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第一課 文化と偏見(へんけん)# @3 X6 a: {% s( ?0 d
3 ^' l. k2 m) j2 ?8 M異文化(いぶんか)に接(せつ)したとき,わたしたちはよく数少ない体験から的外(まとはず)れな一般化を試みることがある。[だいたいXX人は。。。]といった俗流(ぞくりゅう)民族文化文化論(みんぞくぶんかろん)の多くはこのたぐいである。
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+ E/ E" p" G% w- Z% w2 c6 bもちろん体験が少ないからといって,一般化がすべて誤っているということにはならない。逆に,体験が豊富だからといって,一般化が正しいともかぎらない。むしろ,優れた洞察力(どうさつりょく)によって数少ない体験から的確に本質を抽出(ちゅうしゅつ)し,正しい一般化を行なう人もいる。しかし,常識的(じょうしきてき)には,少数(しょうすう)例からの一般化は的外れである危険性が強いといってよい。的外れはやがて偏見につながる。 v' f( M s( Z* o/ x" P! l) [
! J' t' R n& z( ~さらにわたしたちは,単なる個人的(こじんてき)な差でしかない違いを ,民族的,文化的な違いに錯覚 (さっかく)しがちである。その程度の違いなら日本人どうしの間でも,珍しいことではないはずなのに,/ ]* Q2 F; l! B; q" X( M2 l0 B
相手がたまたま外国人であったりすると,違いは一挙(いっきょ)に民族的,文化的な違いであるかのごとく大げさに誤解(ごかい)されてしまう。; c, L5 N. M8 w: |: Y6 `0 ]. j% V
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いちばん気をつけなければならないのは,わたしたちとかく異文化を蔑視(べっし)しがちなことである。* F4 m( E2 t+ I: C
理解困難(りかいこんなん)なこと,共存(きょうそん)しがたいと感じられることにぶつかると,わたしたちはこれを蔑視することで遠ざけようとする。[イソップ物語]にも,手の届かない高さにあるぶどうを,あれは酸っぱいからと言って取ることをあきらめたきつねの話がある。洋の東西を問(と)わず,共通(きょうつう)な心理が働くもののようである。; Z) O+ b* F1 ^( ]! V8 [' X7 p
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海外技術者研修協会《発展途上国研修生の日本体験》草思社より。: w5 Y& q$ |9 D5 s$ V
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第二課 [在外](ざいがい)日本人
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池原さんは会社の同僚と結婚した。三年後,夫(おっと)のニューヨーク赴任(ふにん)と同時に退社(たいしゃ)。理由は夫婦で海外赴任する制度がなかったからだ。そしてワシントンのジョーシタウン大学大学院で国際関係論を学ぶことにした。) W: j, U v3 j
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じゃ、池原さんがアメリカの大学院へいらっしゃったころのお話をお聞かせください。1 B# E( {' l+ j: W/ A
6 v: S# ]& U/ K: X5 r& e, v: f1 s自分の収入(しゅうにゅう)がない、人に頼る(たよる)暮しって自由(じゆう)がなくなるから嫌なん(いや)ですね。だから結婚してからも夫婦別々の財政(ざいせい)でした。夫婦の形(かたち)って、それがいいか悪いかは別として、自分の親がモデルになると思います。わたしの父は家事も進んで手伝うし、自分のことは自分でやる人で、わたしはそれが普通(ふつう)だって思っていました。けれど、夫は違っていました。妻が家事をやって、夫は新聞を読んで、、、典型的(てんけいてき)な日本の家庭像を持っていたんです。お互い(たがい)に働いているうちは家事も共同作業(きょうどうさぎょう)にしたかったのですが その一方で納得(なっとく)いかぬまま日本社会の規範(きはん)に合わせよう、と努力(どりょく)もしました。
