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11 闇の中に住む人々(1)
「いいとも」と僕は言った。
「約束の時間より一時間も早く来すぎちゃったよ」と鼠は済まなそうに言った。
「いいさ。見てのとおりずっと暇なんだ」
鼠は静かに笑った。彼は僕の背後にいた。まるで背中あわせに座っているような感じだった。
「なんだか昔みたいだな」と鼠は言った。
「きっと我々はお互いに暇をもてあましている時にしか正直に話し合えないのさ」と僕は言った。
「どうもそうらしいね」
鼠は微笑んだ。漆黒の闇の中で背中あわせになっていても彼の微笑みはわかる。ちょっとした空気の流れと雰囲気だけで、いろんなことがわかる。かつて我々は友だちだったのだ。もう思い出せないほど昔の話だ。
「でも暇つぶしの友だちが本当の友だちだって誰かが言ってたな」と鼠は言った。
「君が言ったんだろう?」
「あいかわらず勘がいいね。そのとおりだよ」
僕はため息をついた。「しかし今回のこのドタバタに関しては、僕はおそろしく勘が悪かった。死んでしまいたいくらいだよ。君たちがあれほど沢山ヒントをくれたのにね」
「仕方ないさ。君はよくやった方だよ」
我々は黙った。鼠はまた自分の手をじっと眺めているようだった。
「君にはずいぶん迷惑をかけてしまったな」と鼠は言った。「本当に悪かったと思うよ。しかしそれしか方法がなかったんだ。君以外には頼れる人間がいなかったんだよ。手紙にも書いたようにね」
「それについて話が聞きたいな。このままじゃ納得できないからさ」
「もちろんさ」と鼠は言った。「もちろん話す。でもその前にビールも飲もう」
僕が立ちあがりかけたのを鼠が押しとどめた。
「俺がとってくるよ」と鼠は言った。「なにしろここは俺の家だからね」
鼠が闇の中を慣れた足取りで台所まで歩き、冷蔵庫から缶ビールをひとかかえ取り出している音を聞きながら、僕は目を閉じたり開けたりしていた。部屋の暗闇と目と閉じた時の暗闇とでは暗闇の色が少し違う。
鼠が戻ってきてテーブルの上に缶ビールを何本を置いた。僕は手さぐりで一本つかみ、プルリングを取って半分飲んだ。
「目が見えないとビールじゃないみたいだな」と僕は言った。
「悪いとは思うけれど。暗くないとまずいんだ」
我々はしばらく黙ってビールを飲んだ。
「さて」と鼠は言って咳払いをした。僕はからになった缶をテーブルの上に戻し、毛布にくるまったまま相手が話しはじめるのをじっと待った。しかしそのあとの言葉は続かなかった。闇の中で鼠がビールの残りの量をたしかめるために缶を左右に振る音が聞こえただけだった。いつもの癖だ。
“可以交谈。”我说。
“和约定的时间提前一小时来了。”老鼠将就地说。
“没关系了。你也看到了,我一直在等着。”
老鼠静静地笑了。他在我的背后。就像是背靠背那样坐着。
“怎么,你也没有什么改变。”老鼠说。
“我们相互之间闲得无聊时才能老实交谈了。”我说。
“的确是这样。”
老鼠微笑起来。虽在漆黑的黑暗中背靠背坐着我也知道他在微笑。因为空气的流动和这个氛围,也能明白所有的事。毕竟我们是朋友。当然那是已经想不出来的老话。
“是谁说过消遣的朋友才是真正的朋友。”老鼠说。
“就是你说的吧。”
“你的灵感仍旧不错,没有变化。”
我喘了口气。“但是关于这次的胡闹事件,恐怕我的灵感就完蛋了。都到了想要死的状态了。虽然你们也给了那么多的启示。”
“没办法。你是个喜欢干事的家伙。”
我们停了一会儿。老鼠还在盯着自己的手。
“你是一直处在困惑之中。”老鼠说。“实在不好意思。但是也只有这种办法。除你之外没有可依靠的人。在信中也这样写过。”
“就此想听听你的说法。若只是这样说我是理解不了的。”
“那是当然了。”老鼠说。“当然要详细说了。在这之前喝点啤酒可以吗?”
我本想要站起来,老鼠把我摁了下去。
“还是我去拿吧。”老鼠说。“毕竟这是我的家了。”
老鼠在黑暗中用很习惯的脚步走到厨房。听到他从冰箱里取出一梱啤酒的声音,我一会儿闭眼一会儿睁开眼。房间的黑暗和闭上眼睛的黑暗的程度有点差别。
老鼠回来往桌子上放了几罐啤酒。我用手摸着拿到一罐,打开啤酒后喝了一半。
“眼睛看不见这不像是啤酒似的。”我说。
“这个不好意思。若不再黑暗有些不妥。”
我们一句话不说,等了一会儿,又喝了啤酒。
“那么,”老鼠说着咳嗽一声。我把空罐放到桌子上,用被子裹上,耐心地等着对方说话。但是之后他并没有继续说。在黑暗中只听到了老鼠为了弄清所剩余啤酒还有多少而摇动酒罐的声音。这是他的癖好。
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