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[好书连载] 哈利波特日文版 「ハリー・ポッターと賢者の石」(完结)

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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:31:16 | 显示全部楼层
 ハグリッドは、ダーズリーたちに詰め寄って、かみつくように言った。
「この子が……この子ともあろうものが……何も知らんというのか……まったくなんにも?」
 ハリーは、ちょっと言い過ぎじやないかと思った。学校にも行ったし、成績だってそう悪くなかったんだから。
「僕、少しなら知ってるよ。算数とか、そんなのだったら」
 ハグリッドは首を横に振った。
「我々の世界のことだよ。つまり、あんたの世界だ。俺の世界。あんたの両親の世界のことだ」
「なんの世界?」
 ハグリッドはいまや爆発寸前の形相だ。
「ダーズリー!」
 ドッカーンときた。
 バーノンおじさんは真っ青な顔で、何やら「ムニャムニャ」と意味のないことを言うばかりだった。ハグリッドはハリーを燃えるような目で見つめた。
「じゃが、おまえさんの父さん母さんのことは知っとるだろうな。ご両親は有名なんだ。おまえさんも有名なんだよ」
「えっ? 僕の……父さんと母さんが有名だったなんて、ほんとに?」
「知らんのか……おまえは、知らんのか……」
 ハグリッドは髪をかきむしり、当惑した眼差しでハリーを見つめた。
「おまえは自分が何者なのか知らんのだな?」
 しばらくしてハグリッドはそう言った。
 バーノンおじさんが急に声を取り戻して、命令口調で言った。
「やめろ! 客人。今すぐやめろ! その子にこれ以上何も言ってはいかん!」
 ハグリッドはすさまじい形相でおじさんをにらみつけた。そのものすごさときたら、たとえ今のダーズリー氏より勇敢な人がいたってしっぽを巻いただろう。ハグリッドの言葉は、一言ひとこと怒りでワナワナと震えていた。
「きさまは何も話してやらなかったんだな? ダンブルドアがこの子のために残した手紙の中身を、一度も? 俺はあの場にいたんだ。ダンブルドアが手紙を置くのを見ていたんだぞ! それなのに、きさまはずーっとこの子に隠していたんだな?」
「いったい何を隠してたの?」ハリーは急き込んで聞いた。
「止めろ。絶対言うな!」
 おじさんは狂ったように叫び、ペチュニアおばさんは、恐怖で引きつった声を上げた。
「二人とも勝手に喚いていろ。ハリー――おまえは魔法使いだ」
 小屋の中が、シーンとした。聞こえるのはただ、彼の音とヒューヒューという風の音……
「僕が何だって?」ハリーは息をのんだ。
「魔法使いだよ、今言ったとおり」
 ハグリッドはまたソファにドシンと座った。ソファがギシギシとうめき声をあげて、前より深く沈み込んだ。
「しかも、訓練さえ受けりや、そんじょそこらの魔法使いよりすごくなる。なんせ、ああいう父さんと母さんの子だ。おまえは魔法使いに決まってる。そうじゃないか? さて、手紙を読む時がきたようだ」
 ハリーはついに黄色味がかった封筒に手を伸ばした。エメラルド色で宛名が書いてある。

  海の上、
 岩の上の小屋、
  床
 ハリー・ポッタ一棟

 中から手紙を取り出し、読んだ。

 ホグワーツ魔法魔術学校
 校長 アルバス・ダンブルドア
 マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長
 最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員

 親愛なるポッター殿
 このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
 新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 敬具

 副校長ミネルバ・マクゴナガル


 ハリーの頭で、まるで花火のように次々と疑問がはじけた。何から先に聞いてよいのかわからない。しばらくしてやっと、つっかえながら聞いた。
「これどういう意味ですか? ふくろう便を待つって」
「おっとどっこい。忘れるとこだった」
 ハグリッドは「しまった」というふうにおでこを手でパチンと叩いたが、その力の強いこと、馬車馬でも吹っ飛んでしまいそうだ。そして、コートのポケットから今度はふくろうを引っ張り出した……少しもみくちゃになってはいたが、生きてる本物だ……それから、長い羽根ペンと……羊皮紙の巻紙を取り出した。ハグリッドが歯の問から舌を少しのぞかせながら走り書きするのを、ハリーは逆さまから読んだ。

