を前に傾《かたむ》けさえすれば、唇と唇が、触れ合う。
<img height=600 src="img\59.jpg">
(今、悠二は私の思いのままに動く[#「今、悠二は私の思いのままに動く」に傍点])
 自分がこうしてほしい、と思ったことを全て、自分の意志で実現できる。どこまでも熱く甘く恐い、状況からの誘惑とも取れる、自身抱く願望とも思える、行為への欲求が湧く。
「......悠二」
 目覚めるのを恐れるように、小さく呼びかけるが、答えはない。
 動悸《どうき 》が胸を破るほど高まり、顔が燃えるように熱くなってゆく。
 僅か数ミリ、今までで最も近い距離まで、唇の距離が、詰まる。
 そのとき、
「悠ちゃん、シャナちゃん、今の物音はなあに?」
「ッ!!」
 千草の一声で、その倒錯《とうさく》した|想《おも》いが吹き払われた。
(――私の、バカ)
 思い、抱えている自分の顔をした少年を見つめる。
(二人で[#「二人で」に傍点]誓わなきゃ、意味がないじゃない)
「悠ちゃん、シャナちゃん?」
 千草が階段を上がってくる気配《け はい》に、慌てず騒がず、シャナは抱えた悠二の手を握る。握って願い、その一言を、唱える。
「封絶《ふうぜつ》」
 ボン、と紅蓮《ぐ れん》の炎が上へと通り過ぎ、坂井家を丸ごと包む陽炎《かげろう》のドームが形成された。
 世界の流れから内部を断絶することで隔離《かくり 》?隠蔽《いんぺい》を行う、因果《いんが 》孤立《こ りつ》空間《くうかん》『封絶《ふうぜつ》』である。〝紅世《ぐぜ》?に関わる者以外、この中では動けない。それは、人間の残り滓《かす》であるトーチも同じ。
 ただし、悠二は例外だった。彼は、そのトーチたる身の内に、時の事象に干渉する〝紅世《ぐぜ》?秘宝中の秘宝『零時《れいじ 》迷子《まいご 》』を宿す〝ミステス?なのである。
(やっぱり、悠二は、動ける)
 シャナは思い――この世界でも変わらず、今の自分、目の前の彼が、一緒に歩いてゆけることを改めて確認するかのように――静かに強く、呼びかける。
「悠二、起きて」
 そして少年は、少女に答えた。
「......ん......なにが、どう......?」
 薄く灼眼《しゃくがん》を開け、乱れた炎髪《えんぱつ》を僅《わず》かに揺すって、不意に、
「シャナ!」
 叫びとともにさっきは詰められなかった距離が一気に詰《つ》まり、
 ゴン、と額《ひたい》と額がぶつかった。
「っ! あ痛《いた》つつっ......シャナ、大丈夫なの? ごめん、僕」
「......いい。今は少し収まった[#「今は少し収まった」に傍点]から」
「えっ?」
 訝《いぶか》る悠二に、それ以上の説明を求めさせないため、強く指示する。
「それより、早くこれ、しまって。身動きも取れない」
「あ、ああ、うん」
 鼻も擦《す》れ合う間近《ま ぢか》に、自分のものとはいえ男の顔があることに、悠二はようやく気づいて慌てた。その中身がシャナであるとわかっていても、やはり男として居心地《い ご こ ち》は良いものではない。
「よし、もう一度、『夜笠《よ がさ》』にしまうよ」
「うん」
 纏《まと》った黒衣の内懐に、再び限定的な顕現が起こる。ズズズ、と予兆のような地響きがあり、そしてまた突然、周囲の物が吸い込まれ始めた。
 その風もない収容へと向かう雪崩《な だ れ》を、シャナはじっと見つめ、
「――ッ!!」
 突如《とつじょ》、その中に腕を突き入れた。
 バシッ、と何かを掴《つか》む音がするのと、全ての収容が終わるのとが、ほぼ同時。
 綺麗《き れい》さっぱり物がなくなり、重量と体積に、物が押し潰されたり襖《ふすま》が破れたりガラスに皹《ひび》が入ったりしているだけ[#「だけ」に傍点]の、元の部屋の光景が戻ってきた。
「あーあー......」
 それら、自分の過失による結果を灼眼《しゃくがん》で見やる悠二の前に、シャナは掴んだ物を差し出す。
「これ?」