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会社勤めをしてたときは、日米や日欧間の通商(つうしょう)問題に携(たずさ)わってました。職場(しょくば)も男女差別(さべつ)があまりなく、仕事はほんとうにおもしろかった。ただ、いつも政治(せいじ)、経済や法律の基礎的(きそてき)な知識(ちしき)がない、と感じ、自分たちのやっていることはほんとうに日本のためになっているのだろうか、消費者(しょうひしゃ)のためになっているのだろうか、と疑問(ぎもん)を抱(いだ)き続けていました。そんなとき、彼のアメリカ赴任が決まったんです。7 I1 d1 ^+ w/ D# A7 F5 |
, H) W; b5 O( W7 Q8 e0 d/ H$ Xわたしはフシントンの大学院に行きたかったので、任務(にんむ)先の違う彼とは別居(べっきょ)しました。彼には多小無理(むり)を押しつけたような気もするけれど、自分の人生は一度しかないでしょう。7 n9 {$ t, ?# Y7 C8 e
これで家庭に引きこもったら、子供のおむつを替えていても何となく悔い(くい)が残る、そういう気がしたんです。% o! d( M8 u- J* p$ p( c
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一度離れると、前々から気になっていた彼の日本的な男性中心の物の考え方についていけなくなっていました。それで、離婚したわけです。! }* G) n1 h3 h G! G+ q
. I3 u9 {% B1 i' Z6 J& Hもともと一人っ子で育ったし、両親とヨーロッパにいる二年間は英国系の学校に通ったんですけれど、学校の関係でわたしだけ先に帰国し、祖母とニ人暮し。親離れがとても早かった。両親も独立心(どくりつしん)を大事にしろって育てたものですから自立心おうせいな性格(せいかく)になってしまって、、、[笑い]。今もそれは変わりません。% e+ Y; _6 y4 u3 ]2 G4 C
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池原さんは卒業と同時にアメリカのケーブルテレビの会社に就職(しゅうしょく)した。この会社は一週間のワシントンの動きをまとめたビデオを制作(せいさく)したり、日米関係やアメリカの政治報告番組を制作した、日本に送る会社である。
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4 P' t4 q5 K/ X! Yこれからもワシントンでずっと?*
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政治に関心があって、国際関係に興味がある人にとって、ワシントンけたまらなくおもしろい所ですね。アメリカの側から世界が見える。' m" q1 m# ]$ Q! E$ D6 u* G9 S
0 y- F# l3 S* y- z, ~' uアメリカのほうが生活しやすいのは確かです。物価(ぶっか)が安いから、同じ収入だったら生活水準(すいじゅん)も日本よりもずっと高い。ただ日本のほうが安全(あんぜん)ですけれど。4 N+ x9 y$ c" p* W% v [
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何よりもうれしいのは個人主義(こじんしゅぎ)が発達(はったつ)しているから社会的なプレッシャーに苦(くる)しむこともない。日本はある程度(ていど)年齢(ねんれい)のいった独身女性や、離婚した女性にとっては生きにくい社会だって思います。4 H. j4 i5 z# R3 d9 H+ s
5 R. u$ \+ k& V$ R% s' Pオペラや芝居が大好きだから、日本のように切符の高い社会に行くと貧(まず)しい気分になってしまいます。当分(とうぶん)はワシントンでしょう。
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柳(やなぎ)原和子(はらかずこ) 《[在外]日本人》 晶文(しょうぶん)社より。% [9 Z6 K2 }) a' D" X( T! s
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" o9 d7 a) `' A; F4 J練習: PS:答案的没有。老师讲后才有答案。(也可大家来讨论)- C* k3 p- I: e* ?4 M5 ?