 ダンブルドア先生、ハリーに手紙を渡しました。明日は入学に必要なものを買いに連れてゆきます。
 ひどい天気です。お元気で。
 ハグリッドより
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:32:23 | 显示全部楼层
 ハグリッドは手紙をクルクルッと丸めてふくろうの嘴にくわえさせ、戸を開けて嵐の中に放った。そして、まるで電話でもかけたかのようにあたりまえの顔で、ソファに戻った。
 ハリーはポカンと口を開けていることに気づいてあわてて閉じた。
「どこまで話したかな?」
 とハグリッドが言った時、おじさんが灰色の顔に怒りの表情をあらわにし、暖炉の火の明るみにグイと進み出た。
「ハリーは行かせんぞ」
「おまえのようなコチコチのマグルに、この子を引き止められるもんなら、拝見しようじゃないか」とハグリッドはうなった。
「マグ――何ていったの?」気になってハリーは聞いた。
「マグルだよ。連中のような魔法族ではない者をわしらはそう呼ぶ。よりによって、俺の見た中でも最悪の、極めつきの大マグルの家で育てられるなんて、おまえさんも不運だったなあ」
「ハリーを引き取った時、くだらんゴチャゴチャはおしまいにするとわしらは誓った。この子の中からそんなものは叩き出してやると誓ったんだ! 魔法使いなんて、まったく!」
「知ってたの? おじさん、僕があの、ま、魔法使いだってこと、知ってたの?」
 突然ペチュニアおばさんがかん高い声を上げた。
「知ってたかですって? ああ、知ってたわ。知ってましたとも! あのしゃくな妹がそうだったんだから、おまえだってそうに決まってる。妹にもちょうどこれと同じような手紙が来て、さっさと行っちまった……その学校とやらへね。休みで帰ってくる時にゃ、ポケットはカエルの卵でいっぱいだし、コップをねずみに変えちまうし。私だけは、妹の本当の姿を見てたんだよ……奇人だって。ところがどうだい、父も母も、やれリリー、それリリーつて、わが家に魔女がいるのが自慢だったんだ」
 おばさんはここで大きく息を吸い込むと、何年も我慢していたものを吐き出すように一気にまくしたてた。
「そのうち学校であのポッタ一に出会って、二人ともどっかへ行って結婚した。そしておまえが生まれたんだ。ええ、ええ、知ってましたとも。おまえも同じだろうってね。同じように変てこりんで、同じように……まともじやないってね。それから妹は、自業自得で吹っ飛んじまった。おかげでわたしたちゃ、おまえを押しつけられたってわけさ!」
 ハリーほ真っ青で声も出ない。やっと口がきけるようになった時、叫ぶように言った。
「吹っ飛んだ? 自動車事故で死んだって言ったじゃない!」
「自動車事故!」
 ハグリッドはソファからいきなり立ち上がり、怒りのうなり声を上げた。ダーズリー親子はあわててまた隅っこの暗がりに逃げ戻った。
「自動車事故なんぞで、リリーやジェームズ・ポッターが死ぬわけがなかろう。何たる屈辱! 何たる恥! 魔法界の子どもは一人残らずハリーの名前を知っているというのに、ハリー・ポッターが自分のことを知らんとは!」
「でも、どうしてなの? いったい何があったの?」ハリーは急き込んで尋ねた。
 ハグリッドの顔から怒りが消え、急に気づかわしげな表情になった。
「こんなことになろうとは」ハグリッドの声は低く、物憂げだった。
「ダンブルドアが、おまえさんを捕まえるのに苦労するかもしれん、と言いなさったが、まさか、おまえさんがこれほど知らんとはなあ。ハリーや、おまえに話して聞かせるのは、俺には荷が重すぎるかもしれん……だが、誰かがやらにゃ……何も知らずにホグワーツに行くわけにはいくまいて」
 ハグリッドはダーズリー親子をジロッと見た。
「さあ、俺が知ってることをおまえさんに話すのが一番いいじゃろう……ただし、すべてを話すことはできん。まだ謎に包まれたままのところがあるんでな……」
 ハグリッドは腰を下ろし、しばらくはじーっと火を見つめていたが、やがて語り出した。
「事の起こりは、ある人からだと言える。名前は……こりゃいかん。おまえはその名を知らん。我々の世界じゃみんな知っとるのに……」
「誰なの?」
「さて……できれば名前を口にしたくないもんだ。誰もがそうなんじゃが」
「どうしてなの?」
「どうもこうも、ハリーや。みんな、今だに恐れとるんだよ。いやはや、こりゃ困った。いいかな、ある魔法使いがおってな、悪の道に走ってしまったわけだ……悪も悪、とことん悪、悪よりも悪とな。その名は……」ハグリッドは一瞬息を詰めた、が、言葉にならなかった。
「名前を書いてみたら?」ハリーが促した。
「うんにゃ、名前の綴りがわからん。言うぞ、それっ! ヴォルデモート」
 ハグリッドは身震いした。
「二度と口にさせんでくれ。そういうこった。もう二十年も前になるが、この魔法使いは仲間を集めはじめた。何人かは仲間に入った……恐れて入った者もいたし、そいつがどんどん力をつけていたので、おこぼれにあずかろうとした者もいた。暗黒の日々じゃよ、ハリー。誰を信じていいかわからん。知らない連中とはとても友達になろうなんて考えられん……恐ろしいことがいろいろ起こった。我々の世界をそいつが支配するようになった。もちろん、立ち向かう者もいた……だが、みんな殺された。恐ろしや……残された数少ない安全な場所がホグワーツだった。ダンブルドアだけは、『例のあの人』も一目置いていた。学校にだけはさすがに手出しができんかった。その時はな。そういうこった。
 おまえの父さん、母さんはな、おれの知っとる中で一番すぐれた魔法使いと魔女だったよ。
 在学中は、二人ともホグワーツの首席だった! 『あの人』が、何でもっと前に二人を味方に引き入れようとしなかったのか、謎じゃて……だが二人はダンブルドアと親しいし、闇の世界とは関わるはずがないと知っとったんだろうな。
 あやつは二人を説得できると思ったか……それとも邪魔者としてかたづけようと思ったのかもしれん。ただわかっているのは、十年前のハロウィーンに、おまえさんたち三人が住んでいた村にあやつが現れたってことだけだ。おまえさんは一歳になったばかりだったよ。やつがおまえさんたちの家にやってきた。そして……そして……」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:32:59 | 显示全部楼层
 ハグリッドは突然水玉模様の汚いハンカチを取り出し、ボアーッと霧笛のような音を響かせて鼻をかんだ。
「すまん。だが、ほんとに悲しかった……おまえの父さん母さんのようないい人はどこを探したっていやしない……そういうこった。
 『あの人』は二人を殺した。そしてだ、そしてこれがまったくの謎なんだが……やつはおまえさんも殺そうとした。きれいさっぱりやってしまおうというつもりだったんだろうな。もしかしたら、殺すこと自体が楽しみになっていたのかもしれん。ところができんかった。おまえの額の傷跡がどうしてできたか不思議に思ったことはありゃせんか? 並みの切り傷じゃない。強力な悪の呪いにかけられた時にできる傷だ。おまえの父さん母さんを殺し、家までメチャメチャにした呪いが、おまえにだけは効かんかった。ハリーや、だからおまえさんは有名なんだよ。あやつが目をつけた者で生き残ったのは一人もいない……おまえさん以外はな。当時最も力のあった魔法使いや魔女が何人も殺された……マッキノン家、ボーン家、プルウェット家……なのに、まだほんの赤ん坊のおまえさんだけが生き残った」
 ハリーの心に言い知れぬ痛みが走った。ハグリッドが語り終わった時、ハリーはあの目も眩むような緑の閃光を見た。これまでに思い出した時よりずっと鮮烈に……そして、これまで一度も思い出さなかったことまで、初めて思い出した。冷たい、残忍な高笑いを。
 ハグリッドは沈んだ目でハリーを見ながら話を続けた。
「ダンブルドアの言いつけで、この俺が、おまえさんを壊れた家から連れ出した。この連中のところへおまえさんを連れてきた……」
「バカバカしい」
 バーノンおじさんの声がした。ハリーは飛び上がった。ダーズリー親子がいることをすっかり忘れていた。おじさんはどうやら勇気を取り戻したらしい。拳を握りしめ、ハグリッドをはたとにらみつけた。
「いいか、よく聞け、小僧」おじさんがうなった。
「確かにおまえは少々おかしい。だが、恐らく、みっちり叩きなおせば治るだろう……おまえの両親の話だが、間違いなく、妙ちくりんな変人だ。連中のようなのはいないほうが、世の中が少しはましになったとわしは思う。――あいつらは身から出た錆、魔法使いなんて変な仲間と交わるからだ……思ったとおり、常々ろくな死に方はせんと思っておったわ……」
 その時、ハグリッドがソファからガバッと立ち上がり、コートから使い古したピンクの傘を取り出した。傘を刀のようにバーノンおじさんに突きつけながら言った。
「それ以上一言でも言ってみろ、ダーズリー。ただじゃすまんぞ」
 ひげモジャの大男に傘で串刺しにされる危険を感じ、バーノンおじさんの勇気はまたもやくじけ、壁に張りついて黙ってしまった。
「それでいいんだ」
 ハグリッドは息を荒げてそう言うと、ソファに座り直した。ソファはついに床まで沈み込んでしまった。
 ハリーはまだまだ聞きたいことが山のようにあった。
「でもヴォル……あ、ごめんなさい……『あの人』はどうなったの?」
「それがわからんのだ。ハリー。消えたんだ。消滅だ。おまえさんを殺そうとしたその夜にな。だからおまえほいっそう有名なんだよ。最大の謎だ。なあ……あやつはますます強くなっていた……なのに、なんで消えなきゃならん?
 あやつが死んだという者もいる。俺に言わせりゃ、くそくらえだ。やつに人間らしさのかけらでも残っていれば死ぬこともあろうさ。まだどこかにいて、時の来るのを待っているという者もいるな。俺はそうは思わん。やつに従っていた連中は我々の方に戻ってきた。夢から覚めたように戻ってきた者もいる。やつが戻ってくるなら、そんなことはできまい。
 やつはまだどこかにいるが、力を失ってしまった、そう考えている者が大多数だ。もう何もできないぐらい弱っているとな。ハリーや、おまえさんの何かが、あやつを降参させたからだよ。あの晩、あやつが考えてもみなかった何かが起きたんだ……俺には何かはわからんが。誰にもわからんが……しかし、おまえさんの何かがやつに参ったと言わせたのだけは確かだ」
 ハグリッドは優しさと敬意に輝く眼差しでハリーを見た。ハリーは喜ぶ気にも、誇る気にもなれなかった。むしろ、とんでもない間違いだという思いの方が強かった。魔法使いだって? この僕が? そんなことがありえるだろうか。ダドリーに殴られ、バーノンおじさんとペチュニアおばさんにいじめられてきたんだもの。もし本当に魔法使いなら、物置に閉じ込められそうになるたび、どうして連中をいぼいぼヒキガエルに変えられなかったんだろう? 昔、世界一強い魔法使いをやっつけたなら、どうしてダドリーなんかが、おもしろがって僕をサッカーボールのように蹴っていじめることができるんだろう?
「ハグリッド」ハリーは静かに言った。
「きっと間違いだよ。僕が魔法使いだなんてありえないよ」
 驚いたことに、ハグリッドはクスクス笑った。
「魔法使いじゃないって? えっ? おまえが怖かった時、怒った時、何も起こらなかったか?」
 ハリーは暖炉の火を見つめた。そう言えば……おじさんやおばさんをカンカンに怒らせたおかしな出来事は、ハリーが困った時、腹を立てた時に起こった……ダドリー軍団に追いかけられた時、どうやったのかわからないが、連中の手の届かないところに逃げられたし……ちんちくりんな髪に刈り上げられて学校に行くのがとてもいやだった時、髪は、あっという間に元通りに伸びたし……最後にダドリーに殴られた時、自分でもそうとは気づかず、仕返しをしたんじゃないか? 大ニシキヘビにダドリーを襲わせたじゃないか。
 ハリーはハグリッドに向かってほほえんだ。ハグリッドも、そうだろうという顔でニッコリした。
「なあ? ハリー・ポッターが魔法使いじゃないなんて、そんなことはないぞ……見ておれ。おまえさんはホグワーツですごく有名になるぞ」
 だが、おじさんはおとなしく引き下がりはしなかった。
「行かせん、と言ったはずだぞ」食いしばった歯の間から声がもれた。
「こいつはストーンウォール校に行くんだ。やがてはそれを感謝するだろう。わしは手紙を読んだぞ。準備するのはバカバカしいものばかりだ……呪文の本だの魔法の杖だの、それに……」
「この子が行きたいと言うなら、おまえのようなコチコチのマグルに止められるものか」
 ハグリッドがうなった。
「リリーとジェームズの息子、ハリー・ポッターがホグワーツに行くのを止めるだと。たわけが。ハリーの名前は生まれた時から入学名簿に載っておる。世界一の魔法使いと魔女の名門校に入るんだ。七年たてば、見違えるようになろう。これまでと違って、同じ仲間の子供たちと共に過ごすんだ。しかも、ホグワーツの歴代の校長の中で最も偉大なアルバス・ダンブルドア校長の下でな」
「まぬけのきちがいじじいが小僧に魔法を教えるのに、わしは金なんか払わんぞ!」とバーノンおじさんが叫んだ。
 ついに言葉が過ぎたようだ。ハグリッドは傘をつかんで、頭の上でグルグル回した。
「絶対に」
 雷のような声だった。
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:33:33 | 显示全部楼层
 雷のような声だった。
「おれの……前で……アルバス……ダンブルドアを……侮辱するな!」
 ハグリッドはヒューッと傘を振り下ろし、ダドリーにその先端を向けた。一瞬、紫色の光が走り、爆竹のような音がしたかと思うと、鋭い悲鳴がして、次の瞬間、ダドリーは太ったお尻を両手で押さえ、痛みで喚きながら床の上を飛び跳ねていた。ダドリーが後ろ向きになった時、ハリーは見た。ズボンの穴から突き出しているのは、クルリと丸まった豚のしっぽだった。
 バーノンおじさんは叫び声をあげ、ペチュニアおばさんとダドリーを隣の部屋に引っばっていった。最後にもう一度こわごわハグリッドを見ると、おじさんはドアをバタンと閉めた。
 ハグリッドは傘を見下ろし、ひげをなでた。
「癇癪を起こすんじゃなかった」
 ハグリッドは悔やんでいた。
「じゃが、いずれにしてもうまくいかんかった。豚にしてやろうと思ったんだが、もともとあんまりにも豚にそっくりなんで、変えるところがなかった」
 ボサボサ眉毛の下からハリーを横目で見ながら、ハグリッドが言った。
「ホグワーツでは今のことを誰にも言わんでくれるとありがたいんだが。俺は……その……
厳密に言えば、魔法を使っちゃならんことになっとるんで。おまえさんを追いかけて、手紙を渡したりいろいろするのに、少しは使ってもいいとお許しが出た……この役目をすすんで引き受けたのも、一つにはそれがあったからだが……」
「どうして魔法を使っちゃいけないの?」とハリーが聞いた。
「ふむ、まあ――俺もホグワーツ出身で、ただ、俺は……その……実は退学処分になったんだ。三年生の時にな、杖を真っ二つに折られた。だが、ダンブルドアが、俺を森の番人としてホグワーツにいられるようにしてくださった。偉大なお方じゃ。ダンブルドアは」
「どうして退学になったの?」
「もう夜も遅い。明日は忙しいぞ」ハグリッドは大きな声で言った。
「町へ行って、教科書やら何やら買わんとな」
 ハグリッドは分厚いコートを脱いで、ハリーに放ってよこした。
「それを掛けて寝るといい。ちいとばかりモゴモゴ動いても気にするなよ。どっかのボケットにヤマネが二、三匹入っているはずだ」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:34:35 | 显示全部楼层
第5章 ダイアゴン横丁
CHAPTER FIVE Diagon Alley

 翌朝、ハリーは早々と目を覚ました。朝の光だとわかったが、ハリーは目を固く閉じたままでいた。
「夢だったんだ」
 ハリーはきっぱりと自分に言い聞かせた。
「ハグリッドつていう大男がやってきて、僕が魔法使いの学校に入るって言ったけど、あれは夢だったんだ。目を開けたら、きっとあの物置の中にいるんだ」
 その時、戸を叩く大きな音がした。
「ほら、ペチュニアおばさんが戸を叩いている」
 ハリーの心は沈んだ。それでもまだ目を開けなかった。いい夢だったのに……。
 トン、トン、トン、
「わかったよ。起きるよ」ハリーはモゴモゴと言った。
 起き上がると、ハグリッドの分厚いコートがハリーの体から滑り落ちた。小屋の中はこぼれるような陽の光だった。嵐は過ぎた。ハグリッドはペチャンコになったソファで眠っていた。
 ふくろうが足の爪で窓ガラスを叩いている。嘴に新聞を食わえている。
 ハリーは急いで立ち上がった。嬉しくて、胸の中で風船が大きく膨らんだ。まっすぐ窓辺まで行って、窓を開け放った。ふくろうが窓からスイーッと入ってきて、新聞をハグリッドの上にポトリと落とした。ハグリッドはそれでも起きない。ふくろうはヒラヒラと床に舞い降り、ハグリッドのコートを激しく突っつきはじめた。
「だめだよ」
 ハリーがふくろうを追い払おうとすると、ふくろうは鋭い嘴をハリーに向かってカチカチ言わせ、獰猛にコートを襲い続けた。
「ハグリッド、ふくろうが……」
 ハリーは大声で呼んだ。
「金を払ってやれ」
 ハグリッドはソファーに顔を埋めたままモゴモゴ言った。
「えっ?」
「新開配達料だよ。ポケットの中を見てくれ」
 ハグリッドのコートは、ポケットをつないで作ったみたいにポケットだらけだ……鍵束、ナメタジ駆除剤、紐の玉、ハッカ・キャンディー、ティーバッグ……そしてやっと、ハリーは奇妙なコインを一つかみ引っ張り出した。
「五クヌートやってくれ」
 ハグリッドの眠そうな声がした。
「クヌート?」
「小さい銅貨だよ」
 ハリーは小さい銅貨を五枚数えた。ふくろうは足を差し出した。小さい革の袋が括りつけてある。お金を入れるとふくろうは開けっ放しになっていた窓から飛び去った。
 ハグリッドは大声であくびをして起き上がり、もう一度伸びをした。
「出かけようか、ハリー。今日は忙しいぞ。ロンドンまで行って、おまえさんの入学用品を揃えんとな」
 ハリーは魔法使いのコインを、いじりながらしげしげと見つめていた。そしてその瞬間、あることに気がついた。とたんに、幸福の風船が胸の中でバチンとはじけたような気持がした。
「あのね……ハグリッド」
「ん?」
 ハグリッドはどでかいブーツをはきながら聞き返した。
「僕、お金がないんだ……それに、きのうバーノンおじさんから聞いたでしょう。僕が魔法の勉強をしに行くのにはお金は出さないって」
「そんなことは心配いらん」
 ハグリッドは立ち上がって頭をボソボソ掻きながら言った。
「父さん母さんがおまえさんになんにも残していかなかったと思うのか?」
「でも、家が壊されて……」
「まさか! 家の中に金なんぞ置いておくものか。さあ、まずは魔法使いの銀行、グリンゴッツへ行くぞ。ソーセージをお食べ。さめてもなかなかいける。……それに、おまえさんのバースデーケーキを一口、なんてのも悪くないね」
「魔法使いの世界には銀行まであるの?」
「一つしかないがね。グリンゴッツだ。小鬼が経営しとる」
「こ・お・に?」

