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楼主: Jennifer

[经验方法] 連載《天声人語》想看中文版请去看1590楼最新公告

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发表于 2008-11-10 14:06:14 | 显示全部楼层
2008年11月5日(水)付
& q5 j. G( Y, k4 h
& U4 Y5 H$ H) s* s0 J がん闘病を体験したエッセイスト岸本葉子さんによれば、医師の説明を聞くときはペンと紙が大切らしい。聞きながらメモをとっていく。難しい専門用語が分からないときは、ペンを持つ手が止まる▼止まることで、言葉が理解できていないと自分で分かる。医師も気づく。だから聞き直せるし、医師の方から丁寧にかみ砕いてくれることもあるそうだ。先ごろ東京であった「あたたかい医療と言葉の力」というシンポジウムでお聞きした▼患者と医師の会話は多くの場合、不安の中ではじまる。緊張もある。「白衣高血圧」と言って、白衣を見るだけで血圧の上がる人もいる。そのうえ弱る気持ちを抱えていれば、メモを心がけたにしても、難語の理解は楽ではない▼そうした言葉の壁を低くできないかと、平易に言い換える取り組みが進んでいる。国立国語研究所の委員会が、まず57語についてまとめた。「浸潤」は「がんがまわりに広がること」、「寛解」は「症状が落ち着いて安定した状態」など例が並ぶ▼カタカナ語も多い。それらを読んで、わが無知と誤解もずいぶん正された。そして「願わくば」と思った。分かりやすくなった言葉が、医師の心の温かみを乗せていてほしいものだ▼亡くなった臨床心理学者の河合隼雄さんは「病に対する最大の処方は希望である」という言葉が好きだった。医療現場の多忙は知りつつ、胸にたたんでほしい至言と思う。温かみに裏打ちされたとき、医師の言葉は「わかりやすさ」を超えて、患者をささえる「力」となるのに違いない。
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发表于 2008-11-10 14:06:45 | 显示全部楼层
2008年11月6日(木)付
/ D8 N9 j. n; c) O. U; X. |$ `3 F- h+ q
 それは、きょうの日を予言した熱狂だったように、いまになれば思われる。無名だったオバマ氏が4年前、一躍全米に名を広めた演説のことだ。民主党全国大会での鮮やかな雄弁を、取材で会場にいて聞いた▼クリントン夫妻や、その年の大統領候補ケリー上院議員……。きら星が光る会場の空気は「オバマって誰?」だった。だが登壇し、話を始めると、大聴衆は私語をやめ、たちまち吸い込まれた。きら星もかすむ歓声と拍手が、「祖国アメリカ」を語る言葉に湧(わ)いた▼米国の民衆は政治家に言葉を求め、言葉を楽しむ。心に響く言葉によって連帯感を強め、将来を確かめ合う光景は、日本の政治風景とだいぶ違う。かの地の選挙が「民主主義の祭り」と呼ばれるゆえんでもある▼その祭りに勝ち、オバマ氏は大統領になる。4年を経た勝利演説でも聴衆を魅了していた。「民主主義を疑っている人がいるなら、今夜がその答えだ」。初の黒人大統領になる自らを、建国以来の理念に重ねた▼無名かつ無銘から登りつめた勝利の言葉は、それゆえに重い。人を勇気づけもする。ひるがえって、世襲議員の首相が続く日本とは、残念ながらだいぶ違う。選挙は将来への賭けだという。米国民は「変革」のサイを投げた。こちらは賭ける機会も見通せぬまま閉塞(へいそく)感が募るばかりだ▼「真に偉大な大統領になりたい。情けない大統領ならいくらでもいるから」と、氏はかつて語っていた。きょうの興奮がさめていけば、後には厳しい現実が控えている。言葉の真価は、これから問われる。
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发表于 2008-11-10 14:07:22 | 显示全部楼层
