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发表于 2006-6-10 21:22:18
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トモエで、みんなから人気のある、小使いさんの良ちゃんが、とうとう出征することになった。生徒より、ずーっと、大人で、おじさんだったけど、みんなは、親しみを込めて、
「良ちゃん!!」
と呼んだ。そして、良ちゃんは、みんなが困ったときの、助けの神様だった。良ちゃんは、何でも出来た。いつも、黙って笑っているけど、困って助けのいる子の必要とするものを、すぐ、わかってくれた。トットちゃんが、トイレの汲み取り口の、地面にあるコンクリートの蓋も、すぐ助けてくれて、嫌がりもしないで洗ってくれたのも、良ちゃんだった。
小林先生は、出征して行く良ちゃんのために、
「茶話会をしよう」
といった。
「サワカイ?」
なんだろう?みんなは、すっかり、うれしくなった。何にも知らないことを知るのは、うれしいことだから。勿論、子供たちには、「送別会」とせずに、「茶話会」とした、小林先生の配慮までは、かわっていなかった。送別会といったら、(それは、悲しい)と、始めから、大きい子には、わかってしまうに違いなかった。でも、「茶話会」は、誰も知らなかったから、みんな興奮した。
放課後、小林先生は、みんなに講堂に、お弁当のときのように、机を、丸く並べるように、といった。みんなが、丸くなって、座ると、小林先生は、みんなに、スルメの焼いた細いのを、一本ずつ、配った。これでも当時としては、大ご馳走だった。それから、先生は、良ちゃんと並んで座ると、コップに入った、少しのお酒を、良ちゃんの前においた。出征して行く人だけに、配給になる、お酒だった。校長先生は、いった。
「トモエで初めての、茶話会だ。楽しい会にしようね。みんなは、良ちゃんに、いいたいことがあったら、いってください。良ちゃんだけじゃなく、生徒に、いってもいいよ。一人ずつ、真ん中に立って、さあ、始めよう」
スルメを、学校で食べるのも初めてなら、良ちゃんが、みんなと一緒にすわるのも、それから、お酒をチビチビやる、良ちゃんを見るのも初めてだった。
次々に、みんなは、良ちゃんのほうをむいて立つと、考えを言った。始めのうちの、誰かは、「いってらっしゃい」とか、「病気しないでね」とか、いう風だったけど、トットちゃんのクラスの右田君が、
「今度、田舎から、葬式まんじゅう、持ってきて、みんなにあげます!!」
なんて、言った頃から、もう、大笑いになった。(だって、右田君は、もう一年も前から、その前に田舎で食べた、この葬式まんじゅうの味が忘れられなくて、ここあるごとに、みんなに、「くれる」、と約束してたんだけど、一度も、持ってきてくれたことがないからだった)
校長先生は、始め、この右田君の「葬式まんじゅう」という言葉をきいたときは、(どきっ!!)といた。ふつうなら、縁起が、悪い言葉だかrあ。でも、右田君が、実に無邪気に、「みんなに、おいしいものを食べさせたい」という気持ちを現しているのだから、と、一緒に笑った。良ちゃんも、大笑いした。良ちゃんも、ずーっと、「持って来てやる」、と、右田君から、いわれていたからだった。
「僕は、日本一の園芸家になります」
と、約束した。大栄君は、等々力にある、物凄く、大きい園芸家の子供だった。青木恵子ちゃんは、黙って立つと、いつものように、恥ずかしそうに笑って、だまって、おじぎをして、席に戻った。トットちゃんは、出しゃばって、真ん中にいくと、恵子ちゃんの、お辞儀に、つけ足した。
「恵子ちゃん家の、ニワトリ、空を、とぶんでーす。私は、この間、見ましたよ!」
天寺君がいった。
「ケガした猫や、犬がいたら、僕のところへ持ってきてね。なおして、あげるから」
高橋君は、机の下を、あっ!という間に、くぐって、真ん中に立つと、元気に言った。
「良ちゃん、ありがとう。いろんなこと、全部、ありがとう」
税所愛子さんは、
「良ちゃん、いつか、ころんだとき、包帯してくださって、ありがとう。忘れません」
といった。税所さんは、日露戦争で有名な、東郷元帥が大叔父さまにあたり、また、明治時代の、おうたどころの歌人として知られた税所敦子の親戚でも会った。(でも、税所さんは、自分で、そういうことを口に出すことは、一度もなかった)
ミヨちゃんは、校長先生の娘だから、一番、良ちゃんと、親しい間柄だった。そのせいか、涙が、目に、いっぱいになった。
「気をつけて行ってね、良ちゃん。手紙、書くわね」
トットちゃんは、あんまりたくさん、言いたいことがあって、困った。でも、これに決めた。
「良ちゃんが行っちゃっても、私たちは、毎日、サワカイ、やりまーす!!」
校長先生も良ちゃんも笑った。みんなも、トットちゃんまで笑った。
でも、このトットちゃんの言った事は、次の日から、本当になった。みんなは、ひまがあると、グループになって、「サワカイごっこ」を始めた。スルメの代わりに、木の皮などを、しゃぶりながら、お酒のつもりの、お水の入ったグラスを、チビチビやりながら、
「葬式まんじゅう、持ってくるからね」
とかいっては、笑って、自分たちの気持ちを発表しあった。食べ物がなくても、サワカイは、楽しかった。
この「サワカイ」は、良ちゃんが、トモエに残してくれた、素晴らしい贈り物だった。そして、そのときは、みんなが考えてもいなかったことだけど、これが、実は、そのあと、みんなが、別れ別れになってしまう前の、トモエでの最後の、心の通い合う、楽しい、お遊びだったのだ。
良ちゃんは、東横線に乗って、出発した。
優しい良ちゃんと入れ違いに、アメリカの飛行機が、とうとう、東京の空に表れて、毎日、爆弾を、落とし始めた。 |
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