咖啡日语论坛

 找回密码
 注~册
搜索
12
返回列表 发新帖
楼主: ルルティア

[好书连载] [完結]ダンス・ダンス・ダンス 村山春樹

[复制链接]
 楼主| 发表于 2008-2-25 23:46:16 | 显示全部楼层
彼女は最後にひとつゆっくりと溜め息をついた。すごく長い溜め息だった。自分でも長すぎると思ったのか、あとで顔を上げて神経質そうな目で僕を見た。
「仕事が大変なの?」と僕は訊いてみた。
「ええ」と彼女は言った。「けっこう大変なんです。まだよく仕事に馴れてないし、ホテル自体開業して間もないから、上のほうもいろいろピリピリしてるし」
彼女はテーブルの上に両手を出して、指を組んだ。小指に一本だけ小さな指輪がはまっていた。飾り気のない、ごくあたり前の銀の指輪だった。僕と彼女は二人でしばらくその指輪を見ていた。「その古いドルフィン・ホテルのことなんですけど」と彼女は言った。「でも、あなた、取材とかそういう関係の人じゃないですよね?」
「取材?」と僕はびっくりして聞き返した。「どうしてまた?」
「ちょっと訊いただけ」と彼女は言った。
僕は黙っていた。彼女は唇を噛んだままひとしきり壁の一点を眺めていた。
「少しごたごたがあったらしくて、それで上の方がすごく警戒してるんです。マスコミのことを。土地の買収とか、そういうことで……。わかるでしょ?そういうの書きたてられるとホテルとしては困るわけ。客商売だから。イメージが悪くなるでしょう?」
「これまでに何か書かれたことはあるの?」
「一度、週刊誌にね。汚職まがいのこととか、立ち退き拒否してた人を会社がヤクザか右翼を使って追い出したとか、そういうようなこと」
「それで、そのごたごたに昔のドルフィン・ホテルが絡んでいるわけ?」
彼女は小さく肩をすくめて、ブラディー・マリーをすすった。「多分そうじゃないかしら。だからマネージャーもそのホテルの名前が出てきて、警戒したんだと思うの、あなたのことを。ね、警戒してたでしょう?でも本当に私それについては詳しいことは知らないんです。ただこのホテルにドルフィン・ホテルっていう名前がついたのは、その前のホテルとの絡みがあったからだって話は聞いたことがあります。誰かから」
「誰から?」
「黒ちゃんの一人から」
「黒ちゃん?」
「黒服を着た連中のこと」
「なるほど」と僕は言った。「それ以外に何かドルフィン・ホテルについて耳にしたことはある?」
彼女は何度か首を振った。そして左手の指で右手の小指のリングをいじった。「怖いんです、私」と彼女は囁くように言った。「怖くてたまらないの。どうしようもないくらい」
「怖い?雑誌に取材されることが?」
彼女は小さく首を振った。そしてしばらくグラスの縁に唇をそっとつけていた。どう説明すればいいものか、思い悩んでいるみたいだった。
「違うんです。そうじゃないの。別に雑誌のことなんてどうでもいいんです。だって、雑誌に何が出たって私は関係ないもの。そうでしょう?上の方の人が慌てるだけだわ。私が言ってるのは全然別のことなの。あのホテル全体のこと。あのホテルには、つまりね、何かちょっとおかしいところがあるんです。ちょっとまともじゃないっていうのかな…歪んでいるところがあるの」
彼女は黙った。僕はウィスキーを飲み干し、おかわりを注文した。そして彼女のためにも二杯めのブラディー・マリーを取った。
「どんな風に歪んでいると感じるわけ、具体的に言って?」と僕は訊いてみた。「もし何か具体的にあればということだけれど」
「もちろんあります」と彼女は心外そうに言った。「あるけれど、それを上手く言葉にするのがむずかしいんです。だからそれについては今まで誰にも話したことがないの。感じたことはすごく具体的なんだけど、いざそれを言葉にしてみるとそういう具体性みたいなのがどんどん薄れていっちゃうんじゃないかという気がするんです。だから上手く話せないの」
「リアルな夢みたいに?」
「夢とはまた違うの。夢というのは、私もよく見るけれど、時間が経つと後退していくの。そのリアルさが。でもあれはそうじゃない。いつまで経っても同じなんです。いつまでもいつまでもいつまでも、リアルなの。いつまで経っても、そこにそのままあるの。さっと目の前に浮かぶんです」
僕は黙っていた。
「いいわ、何とか話してみます」と彼女は言って、酒を一口飲んだ。そして紙ナプキンで口を拭った。「一月だったわ。一月の始め。お正月が終わってちょっと経った頃。その日私は遅番でーー遅番ってあまりやらないんだけど、その日は人がいなくて仕方なかったわけーーそれでとにかく、仕事が終わったのが夜中の十二時ごろだったの。その時間に仕事が終わると、会社がタクシーを呼んで、みんなを順番に家に送り届けてくれるの。もう電車もないから。それで、十二時前に仕事が終わって、私服に着替えて、十六階まで従業員用のエレベーターで上がったんです。十六階には従業員の仮眠室があって、私そこに本を忘れてきたからなの。別にそんなの明日でもよかったんだけど、まあ読みかけだったし、それにもう一人いっしょのタクシーで帰ることになっていた女の子の仕事がちょっと手間取ってたんで、だからまあいいやついでだからと思って取りに上がったの。十六階には客室とは別にそういう従業員用の設備があるんです。仮眠室とか、ちょっとやすんでお茶を飲むところとか。だからちょくちょく行くことあるんですo
それでね、エレベーターのドアが開いて、私ごく普通に外に出たわけ。何も考えないで。ほら、そういうことってあるでしょう?いつもいつもやり馴れていることとか、行き馴れている場所とかって、特に何も考えないで行動するでしょう、反射的に?私もさっとごく自然に足を踏み出したの。考え事してたんだと思う、何かきっと。何だったかは覚えてないけど。コートのポケットに両手を突っ込んだまま、廊下に立ってふと気づくと、あたりが真っ暗なの。まったくの真っ暗。はっとして後ろを見ると、エレベーターのドアはもう閉まってるの。停電かな、と思ったわ、もちろん。でもそんなことありえない。まず第一にホテルはしっかりした自家発電装置を持ってるの。だからもし停電があったとしても、すぐにそっちに切り換えられるわけ。自動的に、ぱっと。本当にすぐに。私もそういう訓練に立ち会ってるから、よく知ってるの。だから原理的に、停電というのは存在しないの。それにね、もし万が一、自家発電装置も故障したとしても、廊下の非常灯は点いてるはずなのよ。だから、こんな真っ暗になるわけがないの。廊下は緑色の光で照らされているはずなの。そうでなくてはならないの。あらゆる状況を考慮しても。