 ハリーは持っていた食べかけソーセージを落としてしまった。
「そうだ……だから、銀行強盗なんて狂気の沙汰だ、ほんに。小鬼ともめ事を起こすべからずだよ、ハリー。何かを安全にしまっておくには、グリンゴッツが世界一安全な場所だ。たぶんホグワーツ以外ではな。実は、他にもグリンゴッツに行かにゃならん用事があってな。ダンブルドアに頼まれて、ホグワーツの仕事だ」
 ハグリッドは誇らしげに反り返った。
「ダンブルドア先生は大切な用事をいつも俺に任せてくださる。おまえさんを迎えに来たり、グリンゴッツから何か持ってきたり……俺を信用していなさる。な?」
「忘れ物はないかな。そんじゃ、出かけるとするか」
 ハリーはハグリッドについて岩の上に出た。空は晴れわたり、海は陽の光に輝いていた。バーノンおじさんが借りた船は、まだそこにあったが、嵐で船底は水浸しだった。
「どうやってここに来たの?」
 もう一艘船があるかと見回しながらハリーが聞いた。
「飛んで来た」
「飛んで?」
「そうだ……だが、帰り道はこの船だな。おまえさんを連れ出したから、もう魔法は使えないことになっとる」
 二人は船に乗り込んだ。ハリーはこの大男がどんなふうに飛ぶんだろうと想像しながら、ハグリッドをまじまじと見つめていた。
「しかし、漕ぐっちゅうのもしゃくだな」
 ハグリッドはハリーにチラッと目配せした。
「まあ、なんだな、ちょっくら……エー、急ぐことにするが、ホグワーツではバラさんでくれるか?」
「もちろんだよ」
 ハリーは魔法が見たくてウズウズしていた。ハグリッドはまたしてもピンクの傘を取り出して、船べりを傘で二度叩いた。すると、船は滑るように岸に向かった。
「グリンゴッツを襲うのはどうして狂気の沙汰なの?」
「呪い……呪縛だな」
 ハグリッドは新聞を広げながら答えた。
「うわさでは、重要な金庫はドラゴンが守っているということだ。それに、道に迷うさ――グリンゴッツはロンドンの地下数百キロのところにある。な? 地下鉄より深い。何とか欲しいものを手に入れたにしても、迷って出てこられなけりゃ、餓死するわな」
 ハグリッドが「日刊予言者新聞」を読む間、ハリーは黙って今聞いたことを考えていた。新聞を読む間は邪魔されたくないものだということを、バーノンおじさんから学んではいたが、黙っているのは辛かった。生まれてこのかた、こんなにたくさん質問したかったことはない。
「魔法省がまた問題を起こした」
 ハグリッドがページをめくりながらつぶやいた。
「魔法省なんてあるの?」
 ハリーは思わず質問してしまった。
「さよう。当然、ダンブルドアを大臣にと請われたんだがな、ホグワーツを離れなさるわけがない。そこでコーネリウス・ファッジなんてのが大臣になってな。あんなにドジなやつも珍しい。毎朝ふくろう便を何羽も出してダンブルドアにしつこくお伺いをたてとるよ」
「でも、魔法省って、いったい何するの?」
「そうさな、一番の仕事は魔法使いや魔女があちこちにいるんだってことを、マグルに秘密にしておくことだ」
「どうして?」
「どうしてってかって? そりゃあおまえ、みんなすぐ魔法で物事を解決したがるようになろうが。うんにゃ、我々は関わりあいにならんのが一番いい」
 その時、船は港の岸壁にコツンとあたった。ハグリッドは新聞をたたみ、二人は石段を登って道に出た。
 小さな町を駅に向かって歩く途中、道行く人がハグリッドをジロジロ見た。無理もない。ハグリッドときたら、並みの人の二倍も大きいというだけでなく、パーキングメーターのようなごくあたり前のものを指さしては、大声で、「あれを見たか、ハリー。マグルの連中が考えることときたら、え?」などと言うのだから。
 ハリーはハグリッドに遅れまいと小走りで、息を弾ませながら尋ねた。
「ねえ、ハグリッド。グリンゴッツにドラゴンがいるって言ったね」
「ああ、そう言われとる。俺はドラゴンが欲しい。いやまったく」
「欲しい?」
「ガキの頃からずーっと欲しかった。……ほい、着いたぞ」
 駅に着いた。あと五分でロンドン行きの電車が出る。ハグリッドは「マグルの金」はわからんと、ハリーに紙幣を渡し、二人分の切符を買わせた。
 電車の中で、ハグリッドはますます人目をひいた。二人分の席を占領して、カナリア色のサーカスのテントのようなものを編みはじめたのだ。
「ハリー、手紙を持っとるか?」
 網目を数えながらハグリッドが開いた。
 ハリーは羊皮紙の封筒をポケットから取り出した。
「よし、よし。そこに必要なもののリストがある」
 ハリーは、昨夜気づかなかった二枚目の紙を広げて読み上げた。
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:34:56 | 显示全部楼层
     ホグワーツ魔法魔術学校


制服
 一年生は次の物が必要です。
   一、普段着の口―ブ 三着(黒)
   二、普段着の三角帽(黒) 一個 昼用
   三、安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの) ―組
   四、冬用マント 一着(黒。銀ボタン)
 衣類にはすべて名前をつけておくこと。

教科書
 全生徒は次の本を各一冊準備すること。
  「基本呪文集(一学年用)」  ミランダ・ゴズホーク著
  「魔法史」          バチルタ・バグショット著
  「魔法論」          アドルパート・ワフリング著
  「変身術入門」        エメリソク・スイッチ著
  「薬草ときのこ一〇〇〇種」  フィリダ・スポア著
  「魔法薬調合法」       アージニウス・ジガー著
  「幻の動物とその生息地」   ニュート・スキャマンダー著
  「闇の力――護身術入門」   クエンティン・トリンブル著

その他学用品
  杖(一)
  大鍋(錫製、標準2型)(一)
  ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)
  望遠鏡(一)
  真鍮製はかり(一組)

 ふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい。

 1年生は個人用箒の持参は許されていないことを、保護者はご確認ください。



「こんなのが全部ロンドンで買えるの?」
 思ったことがつい声に出てしまった。
「どこで買うか知ってればな」とハグリッドが答えた。

 ハリーにとって初めてのロンドンだった。ハグリッドはどこに行くのかだけはわかっているらしかったが、そこへ向かう途中の行動は、普通の人とはまったくかけ離れたものだった。地下鉄の改札口が小さ過ぎてつっかえたり、席が狭いの、電車がのろいのと大声で文句を言ったりした。
「マグルの連中は魔法なしでよくやっていけるもんだ」
 故障して動かないエスカレーターを上りながらもハグリッドは文句を言う。外に出ると、そこは店が建ち並ぶにぎやかな通りだった。
 ハグリッドは大きな体で悠々と人ごみを掻き分け、ハリーは後ろにくつついて行きさえすればよかった。本屋の前を通り、楽器店、ハンバーガー屋、映画館を通り過ぎたが、どこにも魔法の杖を売っていそうな店はなかった。ごく普通の人でにぎわう、ごく普通の街だ。この足の下、何キロもの地下に、魔法使いの金貨の山が本当に埋められているのだろうか。呪文の本や魔法の箒を売る店が本当にあるのだろうか。みんなダーズリー親子がでっち上げた悪い冗談じゃないのか。でもダーズリー親子にはユーモアのかけらもない。だから冗談なんかじゃない。ハグリッドの話は始めから終りまで信じられないようなことばかりだったが、なぜかハリーはハグリッドなら信用できた。
「ここだ」
 ハグリッドは立ち止まった。
「『漏れ鍋』――有名なところだ」
 ちっぼけな薄汚れたパブだった。ハグリッドに言われなかったら、きっと見落としてしまっただろう。足早に道を歩いていく人たちも、パブの隣にある本屋から反対隣にあるレコード店へと目を移し、真ん中の「漏れ鍋」にはまったく目もくれない。――変だな、ハグリッドと自分だけにしか見えないんじゃないか、とハリーは思ったが、そう口にする前に、ハグリッドがハリーを中へと促した。
 有名なところにしては、暗くてみすぼらしい。隅の方におばあさんが二、三人腰掛けて小さなグラスでシェリー酒を飲んでいた。一人は長いパイプをくゆらしている。小柄な、シルクハットをかぶった男がバーテンのじいさんと話している。じいさんはハゲていて、歯の抜けたクルミのような顔をしている。二人が店に入ると、低いガヤガヤ声が止まった。みんなハグリッドを知っているようだった。手を振ったり、笑いかけたりしている。バーテンはグラスに手を伸ばし、「大将、いつものやつかい?」と聞いた。
「トム、だめなんだ。ホグワーツの仕事中でね」
 ハグリッドは大きな手でハリーの肩をパンパン叩きながらそう言った。ハリーは膝がカクンとなった。
「なんと。こちらが……いやこの方が……」
 バーテンはハリーの方をじっと見た。「漏れ鍋」は急に水を打ったように静かになった。
「やれ嬉しや!」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:36:25 | 显示全部楼层
 バーテンのじいさんはささやくように言った。
「ハリー・ポッター……何たる光栄……」
 バーテンは急いでカウンターから出てきてハリーにかけ寄ると、涙を浮かべてハリーの手を握った。
「お帰りなさい。ポッターさん。本当にようこそお帰りで」
 ハリーは何と言っていいかわからなかった。みんながこっちを見ている。パイプのおばあさんは火が消えているのにも気づかず、ふかし続けている。ハグリッドは誇らしげにニッコリしている。
 やがてあちらこちらで椅子を動かす音がして、パブにいた全員がハリーに握手を求めてきた。
「ドリス・クロックフォードです。ポッターさん。お会いできるなんて、信じられないぐらいです」
「なんて光栄な。ポッターさん。光栄です」
「あなたと握手したいと願い続けてきました……舞い上がっています」
「ポッターさん。どんなに嬉しいか、うまく言えません。ディグルです。ディーダラス・ディグルと言います」
「僕、あなたに会ったことがあるよ。お店で一度僕にお辞儀してくれたよね」
 ハリーがそう言うと、ディーダラス・ディグルは興奮のあまりシルクハットを取り落とした。
「覚えていてくださった! みんな聞いたかい? 覚えていてくださったんだ」
 ディーダラス・ディグルはみんなを見回して叫んだ。
 ハリーは次から次と握手した。ドリス・クロックフォードなど何度も握手を求めてきた。青白い顔の若い男がいかにも神経質そうに進み出た。片方の目がピグピク痙攣している。
「クィレル教授!」
 ハグリッドが言った。
「ハリー、クィレル先生はホグワーツの先生だよ」
「ポ、ポ、ポッター君」
 クィレル先生はハリーの手を握り、どもりながら言った。
「お会いできて、ど、どんなにう、うれしいか」
「クィレル先生、どんな魔法を教えていらっしゃるんですか?」
「や、や、闇の魔術に対するぼ、ぼ、防衛です」
 教授は、まるでそのことは考えたくないとでもいうようにボソボソ言った。
「きみにそれがひ、必要だというわけではな、ないがね。え? ポ、ポ、ポッター君」
 教授は神経質そうに笑った。
「学用品をそ、揃えにきたんだね? わ、私も、吸血鬼の新しいほ、本をか、買いにいく、ひ、必要がある」
 教授は自分の言ったことにさえ脅えているようだった。
 みんなが寄ってくるので、教授がハリーをひとり占めにはできなかった。それから十分ほどかかって、ハリーはやっとみんなから離れることができた。ガヤガヤ大騒ぎの中で、ハグリッドの声がやっとみんなの耳に届いた。
「もう行かんと……買い物がごまんとあるぞ。ハリー、おいで」
 ドリス・クロックフォードがまたまた最後の握手を求めてきた。
 ハグリッドはパブを通り抜け、壁に囲まれた小さな中庭にハリーを連れ出した。ゴミ箱と雑草が二、三本生えているだけの庭だ。
 ハグリッドはハリーに向かって、うれしそうに笑いかけながら言った。
「ほら、言ったとおりだろ? おまえさんは有名だって。クィレル先生まで、おまえに会った時は震えてたじゃないか……もっとも、あの人はいっつも震えてるがな」
「あの人、いつもあんなに神経質なの?」
「ああ、そうだ。哀れなものよ。秀才なんだが。本を読んで研究しとった時はよかったんだが、一年間実地に経験を積むちゅうことで休暇を取ってな……どうやら黒い森で吸血鬼に出会ったらしい。その上鬼婆といやーなことがあったらしい………それ以来じゃ、人が変わってしもた。生徒を怖がるわ、自分の教えてる科目にもビクつくわ……さてと、俺の傘はどこかな?」
 吸血鬼? 鬼婆? ハリーは頭がクラクラした。ハグリッドはといえば、ゴミ箱の上の壁のレンガを数えている。
「三つ上がって……横に二つ……」
 ブツブツ言っている。
「よしと。ハリー下がってろよ」
 ハグリッドは傘の先で壁を三度叩いた。すると叩いたレンガが震え、次にクネクネと揺れた。
 そして真ん中に小さな穴が現れたかと思ったらそれほどんどん広がり、次の瞬間、目の前に、ハグリッドでさえ十分に通れるほどのアーチ型の入口ができた。そのむこうには石畳の通りが曲がりくねって先が見えなくなるまで続いていた。
「ダイアゴン横丁にようこそ」
 ハリーが驚いているのを見て、ハグリッドがニコーッと笑った。二人はアーチをくぐり抜けた。ハリーが急いで振り返った時には、アーチは見るみる縮んで、固いレンガ壁に戻るところだった。
 そばの店の外に積み上げられた大鍋に、陽の光がキラキラと反射している。とには看板がぶら下がっている。
 鍋屋―大小いろいろあります―銅、真鍮、錫、銀―自動かき混ぜ鍋―折り畳み式
「一つ買わにゃならんが、まずは金を取ってこんとな」とハグリッドが言った。
 目玉があと八つぐらい欲しい、とハリーは思った。いろんな物を一度に見ようと、四方八方キョロキョロしながら横丁を歩いた。お店、その外に並んでいるもの、買い物客も見たい。
 薬問屋の前で、小太りのおばさんが首を振りふりつぶやいていた。
「ドラゴンのきも、三十グラムが十七シックルですって。ばかばかしい……」
 薄暗い店から、低い、静かなホーホーという鳴き声が聞こえてきた。看板が出ている。
 イーロップのふくろう百貨店―森ふくろう、このはずく、めんふくろう、茶ふくろう、白ふくろう
 ハリーと同い年ぐらいの男の子が数人、箒のショーウィンドウに鼻をくっつけて眺めている。
 誰かが何か言っているのが聞こえる。
「見ろよ。ニンバス2000新型だ……超高速だぜ」
 マントの店、望遠鏡の店、ハリーが見たこともない不思議な銀の道具を売っている店もある。
 こうもりの脾臓やうなぎの目玉の樽をうずたかく積み上げたショーウィンドウ。今にも崩れてきそうな呪文の本の山。羽根ペンや羊皮紙、薬ビン、月球儀……。
「グリンゴッツだ」ハグリッドの声がした。
 小さな店の立ち並ぶ中、ひときわ高くそびえる真っ白な建物だった。磨き上げられたブロンズの観音開きの扉の両脇に、真紅と金色の制服を着て立っているのは……
「さよう、あれが小鬼だ」
 そちらに向かって白い石段を登りながら、ハグリッドがヒソヒソ声で言った。小鬼はハリーより頭一つ小さい。浅黒い賢そうな顔つきに、先の尖ったあごひげ、それに、なんと手の指と足の先の長いこと。二人が入口に進むと、小鬼がお辞儀した。中には二番目の扉がある。今度は銀色の扉で、何か言葉が刻まれている。