1:池原さんはどんな女性だと思いますか。$ o I6 T, z/ X/ v
A:日本的なおとなしい女性。
, o/ e Z4 e. c) l4 GB:わがままで自分勝手(かって)な女性。2 X" i& }/ Y" s9 k! s/ ]
C:積極的に自分の生き方を考える女性。8 C# Y: M% W# y3 M4 ~1 G+ ]
D:人の言うままになる頼(たよ)りない女性。( c0 N: }3 M$ ~4 r! S6 r
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2:池原さんは結婚生活をどのように考えていたでしょうか。9 I# ?8 `' l3 O# l5 U" ~
A:結婚したら、男は外で働き、女は家庭を守るべきだ。
7 x! p9 `! N; z5 Z0 R" |B:男も女も同じように家事をするのが当たりまえだ。
# V/ O% f( f1 h# eC:子供が生まれたら、女は子供のために会社を辞めるべきだ。
4 r) Y: z8 v+ O: }' Z6 FD:親が家事を手伝ってくれるので、親といっしょに住みたい。. K' e; i* A5 ~8 _/ x
+ ?. x& b) ~: b- t1 |
3:実際の結婚生活はどうだったでしょうか。
$ m2 J6 y& |: p' L# `" sA:他の家庭のモデルになるような模範(模範)的な家庭だった。
7 T3 v g* w+ t EB:夫は家事も進んで手伝うし、自分のことは自分でやる人だったが、海外へ行ってから変わってしまった。
4 K& ?8 W+ r' c" {. }C:期待どおりの典型的な日本の家庭だった。" Z* l* ^" N* r0 P: l3 B
D:考えていた結婚生活とは全(まった)く違っていた。
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4:池原さんはどうして大学院へ行きたかったのでしょうか。
. s) j# |9 f6 K3 { QA:政治や経済、法律などの勉強を始めからやり直したかった。* K8 E1 O5 o0 a. Q: x
B:大学院で勉強すれば、いい就職先が見つかると思った。
0 g) m5 b& H1 i7 vC:子供の世話がかからなくなったので、勉強する時間ができた。+ D1 p, V- {& N T& Q
D:夫と別居する理由を作りたかった。* M& v& T8 \4 a* f. f. z! ^" i
0 z6 q! L! z* u; T6 w+ M, d) G9 ~" h
二:___に入ることばを[ ]から選び、適当な形に直しましょう。
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[納得する,携わる,苦しむ,抱く,頼る,制作する。]
: g4 u: X$ a$ @' J6 a+ A" V* M1 u( I$ v7 }
1:発展途上の国の人人は飢えや病気に___いる人が多い。
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2:アメリカに住んでいる知人を___、渡米(とべい)しました。/ j% }; u8 V1 z) j, D$ T8 Q
) e% k: S0 w/ B* ]
3:新しい企画(きかく)に___いるので、毎日忙しいが、仕事はやりがいがある。
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' q7 q5 Q3 U# e% H4:大きな夢を___、海外に渡って仕事をしたが、思いどおりにはならなかった。5 L* D1 K! G! @
6 m* z9 g/ |* M
5:裁判(さいばん)の結果は自分には不利(ふり)で___ことができない。
3 e0 Z- p1 z- I( w* ^+ |. i4 R
/ ]8 j6 `; e9 }3 i* ?7 n6:この映画を___のに、大変な費用(ひよう)がかかった。
0 v$ z- [, B: j. ?, b3 Z: O; y5 Q* Q+ u* _- q# L
三:___に入ることばを[ ]から選び、適当な形に直しましょう。
* U% A0 Z4 E8 M* ~, X5 u$ z# H7 ^" ~' u4 ? A/ e7 Y( E- _
[転職する,専念(せんねん)する,育てる,転勤(てんきん)する,亡くなる,休職(きゅうしょく)する,生まれる,引っ越す,赴任する。]
8 X6 ] P( X/ b2 ?. v8 s& H H1 s. `( A8 G. e( j2 h
例:わたしは1960年に京都の北山というところで(生まれました)。 t0 W/ k# r& X$ B+ w' x