ところが、その時、廊下は真っ暗だったの。見える光といえばエレベーターのボタンと階数表示だけ。赤いデジタルの数字。私はもちろんボタンを押したわよ。でもエレベーターはどんどん下に行っちゃって、戻ってこないの。やれやれと思って、私はまわりを見回してみたの。もちろん怖かったけれど、でもそれと同時に面倒だなあとも思ったの。どうしてかわかる?」
僕は首を振った。
「つまりね、こんな風に真っ暗になっちゃうというのは、何かホテルの機能に問題があったということでしょう?機械的にとか、構造的にとか、そういうこと。するとまたえらい騒ぎになるのよ。休日返上で仕事させられたり、訓練訓練で明け暮れたり、上がぴりぴりしたり。そういうの、もううんざり。やっと落ち着いたばかりなのにね」
なるほど、と僕は言った。
「それで、そういうことを考えていると、だんだん腹が立ってきたわけ。怖いよりも腹立たしさの方が強かったわけ。それで私、どうなっているかちょっと見てやろう、と思ったの。で、二、三歩歩いてみたの。ゆっくりと。するとね、何か変なの。つまり、足音がいつもと違うのよ。私はその時ローヒールの靴を履いていたんだけれドイツもとは歩き心地も違うの。いつものカーぺットの感触じゃないのよ。もっとゴツゴツしてるの。そういうのって、私敏感だから、間違えたりしないわ。本当よ。それからね、空気がいつもと違うの。何と言えばいいのかな、黴っぽいのね。ホテルの空気とは全然違う。うちのホテルはね、完全に空気を空調でコントロールしているの。すごく気をつかってるの。普通の空調じゃなくて、良い空気を作って送ってるの。他のホテルみたいに乾燥しすぎて鼻が乾いたりしないように、自然な空気を送っているの。だから、黴臭いなんてことは、考えられないのよ。そこにあった空気はね、一口でいうと、古い空気。何十年も前の空気。子供のころ、田舎のおじいさんの家に遊びに行って、古いお蔵を開けて嗅いだような、そんな臭いなの。いろんな古いものが混じり合って、じっと澱んでいるようなね。
私はもう一度エレベーターを振り返ってみたの。でもこんどはもうエレベーターのスイッチランプも消えちゃっているの。何も見えないの。全部死んじゃったのよ、完全に。そりゃ怖かったわ。当たり前でしょう?真っ暗な中に私一人きりなんですもの。怖いわよ。でもね、変なの。あまりにもあたりが静かすぎるの。しーんと静まりかえっているの。物音ひとつしないの。変でしょう?だって停電して真っ暗になっちゃったのよ。みんな騒ぎだすはずでしょう?ホテルはほぼ満室だったし、そんなことになったらえらい騒ぎになってるはずですもの。なのに、気味が悪いくらい静かなわけ。それで私、何が何だか訳がわからなくなったの」
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-5-11 19:47:33 | 显示全部楼层
刚开始学习日语,希望以后可以看懂楼主所发的内容~村上春树的蛮不错噢“每个人都有属于自己的一片森林,迷失的迷失了,相逢的人会再相逢”
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-5-20 15:36:11 | 显示全部楼层
本当に難しいね
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-5-22 15:47:31 | 显示全部楼层
不全?????
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-5-22 16:04:53 | 显示全部楼层
完了吗??
怎么读到最后感觉好像还有? 最后一章贴了2遍?
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-5-27 17:23:20 | 显示全部楼层

没完啊。。。

才到第七章。。。。。。。。。。。。。后面的没了啊
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-6-4 05:51:47 | 显示全部楼层
ひとつファイルを纏めればいいなーと思いますけれども・・・
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-6-6 17:57:04 | 显示全部楼层
あとで図書館で確認してみる。完結かな?
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-10-19 14:18:53 | 显示全部楼层
楼主附件里什么格式啊
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-12-4 18:49:54 | 显示全部楼层
真是很感谢啊。。。。
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-12-22 10:46:09 | 显示全部楼层
10# ルルティア
回复 支持 反对

使用道具 举报

您需要登录后才可以回帖 登录 | 注~册

本版积分规则

小黑屋|手机版|咖啡日语

GMT+8, 2024-5-5 08:47

Powered by Discuz! X3.4

© 2001-2017 Comsenz Inc.

快速回复 返回顶部 返回列表