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楼主 |
发表于 2006-8-4 23:11:39
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「佐藤と田中に宿題教えてやるって約束してたから、あいつらも誘ったんだけど......こういうときに限って留守なんだよな。おかげで僕は、吉田さんと二人っきりでデート気分さ」
「えっ!? い、池君!」
唐突《とうとつ》で予想外な彼の発言に、吉田は驚き慌てた。
池は非難を避けるように、中身がシャナである悠二の後ろに隠れて茶化《ちゃか 》す。
「はは、ジョークジョーク。そんなむきになって否定すると余計怪しまれるよ」
「もう」
膨れる吉田の可愛さに、悠二は自分の姿を忘れて、ついクスリと笑った。
そんなライバルの様子に、吉田はさらに膨れる。
同じく笑っていた池は、不意にポツリと、
「実は結構、本気なんだけどな」
隠れた悠二の耳元で呟《つぶや》いた。
「っ!?」
それを聞いたのは、以前彼に、その|想《おも》いのあることを告げられた少年ではなかった。
聞いて、衝撃を受けたのは、なにも知らなかった少女――自分以外の、自分を介《かい》さない人の間にも、自分と同じ|想《おも》いの綾《あや》が交錯《こうさく》していることに初めて気づかされた、少女だった。
急用があるから、と吉田と池の元から逃げ出して、悠二とシャナはようやく一息ついた。
「やれやれ、会うときには会うもんだなあ......」
悠二は小さな体から、疲労そのもののような声を吐き出した。
うん、とシャナは領く仕草《し ぐさ》だけで答える。
悠二には、吉田や池と別れてからの彼女がどこか沈んでいるように、なにか考え事をして、他のことに構《かま》う余裕がなくなっているように見えた。
(別に、なにかしたわけじゃないと思うけど......)
だいたい、こんな格好じゃなにをしようもない、と自分の姿を見下ろす。慌てて逃げ出したこと、人ごみを歩いていること、薄曇《うすぐも》りとはいえ真夏の野外《や がい》であることなどから、いい加減汗だくである。
(スカートってのは|涼《すず》しくていいけど、かわりにパンツがぴったり過ぎるんだよなあ)
などと少々下品なことを考えたりする。
(フレイムヘイズも汗をかく、か......涙だって出るんだし、当然といえば当然かな)
その、心中徒然《しんちゅうつれづれ》に浮かびあがった単語から、ふと想起《そうき 》する。
「今日、これだけ会えば、もう大丈夫だよね」
「......え?」
シャナが、頭一つ上から|訊《き》いてくる。見上げると、どことなく顔色が悪かった。
「もう知り合いには会わないだろう、ってこと」
「ヴィルヘルミナのこと? 今日は駅前の被害状況を調査する、って言ってたから、この辺りのどこかにはいると思うけど」
少女は少年の目、高い視線から、背後の駅前まで伸びている大通りを一望《いちぼう》する。
この街にいる三人目のフレイムヘイズ、『万条《ばんじょう》の仕手《して》』ヴィルヘルミナ?カルメルは、シャナを『炎髪灼眼《えんぱつしゃくがん》の討《う》ち手《て》』とすべく育て上げた人物であり、現在、シャナが滞在する平井《ひらい 》家唯一の同居人でもある(トーチとなっていた家族たちは、消滅してしまった)。
彼女は、この街に残された戦いの痕跡《こんせき》を『人間が納得できる、もっともらしい嘘』によって隠蔽《いんぺい》するため、フレイムヘイズの情報交換?支援施設たる外界宿《アウトロー》から派遣されてきた。きたのだが、先のような間柄《あいだがら》から、娘として溺愛《できあい》する少女との生活の方を、主に堪能《たんのう》している。
もちろん、そんなわけ[#「そんなわけ」に傍点]で、彼女と悠二の相性は最悪である。つい先日など、悠二は本当に殺されかけた。今ではシャナによる実力行使《じつりょくこうし》他の説得によって、その心配はなくなっていたが、未《いま》だ彼女が悠二を警戒?敵視していることに変わりはない。
そんな彼女に今の状態で会うのは、かなり危険なことと言えた。
もっとも、大通りと歩行者天国、建物や地下街を出たり入ったり、二人の周りは見渡す限りの人、人、人で、この中の一人に行き逢う偶然が起きるとは、さすがに考えにくかった。
ずっと黙っていたアラストールが念を押す。
「もし出会ったとしても決して現状を悟《さと》られてはならんぞ。いいな、決して[#「決して」に傍点]だ」
「そうまで隠さなきゃならない秘密が、あの『リシャッフル』にあ」
シャナの声で言う自分、という立場になんとなく慣れつつあった悠二は、固まった。
「どうしたの、悠《ゆう》」
シャナも固まった。
二人が見る、ファーストフードショップのガラス。
その透けて見える店内で、一人の女性が、丁度《ちょうど》こちら向きに座ってハンバーガーを食べていた。
「......」「......」「......」
三者の目線は、すでに合っている。
その女性、ヴィルヘルミナ?カルメルは、情感《じょうかん》に乏《とぼ》しい表情の中、小さな口に残りのハンバーガーを詰め込み、数回モギュモギュさせてから飲み込んだ。固まる二人を他所《よそ》に、落ち着いた挙措《きょそ 》で傍《かたわ》らにあるカップの蓋《ふた》を外し、これを飲み干すと、おもむろに立ち上がる。床に置いてあった大きな登山用のザックを軽々と背負い、出口に向かう。