2008年11月7日(金)付& T- C0 n! U3 S" I
. v" Z- {) p* c% L7 H! C+ X4 k
 東京にある日本民藝(みんげい)館をつくった柳宗悦(やなぎ・むねよし)は、身の回りで使われている陶器や木工品など、日常の道具に美しさを見いだした人だ。それら民衆工芸の美しさは、人の手で作られるからこそだと『手仕事の日本』(岩波文庫)に書いている▼手が機械と違うのは、心とつながっているからだと柳は言う。〈手はただ動くのではなく、いつも奥に心が控えていて……働きに悦(よろこ)びを与えたり、また道徳を守らせたりする〉。手仕事とは心の仕事にほかならないと、名高い目利きは唱えている▼その「手と心」の関係について、米国から愉快なニュースが届いた。手が温まっている人は、冷えている人に比べて、他人に対して優しくなるそうだ。大学の研究グループが実験結果を発表した▼たとえばホットコーヒーのカップを持った人は、アイスの人より他人を好意的に評価する傾向が見られたという。温湿布と冷湿布でも似た傾向が現れた。やはり手の奥には心が控えているのか。手のぬくもりは無意識のうちに心に結びつくらしい▼北からは雪の便りが届いて、きょうは立冬。季節の巡りは順調らしく、近所の雑木林は緑がだいぶ色あせた。通り雨がぱらぱらと枯れ葉を鳴らすような日には、温かいカップを両手でそっと包むのが「心」にはいいようである▼〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉という歌が俵万智さんにあった。白い息に手をこすり合わせる2人が浮かぶ。「寒いね」の会話もいま、北から南へと、急ぎ足で列島を下っているのに違いない。
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发表于 2008-11-10 14:07:56 | 显示全部楼层
2008年11月8日(土)付
' J% E- l' ~7 ^9 K! a7 g
; F( j6 o- W8 P, j/ ?$ f4 i 就職を望む人が、履歴書を書いて先方に送るのは日本もアメリカも変わらない。だが違うこともある。米国ではふつう、顔写真を張る必要はない。肌の色などによる書類審査の差別を防ぐためだ▼それで差別はなくなったのかと、シカゴ大学の教授らが数年前に「実験」をした。求人広告を出したいくつかの企業に、目的を伏せて3700通の架空の履歴書を送った。返事が戻ると、案じた通りだった▼白人に多いとされる名前(たとえばエミリー)で送った履歴書には面接の通知が多かった。黒人につけられがちな名前(たとえばラトーヤ)には少なかった。1.5倍の差がついたそうだ。平等をうたう奥に、なお根強い差別がひそむ一例だろう▼自ら勝ち取った法や制度の平等は、皮肉なことに黒人を追いつめてもきた。「それでも貧しいのは努力が足りないからだ」。責任を個々の黒人に帰する風潮を米社会は強めてきた。そして、貧富の格差はブッシュ政権で極まる▼そのブッシュ氏が、オバマ氏勝利の立役者との見方がもっぱらだ。これまでは低かった黒人の投票率が、今回は跳ね上がったそうだ。「悪い政治家をワシントンへ送り出すのは、投票しない善良な市民たちだ」。そんな警句をきっと、多くの人に思い起こさせたに違いない▼歴史的な勝利にどれだけの涙が流れただろうと、本紙記者は黒人の喜びを伝えていた。号泣した人もいる。これを機に本当の平等が加速していくなら、不人気きわまるブッシュ氏の、数少ない功績の一つとして歴史に残るかもしれない。
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发表于 2008-11-10 14:08:23 | 显示全部楼层
2008年11月9日(日)付
0 g( c# g" |1 P1 s* I' A& @; j- q8 X8 ?! W( j