 見知らぬ者よ 入るがよい
 欲のむくいを 知るがよい
 奪うばかりで 嫁がぬものは
 やがてはつけを 払うべし
 おのれのものに あらざる宝
 わが床下に 求める者よ
 盗人よ 気をつけよ
 宝のほかに 潜むものあり

「言ったろうが。ここから盗もうなんて、狂気の沙汰だわい」
 とハグリッドが言った。
 左右の小鬼が、銀色の扉を入る二人にお辞儀をした。中は広々とした大理石のホールだった。
 百人を超える小鬼が、細長いカウンターのむこう側で、脚高の丸椅子に座り、大きな帳簿に書き込みをしたり、真鍮の秤でコインの重さを計ったり、片眼鏡で宝石を吟味したりしていた。
 ホールに通じる扉は無数にあって、これまた無数の小鬼が、出入りする人々を案内している。
 ハグリッドとハリーはカウンターに近づいた。
「おはよう」
 ハグリッドが手のすいている小鬼に声をかけた。
「ハリー・ポッターさんの金庫から金を取りに来たんだが」
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」
「どっかにあるはずだが」
 ハグリッドはポケットをひっくり返し、中身をカウンターに出しはじめた。かびの生えたような犬用ビスケットが一つかみ、小鬼の経理帳簿にバラバラと散らばった。小鬼は鼻にしわを寄せた。ハリーは右側の方にいる小鬼が、まるで真っ赤に燃える石炭のような大きいルビーを山と積んで、次々に秤にかけているのを眺めていた。
「あった」
 ハグリッドはやっと出てきた小さな黄金の鍵をつまみ上げた。
 小鬼は、慎重に鍵を調べてから、「承知いたしました」と言った。
「それと、ダンブルドア教授からの手紙を預ってきとる」
 ハグリッドは胸を張って、重々しく言った。
「七一三番金庫にある、例の物についてだが」
 小鬼は手紙を丁寧に読むと、「了解しました」とハグリッドに返した。
「誰かに両方の金庫へ案内させましょう。グリップフック!」
 グリップフックも小鬼だった。ハグリッドが犬用ビスケットを全部ポケットに詰め込み終えてから、二人はグリップフックについて、ホールから外に続く無数の扉の一つへと向かった。
「七一三番金庫の例の物って、何?」ハリーが開いた。
「それは言えん」
 ハグリッドは曰くありげに言った。
「極秘じゃ。ホグワーツの仕事でな。ダンブルドアは俺を信頼してくださる。おまえさんにしゃべったりしたら、俺がクビになるだけではすまんよ」
 グリップフックが扉を開けてくれた。ハリーはずっと大理石が続くと思っていたので驚いた。そこは松明に照らされた細い石造りの通路だった。急な傾斜が下の方に続き、床に小さな線路がついている。グリップフックが口笛を吹くと、小さなトロッコがこちらに向かって元気よく線路を上がってきた。三人は乗り込んだ……ハグリッドもなんとか納まった――発車。
 クネクネ曲がる迷路をトロッコはビュンビュン走った。ハリーは道を覚えようとした。左、右、右、左、三叉路を直進、右、左、いや、とてもとうてい無理だ。グリップフックが舵取りをしていないのに、トロッコは行き先を知っているかのように勝手にビュンビュン走っていく。
 冷たい空気の中を風を切って走るので、ハリーは、目がチクチクしたが、大きく見開いたままでいた。一度は、行く手に火が吹き出したような気がして、もしかしたらドラゴンじゃないかと身をよじって見てみたが、遅かった――トロッコはさらに深く潜っていった。地下湖のそばを通ると、巨大な鍾乳石と石筍が天井と床からせり出していた。
「僕、いつもわからなくなるんだけど」
 トロッコの音に負けないよう、ハリーはハグリッドに大声で呼びかけた。

「鍾乳石と石筍って、どうちがうの?」
「三文字と二文字の違いだろ。たのむ、今はなんにも聞いてくれるな。吐きそうだ」
 確かに、ハグリッドは真っ青だ。小さな扉の前でトロッコはやっと止まり、ハグリッドは降りたが、膝の震えの止まるまで通路の壁にもたれかかっていた。
 グリップフックが扉の鍵を開けた。緑色の煙がモクモクと吹き出してきた。それが消えたとき、ハリーはあっと息をのんだ。中には金貨の山また山。高く積まれた銀貨の山。そして小さなクヌート銅貨までザックザクだ。
「みーんなおまえさんのだ」ハグリッドはほほえんだ。
 全部僕のもの……信じられない。ダーズリー一家はこのことを知らなかったに違いない。知っていたら、瞬く間にかっさらっていっただろう。僕を養うのにお金がかかってしょうがないとあんなに愚痴を言っていたんだもの。ロンドンの地下深くに、こんなにたくさんの僕の財産がずーっと埋められていたなんて。
 ハグリッドはハリーがバッグにお金を詰め込むのを手伝った。
「金貨はガリオンだ。銀貨がシックルで、十七シックルが一ガリオン、一シックルは二十九クヌートだ。簡単だろうが。よーしと。これで、二、三学期分は大丈夫だろう。残りはここにちゃーんとしまっといてやるからな」
 ハグリッドはグリップフックの方に向き直った。
「次は七一三番金庫を頼む。ところでもうちーっとゆっくり行けんか?」
「速度は一定となっております」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:37:58 | 显示全部楼层
 一行はさらに深く、さらにスピードを増して潜っていった。狭い角をすばやく回り込むたび、空気はますます冷えびえとしてきた。トロッコは地下渓谷の上をビュンビュン走った。ハリーは身を乗り出して暗い谷底に何があるのかとのぞき込んだが、ハグリッドはうめき声を上げてハリーの襟首をつかみ引き戻した。
 七一三番金庫には鍵穴がなかった。
「下がってください」
 グリップフックがもったいぶって言い、長い指の一本でそっとなでると、扉は溶けるように消え去った。
「グリンゴッツの小鬼以外の者がこれをやりますと、扉に吸い込まれて、中に閉じ込められてしまいます」とグリップフックが言った。
「中に誰か閉じ込められていないかどうか、時々調べるの?」とハリーが聞いた。
「十年に一度ぐらいでございます」
 グリップフックはニヤリと笑った。こんなに厳重に警護された金庫だもの、きっと特別なすごいものがあるに違いない。ハリーは期待して身を乗り出した。少なくともまばゆい宝石か何かが……。中を見た……なんだ、空っぽじゃないか、とはじめは思った。次に目に入ったのは、茶色の紙でくるまれた薄汚れた小さな包みだ。床に転がっている。ハグリッドはそれを拾い上げ、コートの奥深くしまい込んだ。ハリーはそれがいったい何なのか知りたくてたまらなかったが、聞かない方がよいのだとわかっていた。
「行くぞ。地獄のトロッコへ。帰り道は話しかけんでくれよ。俺はロを閉じているのが一番よさそうだからな」