二人の前方で自動ドアが開き、純白のヘッドドレスとエプロン、丈長《たけなが》のワンピースに編上《あみあ 》げの革靴、背には巨大なザックという、貫禄《かんろく》溢れるメイドが、路上に姿を現す。周囲の雑踏が、その奇天烈《き て れつ》な姿に思わず道を開けるため、彼女はすぐ、二人の前に立つことができた。
「......今日は〝狩人《かりゅうど》?の隠《かく》れ家《が》で、宝具の探索をするはずでは?」
宿題を放《ほ》っぽって外に遊びに出た子供を見つけた母親のような、詰問の口調である。
「そ、それは――」
「あなたには訊いていないのであります」
言いかけたシャナを悠二と思い、一言で制《せい》する。
彼女に殺されかけた当人である悠二は、その彼女の愛する少女の格好をしている、という状況の恐ろしさに震え出しそうな体を必死で押さえ、縮こまった下から、なんとか答える。
「いや、これは別に、サボっている、わけじゃなくて」
「馬鹿!」
シャナとしては、緊張しすぎて口調が元に戻ってる、と注意したつもりだったのだが、もちろんヴィルヘルミナの方はそう取らない。『愛する少女を罵《ののし》った身の程知らずな〝ミステス?』に対する怒りが、ビシッ、と青筋《あおすじ》として現れる。
その様子に、アラストールが慌てて助け舟を出す。
「ちと急ぎの用があるのだ、行くぞ二人とも」
「う、うん、分かった」
悠二はぎこちなく言い、
「じゃあ、後でね、ヴィルヘルミナ[#「ヴィルヘルミナ」に傍点]」
シャナは気の急《せ》くまま、つい常のように彼女をファーストネームで呼び捨てにしていた。
怒れるヴィルヘルミナ、
「――ッ!!」
その先鞭《せんべん》として、目にも留《と》まらぬ速さで少年の側頭《そくとう》めがけ走った白いリボンが、
ボン!
と|破裂《は れつ》にも似た音を残して、防がれた。
悠二の体を待ったシャナが、ボクシングにおけるガードの姿勢を片腕で取るように、顔の横に腕を立てていた。その前腕部《ぜんわんぶ 》に広がる打撃の余韻《よ いん》に、少年の顔を顰《しか》める。
周囲の人々は、突然の破裂音がどこで起きたのか分からず、上空や周囲を見回す。
ヴィルヘルミナの振るった神速のリボンは、防がれるや彼女の後ろ腰、エプロンの結び目に戻っているので、常人にはなにが起こったのか理解できない。
「......!?」
罰《ばつ》として与えたはずの一撃を防がれたヴィルヘルミナは、驚きとともに少年を見た。
悠二の中でシャナは、自分の迂闊《う かつ》さに歯噛《はが》みする。
(しまった、焦ってたから[#「焦ってたから」に傍点]、つい反射で......)
リボンの一撃に込められた力は、まともに打たれても転ぶ程度のものでしかなかった。
それを下手に防いだ[#「下手に防いだ」に傍点]ことで、かえって彼女の怒りを煽る結果となっている。非常に、まずい。
同じく次の脅威を感じた悠二は、できるだけシャナっぽい制止を試《こころ》みる。
「ヴィルヘルミナ、もう、いいでしょ」
しかし、強情《ごうじょう》な彼女はそれには答えず、もう一撃。
パパン!
とさっきより一段大きな音が響いた。
「ガ、ガス爆発か?」「誰か悪ふざけで風船割ってんじゃない」「銃とかじゃないよね」
周囲の雑踏はざわめき言い合いつつ、脚を速めて入れ替わってゆく。
その中に取り残され、道の真ん中に立つ三人だけが、事態の真実を知っている。
ヴィルヘルミナのリボン、今度は左右からの見えない二連撃《に れんげき》だった。
シャナは再び悠二の体で、腰を低く沈めた、両腕によるガードの姿勢を取っている。
(今度は、吹っ飛ばすほどの力だった)
次はさらに強い一撃で来るだろう。もう素直に攻撃を受け続けるわけにはいかない。
(こんなこと、してる暇はないのにぃ......!)
どうしてヴィルヘルミナはこんなに負けず嫌いで意地っ張りなの、とシャナは自分のことを棚に上げて呆れ、なにより焦る。
そんな緊急事態に、悠二は少女の姿でオロオロし、なんとか諍《いさか》いを避ける方法を模索する。危難に際して鋭く切れる、と定評のある彼の頭は、このとき働いたのか働かなかったのか。
とにかくいきなり、シャナの声で叫んでいた。
「ヴィルヘルミナ、大好き!」
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人々が足を止め、周囲の時間が止まったような静寂があり......そして、声を受けた養育係の女性は殺気を霧散《む さん》させ、耳まで真っ赤に染めて固まった。この隙《すき》に、
「逃げるよ!」
悠二は高い場所にある自分の手を取って、咄嗟《とっさ 》に駆け出した。
「あっ!? ......な、なんてこと、言うのよ」
羞恥《しゅうち》に頬《ほお》を染める自分、という嫌な絵面《え づら》を見ないよう先に走りつつ、悠二は答える。
「嘘じゃないだろ。前の仕返しのつもりで、逆のことを言ってやったのさ」
「そりゃ、たしかに嘘じゃ、ないけど......」
ムニュムニュと口の中だけで文句を言うシャナを引いて、悠二は走り続けた。 |
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