 「黄金の三角」といえば、インドシナ半島の麻薬密造地帯をさす。ことほど左様に、美しい言葉が美しい事物を表すとは限らない。字句の美しさゆえに、現実の醜さが際立つこともある▼1938年の晩秋、ドイツ全土でユダヤ人街が襲われ、多くの死傷者が出た。路上に砕け積もったガラスのきらめきから「クリスタル・ナハト(水晶の夜)」の名で現代史に刻まれる。ナチスが扇動した事件から、今夜で丸70年になる▼以後、ユダヤ人迫害は強制収容へと加速していく。ドイツが侵攻したポーランドのユダヤ人350万人の一部は北に逃れ、40年の夏、リトアニアに達した。赴任中の外交官、杉原千畝(ちうね)が彼らに大量の日本通過ビザを発給し、6千人の命を救った話はよく知られる▼妻の幸子(ゆきこ)さんは、領事館に押し寄せた難民に驚く長男とのやりとりを、自著に残した。「あの人たち何しにきたの?」「悪い人に捕まって殺されるので助けてくださいって言ってきたのよ」「パパが助けてあげるの?」。一瞬、言葉に詰まり「そうですよ」▼リトアニアはソ連に併合され、領事館は閉鎖を迫られていた。千畝は撤収までのひと月、東京の命に背いて手書きのビザを出し続ける。痛くて動かない腕を幸子さんがもんでいるうち、眠りこける日々だったという▼86年に他界した千畝。愛妻家としては、天国での単身もそろそろ限界だったに違いない。先月、幸子さんが94歳で召された。お別れの会がきょう、東京の青山葬儀所である。その勇気と、あの狂気に、思いを致す一日としたい。
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发表于 2008-11-11 08:44:36 | 显示全部楼层
2008年11月11日(火)付$ h* B& L% x3 T
5 k" m5 n( m( O! a/ n1 ]7 C4 |
 芭蕉門下の俳人だった越智越人(おち・えつじん)に〈行年(ゆくとし)や親にしらがをかくしけり〉がある。わが子の髪に白いものが交じってきたと気づいたら、親は心細さに駆られよう。だから隠す。篤実な親思いの句と見たが、違っているだろうか▼誰が言ったか、「父母存するうちは老いを称せず」という教えも記憶する。親が生きているうちは、自分が老いたとは口にしない。古風な孝行の心構えだろう。だが昨今は、親を世話する子による虐待の悲劇が後を絶たない▼厚生労働省によれば、昨年度に家庭内で起きた高齢者の虐待は1万3千件を超えていた。被害者の7割は介護の必要な人だった。加害者の4割強は息子で、今回も一番多い。衣食住の心得が乏しいからか、どうしても男はストレスをためやすいようだ▼親の寿命が延びれば、子も老いの坂にかかりだす。白髪を隠し、弱気を封じての親孝行は、長持ちはすまい。同居する独身の子による「シングル介護」も増えていると聞く。身内の「頑張り」に多くを担わせる介護は、もろくて壊れやすい▼きょうは「介護の日」だそうだ。日付の11の重なりを、厚労省が「いい日、いい日」と語呂合わせした。センスはともかく、大臣は母親の介護を体験した舛添氏だ。支え合いを進める力になる、実のある一日に期待したい▼60歳代の半ばから母と夫を同時に介護した歌人の斎藤史(ふみ)は、ぎりぎりの思いを数々の歌に託した。〈起き出(い)でて夜の便器を洗ふなり 水冷えて人の恥を流せよ〉。介護に疲れた人を、孤立感という荒野に迷わせてはならない。
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发表于 2008-11-15 15:11:11 | 显示全部楼层
2008年11月12日(水)付1 q, n/ \, j. @, I" N# V8 e
