天声人語
, ]4 U, s) [1 d5 k* F6 o2 k* i0 Y2007年12月09日(日曜日)付& r( C" f4 f1 R! N+ G9 y
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すす払いは一年の厄を除き、正月に備える習わしだ。〈煤掃(すすはき)に用なき身なる外出(そとで)かな〉松本たかし。黒い顔が動き回る間、老人や病人、子供らは別室や戸外に待避した。ずぼらなだけの「すす逃げ」もあったらしい▼冬晴れの午後、開け放った戸障子から外気が流れ込み、汗を冷やす。そんな肌の記憶で大掃除を思い出す人もいるだろう。機械も洗剤もない時代は、雑巾(ぞうきん)にバケツ、ほうき、たわしなどの小物が戦力だった▼たわしの先駆「亀の子束子(たわし)」が世に出て1世紀だという。女性が扱いやすいようにと、こぢんまりU字形に丸めた形が考案されたのは1907(明治40)年。東京の製造元は「発明100年」とする▼スポンジに主役を譲るまで、無数の亀の子が昭和の台所をピカピカにした。みかん色の包装には今も、天然素材、快適定番、品質本位と自信の4字が弾む。山を愛する同僚は、冬山必携の品だと言う。服や道具の雪払いに重宝するそうだ▼純な雪には程遠く、豊かな生活からにじみ出る汚れは毒気さえ帯びてきた。清める側も科学で武装した。その一つ、ダスキンが募った「大掃除川柳」に〈大掃除あしたあしたで大晦日(おおみそか)〉。どん詰まりでも、毎年するから意味がある。積年の汚れはいずれ「地色」になりかねない▼食品偽装、年金消滅、身内殺害、防衛利権……。ことしも、これを限りに一掃したい4字があふれた。社会の汚れ、政治のよどみは、人の手と亀の子ぐらいで足りるうちになんとかしたい。国民に「すす逃げ」はないと覚悟を決めて。 |