水墨の抽象画で知られる篠田桃紅さんの作品を拝見して、黒という色について考えたことがある。本当の「黒」は真っ黒の一歩手前、明るさのある黒で、沈静であって死ではない。そんな篠田さんの文章が記憶にあったからだ▼〈あと一歩に無限のはたらきを残し、それはわが手のなすところではなく、天地自然、神、宇宙、とにかく人間のはかり知れない大きな手にゆだねる〉。そういう考え方が好もしいと、随筆集『墨いろ』につづっている。黒白(こくびゃく)の世界の凄(すご)みに感じ入ったものだ▼篠田さんの言う「あと一歩」は、科学でも神の領域に近いようだ。大学の研究班が「世界で最も暗い物質」を作った、というニュースが米国から届いた。色は光が反射して生じる。だが、その物質は当たった光の99.955%を吸収してしまうそうだ▼一般的な黒い塗料だと5%から10%も反射する。新物質は0.045%で、これまでの最高記録より約3倍暗い。だが真っ黒ではない。どんな物質も、光を完全に吸収することはないのだという。「あと一歩」の深淵(しんえん)は、墨の芸術にも、科学にも底がない▼神の領域から目を転じれば、身の回りには「黒」が目立っている。今やファッションにとどまらない。和洋菓子に始まり、綿棒、まな板からトイレットペーパーまで。白が当たり前だった日用品にも広がっている▼不吉を連想させもするが、黒に非日常の粋を重ねる人も多いようだ。自然の中に色の乏しい季節である。深遠な黒の世界を! D3 D: ]% H: M& W5 [3 V$ G
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[ 本帖最后由 藤堂真琴 于 2008-2-7 18:37 编辑 ] |