 雷が落ちたかのように驚いたと、去年亡くなった宮沢喜一元首相は回想している。日本の占領時代、帝王のように君臨していたマッカーサー元帥が、トルーマン大統領に解任されたときの話だ▼朝鮮戦争をめぐっての、米政府の政策を顧みない言動が、解任の理由だった。帝王より偉い人物がいることに日本人は驚く。「シビリアン・コントロール(文民統制)とはこういうものか」と若き宮沢は目を開かれる思いだったらしい▼軍隊を文民政治家の指揮下に置く仕組みは、民主国家の原則とされる。それを軽んじる、横着な空気が自衛隊にあるのではないか。航空自衛隊トップの「論文問題」に、封印したはずの「戦前の臭(にお)い」を嗅(か)いだ人は少なくなかっただろう▼その前航空幕僚長への参考人質疑が国会であった。先の戦争についての、政府見解に反する論文への反省は聞かれなかった。「武器を堂々と使用したいのが本音か」の問いには、「そうすべきだと思う」。あれこれ答弁を聞けば、5万の隊員を束ねる人として、不適切と見るほかない▼昭和の旧軍は、「政治に拘(かかわ)らず」の軍人勅諭に背いて横車を押しまくった。ついには政治をほしいままにして戦争に突き進んだ。時代が戻るとは思わないが、武装集団に妙な政治色が透けるようでは国民は不安になる▼ところで今日は、戦争犯罪を裁いた東京裁判の刑の宣告から60年になる。文官では元首相の広田弘毅ひとりが極刑になった。軍に抗しきれなかったとされる宰相の悲運は、文民統制なき時代の暗部を伝えてもいる。
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发表于 2008-11-15 15:14:07 | 显示全部楼层
2008年11月13日(木)付
* G+ ~% C* o" ^: r
( `7 t1 M7 ^) F! L( r 政治が思い描く人間像は、古くから、あまり美しいものではないと相場が決まっているそうだ。だから近代の政治学はおおむね「人間性悪説」の上に築かれてきたのだという▼たとえばイタリアの政治思想家マキャベリは民衆について、「利益を与えれば味方をするが、いざ犠牲を捧(ささ)げる段になると、たちまち尻をまくって逃げ出す」と辛辣(しんらつ)に述べている。そうしたことを昔、政治学者丸山真男の著書に教わった▼だが、本紙世論調査の結果は、マキャベリ先生の人間観と少々違ったようだ。定額給付金を「不要な政策」と思う人は63%に上っていた。逆に、消費税引き上げの考えを表明した首相を評価する人は、しない人をわずかだが上回った▼お金がほしいのはやまやまだが、目先のバラマキより本当の安心がほしい。そんな民意を数字に見るのは早計だろうか。選挙目当ても見え透いている。〈全員に配れば買収にはならぬ〉と朝日川柳にあった。「座布団一枚!」の声が掛かりそうである▼それにしても政府の迷走ぶりには目を覆う。難題だった所得制限は結局、窓口になる市町村の判断に丸投げをした。カネは出すから「良きに計らえ」とは、責任逃れもはなはだしい。政治の貧困、ここに極まった光景だ▼英国の哲学者で、政治家でもあったベーコンは〈金銭は肥料のようなもので、ばらまかなければ役に立たない〉と国を治める勘所を語った。だが今回、その肥料から何が育つのだろう。2兆円もの巨額である。何も生えない愚策では、ベーコン先生に顔向けできない。
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发表于 2008-11-15 15:15:48 | 显示全部楼层
2008年11月14日(金)付2 D+ A) W% s3 Y* X/ r  ^

4 b, A. _9 K# \1 A 米国の独立宣言を起草した第3代大統領ジェファーソンは「言論の自由」の何たるかを知っていた。「私は新聞なき政府より、政府なき新聞を選ぶ」と述べていて、わが業界はよくこの言葉を援用する▼だが、のちに新聞嫌いになったらしい。こちらはあまり引用されないが、「新聞を読まない人は、読む人よりも真実に近い」などと言っている。在職中に色々書かれて腹を立てたのかもしれない▼トヨタ自動車相談役の奥田碩(ひろし)氏も、腹を立てたそうだ。自分のことでではない。