0 \0 g# X: ?4 S: ?) l6 c- j4 S- l1:母は仕事を持っていたので、子供のころ、わたしは祖母に___。
: b9 r: T* d5 J- |( e& o& J0 ^' m5 U& F# B5 W, R
2:祖父は長生きをして、100歳で___。
! g7 ~: r2 U* M3 m) w. w1 }2 W# p2 b# }- v ?' B
3:子供のころ、父の仕事の関係で、京都から大阪に___。
3 E, Z3 \9 u {/ X) {
5 k# t- b8 a6 r- m% T' r$ @4:4月に本社から名古屋の支社に___ことになりました。, t5 \4 Y2 l* r! |( r
( M9 M( E8 s1 T3 m: B- D$ ~1 y, P5:家族と離れて北海道に単身___います。
8 P$ D" L5 G, w6 x+ G
% k& M; W* I9 p7 K6:姉は結婚後は仕事を辞め、家事に___います。% q: O$ O$ F4 V3 f( P
. u; U7 R! I$ m$ t/ @6 n0 n6 p3 W* I7:会社を二年間___、アメリカの大学院で学生だあと、復職(ふくしょく)しました。# C) x9 z& d$ p& r4 |* A; i
6 P. R( h1 L9 d* v6 I3 k3 O8:前の会社は給料も低く、職場の人間関係もよくなかったので、今の会社に___。
# ^; I3 @ O/ L' M( X2 j" @ ]
7 k4 j4 I& S8 N( J }" @四:[ ]の中に入ることばはどれが適当でしょうか。
+ S- \; r P& ]% }/ y0 E( N+ f r: S+ F& e
1:6年間の恋愛の末(すえ)、ゴールイン、幸せそうに見えた2人だったが、2年後には[A:既婚 B:離婚 C:再婚]してしまった。
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2:結婚後は夫の家族と同居(どうきょ)していたが、夫の母親とうまくいかず、[A:転居(てんきょ)B:別居C:隠居(いんきょ)]した。8 p8 c5 s) i$ r2 {& ?( y
) A& B* c2 N3 b7 N- X3:物価は高く、給料も安く、毎月収入より[A:外出B:進出C:支出(ししゅつ)]が多く、生活が苦しい。2 L4 g) Y. g9 a
0 A! u4 c5 C8 ~: |$ y6 U4:コンピューターの使い方を何も知らないので、まず基礎(きそ)から学び、そのあと、徐除に[A:応用B:発達C:発進(はっしん)]へと進みたい。
# h" N" Z; h+ I+ e" u$ y
% ?$ x4 }; R- Z; M! U: r0 Y5:彼女は入社して4年になるが、結婚を理由に先月[A:就職 B:退職 C:出勤]した。2 t( l1 M7 R- Y, O
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6:アメリカの職場は男女の差別が少なく、[A:平行(へいこう) B:平等(びょうどう) c:平均(へいきん)の場合(ばあい)が多いそうだ。
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3 B" V: y! G; z4 {2 I" F- A7:祖父は1代でばくだいな[A:財政 B:財産 C:財源(ざいげん)]を築(きず)いた。4 g5 j8 j$ X1 z& u* w4 I. t0 _
) V/ K- Q* ?5 C" W: D! j8 ~" t
五:どんどんことばを作ってみましょう。! s: _2 i8 H E9 z, c, K8 ]4 F
! f7 o. x4 \$ S( O2 I. u( O* ]) ?
1:~~~心:[そのような気持ち、心を持つ]という意味。, Q# M8 K; D4 ~. t! v6 L
- P9 ^* s/ h' S* `8 K4 X例:独立心(どくりつしん),自立心,愛国心,自尊心(じそんしん)。
0 S3 f3 V+ y& B1 p5 N L7 P' ?/ Q9 p% I1 Y8 L. }
2:~~~先:[行き着く目的地、商売(しょうばい)や取引(とりひき)の相手]などの意味。0 U6 H$ M6 c& G {
1 P( C' Q2 [+ b, e' k: ?% y例:外出先,勤務先(きんむさき),出張先,任務先(にんむさき),輸出先(ゆしゅつさき),得意先。# Z; t5 O8 M n4 L
7 P3 q; z- b( W: y; C3:~~~系:[つながり、一定の基準に従った統一(とういつ)された分類(ぶんるい)]などの意味。4 `! t% @& g7 h( T6 }+ L
9 u% V9 h' \9 Y! o2 o% z+ b' j8 V例:英国系,太陽系(たいようけい),文系(ぶんけい),理系。9 }3 q8 ], {0 ^9 k; h+ j' d
