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4 不吉なカーブを回る(8)
草原のまわりには五メートルおきに杭が打たれ、杭のあいだをワイヤが結んでいた。錆びた古いワイヤだった。どうやら我々は羊の放牧場にたどりついたようだった。僕は両開きのすり減った木戸を押して開いて中に入った。草は柔らかく、大地は黒く湿っていた。
草原の上を黒い雲が流れていた。雲の流れていく先には高く切りたった山が見えた。眺める角度こそ違っていたが、間違いなく鼠の写真に写っていたのと同じ山だった。写真をひっぱり出して確かめるまでもない。
しかし何百回となく写真を通して見ていた風景を実際に目のあたりにするというのは実に奇妙なものだ。奥行きがおそろしく人工的に感じられる。僕がそこに辿りついたというより、誰かが写真にあわせてそこに間にあわせの風景をあわてて作りあげたといった感じだった。
僕は木戸にもたれかかってため息をついた。何はともあれ我々は探しあてたのだ。探しあてることが何を意味しているかということはべつにして、ともかく我々は探しあてたのだ。
「着いたわね」と彼女は僕の腕を押えて言った。
「着いた」と僕は言った。それ以上の言葉は不要だった。
草原を隔て正面にアメリカの田舎家風の古い木造の二階建ての家が見えた。四十年前に羊博士が建て、そして鼠の父親が買いとった建物だ。比較するものがないために遠くから見ると家の大きさは正確に把めなかったが、ずんぐりとした無表情な家だった。ペンキの白は曇り空の下で不吉にくすんで見えた。錆色に近い芥子色の駒形屋根のまんなかから、煉瓦造りの四角い煙突が空に向けてつきだしていた。家のまわりには垣根はなく、そのかわりに年を経た一群の常緑樹が枝を広げて、雨風(あめかぜ)や雪から建物を守っていた。家には不思議なくらい人気が感じられなかった。見るからに奇妙な家だった。感じが悪いわけでも寒々しいわけでもなく、とくに変った建てかたをしてあるわけでもなく、どうしようもないほど古びているわけでもない。ただ――奇妙だった。それはうまく感情表現できないまま年老いてしまった巨大な生き物のように見えた。どう表現すればいいのかではなく、何を表現すればいいのかがわからなかったのだ。
あたりには雨の匂いが漂っていた。急いだ方が良さそうだった。我々はその建物に向けて一直線に草原を横切った。西からはこれまでのようにこまぎれではない、雨をはらんだぶ厚い雲が近づいていた。
草原はうんざりするほど広かった。それだけ足ばやに歩いても、とても前に進んでいるようには思えなかった。距離感がまるでつかめない。
考えてみれば、これほど広い平(たい)らな土地を歩いたのは初めてだった。ずっと遠くの風の働きまでが手にとるように見えた。鳥の群れが雲の流れと交叉(こうさ)擦るように、北に向けて頭上を横切っていった。
在草原每隔五米就打有桩子,在桩子之间还系有铁丝网。那铁丝网已经生锈很陈旧。我们终于挣扎着走到了羊牧场。我推开对开的有点磨损的木门走了进去。草那么柔软,大地黑黑的湿湿的。
在草原的上空黑云还继续漂移着。那云漂移的去处看到了高耸的山。也只是视角有些不同吧,但可以肯定,这座山和老鼠所拍照的山是同一座山。也没必要把照片拿出来对比确认。
但是不知道几百回通过照片看到的这个风景,实际上用眼睛看到它时更奇妙。从深度上讲让人感到了其人为性。和我挣扎着走到那里相比,更有这样的感知:是谁依据照片对着那里的风景而进行炮制。
我靠着木门喘了一口气。姑且不论什么东西是我们搜寻到的。搜寻东西其意义是什么也暂且不说,重要的是搜寻到了。
“真是到了呀。”她按着我的手腕说。
“到了。”我说。其它所有的话并不需要。
在隔开草原的正面看到,那里有美国田园风格的老式的木制二层房。那是羊博士在四十年前建造的,然后由老鼠的父亲购买的建筑物。因为没有可对比的东西,所以从远处看还把握不准房子的大小,但那是矮胖的无表情的房子。油漆的白色在阴暗天空下看上去有些不吉利。从接近红褐色的芥子色的驹形房屋顶中间,有一砖造的四角烟囱冲向天空。房子的周围也没有围墙,其周围有年头的一片常绿树的树枝向外伸展,遮挡风雨雪守卫建筑物。只从那房子也感受不到不可思议的人气。只从外观看那是很奇妙的房子。从感受上讲并没有什么坏也并没有什么凄凉。总之并不是与群不同的建筑,除此之外也并没那么陈旧。总之是奇妙的。看上去那是不能很好表现感情的老朽的巨大的生物。不明白如何表现才好?也不知道表现什么才好?
周围还漂散着雨腥味。还是快一点为好。我们面向建筑物一条直线地横穿过草原。整片的携带雨的浓云从西面朝我们这里在逼近。
草原那样的宽广,已经让人很烦腻了。别管你走多快但总也感觉不到你正在朝前走。简直是感觉不到距离感。
想一想地话,步行这么广袤的土地还真是第一次。无限远的风动向就像要拿到手那样。鸟群和云流交叉着越过头顶朝着北方飞去。 |
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