「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」で、「厚労省たたきは異常」「マスコミに報復でもしてやろうか」などと発言した。報復とはスポンサーから降りることらしい▼国民から負託された公権力の運用に、厳しい目が注がれ、批判が起きるのは健全なことだ。メディアはそれを担っている。役目を知らぬ奥田氏ではあるまいに、一体どうしたことか▼ことにテレビにご立腹だ。率直な物言いで知られるにしても、「2、3人のやつが出てきて、わんわん毎日やっている」とは荒っぽい。年金不祥事を受けて発足した懇談会の座長でもある。政財界への影響力の大きい人が、自由な批判を牽制(けんせい)するような発言は、いただけない▼ジェファーソンに話を戻せば、メディアが大統領に嫌われたのは、役目を果たした証しかもしれない。ただし事実に裏付けられた報道なら、という前提がつく。批判には責任が伴う。報じる側にも反省点はあるだろうが、それでも自由な言論は、社会にとってかけがえがない。
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发表于 2008-11-15 15:16:33 | 显示全部楼层
2008年11月15日(土)付
0 Z! R4 [# g+ D/ g まど・みちおさんの紡ぐ詩は穏やかに、読む者の胸に広がっていく。明日99歳の白寿を迎えるその詩人に、「虹」という一作がある。地球に君臨する人間への、平易だが、きびしい言葉が連なっている▼〈ほんとうは/こんな 汚れた空に/出て下さるはずなど ないのだった/もしも ここに/汚した ちょうほんにんの/人間だけしか住んでいないのだったら〉。そして続く▼〈でも ここには/何も知らない ほかの生き物たちが/なんちょう なんおく 暮している/どうして こんなに汚れたのだろうと/いぶかしげに/自分たちの空を 見あげながら〉。無辜(むこ)の生き物を慰めるために、虹は空にかかる――詩を思い出しながら、国際自然保護連合の新しい報告を読んだ▼世界の哺乳類(ほにゅうるい)の4分の1が、主に人間活動の影響で絶滅の危機にあるのだという。危機は1141種に忍び寄り、うち188種は絶滅寸前、29種はもう手遅れの状態らしい。環境は悪化し、生息地は消えて、動物たちを追いつめている▼そうした中で、哺乳類の一種、人間は増え続けている。国連人口基金の新しい報告では67億人。2050年には91億人を超えるという。地面も空気も、水も緑も、1人分の「地球」は少なくなる一方だ。無論それらは、他の生き物との共有財産である▼まどさんが思いを託した虹は、空の片方が晴れて、もう片方で雨が降るとき現れる。夏の風物詩だが、晩秋から初冬にも「時雨(しぐれ)虹」が時折かかる。淡い日差しゆえに消えやすい様が、滅びゆくものの姿に重なり合う。
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发表于 2008-11-16 10:22:34 | 显示全部楼层
2008年11月16日(日)付
7 M. O- ~; T- {, a/ x4 _5 B( C# M2 \; h8 U+ f7 L
 「すべては一匹のネズミから始まった。それを忘れてはいけない」。スタジオの成功を振り返る時、ウォルト・ディズニーは語っていたそうだ。ミッキーマウスがあさって、80歳になる▼1928年11月18日の日曜日、音声つきアニメの先駆け『蒸気船ウィリー』がニューヨークで公開された。主人公のミッキーが大衆の前に最初に登場した作品だ。映画は大当たりし、希代のキャラクタービジネスが動き出す▼ミッキーは程なく、この動物の「世界標準」に上り詰めた。本物のネズミを初めて見た子は、意外に小さな耳、短い手足に戸惑うことだろう。もっぱら闇の中で終わるネズミの一生は3年ほど。片やディズニーの人気者は脚光の中に80年。親近感には大きな差がついた▼だが、己の姿を次代に伝える力は「本物」の方も侮れない。日本の研究チームが、16年凍結していたマウスの死体から、同じ遺伝情報を持つクローンマウスを作った。