 もう一度猛烈なトロッコを乗りこなして、陽の光にパチクリしながら二人はグリンゴッツの外に出た。バッグいっぱいのお金を持って、まず最初にどこに行こうかとハリーは迷った。ポンドに直したらいくらになるかなんて、計算しなくとも、ハリーはこれまでの人生で持ったことがないほどたくさんのお金を持っている……ダドリーでさえ持ったことがないほどの額だ。
「制服を買った方がいいな」
 ハグリッドは マダムマルキンの洋装店――普段着から式服まで の着板をあごでさした。
「なあ、ハリー。『漏れ鍋』でちょっとだけ元気薬をひつかけてきてもいいかな? グリンゴッツのトロッコにはまいった」
 ハグリッドは、まだ青い顔をしていた。ハグリッドといったんそこで別れ、ハリーはドギマギしながらマダム・マルキンの店に一人で入っていった。
 マダム・マルキンは、藤色ずくめの服を着た、愛想のよい、ずんぐりした魔女だった。
「坊ちゃん。ホグワーツなの?」
 ハリーが口を開きかけたとたん、声をかけてきた。
「全部ここで揃いますよ……もう一人お若い方が丈を合わせているところよ」
 店の奥の方で、青白い、あごのとがった男の子が踏台の上に立ち、もう一人の魔女が長い黒いロープをピンで留めていた。マダム・マルキンはハリーをその隣の踏台に立たせ、頭から長いローブを着せかけ、丈を合わせてピンで留めはじめた。
「やあ、君もホグワーツかい?」男の子が声をかけた。
「うん」とハリーが答えた。
「僕の父は隣で教科書を買ってるし、母はどこかその先で杖を見てる」
 男の子は気だるそうな、気取った話し方をする。
「これから、二人を引っぱって競技用の箒を見に行くんだ。一年生が自分の箒を持っちゃいけないなんて、理由がわからないね。父を脅して一本買わせて、こっそり持ち込んでやる」
 ダドリーにそっくりだ、とハリーは思った。
「君は自分の箒を持ってるのかい?」
 男の子はしゃべり続けている。
「ううん」
「クィディッチはやるの?」
「ううん」
 クィディッチ? 一体全体何だろうと思いながらハリーは答えた。
「僕はやるよ――父は僕が寮の代表選手に選ばれなかったらそれこそ犯罪だって言うんだ。僕もそう思うね。君はどの寮に入るかもう知ってるの?」
「ううん」
 だんだん情けなくなりながら、ハリーは答えた。
「まあ、ほんとのところは、行ってみないとわからないけど。そうだろう? だけど僕はスリザリンに決まってるよ。僕の家族はみんなそうだったんだから……ハッフルパフなんかに入れられてみろよ。僕なら退学するな。そうだろう?」
「ウーン」
 もうちょっとましな答えができたらいいのにとハリーは思った。
「ほら、あの男を見てごらん!」
 急に男の子は窓のほうを顎でしゃくつた。ハグリッドが店の外に立っていた。ハリーの方を見てニッコリしながら、手に持った二本の大きなアイスクリームを指さし、これがあるから店の中には入れないよ、という手振りをしていた。
「あれ、ハグリッドだよ」
 この子が知らないことを自分が知っている、とハリーはうれしくなった。
「ホグワーツで働いてるんだ」
「ああ、聞いたことがある。一種の召使いだろ?」
「森の番人だよ」
 時間が経てばたつほど、ハリーはこの子が嫌いになっていた。
「そう、それだ。言うなれば野蛮人だって開いたよ……学校の領地内のほったて小屋に住んでいて、しょっちゅう酔っ払って、魔法を使おうとして、自分のベッドに火をつけるんだそうだ」
「彼って最高だと思うよ」ハリーは冷たく言い放った。
「へえ?」
 男の子は鼻先でせせら笑った。
「どうして君と一緒なの? 君の両親はどうしたの?」
「死んだよ」
 ハリーはそれしか言わなかった。この子に詳しく話す気にはなれない。
「おや、ごめんなさい」
 謝っているような口振りではなかった。
「でも、君の両親も僕らと同族なんだろう?」
「魔法使いと魔女だよ。そういう意味で聞いてるんなら」
「他の連中は入学させるべきじゃないと思うよ。そう思わないか? 連中は僕らと同じじゃないんだ。僕らのやり方がわかるような育ち方をしてないんだ。手紙をもらうまではホグワーツのことだって聞いたこともなかった、なんてやつもいるんだ。考えられないようなことだよ。入学は昔からの魔法使い名門家族に限るべきだと思うよ。君、家族の姓は何て言うの?」
 ハリーが答える前に、マダム・マルキンが「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん」と言ってくれたのを幸いに、ハリーは踏台からポンと跳び降りた。この子との会話をやめる口実ができて好都合だ。
「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」と気取った男の子が言った。
 店を出て、ハグリッドが持ってきたアイスクリームを食べながら(ナッツ入りのチョコレートとラズベリーアイスだ)、ハリーは黙りこくっていた。
「どうした?」ハグリッドが開いた。
「なんでもないよ」
 ハリーは嘘をついた。
 次は羊皮紙と羽根ペンを買った。書いているうちに色が変わるインクを見つけて、ハリーはちょっと元気が出た。店を出てから、ハリーが聞いた。
「ねえ、ハグリッド。クィディッチってなあに?」
「なんと、ハリー。おまえさんがなんにも知らんということを忘れとった……クィディッチを知らんとは!」
「これ以上落ち込ませないでよ」
 ハリーはマダム・マルキンの店で出会った青白い子の話をした。
「……その子が言うんだ。マグルの家の子はいっさい入学させるべきじゃないって……」
「おまえはマグルの家の子じゃない。おまえが何者なのかその子がわかっていたらなあ……その子だって、親が魔法使いなら、おまえさんの名前を聞きながら育ったはずだ……魔法使いなら誰だって、『漏れ鍋』でおまえさんが見たとおりなんだよ。とにかくだ、そのガキに何がわかる。俺の知ってる最高の魔法使いの中には、長いことマグルの家系が続いて、急にその子だけが魔法の力を持ったという者もおるぞ…おまえの母さんを見ろ! 母さんの姉貴がどんな人間か見てみろ!」
「それで、クィディッチって?」
「俺たちのスポーツだ。魔法族のスポーツだよ。マグルの世界じゃ、そう、サッカーだな――誰でもクィディッチの試合に夢中だ。箒に乗って空中でゲームをやる。ボールは四つあって……ルールを説明するのはちと難しいなあ」
「じゃ、スリザリンとハッフルパフって?」
「学校の寮の名前だ。四つあってな。ハッフルパフには劣等生が多いとみんなは言うが、しかし……」
「僕、きっとハッフルパフだ」ハリーは落ち込んだ。
「スリザリンよりはハッフルパフの方がましだ」ハグリッドの表情が暗くなった。
「悪の道に走った魔法使いや魔女は、みんなスリザリン出身だ。『例のあの人』もそうだ」
「ヴォル……あ、ごめん……『あの人』もホグワーツだったの?」
「昔々のことさ」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:38:21 | 显示全部楼层
 次に教科書を買った。「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店」の棚は、天井まで本がぎっしり積み上げられていた。敷石ぐらいの大きな革製本、シルクの表紙で切手くらいの大きさの本もあり、奇妙な記号ばかりの本があるかと思えば、何にも書いてない本もあった。本など読んだことがないダドリーでさえ、夢中で触ったに違いないと思う本もいくつかあった。ハグリッドは、ヴィンディクタス・ヴェリディアン著「呪いのかけ方、解き方(友人をうっとりさせ、最新の復讐方法で敵を困らせよう――ハゲ、クラゲ脚、舌もつれ、その他あの手この手――)」を読み耽っているハリーを、引きずるようにして連れ出さなければならなかった。
「僕、どうやってダドリーに呪いをかけたらいいか調べてたんだよ」
「それが悪いちゅうわけではないが、マグルの世界ではよっぽど特別な場合でないと魔法を使えんことになっておる。それにな、呪いなんておまえさんにはまだどれも無理だ。そのレベルになるにはもっとたーくさん勉強せんとな」
 ハグリッドは「リストに錫の鍋と書いてあるだろが」と言って純金の大鍋も買わせてくれなかった。そのかわり、魔法薬の材料を計る秤は上等なのを一揃い買ったし、真鍮製の折畳み式望遠鏡も買った。次は薬問屋に入った。悪くなった卵と腐ったキャベツの混じったようなひどい匂いがしたが、そんなことは気にならないほどおもしろいところだった。ヌメヌメしたものが入った樽詰が床に立ち並び、壁には薬草や乾燥させた根、鮮やかな色の粉末などが入った瓶が並べられ、天井からは羽根の束、牙やねじ曲がった爪が糸に通してぶら下げられている。
カウンター越しにハグリッドが基本的な材料を注文している問、ハリーは、一本二十一ガリオンの銀色の一角獣の角や、小さな、黒いキラキラした黄金虫の目玉(一さじ五クヌート)をしげしげと眺めていた。
 薬問屋から出て、ハグリッドはもう一度ハリーのリストを調べた。
「あとは杖だけだな……おお、そうだ、まだ誕生祝いを買ってやってなかったな」
 ハリーは顔が赤くなるのを感じた。

