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19(4)
「この部屋に来たんだ。どうして来たのかはわからない。電話がかかってきて、遊びに行っていいかって言うんだ。もちろんいいって言った。そして二人で昔みたいに酒を飲んで、話をして、そして寝た。すごく素敵だったよ。彼女は僕のことがまだ好きだと言った。僕は君とやりなおせたらどんなに素敵だろうって言った。彼女は何も言わなかった。にこにこして話を聞いているだけだった。僕は平凡な家庭の話をした。さっき君に言ったようなやつさ。彼女はやはりにこにこして話を聞いていた。でも本当はそんなのぜんぜん聞いてないんだ。最初から聞いてないんだ。話していても手応えというものがないんだ。まるっきり無駄なんだよ。彼女はただ寂しくて誰かに抱かれたかっただけなんだよ。たまたまその相手が僕だったというだけのことなんだ。ひどい言い方かもしれないけど、本当にそうなんだよ。彼女は僕や君とは全然違うんだ。寂しいというのは彼女にとっては誰かに解消してもらう感情なんだ。誰かが解消してやればそれでいいんだ。それでおしまい。そこからどこにもいかない。でも僕はそうじゃない」
レコードが終わり、沈黙が訪れた。彼は針を上げ、しばらく何かを考えていた。
「ねえ、女を呼ばないか?」と五反田君は言った。
「僕は何でも構わないよ。君の好きにすればいい」と僕は言った。
「金を払って女と寝たことはある?」と彼が訊いた。
ない、と僕は言った。
「どうして?」
「思いつきもしなかった」と僕は正直に答えた。
五反田君は肩をすぼめて、それについてしばらく考えていた。「でも今夜は僕につきあった方がいい」と彼は言った。「キキと一緒に来てた女の子を呼ぶよ。何か彼女についてわかるかもしれない」
「君にまかせる」と僕は言った。「でもまさかこれは経費じゃ落ちないだろう?」
彼は笑いながらグラスに氷を入れた。「信じないかもしれないけど、落ちるんだよ、それ。そういうシステムになってるんだ。パーティー?サービス会社という建前になっていて、ちゃんとクリーンなぴかぴかの領収書を切ってくれるんだ。調べが入っても簡単にはわからないような複雑な仕組みになっている。そして女と寝るのが見事に接待費になる。凄い世の中だ」
「高度資本主義社会」と僕は言った。
女の子が来るのを待っている時に、僕はふとキキの素敵な耳のことを思い出して、五反田君にキキの耳を見たことがあるかと聞いてみた。
「耳?」とよくわからない顔をして彼は僕を見た。「いや、見てないな。見たかもしれない、覚えていない。耳がどうかしたの?」
なんでもない、と僕は言った。
“来到这个房子里。具体怎么来的就不明白了。先电话打过来说,问可不可以去玩?当然可以,我说。之后两人像过去那样喝酒、聊天,然后睡觉。非常舒服。她说,还在保持很喜欢我。我说,若和你能重归于好有多好呢?她什么也不说,只是微笑着听我讲。我说了我出身平凡的家庭,就和刚才讲给你的那个家伙一样。她还是在笑着听我讲。可是实际上一点也没听。从最开始就没有听。无论说什么却一点效果也没有。完全无用的。她只是因为寂寞想得到谁来拥抱。只是偶尔把我当我其中的对象罢了。说法也许过分,但实际上的确就是那样。她和我、和你完全不一样。所谓的寂寞对她来讲从谁哪里解闷领得感情。谁能给她解闷就足够了。就此而已。从那里出发哪里也不能去。可是我却并不那样。”
唱盘结束了,沈默降临。他把指针放好,想了一会儿什么。
“那么,不叫女人来吗?”五反田说。
“对我无所谓,只要你喜欢即可。”我说。
“花钱和女人睡觉有没有?”他问。
“没有。”我说。
“怎么回事呢?”
“没有那样想过。”我正直地回答。
五反田耸耸肩,对此他想了一会儿。“那么今晚,陪陪我如何。”他说。“把和奇奇一起来过的那位女的叫来。有什么问题她也许清楚。”
“非常麻烦你了。”我说。“可是,这个付费的怎么办?”
他一边笑着一边往玻璃杯中加冰。“你可能不信,需要从经费里开销。就是那样的一个系统。在派对服务公司建立之前,就开始拿到光明正大闪闪发光的票据。即便是深入调查也是不容易弄明白这样的复杂的结构。而且和女人睡觉之事很漂亮地变成接待费。令人可怕的社会。”
“高度资本主义社会。”我说。
在等女人来之前,我突然想起了奇奇的漂亮的耳朵,就向五反田问:你看见过奇奇的耳朵吗?
“耳朵?”用一种非常不理解的模样看我。“没有,没有看过。也许曾看过,但并没有记住。耳朵怎么回事?”
“也没有什么。”我说。 |
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