凍って壊れた細胞から核を無傷で取り出し、生きたマウスの卵子に移したという▼ネズミ死すとも細胞の記憶は死せず。これを手がかりにマンモスなどの絶滅動物を復活させる夢が膨らむ。「複製」に厳しいキャラクター商売と違い、試験管が並ぶスタジオからは、まだまだ何が飛び出すか分からない▼ディズニーの独創性をもしのぐ勢いで、架空と現実の境界がぼやけていく。神の領域に迫る生命工学の歩幅に、軽い胸騒ぎを覚えぬでもない。子年(ねどし)が次に巡り来る頃、21世紀の「一匹から始まる物語」はどんな場面を迎えているだろう。
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发表于 2008-11-18 11:28:35 | 显示全部楼层
2008年11月17日(月)付4 e6 ?$ A% `; k( |

" c- o9 |7 R/ N& n& \2 X3 S 異国船が出没し、大地震や大火が続いた幕末の江戸。世情騒然とする中、盛んに「鯰絵(なまずえ)」が描かれた。地を揺らす大鯰を民が懲らしめる定番のほか、大暴れを反省した鯰が復興を手伝うのもある▼好き放題の果てに、毒を吐きながら衰えていく大鯰。今の米国にそんな絵を重ねてみる。こりゃたまらんと、小魚中魚が20匹ほど泳ぎ寄り、池を救う策を思案した。ワシントンの金融サミットである▼宣言は「いくつかの先進国」が対応を誤ったと認め、各国の連携を強めて危機に臨むという。「鯰語」に訳せば〈ひとつながりの水で生きていくなら知らん顔はできまい。小には小の、中には中の役目があるぞ〉だろうか▼米国の懐は、戦費その他でからっぽ。外の資金を誘い続けるには、自由放任の市場とドルの威信は譲れない。こうした鯰の都合が「池の平穏」に先んじるあたりに病巣がのぞく。火元の、しかも去る人が発した宣言に効ありや▼鯰絵の鯰はやがて、天災で世の中が一変するかもという庶民の期待を受けて「世直しの神」に姿を変えていく(原信田(はらしだ)実『謎解き広重「江戸百」』集英社新書)。時に度し難い米国鯰も、いざという時の変わり身の早さは侮れない。現に「次」が変革を訴え、民は「やればできる」と熱く唱和している▼翻って、わが政治のぬるさよ。バイト2日分の配り金で票を釣ろうにも、選挙を怖がり、とんちんかんな話になった。かくして変革は遠のく。池の主について行くなら行くで、主以上の身軽さが要るのに、その泳力、漂う浮草のごとしだ。
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发表于 2008-11-18 11:29:51 | 显示全部楼层
2008年11月18日(火)付0 s1 K) D/ U: T) r' V5 G; M

5 {+ J4 z. `8 K+ d5 {* F 早世したスポーツライター山際淳司に『ナックルボールを風に』と題する一冊がある。ナックルボールとは野球の投手が投げる球種の一つ。ふつうは、拳(こぶし)を握った状態で親指と小指だけを伸ばし、球を挟んで投げる▼山際の著書によれば、「指先で球に回転を与えないように押し出すのだ。あとは空気の流れと湿度が球を運んでゆく過程で、思わぬ方向に回転を与え、球が意外な変化を見せる」となる。つまり、投げた本人にもどんな変化をするのか分からない、不思議な球なのである▼その球を操る16歳の女子高生投手が、プロ野球に行くとの報道には驚いた。来年春に開幕する関西独立リーグのドラフト会議で、横浜市の吉田えりさんが神戸のチームに指名された。入団には前向きだそうだ▼右下手投げから繰り出すナックルは、捕手が後逸するほどに、揺れて落ちるらしい。球速は最高101キロというが、ひらりとかわす球に速さはいらない。「柔よく剛を制す」投球がどれほど通用するものか、興味がわく▼思えばいまは、彼女自身がナックルボールのようなものだろう。契約すれば、男とプレーする日本初の女性プロ選手になる。話題に終わらず活躍するよう、球のゆくえに期待をしたい▼投手が投げ、捕手が返すボールを、劇作家の寺山修司は2人の会話にたとえた。会話に嫉妬(しっと)した男が、2人の間に立ってボールをはじき飛ばそうとした。それが野球の始まりだと、ユニークな想像力で見立てている。「嫉妬のバット」が空を切る巧投をいつか見られたら楽しいと思う。