「そんなことしなくていいのに……」
「しなくていいのはわかってるよ。そうだ。動物をやろう。ヒキガエルはだめだ。だいぶ前から流行遅れになっちょる。笑われっちまうからな……猫、俺は猫は好かん。くしゃみが出るんでな。ふくろうを買ってやろう。子どもはみんなふくろうを欲しがるもんだ。なんちゅったって役に立つ。郵便とかを運んでくれるし」
 イ一口ップふくろう百貨店は、暗くてバタバタと羽音がし、宝石のように輝く目があちらこちらでパチクリしていた。二十分後、二人は店から出てきた。ハリーは大きな鳥籠を下げている。籠の中では、雪のように白い美しいふくろうが、羽根に頭を突っ込んでぐっすり眠っている。ハリーは、まるでクィレル教授のようにどもりながら何度もお礼を言った。
「礼はいらん」ハグリッドはぶっきらぼうに言った。
「ダーズリーの家ではほとんどプレゼントをもらうことはなかったんだろうな。あとはオリバンダーの店だけだ……杖はここにかぎる。杖のオリバンダーだ。最高の杖を持たにゃいかん」
 魔法の杖……これこそハリーが本当に欲しかった物だ。
 最後の買い物の店は暗くてみすぼらしかった。剥がれかかった金色の文字で、扉に オリバンダーの店――紀元前三八二年創業 高級杖メーカー と書いてある。埃っぽいショーウィンドウには、色褪せた紫色のクッションに、杖が一本だけ置かれていた。
 中に入るとどこか奥のほうでチリンチリンとベルが鳴った。小さな店内に古くさい椅子が一つだけ置かれていて、ハグリッドはそれに腰掛けて待った。ハリーは妙なことに、規律の厳しい図書館にいるような気がした。ハリーは、新たに湧いてきたたくさんの質問をグッとのみ込んで、天井近くまで整然と積み重ねられた何千という細長い箱の山を見ていた。なぜか背中がゾクゾクした。埃と静けさそのものが、密かな魔力を秘めているようだった。
「いらっしゃいませ」
 柔らかな声がした。ハリーは跳び上がった。ハグリッドも跳び上がったに違いない。古い椅子がバキバキと大きな音をたて、ハグリッドはあわてて華奢な椅子から立ち上がった。
 目の前に老人が立っていた。店の薄明かりの中で、大きな薄い色の目が、二つの月のように輝いている。
「こんにちは」ハリーがぎごちなく挨拶した。
「おお、そうじゃ」と老人が言った。
「そうじゃとも、そうじゃとも。まもなくお目にかかれると思ってましたよ、ハリー・ポッターさん」
 ハリーのことをもう知っている。
「お母さんと同じ目をしていなさる。あの子がここに来て、最初の杖を買っていったのがほんの昨日のことのようじゃ。あの杖は二十六センチの長さ。柳の木でできていて、振りやすい、妖精の呪文にはぴったりの杖じゃった」
 オリバンダー老人はさらにハリーに近寄った。ハリーは老人が瞬きしてくれたらいいのにと思った。銀色に光る目が少し気味悪かったのだ。
「お父さんの方はマホガニーの杖が気に入られてな。二十八センチのよくしなる杖じゃった。どれより力があって変身術には最高じゃ。いや、父上が気に入ったと言うたが……実はもちろん、杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃよ」
 オリバンダー老人が、ほとんど鼻と鼻がくっつくほどに近寄ってきたので、ハリーには自分の姿が老人の霧のような瞳の中に映っているのが見えた。
「それで、これが例の……」
 老人は白く長い指で、ハリーの額の稲妻型の傷跡にふれた。
「悲しいことに、この傷をつけたのも、わしの店で売った杖じゃ」静かな言い方だった。
「三十四センチもあってな。イチイの木でできた強力な杖じゃ。とても強いが、間違った者の手に……そう、もしあの杖が世の中に出て、何をするのかわしが知っておればのう……」
 老人は頭を振り、そして、ハグリッドに気づいたので、ハリーはほっとした。
「ルビウス! ルビウス・ハグリッドじやないか! また会えて嬉しいよ……四十一センチの樫の木。よく曲がる。そうじゃったな」
「ああ、じいさま。そのとおりです」
「いい杖じゃった。あれは。じゃが、おまえさんが退学になった時、真っ二つに折られてしもうたのじゃったな?」
 オリバンダー老人は急に険しい口調になった。
「いや……あの、祈られました。はい」
 ハグリッドは足をモジモジさせながら答えた。
「でも、まだ折れた杖を持ってます」
 ハグリッドは威勢よく言った。
「じゃが、まさか使ってはおるまいの?」オリバンダー老人はピシャリと言った。
「とんでもない」
 ハグリッドはあわてて答えたが、そう言いながらピンクの傘の柄をギュッと強く握りしめたのをハリーは見逃さなかった。
「ふーむ」
 オリバンダー老人は探るような目でハグリッドを見た。
「さて、それではポッターさん。拝見しましょうか」
 老人は銀色の目盛りの入った長い巻尺をポケットから取り出した。
「どちらが杖腕ですかな?」
「あ、あの、僕、右利きです」
「腕を伸ばして。そうそう」
 老人はハリーの肩から指先、手首から肘、肩から床、膝から脇の下、頭の周り、と寸法を採った。測りながら老人は話を続けた。
「ポッターさん。オリバンダーの杖は一本一本、強力な魔力を持った物を芯に使っております。一角獣のたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。一角獣も、ドラゴンも、不死鳥もみなそれぞれに違うのじゃから、オリバンダーの杖には一つとして同じ杖はない。もちろん、他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないわけじゃ」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:38:38 | 显示全部楼层
 ハリーは巻尺が勝手に鼻の穴の間を測っているのにハッと気がついた。オリバンダー老人は棚の間を飛び回って、箱を取り出していた。
「もうよい」と言うと、巻尺は床の上に落ちて、クシャクシャと丸まった。
「では、ポッターさん。これをお試しください。ぶなの木にドラゴンの心臓の琴線。二十三センチ、良質でしなりがよい。手に取って、振ってごらんなさい」
 ハリーは杖を取り、なんだか気はずかしく思いながら杖をちょっと振ってみた。オリバンダー老人はあっという間にハリーの手からその杖をもぎ取ってしまった。
「楓に不死鳥の羽根。十八センチ、振り応えがある。どうぞ」
 ハリーは試してみた……しかし、振り上げるか上げないうちに、老人がひったくつてしまった。
「だめだ。いかん――次は黒檀と一角獣のたてがみ。二十二センチ、バネのよう。さあ、どうぞ試してください」
 ハリーは、次々と試してみた。いったいオリバンダー老人は何を期待しているのかさっぱりわからない。試し終わった杖の山が古い椅子の上にだんだん高く積み上げられてゆく。それなのに、棚から新しい杖を下ろすたびに、老人はますます嬉しそうな顔をした。
「難しい客じゃの。え? 心配なさるな。必ずピッタリ合うのをお探ししますでな。……さて、次はどうするかな……おお、そうじゃ……めったにない組わせじゃが、柊と不死鳥の羽根、二十八センチ、良質でしなやか」
 ハリーは杖を手に取った。急に指先が暖かくなった。杖を頭の上まで振り上げ、埃っぽい店内の空気を切るようにヒュッと振り下ろした。すると、杖の先から赤と金色の火花が花火のように流れ出し、光の玉が踊りながら壁に反射した。ハグリッドは「オーッ」と声を上げて手を叩き、オリバンダー老人は「ブラボー!」と叫んだ。
「すばらしい。いや、よかった。さて、さて、さて……不思議なこともあるものよ……まったくもって不思議な……」
 老人はハリーの杖を箱に戻し、茶色の紙で包みながら、まだブツブツと繰り返していた。
「不思議じゃ……不思議じゃ……」
「あのう。何がそんなに不思議なんですか」とハリーが聞いた。
 オリバンダー老人は淡い色の目でハリーをジッと見た。
「ポッターさん。わしは自分の売った杖はすべて覚えておる。全部じゃ。あなたの杖に入っている不死鳥の羽根はな、同じ不死鳥が尾羽根をもう一枚だけ提供した……たった一枚だけじゃが。あなたがこの杖を持つ運命にあったとは、不思議なことじや。兄弟羽が……なんと、兄弟杖がその傷を負わせたというのに……」
 ハリーは息をのんだ。
「さよう。三十四センチのイチイの木じゃった。こういうことが起こるとは、不思議なものじゃ。杖は持ち主の魔法使いを選ぶ。そういうことじゃ……。ポッターさん、あなたはきっと偉大なことをなさるにちがいない……。『名前を言ってはいけないあの人』もある意味では、偉大なことをしたわけじゃ……恐ろしいことじゃったが、偉大には違いない」
 ハリーは身震いした。オリバンダー老人があまり好きになれない気がした。杖の代金に七ガリオンを支払い、オリバンダー老人のお辞儀に送られて二人は店を出た。
 夕暮近くの太陽が空に低くかかっていた。ハリーとハグリッドはダイアゴン横丁を、元来た道へと歩き、壁を抜けて、もう人気のなくなった「漏れ鍋」に戻った。ハリーは黙りこくっていた。変な形の荷物をどっきり抱え、膝の上で雪のように白いふくろうが眠っている格好のせいで、地下鉄の乗客が唖然として自分のことを見つめていることにハリーはまったく気づかなかった。パディントン駅で地下鉄を降り、エスカレーターで駅の構内に出た。ハグリッドに肩を叩かれて、ハリーはやっと自分がどこにいるのかに気づいた。
「電車が出るまで何か食べる時間があるぞ」
 ハグリッドが言った。
 ハグリッドはハリーにハンバーガーを買ってやり、二人はプラスチックの椅子に座って食べた。ハリーは周りを眺めた。なぜかすべてがちぐはぐに見える。
「大丈夫か? なんだかずいぶん静かだが」とハグリッドが声をかけた。
 ハリーは何と説明すればよいかわからなかった。こんなにすばらしい誕生日は初めてだった……それなのに……ハリーは言葉を探すようにハンバーガーをかじった。
「みんなが僕のことを特別だって思ってる」
 ハリーはやっと口を開いた。
「『漏れ鍋』のみんな、クィレル先生も、オリバンダーさんも……でも、僕、魔法のことは何も知らない。それなのに、どうして僕に偉大なことを期待できる? 有名だって言うけれど、何が僕を有名にしたかさえ覚えていないんだよ。ヴォル……あ、ごめん……僕の両親が死んだ夜だけど、僕、何が起こったのかも覚えていない」
 ハグリッドはテーブルのむこう側から身を乗り出した。モジャモジャのひげと眉毛の奥に、やさしい笑顔があった。
「ハリー、心配するな。すぐに様子がわかってくる。みんながホグワーツで一から始めるんだよ。大丈夫。ありのままでええ。そりゃ大変なのはわかる。おまえさんは選ばれたんだ。大変なことだ。だがな、ホグワーツは、楽しい。俺も楽しかった。今も実は楽しいよ」
 ハグリッドは、ハリーがダーズリー家に戻る電車に乗り込むのを手伝った。
「ホグワーツ行きの切符だ」
 ハグリッドは封筒を手渡した。
「九月一日――キングズ・クロス駅発――全部切符に書いてある。ダーズリーのとこでまずいことがあったら、おまえさんのふくろうに手紙を持たせて寄こしな。ふくろうが俺のいるところを探し出してくれる。……じゃあな。ハリー。またすぐ会おう」
 電車が走り出した。ハリーはハグリッドの姿が見えなくなるまで見ていたかった。座席から立ち上がり、窓に鼻を押しつけて見ていたが、瞬きをしたとたん、ハグリッドの姿は消えていた。
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:39:38 | 显示全部楼层
第6章 9と3/4番線からの旅
CHAPTER SIX The Journey from Platform Nine and Three Quarters

 ダーズリー家に戻って過ごした出発までの一ケ月間は、ハリーにとって楽しいものではなかった。確かに、ダドリーはハリーを恐がって一緒の部屋にいようとはせず、ペチュニアおばさんもバーノンおじさんもハリーを物置に閉じ込めたり、嫌なことを無理強いしたり、怒鳴りつけたりもしなかった……それ以上に、ハリーとは一言も口をきかなかった。恐さ半分と怒り半分で、ダーズリー親子はハリーがどの椅子に座っていても、まるで誰もいないかのように振る舞った。たいていはその方が好都合だったが、それもしばらく続くと少し気が滅入ってきた。
 ハリーは買ってもらったばかりのふくろうと一緒に部屋にとじこもっていた。ふくろうの名はヘドウィグに決めた。「魔法史」で見つけた名だ。教科書はとてもおもしろかった。ハリーはベッドに横になって、夜遅くまで読みふけった。ヘドウィグは開け放した窓から自由に出入りした。しょっちゅう死んだねずみを食わえてきたので、ペチュニアおばさんが掃除機をかけに来なくなったのはかえって幸いだった。毎晩、寝る前に、ハリーは壁に貼った暦の日付を一日ずつバツ印で消し、九月一日まであと何日かを数えた。
 八月の最後の日、ハリーはおじさん、おばさんに、明日、キングズ・クロス駅に行くと話さなければならなかった。居間に行くと、みんなテレビのクイズ番組を見ているところだった。
 自分がそこにいることを知らせるのに、ハリーが咳払いすると、ダドリーは悲鳴を上げて部屋から飛び出していった。
「あの――バーノンおじさん」
 おじさんは返事のかわりにウームとうなった。
「あの……あしたキングズ・クロスに行って……そこから、あの、ホグワーツに出発なんだけど」
 おじさんはまたウームとうなった。
「車で送っていただけますか?」
 またまたウーム。ハリーはイエスの意味だと思った。
「ありがとう」
 二階に戻ろうとした時、やっとおじさんが口をきいた。
「魔法学校に行くにしちゃ、おかしなやり方じゃないか。汽車なんて。空飛ぶ絨毯はみんなパンクかい?」
 ハリーは黙っていた。
「いったい、その学校とやらはどこにあるんだい?」
「僕、知りません」
 ハリーも初めてそのことに気がついた。ポケットからハグリッドのくれた切符を引っ張り出してみた。

「ただ、汽車に乗るようにって。九と四分の三番線から、十一時発」
 ハリーは切符を読み上げた。
 おじさん、おばさんが目を丸くした。
「何番線だって?」
「九と四分の三」
「バカバカしい。九と四分の三番線なんてあるわけがない」
「僕の切符にそう書いてあるんだ」
「あほう。連中は大バカのコンコンチキだ。まあ、そのうちわかるだろうよ。よかろう。キングズ・クロスに連れていってやろう。どうせ明日はロンドンに出かけることになっていたし。
 そうでなけりゃわざわざ出かけんがな」
「どうしてロンドンに行くの?」
 なるべくいい雰囲気にしようとしてハリーが尋ねた。
「ダドリーを病院へ連れていって、あのいまいましいしっぽを、スメルティングズに入学する前に取ってもらわにゃ」
 バーノンおじさんはうなるように言った。
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:39:58 | 显示全部楼层
 次の朝、ハリーは五時に目が覚めた。興奮と緊張で目がさえてしまったので、起き出してジーンズをはいた。魔法使いのマントを着て駅に入る気にはなれない……汽車の中で着替えよう。
 必要なものが揃っているかどうか、ホグワーツの「準備するもの」リストをもう一度チェックし、ヘドウィグがちゃんと鳥籠に入っていることを確かめ、ダーズリー親子が起き出すまで部屋の中を行ったり来たりして待っていた。二時間後、ハリーの大きな重いトランクは車に乗せられ、ペチュニアおばさんに言い含められたダドリーはハリーの隣に座り、一行は出発した。
 キングズ・クロス駅に着いたのは十時半だった。バーノンおじさんは、ハリーのトランクをカートに放り込んで駅の中まで運んでいった。ハリーはなんだか親切過ぎると思った。案の定、おじさんはプラットホームの前でピタリと止まると、ニターツと意地悪く笑った。
「そーれ、着いたぞ、小僧。九番線と……ほれ、十番線だ。おまえのプラットホームはその中間らしいが、まだできてないようだな、え?」
 まさにそのとおりだった。「9」と書いた大きな札が下がったプラットホームの隣には、「10」と書いた大きな札が下がっている。そして、その間には、何もない。
「新学期をせいぜい楽しめよ」
 バーノンおじさんはさっきよりもっとにんまりした。そしてさっさと、物も言わずに行ってしまった。ハリーが振り向くと、ダーズリー親子が車で走り去るところだった。三人とも大笑いしている。ハリーは喉がカラカラになった。いったい自分は何をしようとしているのだろう? ヘドウィグを連れているので、周りからはジロジロ見られるし。誰かに尋ねなければ……。

