|
1 十二滝町の誕生と発展と転落(2)
農民たちが肥沃な平野部を避けてわざわざ未開の奥地を探し求めていたのにはもちろんそれなりのわけがあった。彼らは実は全員が多額の借金を踏み倒して夜逃げ同然に故郷の村を出てきたので、人目につきやすい平野部は極力避けねばならなかったのである。
もちろんアイヌの青年にはそんなことがわかるわけはない。当然のことながら彼は肥沃な耕作地を拒否して北に進みつづける農民たちの姿を見て驚き、悩み、困惑し、混乱し、自信を喪失した。
しかし青年はなかなか複雑な性格の持ち主であったらしく、塩狩峠を越える頃には彼は農民たちを北へ北へ導くその不可解な宿命にすっかり同化されてしまっていた。そしてわざわざ荒れた道や危険な沼地(ぬまち)を選んで農民たちを喜ばせた。
塩狩峠を越えて四日北に進んだところで一行は東から西に流れる川にでくわした。そして合議の末、東に進むことになった。
それはたしかにひどい土地でひどい道だった。彼らは海のように生い繁った熊笹をわけ、背丈よりも高い草原を半日で横切り、胸まで泥につかる湿地を横切り、岩山をよじのぼり、とにかく東へと進んだ。夜は川原に天幕を張り、狼の声を聞きながら眠った。手は熊笹のために血だらけになり、ブヨや蚊はところかまわず貼りつき、耳の穴にまで潜り込んで血を吸った。
東に進んで五日め、彼らは山に遮られてこれ以上は前に進めないというところまで到着した。とてもじゃないがこれより先には住めない、と青年は宣言した。そして農民たちはようやくその歩みを止めた。明治十三年七月八日、札幌から道のりにして二六〇キロの地点である。
彼らはまず地形を調べ、水質を調べ、土質を調べ、そこが結構農耕に適していることを発見した。そしてそれぞれの家族に土地を割り振ってからその中心に丸太で共同小屋を建てた。
アイヌの青年はたまたま近く猟に来ていたアイヌの一団をつかまえ、「ここはなんという名の土地ですか?」と訊ねてみた。「こんなケツの穴みたいな土地に名前なんてあるわけないじゃないか」と彼らは答えた。
そんなわけでこの開拓(かいたく)地にはその後しばらく名前さえなかった。六十キロ四方に人家のない(あるいはあったとしても交際を望んでいない)部落には名前などそもそも不必要なのだ。明治二十一年に道庁の役人がやってきて開拓民全員の戸籍を作り、部落に名前がないのは困ると言ったが、開拓民たちは誰も困らなかった。それどころか開拓民たちは鎌やくわを持って共同小屋に集まり、「部落には名前をつけない」という決議まで出した。役人は仕方なく、部落のわきを流れる川に十二の滝があったことから「十二滝部落」と名付けて道庁に報告し、それ以降「十二滝部落」(後に十二滝村)はこの集落の正式名称となった。しかしもちろんこれはずっと先の話である。明治十三年に戻ろう。
农民们避开肥沃的平原,特意去找未开的偏僻地带,那一定是有其理由的。实际上他们全员借了大额的钱不还而在夜里出逃离开故乡,要极力回避开容易进人们耳目的平原。
其实阿依奴青年并没有明白那些事情的理由。当然了,他看到这些农民们拒绝那肥沃的耕作地而继续向北进发,很吃惊、烦恼、困惑、混乱,丧失了自信。
但是这位青年是一位非常复杂性格的主,领着农民们翻越盐狩岭继续向北向北的时候,被那不可解的宿命性完全同化了。为了让农民们高兴,他故意选择荒漠的道路和危险的沼泽地。
翻过盐狩岭向北又继续走了四天,他们一行遇到了一条由东向西流淌的河。他们合议之后继续向东走去。
那的确不是一般的土地不是一般的道路。他们拔开像海那样繁茂的熊竹,用半天时间横跨草比人还高的草原,横渡淹没到胸部的湿地,攀登多石的山,继续向东进发。晚上在河滩上支起帳逢,听着狼的叫声眠觉。在拔开熊竹时手掌满是血,蚋白蛉和蚊子不择地方到处乱爬,还钻进耳穴里吸血。
又向东走了五天,他们来到了被山阻断的再也不能向前走的地方。这是很不好的地方,是还没有人居住过的地方。青年这样宣誓说。农民们也停止了脚步。在明治十三年七月八日,这里距离札榥260公里。
他们首先调查地形、水质、土质,发现这里是非常适合农耕的地方。之后他们把土地分配给各家族,在其中心用木料建起共同居住的房子。
阿依奴青年抓住偶尔来这里打猎的阿依奴人就问:“这里的地名叫什么?”“像这样低洼的土地也没有什么名字。”他们回答。
为此这个开拓地在这之后连个名字也没有。在周围60公里也没有人家(即便是有也没有指望交际),也就没有必要起名字。明治二十一年北海道政府人员来到这里为全体拓荒人登记户籍,因部落没有名字而困惑。而对开拓人也没有什么困难。反而他们手拿镰刀和锄集合到共用的房子,还形成“对部落不起名字”这样的决议。政府人员没有办法,因为在部落的傍边流淌的河里有十二个瀑布,就起了“十二瀑布部落”并报告给道政府。之后“十二瀑布部落”(后来叫十二瀑布存)成为正式名字。当然这是很久以后的故事了。还是回到明治十三年吧。 |
|