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发表于 2008-11-20 09:38:41 | 显示全部楼层

2008年11月19日(水)付

小説「夫婦(めおと)善哉(ぜんざい)」で知られる織田作之助は、ヒロポン注射が巧みだったそうだ。戦後すぐのこと、酒の席などで、やおら腕をまくり上げては自分で打っていた。「当時の流行の先端だから、一つの見栄(みえ)だったろう」と、こちらも無頼派の作家、坂口安吾が随筆に残している▼そんな無頼気取りなのか、それともファッションなのか。大学生の大麻事件が相次いで表沙汰(おもてざた)になっている。汚染のすそ野は広いと見られる。ウチは大丈夫かと、大学の関係者は戦々恐々の日々らしい▼逮捕の様子がテレビで流れていた。自室を捜索する取締官に、学生が何度も「マジですか」と聞く。「これは現実だ」の返答が学生を打ちのめす。罪の意識の薄いまま大麻を栽培していたのだろうが、代償は大きい▼深刻なことに検挙の7割近くは10代と20代に集中している。好奇心は若い胸の宝だが、これは褒められない。より危険な薬物への客引き役でもある。引かれて敷居を跨(また)ごうものなら、そこには破滅への舗装道路がまっすぐ延びている▼「ファッションというのは、始めるやつは英雄で、最後まで従わないやつは豪傑で、真ん中にいるやつはみんな馬鹿」。劇作家の山崎正和さんが、昔のドラマでそんなセリフを書いたと月刊誌で語っていた▼いま大麻が一部の若者の流行だとするなら、「つられて手を染めるやつはみんな馬鹿」となろう。始める者が英雄でもあるまいが、ここは流されずに「豪傑」でいたい。若いながらに積み上げたものを、煙とともに棒に振るのは、あまりにもったいない。
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发表于 2008-11-20 09:39:09 | 显示全部楼层

2008年11月20日(木)付

北の地方は雪化粧し、暖地でも冷え込みがきびしい。大陸からの寒気とともに冬将軍の足音が聞こえてきた。〈国安く冬ぬくかれと願ふのみ〉。高浜虚子の一句を思い出す。暖冬を願うというより、「ひもじさ、心細さ」のない「温(ぬく)さ」の意味だろう▼この冬はどうか。不況の暗雲が列島を覆う。消費は縮み、雇用はゆらぎ、中小企業は資金繰りに苦しむ。政治は迷走する。そんな灰色の空に、今度は、不気味な黒雲がわき上がった。2人の元厚生事務次官宅を狙った殺傷事件である▼2人とも年金畑が長く、今の制度の骨格をつくった高級官僚だ。どちらも、犯人は玄関で問答無用に刺したらしい。東京と埼玉の現場は10キロと近い。共通点は、「連続」が偶然でないことを指し示している▼だが、それから先は分からない。年金問題をめぐるテロなのか、それとも違う目的なのか。同一犯か、別人か。「たら」と「れば」の推理でつなぐ事件像は、核心部が見通せない。無論いかなる理由にせよ、断じて許されぬ蛮行に変わりはない▼いまの世に吹く不況の風は、世界恐慌の始まった1929(昭和4)年を思わせるとも聞く。その年、いまブームの「蟹工船」が出版され、「大学は出たけれど」の嘆きが流行した。閉塞(へいそく)感の中でテロが横行するようにもなる▼冒頭の句を、虚子は戦前に詠んだ。暗い時代だが、どんな時でも人は幸福を求め、「冬ぬくかれ」を願う。人の権利でもあり、生きる営みそのものでもあろう。それを断ち切った犯行の反社会性と、そして卑劣を強く憎む。
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