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「僕と車とでたすけあっているんだ。簡単に言えば。つまり、僕がここの空間に入る。僕はこの車を愛していると思う。するとここにそういう空気が生じる。そして車もそういう空気を感じる。僕も気持ち良くなる。車も気持ち良くなる」
「機械も気持ち良くなるの?」
「もちろんなる」と僕は言った。「どうしてかはわからない。でも機械も気持ち良くなったり、頭に来たりする。理論では解明できないけれど、経験的に言ってそうなんだ。間違いない」
「人間が愛しあうのと同じように?」
僕は首を振った。「人間とは違う。こういうのはね、その場にとどまっている感情なんだ。人間に対する感情というのはそれとは違う。相手にあわせていつも細かく変化している。揺れ動いたり、戸惑ったり、膨らんだり、消えたり、否定されたり、傷ついたりする。多くの場合意識的に統御することはできない。スバルに対するのとは違う」
ユキはそれについてしばらく考えていた。「奥さんとは通じあえなかったの?」とユキが訊いた。
「通じ合えていると僕はずっと思っていた」と僕は言った。「でも僕の奥さんはそう考えなかった。見解の相違。だから何処かに行っちゃったんだ。たぶん見解の相違を訂正するよりは他の男の人と何処かに行っちゃう方が話が早かったんだろうね」
「スバルみたいには上手くいかなかったのね?」
「そういうことだね」と僕は言った。やれやれ、いったい十三の女の子相手に話す事柄か、これが。
「ねえ、私のことはどう思う?」とユキが訊いた。
「僕はまだ君のことを殆ど何も知らない」と僕は言った。
彼女はまた僕の左側の頬をじっと見つめた。そのうちに左側の頬に穴が開くんじゃないかという気がした。それくらい鋭い視線だった。わかったよ、と僕は思った。
「君は僕がこれまでにデートした女の子の中ではたぶんいちばん綺麗な女の子だよ」と僕は前の路面を見ながら言った。「いや、たぶんじゃない。間違いなくいちばん綺麗だよ。僕が十五だったら確実に君に恋をしていただろうね。でも僕はもう三十四だから、そんなに簡単に恋はしない。これ以上不幸になりたくない。スバルの方が楽だ。そういうところでいいだろうか?」
ユキは今度は平板な視線で僕をしばらく見ていた。そして「変な人」と言った。彼女にそう言われると僕は自分が本当に人生の敗残者になったような気がした。たぶん悪気はないのだろう。でも彼女にそう言われると結構こたえるのだ。
“我和车在相互帮助之中。可以简单地这么说。就是说我进入了这个空间之中。我想,我正在爱着这车。因此在这里就产生了那样的气氛。接着车也感受到了那样的气氛。我的心情自然也就好,车的心情也自然好。
“机械也能有好心情吗?”
“那是当然的了。”我说。“但为什么这样我说不清楚。可是机械心情好,就会反应到脑子里。虽然说理论上解释不清楚,凭经验性地讲就是那样。这个没错。”
“就和人们相爱那样相同?”
我摇了摇头。“和人不同。这种事,就是停留在那里的感情。当然和对人的感情是不同的。为了适应对方总是不停地细微地变化着。摇动、困惑、膨涨、消失、被否定、受伤等等。在多种情形下意识性地统治是不可能的。但对斯巴鲁有所不同。”
雪对此想了一会儿,问道:“你和夫人并不互相领悟?”
“我一直在想,是相通的。”我说。“可是我的夫人她却并不那样想。见解不同。所以就去了什么地方。和改正不同的见解相比,与别的男人一起到什么地方会更好一些。”
“像斯巴鲁并不能很好地出发?”
“是的。”我说。哎呀呀,和十三岁的女孩所说的话题,是这个吗?
“那么,对我你怎么想?”雪问。
“我还完全不知道你的事。”我说。
她还在一直看着我左侧的脸。甚至感觉到要在左脸上是不是打开一个洞。就是那么锋利的视线。明白了。我想。
“你是我至今所认识的女孩中大概最漂亮的女孩。”我看着前面的路面说。“不,不是大概。绝对是最漂亮的。我若只是十五岁的话肯定会爱上你。可是我现在已经三十四岁了,并不能那么简单地恋爱了。并不想产生什么不幸。很喜欢斯巴鲁。这样处理如何?”
雪这会儿用普通的视线看了我一会儿。接着说“真是奇怪的人。”被她这样说了以后我确实认识到自己真是人生的残兵败将。当然也并没有什么恶意吧。被她说后我正好这样说。 |
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