 両側にレンズの付いた、卒業証書の入れ物のような、黒い筒《つつ》。
「っそれだ! シャナ、早く、早く戻らないと!」
「うん、覚悟してね[#「覚悟してね」に傍点]」
「へ?」
 シャナは、悠二の顔を悪戯《いたずら》っぽく笑わせると、筒を|覗《のぞ》き込んだ。
 向こう側に、他人のように慌てたり、戸惑《と まど》ったりしている自分が見えた。
 それがいきなり、|瞬《まばた》きする間か、その途中かで、筒を|覗《のぞ》き込む悠二に変わっていた。
「......」「......」
『シャナと悠二』は、それぞれ自分を見下《みお》ろし、触り、相手を見る。
「戻った?」
 シャナが、シャナの声と姿で訊《き》き、
「うん、戻った」
 悠二が、悠二の声と姿で頷《うなず》き返――そうとして、
「っう、あ!?」
 腹を押さえて蹲《うずくま》った。
「どうした」
 成り行きを静観していたアラストールが、ようやくと口を開く。
 悠二はそっちに答える余裕もなく、シャナに困惑と切迫の入り混じった視線を向ける。
「ちょっ、シャナ、これ......」
「早く行った方がいいわよ」
 澄《す》ました顔で、晴れやかにすっきりと、シャナはそっぽを向いた。
「そうならそうと、言って、くれ、れば......ぅうっ!」
 悠二はたまらず立ち上がり、部屋を飛び出す。
「ど、どいて母さん!」
 封絶《ふうぜつ》の中で静止する母に叫ぶ間も惜《お》しんで、少年は階段を駆《か》け下りていった。
「ふ、ふふ、あははは!」
 シャナはゴロゴロと床に転がって大笑いした。自分の声が気持ちいい。
「まさか......あのアイスクリイムか」
 いつものように胸元から掛かる声が頼もしい。
「うん。悠二の体ってヤワだね。棒アイスの二十や三十でお腹グルグルいっちゃってさ」
「まったく、要らぬ心配をかけさせる......ヴィルヘルミナ?カルメルに、少しきつく説教をしてもらわねばならぬな」
 安堵と怒りを混ぜて、アラストールは言った。
「はは、やめて、今日私に、してやられて、機嫌悪いに、決まってるんだから、あはは」
 笑い転げるシャナは、ベッドの下に行き当たった。そこで急に笑うのを止め、ずっと抱いていた疑問を、胸元の魔神にぶつける。
「......もう、聞かせてくれてもいいでしょう? どうして、これで体が入れ替わってるのが他人に知られるとまずかったの?」
 身を起こして、握っていた黒い筒を、迂闊に|覗《のぞ》き込まないよう横向けにして前にかざす。
「あまり使いたい手でもないけど、武器になるんじゃないかな。強大な〝紅世《ぐぜ》の王《おう》?が現れたりしたときに、入れ替わって不意を突いたりできるし……あ、でも〝狩人?は使わなかったから、やっぱり入れ替わることには、なにか危険性があるのね?」
 アラストールはしばらく黙っていたが、やがて嫌々《いやいや》の風も隠さず、口を開く。
「聞いたら、破壊すると約束しろ」
「......うん......?」
 どうしてそこまで念を押すのか、と不審に思うが、ともあれ約束として頷《うなず》く。提案も座興《ざきょう》程度のことで、本気ではなかった。
「一度しか言わぬ」
 と前置きしてから、アラストールはようやく答えを示す。
「あれは、互いの心の間に壁があると、効果が発現《はつげん》せぬのだ」
「?」
「おまえたちがそこまでの[#「そこまでの」に傍点]間柄《あいだがら》だと、余人《よ じん》に示すわけにはいかぬ」
「? ......」
「無論のこと、我《われ》も自ら口にしたくなどない」
「............」
「ましてや、ヴィルヘルミナ?カルメルには、絶対に言えぬ」
「その知友《ち ゆう》たる『弔詞《ちょうし》の詠《よ》み手《て》』、その子分たちに知られるわけにも、な」
「――っあ!?」
 解説の中で、ようやくその言葉の意味に気がついたシャナは、耳まで真っ赤になった。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:13:26 | 显示全部楼层
