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9 鏡に映るもの?鏡に映らないもの(5)
「顔色が悪いよ」と羊男が言った。
僕はソファーに腰を下ろし、何も言わずに缶ビールのふたを開けてひと口飲んだ。
「きっと風邪をひいたんだよ。慣れない人にはここの冬は寒いからね。空気も湿っているし。今日は早く寝た方がいい」
「いや」と僕は言った。「今日は寝ないよ。ここですっと友だちを待つんだ」
「今日来るってわかるのかい?」
「わかるよ」と僕は言った。「彼は今夜十時にここに来るんだ」
羊男は何も言わずに僕を見ていた。マスクからのぞく目にはまるで表情というものがなかった。
「今晩荷づくりをして、明日には引きあげるよ。彼に会ったらそう伝えておいてくれ。たぶんその必要もないと思うけれどね」
羊男はわかったといった風に肯いた。「あんたが行ってしまうとさびしいよ。まあ仕方ないことだとは思うけどね。ところでチーズ?サンドウィッチをもらっていいかな?」
「いいよ」
羊男は紙ナプキンにサンドウィッチをくるみ、ポケットに入れると、手袋をはめた。
「会えるといいね」と帰り際に羊男は言った。
「会えるさ」と僕は言った。
羊男は草原を東の方に去っていった。やがて雪のブェールがすっぽりと彼を包んだ。あとには沈黙だけが残った。
僕は羊男のグラスにブランデーを二センチばかり注ぎ、一息で飲み下した。喉が熱くなり、やがて胃が熱くなった。そして三十秒ほどで体の震えがとまった。柱時計が時を刻む音だけが誇張されて頭の中で鳴り響いていた。
たぶん眠るべきなのだろう。
僕は二階から毛布を取ってきて、ソファーの上で眠った。僕は三日間林の中をさまよい歩いた子供のようにぐったりと疲れていた。目を閉じた次の瞬間にはもう眠っていた。僕は嫌な夢を見た。とても嫌な、思い出せないほど嫌な夢だった。
“你的脸色不好!”羊男说。
坐到沙发上,我什么也不说打开啤酒瓶盖喝了一口。
“肯定是感冒了。对不习惯的人,这里的冬天很冷。还有空气潮湿。今天早一点休息为好。”
“不,”我说。“今天不睡了。在这里要一直等到朋友来。”
“你知道他今天要来?”
“知道。”我说。“他在今天晚上十点钟来这里。”
羊男什么也不说只看着我。透过面具窥探的眼中几乎没有表情。
“今晚要打理行李,明天要撤走。若你能见到他请转达一下。不过我想也没有那个必要了。”
羊男像听明白了似的点点头。“你走后就很寂寞了。这也没有什么办法。那么让我带走奶酪可以吗?”
“可以呀。”
羊男用餐巾纸包了奶酪,装入口袋后戴上了手套。
“希望你们能见到。”离开时羊男说。
“会见到的。”我说。
羊男穿过草原朝东方而去。一会儿他完全被雪罩住。之后留下的只是沉默。
我朝羊男的杯子里只倒了两厘米的白兰地,一口气喝了下去。喉咙发热,然后胃发热。然后30秒后左右身体的震动停止下来。只有钟表报时的声音被放大在脑中回响。
必须要睡觉了。
我从二楼拿下被子,躺在沙发上睡觉。像是在森林中流浪走失三天的孩子那样十分疲泛劳累。闭上眼睛后的瞬间就睡着了。
我做了很讨厌的梦。非常讨厌的想像不出的讨厌的梦。
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