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3 羊博士おおいに食べ、おおいに語る(8)
「その人物の話を聞いたことがある」と羊博士は苦苦そげに言った。「羊はどうやら適任者をみつけたようだな」
「しかし今年の春、羊は彼の体を離れました。本人は現在意識不明で死にかけています。羊がそれまでずっと脳の欠陥をカバーしていたんです」
「幸せなことだよ。『羊抜け』によってなまじ意識なんてない方が楽なんだ」
「なぜ羊は彼の体を離れたんでしょう?あれほど長い年月をかけて巨大な組織を築きあげたのに」
羊博士は深いため息をついた。「君にはまだわからんのか?その人物の場合も私と同じだよ。利用価値がなくなったんだ。人には限界があるし、羊は限界に達した人間には用がない。おそらく彼には羊が本当に求めているものを十全に理解することができなかったんだろう。彼の役目は巨大な組織を築きあげることであり、それが完了した時、彼は捨てられたんだ。ちょうど羊が私を輸送機関として利用したようにだ」
「じゃあ、羊はそのあとどうしたんですか?」
羊博士は机の上から羊の写真をとりあげて指でぱんぱんと叩いた。「日本中を彷徨ってたんだよ。新たな宿主を求めてな。おそらく羊はその新たな人物を何らかの手段でその組織の上に置くつもりなんだろう」
「羊の求めているのは何ですか?」
「さっきも言ったように、残念ながら私には言葉でそれを表現することができない。羊の求めているのは羊的思念の具現だとしかな」
「それは善的なものですか?」
「羊的思念にとってはもちろん善だ」
「あなたにとっては?」
「わからんよ」と老人は言った。「本当にわからんのだ。羊が去ったあとではどこまでが私でどこまでが羊の影なのか、それさえもわからないんだ」
「あなたがさっきおっしゃった打つべき手というのはどんなことなのですか?」
羊博士は首を振った。「私は君たちにそれを言うつもりはない」
再び沈黙が部屋を覆った。窓の外では激しい雨が降り始めていた。札幌に来て最初の雨だった。
「最後にその写真の土地の場所を教えて下さい」と僕は言った。
「私が九年間暮らしていた牧場だよ。そこで羊を伺っていた。戦後すぐに米軍接収され、返還された時にある金持に牧場つきの別荘地として売った。今でも同じ持ち主のはずだ」
「今でも羊を伺っているんですか?」
“那个人物的事情我也听说过。”羊博士非常不痛快地说。“羊毕竟还是找到了胜任的人。”
“但是在今年春天,羊离开了他的身体。他本人现在意识不清楚将要死了。羊始终在弥补其脑子的欠缺。”
“真是庆幸呀!对‘羊壳’来说,没有清醒的意识值得高兴。”
“为什么羊会离开他的身体呢?而且经历那么长时间还建立了巨大的组织。”
羊博士深深地叹了一口气。“你还不明白吗?他的境况和我相同:其可利用的价值已经没有了。人是有极限的,达到极限的人对羊已经没有用了。恐怕他们这些人不能完全理解羊所追求的真正的东西。他的作用是建立巨大的组织,当组建完成的时候,他就被丢弃了。正好羊也只把我当做一种运输工具罢了。”
“那么,在这之后羊要做什么呢?”
羊博士拿起了放在桌子上的羊的照片,用手指敲着照片。“羊正在日本流浪之中。正在寻求新的寄主。恐怕羊让那个人利用一种手段在那个组织上建设新组织。”
“羊追求的是什么呢?”
“就像刚才所说的那样,非常遗憾,也不能用语言表达清楚。应该说,羊所追求的是羊思念的具体表像。”
“那是一种善良的东西了?”
“羊的思念当然是友善的。”
“对你自己本身呢?”
“这个就不明白了。”老人说。“真的不明白。羊走了之后什么地方是我的?什么地方有羊的影子?连这一点都不清楚。”
“你刚才所说的有办法是指什么?”
羊博士摇摇头。“我不打算把这个告诉你。”
沉默又一次笼罩在房间。窗外很急的雨下了起来。这是来到札榥的第一次雨。
“那么最后请把照片上的那个地方告诉我。”我说。
“那是我生活了九年间的牧场。在那里养了羊。战后马上被美军接收,返还的时候就当作牧场的别墅卖给了一有钱主。到现在应该还是同一位场主。”
“到现在是不是还在养羊?” |
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