 ハリーは、ちょうど通りかかった駅員を呼び止めて尋ねたが、さすがに九と四分の三番線とは言えなかった。駅員はホグワーツなんて聞いたことがないと言うし、どのへんにあるのかハリーが説明できないとわかると、わざといいかげんなことを言っているんじゃないかと、うさん臭そうな顔をした。ハリーはいよいよ困り果てて、十一時に出る列車はないかと聞いてみたが、駅員はそんなものはないと答えた。とうとう駅員は、時間のムダ使いだとブツクサ言いながら行ってしまった。ハリーはパニックしないようにグッとこらえた。列車到着案内板の上にある大きな時計が、ホグワーツ行きの列車があと十分で出てしまうことを告げていた。それなのに、ハリーはどうしていいのかさっぱりわからない。駅のど真ん中で、一人では持ち上げられないようなトランクと、ポケットいっぱいの魔法使いのお金と、大きなふくろうを持って途方に暮れるばかりだった。
 ハグリッドは何か言い忘れたに違いない。ダイアゴン横丁に入るには左側の三番目のレンガをコツコツと叩いたではないか。魔法の杖を取り出して、九番と十番の間にある改札口を叩いてみようか。
 その時、ハリーの後ろを通りすぎた一団があった。ハリーの耳にこんな言葉が飛び込んできた。
「……マグルで混み合ってるわね。当然だけど……」
 ハリーは急いで後ろを振り返った。ふっくらしたおばさんが、揃いもそろって燃えるような赤毛の四人の男の子に話しかけていた。みんなハリーと同じようなトランクを押しながら歩いている……それに、「ふくろう」が一羽いる。
 胸をドキドキさせ、ハリーはカートを押してみんなにくつついて行き、みんなが立ち止まったので、ハリーもみんなの話が聞こえるぐらいのところで止まった。
「さて、何番線だったかしら」とお母さんが聞いた。
「九と四分の三よ」
 小さな女の子がかん高い声を出した。この子も赤毛だ。お母さんの手を握って「ママ、あたしも行きたい……」と言った。
「ジニー、あなたはまだ小さいからね。ちょっとおとなしくしてね。はい、パーシー、先に行ってね」
 一番年上らしい男の子がプラットホームの「9」と「10」に向かって進んでいった。ハリーは目を凝らして見ていた。見過ごさないよう、瞬きしないように気をつけた……ところが、男の子がちょうど二本のプラットホームの分かれ目にさしかかった時、ハリーの前にワンサカと旅行者の群れがあふれてきて、その最後のリュックサックが消えた頃には、男の子も消え去っていた。
「フレッド、次はあなたよ」とふっくらおばさんが言った。
「僕フレッドじやないよ。ジョージだよ。まったく、この人ときたら、これでも僕たちの母親だってよく言えるな。僕がジョージだってわからないの?」
「あら、ごめんなさい、ジョージちゃん」
「冗談だよ。僕フレッドさ」
 と言うと、男の子は歩き出した。双子の片方が後ろから「急げ」と声をかけた。一瞬のうちにフレッドの姿は消えていた……でも、いったいどうやったんだろう?
今度は三番目の男の子が改札口の柵に向かってキビキビと歩きだした――そのあたりに着いた――と思ったら、またしても急に影も形もない。
 こうなったら他に手はない。
「すみません」
 ハリーはふっくらおばさんに話しかけた。
「あら、こんにちは。坊や、ホグワーツへは初めて? ロンもそうなのよ」
 おばさんは最後に残った男の子を指さした。背が高く、やせて、ひょろっとした子で、そばかすだらけで、手足が大きく、鼻が高かった。
「はい。でも……あの、僕、わからなくて。どうやって……」
「どうやってプラットホームに行くかってことね?」
 おばさんがやさしく言った。ハリーはうなずいた。
「心配しなくていいのよ。九番と十番の間の柵に向かってまっすぐに歩けばいいの。立ち止まったり、ぶつかるんじゃないかって怖がったりしないこと、これが大切よ。怖かったら少し走るといいわ。さあ、ロンの前に行って」
「うーん……オーケー」
 ハリーはカートをクルリと回して、柵をにらんだ。頑丈そうだった。
 ハリーは歩きはじめた。九番線と十番線に向かう乗客が、ハリーをあっちへ、こっちへと押すので、ハリーはますます早足になった。改札口に正面衝突しそうだ。そうなったら、やっかいなことになるぞ……カートにしがみつくようにして、ハリーは突進した――柵がグングン近づいてくる。もう止められない――カートがいうことをきかない――あと三十センチ――ハリーは目を閉じた。
 ぶつかる――スーッ……おや、まだ走っている……ハリーは目を開けた。
 紅色の蒸気機関車が、乗客でごったがえすプラットホームに停車していた。ホームの上には『ホグワーツ行特急11時発』と書いてある。振り返ると、改札口のあったところに9 3/4と書いた鉄のアーチが見えた。やったぞ。
 機関車の煙がおしゃべりな人ごみの上に漂い、色とりどりの猫が足元を縫うように歩いている。おしゃべりの声と、重いトランクの擦れ合う音をくぐって、ふくろうがホーホーと不機嫌そうに鳴き交している。
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:40:16 | 显示全部楼层
 先頭の二、三両はもう生徒でいっぱいだった。窓から身を乗り出して家族と話したり、席の取り合いでけんかをしたりしていた。ハリーは空いた席を探して、カートを押しながらホームを歩いた。丸顔の男の子のそばを通り過ぎる時、男の子の声が聞こえた。
「ばあちゃん。またヒキガエルがいなくなっちゃった」
「まあ、ネビル」
 おばあさんのため息が聞こえた。
 細かい三つあみを縮らせた髪型の男の子の周りに小さな人垣ができていた。
「リー、見せて。さあ」
 その子が腕に抱えた箱のふたを開けると、得体の知れない長い毛むくじゃらの肢が中から突き出し、周りの人が悲鳴を上げた。
 ハリーは人ごみを掻き分け、やっと最後尾の車両近くに空いているコンパートメントの席を見つけた。ヘドウィグを先に入れ、列車の戸口の階段から重いトランクを押し上げようとしたが、トランクの片側さえ持ち上がらず、二回も足の上に落として痛い目にあった。
「手伝おうか?」
 さっき、先に改札口を通過していった、赤毛の双子のどちらかだった。
「うん。お願い」ハリーはゼイゼイしていた。
「おい、フレッド! こっち来て手伝えよ」
 双子のおかげでハリーのトランクはやっと客室の隅におさまった。
「ありがとう」と言いながら、ハリーは目にかぶさった汗びっしょりの髪を掻き上げた。
「それ、なんだい?」
 双子の一人が急にハリーの稲妻型の傷跡を指さして言った。
「驚いたな。君は……?」もう一人が言った。
「彼だ。君、違うかい?」最初の一人が言った。
「何が?」とハリー。
「ハリー・ポッターさ」双子が同時に言った。
「ああ、そのこと。うん、そうだよ。僕はハリー・ポッターだ」
 双子がポカンとハリーに見とれているので、ハリーは顔が赤らむのを感じた。その時、ありがたいことに、開け放された汽車の窓から声が流れ込んできた。
「フレッド? ジョージ? どこにいるの?」
「ママ、今行くよ」
 もう一度ハリーを見つめると、双子は列車から飛び降りた。
 ハリーは窓際に座った。そこからだと、半分隠れて、プラットホームの赤毛一家を眺めることができたし、話し声も聞こえた。お母さんがハンカチを取り出したところだった。
「ロン。お鼻になんかついてるわよ」
 すっ飛んで逃げようとする末息子を、母親ががっちり捕まえて、鼻の先を擦りはじめた。
「ママ、やめて」
 ロンはもがいて逃れた。
「あらあら、ロニー坊や、お鼻になんかちゅいてまちゅか?」と双子の一人がはやしたてた。
「うるさい!」とロン。
「パーシーはどこ?」とママが聞いた。
「こっちに歩いてくるよ」
 一番年上の少年が大股で歩いてきた。もう黒いヒラヒラするホグワーツの制服に着替えていた。ハリーは、少年の胸にPの字が入った銀色のバッジが輝いているのに気づいた。
「母さん、あんまり長くはいられないよ。僕、前の方なんだ。Pバッジの監督生はコンパートメント二つ、指定席になってるんだ……」
「おお、パーシー、君、監督生になったのかい?」
 双子の一人がわざと驚いたように言った。
「そう言ってくれればいいのに。知らなかったじゃないか」
「まてよ、そういえば、なんか以前に一回、そんなことを言ってたな」ともう一人の双子。
「二回かな……」
「一分間に一、二回かな……」
「夏中言っていたような……」
「だまれ」と監督生パーシーが言った。
「どうして、パーシーは新しい洋服着てるんだろう?」双子の一人が聞いた。
「監督生だからよ」母親が嫁しそうに言った。
「さあ、みんな。楽しく過ごしなさいね。着いたらふくろう便をちょうだいね」

