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第四章 羊をめぐる冒険Ⅰ
1 奇妙な男のこと 序 (1)
一人の人間が習慣的に大量の酒を飲むようになるには様々な理由がある。理由は様々だが、結果は大抵同じだ。
导致一个人习惯地大量喝酒有各种各样的理由。虽然理由千万种但其结果是一样的。
一九七三年には僕の共同経営者は楽しい酔払いだった。一九七六年には彼はほんの少し気むずかしい酔っ払いになり、そして一九七八年の夏には初期アルコール中毒に通ずるドアの把手に不器用に手をかけていた。多くの習慣的飲酒者だそうであるように、素面の時の彼は鋭敏(えいびん)とは言えないにしてもまともで感じの良い人間だった。誰もが彼を鋭敏とは言えないにしてもまともで感じの良い人間だと考えていた。彼も自分自身についてそう考えていた。だから酒を飲んだ。アルコールが入ると自分がまともで感じの良い人間であるという考え方にしっくり同化できそうな気がしたからだ。
在一九七三年的时候,我的合作经营伙伴是一位快乐的醉汉。到一九七六年成了难以侍候的醉汉,到一九七八年的夏天开始表现有酒精中毒,很笨拙地把手放到通行的门把上。很多习惯性喝酒的人都像他那样,在不喝酒的时候虽不能说其敏锐但至少是正常的人感觉不错的人。谁都会认为,虽说他不是敏锐的人但却是正常的人感觉不错的人。他对自己自身也是这样认为的。所以才喝酒。酒精一旦进入身体,他就认为自己是正常的人感觉不错的人,而且坚信是正确的。
もちろん始めのうちはそれがうまくいった。しかし時が経ち酒量が増えるにつれて、そこに微妙な誤差が生じ、微妙な誤差はやがて深い溝となった。彼のまともさと感じの良さがあまりにも先に進みすぎて、彼自身にさえ追いつけなくなってしまったのだ。よくあるケースだ。しかし大抵の人間は自分自身をよくあるケースだと考えたりはしない。鋭敏ではない人間ならなおさらだ。彼は見失ったものと再会するために、より深いアルコールの霧(きり)の中を彷徨(ほうこう)いはじめた。そして状況は一層悪くなった。
当然刚开始的时候还能很好地正常进行。但是随着时间的推移和酒量的增加,就开始产生微妙的误差,随后这微妙的误差发展成为深沟。他的所谓的正常性和感觉的良好性快速向前进展,连他自身也追赶不上了。这是很好的事例。但是大部分人并不认为把自己当成一种很好的事例。若不是敏锐的人就更糟糕。他为了再找回已经丢失的东西,就在更深的醉酒之中晕迷不醒。其状况就更加恶化一步。
しかし少くとも今のところ、彼は日が暮れるまではまともだった。僕はもう何年に日が暮れてからの彼とは意識的に顔をあわせないようにしていたから、僕に関する限り彼はまともだった。それでも日が暮れてからの彼がまともでないことは僕もよく知っていたし、彼自身も知っていた。我々はそのことについては一切(いっさい)触れなかったけれど、お互いがそれを知っていることを了解していた。我々はあいかわらずうまくやってはいたけれど、もう昔のような友達ではなくなっていた。
但是发展到现在,他在天黑之前是正常的。特意不在天黑之后和他见面,已经有几年了。在我这个范围内他是正常的。但是我很清楚天黑之后他并不正常。他自己也很清楚。我们从来也不提及那件事,但是相互之间都很清楚都知道那些事。我们虽然都还保持原来状态很好地向前发展,但已经不像是以前那样的好朋友了。
百パーセント理解しあっているとはいえないにしても(七十パーセントもあやしいとは思うけれど)少なくとも彼は僕の大学時代の唯一の友人だったし、そんな人間がまともでなくなっていくのをすぐ近くで見るのは僕にとってもつらいことだった。しかし結局のところ、年をとるというのはそういうことなのだ。
尽管不能说100%相互理解(但至少可以70%地想)他是我大学时候的唯一朋友。在最近距离内看到他朝不正常方向发展,对我来说非常痛苦。但是最后的结局,可以说是因为年龄大了。
僕が事務所に着いた時、彼は既にウィスキーを一杯飲んでいた。一杯で止めているかぎり彼はまともだったが、飲んでいることに変わりなかった。いつかは二杯飲むようになるかもしれない。そうなれば僕はこの会社を離れて、別の仕事を探すことになるだろう。
我到办公室的时候,他已经喝了一杯威士忌。若只限喝一杯,他还正常。但对喝这个状态是改变不了的。到时候也许会变成喝两杯。到了那个时候我就离开这个公司,去寻找别的工作了。
僕はエアコンの吹き出し口の前に立って汗を乾かしながら、女の子が持ってきてくれた冷たい麦茶を飲んだ。彼は何も言わず、僕も何も言わなかった。午後の強い日差しが幻想(げんそう)的なしぶきのようにリノリウムの床に降り注いでいた。眼下には公園の緑が広がり、芝生の上に寝転んでのんびりと体を焼いている人々の姿が小さく見た。相棒はボールペンの先で左の手のひらをつついていた。
我站在空调出风口的前面把汗吹干,把女办事员送来的凉麦茶喝完。他一言也不发,我也一言不发。午后强烈的日光就像幻想的水花那样照射到铺有油毡的地板上。楼下公园充满了绿色,随意躺在草坪上晒身体的人们,看上去变得那么渺小。同事用圆珠笔在左手掌上戳着。
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