「あ、でも、あれは、違う」
「言い訳は聞かぬ」
 あっさりと、アラストールは反論を封じる。
「現象として発現した以上は、事実なのだからな。いささか以上に、認め難《がた》いことだが」
「そんな、違うの、アラストール、あの」
 シャナはもう、なにを言い訳しているのか、なにを弁解ているのか分からない。
「封絶《ふうぜつ》をかけたままだぞ。言い訳は、奥方《おくがた》にするがいい」
「う~~」
 二の句を継げず、シャナは言われるまま、封絶を解いた。
「どうしたの......あら」
 千草が、いつの間にか開いていた扉から部屋の中を|覗《のぞ》きこんで、その|惨状《さんじょう》を目にした。
 机の上の物が倒れ、雑誌類は散らばり、襖は歪《ゆが》み、ガラスに皹《ひび》も入っている。封絶を張ったのは部屋に物が溢れた後だったため、破損を修復することができなかったのである。
 これらに対するシャナの言い訳は、短い。
「ケンカしたの」
 その意味を問い質《ただ》そうとした千草は、床に座る少女の手元を見て、驚きの声を上げる。
「あっ、シャナちゃん。手、|怪我《けが》してない?」
「え?」
 言われて初めて、シャナは自分が『リシャッフル』を握り潰していたことに気がついた。図《はか》らずもアラストールとの約束を守っていた、その証《あかし》を見つめる。
 筒は握った形のままに細く潰され、両側のレンズは砕けて、もう何も映さない。
 その様に僅かな感慨を抱きつつ、頷《うなず》く。
「うん、大丈夫」
 千草が前に座って、その| 掌 《てのひら》を開けさせた。
「どうしてこんなになるまでケンカを? 悠ちゃんが悪いの? それともシャナちゃん?」
「ん......」
 事の経緯《けいい 》、驚き、苦心、戸惑い、そして――
「悠二」
 ――思えば、やっぱり答えは分かりきっていた。
「悠二が、ぜんぶ悪い」
 シャナは、その拗《す》ねたような断言を、アラストールが密《ひそ》かに笑ったように思った。



 ちなみに、余談《よ だん》。
 悠二の二度に渡る防御を実力と勘違いしたヴィルヘルミナは後日、彼に会うや不意打ちのリボンを放ち......一撃|昏倒《こんとう》の結果を得て拍子《ひょうし》抜《ぬ》けすることになる。
 またこの日の夜、シャナは平井家に帰るなり、甘いものがたくさん含まれた晩御飯(出来合いのものばかりだったが)の山に出迎《で むか》えられ、大喜びすることになる。
 いずれも、余談である。



[#地付き]終わり  
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:13:53 | 显示全部楼层
都传上去了!!希望大家会喜欢
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发表于 2006-8-4 23:15:06 | 显示全部楼层
不错的一部

[ 本帖最后由 bgx5810 于 2006-8-4 15:25 编辑 ]
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:16:55 | 显示全部楼层
以后会陆续传些日文小说的扫描页上来的!手里有不少,但我自己看不懂,至少在它们被我卖出前,可以让大家一起分享!!我的书大部分都在我的淘宝小店里了,在咖啡的个人空间里也有,有兴趣的也可以去那看看
如果您是咖啡的会员的话,请以我在咖啡个人空间里的定价为谁哦,会便宜一些

[ 本帖最后由 @@小宝工坊@@ 于 2006-8-4 15:21 编辑 ]
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:24:55 | 显示全部楼层
我只有这些了
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