" ^0 Z |+ v T3 [ 古代エジプト人の死生観について、作家の荒俣宏さんが書いている。「彼らは、生命は永遠に存在し続けると信じていた。死は完全な消滅ではなく、『霊的な旅』と考えられた」。ならば今ごろ、あの10人はどの辺を旅しているのだろう▼エジプトのルクソールで観光客がテロ集団に襲われ、62人が殺害された事件から今日で10年になる。逃げ場のない神殿広場で、4組の新婚を含む5組の日本人夫婦が巻き込まれ、男性1人を除いて亡くなった▼10人目は添乗員の草野冨己恵(ふみえ)さん(当時47)だ。福島県に暮らす草野さんの母、聖子(きよこ)さん(88)は、火葬の後に見つけた銃弾2個を小箱にしまった。一つは眉間(みけん)に、一つは右太ももに撃ち込まれた▼「観光地を恨んでもみたけれど、すてきな場所だからあの子も案内したのだと思い直した」。そう語る母親が「天国まで添乗して行くなんて」と悔やんだ娘。ツアー参加者は幸せの極みで生を絶たれ、見送りもなく予定外の旅に出た。ご遺族の衝撃は時も癒やせないだろう▼イスラム過激派の無差別テロはその後、世界中に広がった。政治や宗教のもめごとに無関係な、名もなき勤め人、旅行者が、望まない旅立ちを強いられている。警備を強化したエジプトでも、観光地への襲撃がやまない▼永遠の生を疑わない古代人は、魂の帰りに備えて死後の肉体を保存した。命の神秘と尊厳を踏みにじるテロが、本来、これほど似合わぬ地はない。10年でさらにもつれた憎悪の連鎖を嘆きつつ、悲しい顔の10人が空を翔(か)けているはずだ。