/ V8 C! q6 ]! {( P) o+ d
4:~~~関係:[1つの物が他に対して持つつながり]の意味。
) ]+ t( d1 ^. D2 @# z( [9 d7 Z' i3 E' [% J2 I( s8 b
例:国際関係,日米関係,人間関係,男女関係。$ Y$ o4 h) w7 F9 q
0 [' ^' D4 y0 `) q/ w4 }' P' @
5:~~~離れ:[ある所から離れる、別れる、遠くなる]という意味。( ]3 z9 `1 z7 ^ v3 E3 k
6 Y! \ q" z! J Y1 d8 B2 F3 t2 R( w例:親離れ,子離れ,乳離れ(ちばなれ),都会離れ,現実離れ。
5 X) A: | w, l( p+ y
0 p" s1 s2 J) q4 f; _0 f6:~~~主義:[政治上の思想(しそう)*信条(しんじょう)、行動の規範となる一定の方針]などの意味。
- K3 C# h0 w) j t; V1 v, s J6 z" T0 l7 T2 Y8 _) h
例:個人主義(こじんしゅぎ),民主主義(みんしゅしゅぎ),社会主義,利己主義(りこしゅぎ)。) W; L2 h: ?# H1 t
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, L" y5 i) ^' \6 h 第三課 心の交流(こうりゅう)' m4 w3 P( j& i7 Z* P! f
: l% @' b5 y7 c3 \9 Y 碁(ご)の別称(べっしょう)に[手談]というのがある。わたしの大好きなことばである。6 g- l6 P: m) E/ d
口で物を言わなくても、打(う)ち下ろす(おろす)一手一手が雄弁(ゆうべん)にお互い(たがい)の心の中を語っているわけで、沈黙(ちんもく)が深ければ深いほど、手談はいよいよ奥深い(おくふかい)ものとなる。
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I% {5 h4 q( S: o世の中には、往々(おうおう)にしてペラペラしゃべりまくりながら碁を打つ人もいるが、わたしどもに言わせれば、よくもまあ気が散(ち)らないで碁が打てるものだと思う。碁は、やはり沈思黙考(ちんしもっこう)し、想成(そうな)ってから初めて碁石(ごいし)を一粒(つぶ)だけつまむべきものだ。
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6 R- ]+ J# K8 d; ?1 o* bとはいえ、いつもにぎやかに碁を打っている人に対し、急に静かにしろと言ったところで無理な話だ。 ちょうど、ガード下に住んでいた人が静かな山奥(やまおく)に引越したようなもので、あまり静かで調子が狂う(くるう)意味もあるだろう。しかし、ガード下はあまくまで仮(かり)の住居(じゅうきょ)であり、人間らしく住むのにはよい環境が必要であると思う。: V2 P2 H3 `. {
* [7 ?; h) W8 C* p碁はやはり、[手談]でなければなるまい。この手談と言う語が、最も(もっとも)身にしみて感じられるのは、外国へ行って碁を打つときである。こちらがうまい手を打つ。心の中で、[どうせす。うまい手でしょう。ちょっとお弱りになられたのと違いますか。]とニヤニヤする。相手も頭をかいて、[弱ったなあ、日本のプロは恐ろしいことをやってくるわい。]と応じている。 / K: Q9 s/ r. }! B$ ]$ W
8 x) j! X% I z/ ]8 I+ ?$ H たまに向こうがうまい手を打てば、こちらがウーン困ったという風情(ふぜい)で二十秒ほども考えるふりをする。相手は、[どんなもんだい。]というふうに背を伸ばして大威張(おおいば)りである。こうして一時間か二時間お相手をするのだから、相手の気心はもちろん、時には性格までわかってしまうことがある。 この点、そこらあたりの易者(えきしゃ)さんよりはよほど確かで、アッという聞に百年の知己(ちき)ができてしまう。碁を知っている人の天与(てんよ)の恩恵(おんけい)だ。% n' ]% F" E) Y
, U g5 }5 J% D% e9 E6 Z, L" Cまことに、碁は、それ自体が一つの言語であると思う。9 p: W( s+ i0 j- P
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& j) ~- @* @, I W8 X8 C: i8 H: l/ {5 ]
中山典之(なかやまのりゆき) 《囲碁(いご)の世界》岩波書店(いわなみ)より。 |
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