 母親はパーシーの頬にさよならのキスをした。パーシーがいなくなると、次に母親は双子に言った。
「さて、あなたたち……今年はお行儀よくするんですよ。もしも、またふくろう便が来て、あなたたちが……あなたたちがトイレを吹き飛ばしたとか何とかいったら……」
「トイレを吹っ飛ばすだって? 僕たちそんなことしたことないよ」
「すげえアイデアだぜ。ママ、ありがとさん」
「バカなこと言わないで。ロンの面倒見てあげてね」
「心配御無用。はなたれロニー坊やは、僕たちにまかせて」
「うるさい」
 とロンがまた言った。もう双子と同じぐらい背が高いのに、お母さんに擦られたロンの鼻先はまだピンク色だった。
「ねえ、ママ。誰に会ったと思う? 今列車の中で会った人、だーれだ?」
 ハリーは自分が見ていることにみんなが気がつかないよう、あわてて身をひいた。
「駅でそばにいた黒い髪の子、覚えてる? あの子はだーれだ?」
「だあれ?」
「ハリー・ポッター!」
 ハリーの耳に女の子の声が聞こえた。
「ねえ、ママ。汽車に乗って、見てきてもいい? ねえ、ママ、お願い……」
「ジニー、もうあの子を見たでしょ? 動物園じゃないんだから、ジロジロ見たらかわいそうでしょう。でも、フレッド、ほんとなの? なぜそうだとわかったの?」
「本人に聞いた。傷跡を見たんだ。ほんとにあったんだよ……稲妻のようなのが」
「かわいそうな子……どうりで一人だったんだわ。どうしてかしらって思ったのよ。どうやってプラットホームに行くのかって聞いた時、本当にお行儀がよかった」
「そんなことはどうでもいいよ。『例のあの人』がどんなだったか覚えてると思う?」
 母親は急に厳しい顔をした。
「フレッド、聞いたりしてはだめよ、絶対にいけません。入学の最初の日にそのことを思い出させるなんて、かわいそうでしょう」
「大丈夫だよ。そんなにムキにならないでよ」
 笛が鳴った。
「急いで!」
 母親にせかされて、三人の男の子は汽車によじ登って乗り込んだ。みんな窓から身を乗り出して母親のお別れのキスを受けた。妹のジニーが泣き出した。
「泣くなよ、ジニー。ふくろう便をドッサリ送ってあげるよ」
「ホグワーツのトイレの便座を送ってやるよ」
「ジョージったら!」
「冗談だよ、ママ」
 汽車が滑り出した。母親が子供たちに手を振っているのをハリーは見ていた。妹は半べその泣き笑い顔で、汽車を追いかけて走ってきたが、追いつけない速度になった時、立ち止まって手を振るのが見えた。
 汽車がカーブを曲がって、女の子と母親の姿が見えなくなるまでハリーは見ていた。家々が窓の外を飛ぶように過ぎていった。ハリーの心は躍った。何が待ち構えているかはわからない……でも、置いてきたこれまでの暮らしよりは絶対ましに違いない。
 コンパートメントの戸が開いて、一番年下の赤毛の男の子が入ってきた。
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:40:37 | 显示全部楼层
「ここ空いてる?」
 ハリーの向かい側の席を指さして尋ねた。
「他はどこもいっぱいなんだ」
 ハリーがうなずいたので、男の子は席に腰掛け、チラリとハリーを見たが、何も見なかったような振りをして、すぐに窓の外に目を移した。ハリーはその子の鼻の頭がまだ汚れたままなのに気づいた。
「おい、ロン」
 双子が戻ってきた。
「なあ、俺たち、真ん中の車両あたりまで行くぜ……リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」
「わかった」ロンはモゴモゴ言った。
「ハリー」双子のもう一人が言った。
「自己紹介したっけ? 僕たち、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。こいつは弟のロン。じゃ、またあとでな」
「バイバイ」ハリーとロンが答えた。
 双子はコンパートメントの戸を閉めて出ていった。
「君、ほんとにハリー・ポッターなの?」ロンがポロリと言った。
 ハリーはこっくりした。
「ふーん……そう。僕、フレッドとジョージがまたふざけてるんだと思った。じゃ、君、ほんとうにあるの……ほら……」
 ロンはハリーの額を指さした。
 ハリーは前髪を掻き上げて稲妻の傷跡を見せた。ロンはじーっと見た。
「それじゃ、これが『例のあの人』の……?」
「うん。でもなんにも覚えてないんだ」
「なんにも?」ロンが熱っぽく聞いた。
「そうだな……緑色の光がいっぱいだったのを覚えてるけど、それだけ」
「うわー」
 ロンはじっと座ったまま、しばらくハリーを見つめていたが、ハッと我に返ってあわてて窓の外に目をやった。
「君の家族はみんな魔法使いなの?」
 ロンがハリーに興味を待ったと同じぐらい、ハリーもロンに関心を持った。
「あぁ……うん、そうだと思う」ロンが答えた。
「ママのはとこだけが会計士だけど、僕たちその人のことを話題にしないことにしてるし」
「じゃ、君なんか、もう魔法をいっぱい知ってるんだろうな」
 ウィーズリー家が、ダイアゴン横丁であの青白い男の子が話していた由緒正しい「魔法使いの旧家」の一つであることは明らかだった。
「君はマグルと暮らしてたって聞いたよ。どんな感じなんだい?」とロン。
「ひどいもんさ……みんながそうだってわけじゃないけど。おじさん、おばさん、僕のいとこはそうだった。僕にも魔法使いの兄弟が三人もいればいいのにな」
「五人だよ」ロンの顔がなぜか曇った。
「ホグワーツに入学するのは僕が六人めなんだ。期待に沿うのは大変だよ。ビルとチャーリーはもう卒業したんだけど……ビルは首席だったし、チャーリーはクィディッチのキャプテンだった。今度はパーシーが監督生だ。フレッドとジョージはいたずらばっかりやってるけど成績はいいんだ。みんな二人はおもしろいやつだって思ってる。僕もみんなと同じように優秀だって期待されてるんだけど、もし僕が期待に応えるようなことをしたって、みんなと同じことをしただけだから、たいしたことじゃないってことになっちまう。それに、五人も上にいるもんだから、なんにも新しい物がもらえないんだ。僕の制服のローブはビルのお古だし、杖はチャーリーのだし、ペットだってパーシーのお下がりのねずみをもらったんだよ」
 ロンは上着のポケットに手を突っ込んで太ったねずみを引っ張り出した。ねずみはグッスリ眠っている。
「スキャバーズって名前だけど、役立たずなんだ。寝てばっかりいるし。パーシーは監督生になったから、パパにふくろうを買ってもらった。だけど、僕んちはそれ以上の余裕が……だから、僕にはお下がりのスキャバーズさ」
 ロンは耳もとを赤らめた。しゃべりすぎたと思ったらしく、また窓の外に目を移した。
 ふくろうを買う余裕がなくたって、何も恥ずかしいことはない。自分だって一ケ月前までは文無しだった。ハリーはロンにその話をした。ダドリーのお古を着せられて、誕生日にはろくなプレゼントをもらったことがない……などなど。ロンはそれで少し元気になったようだった。
「――それに、ハグリッドが教えてくれるまでは、僕、自分が魔法使いだってこと全然知らなかったし、両親のことも、ヴォルデモートのことも……」
 ロンが息をのんだ。
「どうん、たの?」
「君、『例のあの人』の名前を言った!」
 ロンは驚きと称賛の入り交じった声を上げた。
「君の、君の口からその名を……」
「僕、名前を口にすることで、勇敢なとこを見せようっていうつもりじゃないんだ。名前を言っちゃいけないなんて知らなかっただけなんだ。わかる? 僕、学ばなくちゃいけないことばっかりなんだ――きっと……」
 ハリーは、ずっと気にかかっていたことを初めて口にした。
「きっと、僕、クラスでびりだよ」
「そんなことはないさ。マグル出身の子はたくさんいるし、そういう子でもちゃんとやってるよ」
 話しているうちに汽車はロンドンを後にして、スピードを上げ、牛や羊のいる牧場のそばを走り抜けていった。二人はしばらく黙って、通り過ぎてゆく野原や小道を眺めていた。
 十二時半ごろ、通路でガチャガチャと大きな音がして、えくぼのおばさんがニコニコ顔で戸を開けた。
「車内販売よ。何かいりませんか?」
 ハリーは朝食がまだだったので、勢いよく立ち上がったが、ロンはまた耳元をポッと赤らめて、サンドイッチを持ってきたからと口ごもった。ハリーは通路に出た。
 ダーズリー家では甘い物を買うお金なんか持ったことがなかった。でも今はポケットの中で金貨や銀貨がジャラジャラ鳴っている。持ちきれないほどのマーズ・バー・チョコレートが買える……でも、チョコ・バーは売っていなかった。そのかわり、パーティー・ボッツの百味ビーンズだの、ドルーブルの風船ガムだの、蛙チョコレート、かぼちゃパイ、大鍋ケーキ、杖型甘草あめ、それにいままでハリーが一度も見たことがないような不思議な物がたくさんあった。
 一つも買いそこねたくない、とばかりにハリーはどれも少しずつ買って、おばさんに銀貨十一シックルと銅貨七クヌートを払った。
 ハリーが両腕いっぱいの買い物を空いている座席にドサッと置くのをロンは目を皿のようにして眺めていた。
「お腹空いてるの?」
「ペコペコだよ」
 ハリーはかぽちゃパイにかぶりつきながら答えた。
 ロンはデコボコの包みを取り出して、開いた。サンドイッチが四切れ入っていた。一切れつまみ上げ、パンをめくってロンが言った。
「ママったら僕がコンビーフは嫌いだって言っているのに、いっつも忘れちゃうんだ」
「僕のと換えようよ。これ、食べて……」
 ハリーがパイを差し出しながら言った。
「でも、これ、パサパサでおいしくないよ」とロンが言った。そしてあわててつけ加えた。
「ママは時間がないんだ。五人も子供がいるんだもの」
「いいから、パイ食べてよ」
 ハリーはいままで誰かと分け合うような物を持ったことがなかったし、分け合う人もいなかった。ロンと一緒にパイやらケーキやらを夢中で食べるのはすてきなことだった(サンドイッチはほったらかしのままだった)。
「これなんだい?」
 ハリーは蛙チョコレートの包みを取り上げて聞いた。
「まさか、本物のカエルじゃないよね?」
 もう何があっても驚かないぞという気分だった。

「まさか。でも、カードを見てごらん。僕、アグリッパがないんだ」
「なんだって?」
「そうか、君、知らないよね……チョコを買うと、中にカードが入ってるんだ。ほら、みんなが集めるやつさ――有名な魔法使いとか魔女とかの写真だよ。僕、五〇〇枚ぐらい持ってるけど、アグリッパとプトレマイオスがまだないんだ」
 ハリーは蛙チョコの包みを開けてカードを取り出した。男の顔だ。半月形のメガネをかけ、高い鼻は鈎鼻で、流れるような銀色の髪、あごひげ、口ひげを蓄えている。写真の下に「アルバス・ダンブルドア」と書いてある。
「この人がダンブルドアなんだ!」
 ハリーが声を上げた。
「ダンブルドアのことを知らなかったの! 僕にも蛙一つくれる? アグリッパが当たるかもしれない……ありがとう……」
 ハリーはカードの裏を読んだ。

 アルバス・ダンブルドア
 現在ホグワーツ校校長。近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名。趣味は、室内楽とボウリング。

 ハリーがまたカードの表を返してみると、驚いたことにダンブルドアの顔が消えていた。
「いなくなっちゃったよ!」
「そりゃ、一日中その中にいるはずないよ」とロンが言った。
「また帰ってくるよ。あ、だめだ、また魔女モルガナだ。もう六枚も持ってるよ……君、欲しい? これから集めるといいよ」
 ロンは、蛙チョコの山を開けたそうに、チラチラと見ている。
「開けていいよ」ハリーは促した。
「でもね、ほら、何て言ったっけ、そう、マグルの世界では、ズーッと写真の中にいるよ」
「そう? じゃ、全然動かないの? 変なの!」ロンは驚いたように言った。
 ダンブルドアが写真の中にソーッと戻ってきて、ちょっと笑いかけたのを見て、ハリーは目を丸くした。ロンは有名な魔法使いや魔女の写真より、チョコを食べる方に夢中だったが、ハリーはカードから目が離せなかった。しばらくすると、ダンブルドアやモルガナの他に、ウッドクロフトのヘンギストやら、アルベリック・グラニオン、キルケ、パラセルサス、マーリンと、カードが集まった。ドルイド教女祭司のクリオドナが鼻の頭を掻いているのを見た後で、やっとハリーはカードから目を離し、パーティー・ボッツの百味ビーンズの袋を開けた。
「気をつけたほうがいいよ」ロンが注意した。
「百味って、ほんとになんでもありなんだよ――そりゃ、普通のもあるよ。チョコ味、ハッカ味、マーマレード味なんか。でも、ほうれんそう味とか、レバー味とか、臓物味なんてのがあるんだ。ジョージが言ってたけど、鼻くそ味に違いないってのに当たったことがあるって」
 ロンは緑色のビーンズをつまんで、よーく見てから、ちょっとだけかじった。
「ウエー、ほらね? 芽キャベツだよ」
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:41:57 | 显示全部楼层
 二人はしばらく百味ビーンズを楽しんだ。ハリーが食べたのはトースト味、ココナッツ、前り豆、イチゴ、カレー、草、コーヒー、いわし、それに大胆にも、ロンが手をつけようともしなかったへんてこりんな灰色のビーンズの端をかじってみたら胡椒味だった。
 車窓には荒涼とした風景が広がってきた。整然とした畑はもうない。森や曲がりくねった川、うっそうとした暗緑色の丘が過ぎていく。
 コンパートメントをノックして、丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。九と四分の三番線ホームでハリーが見かけた子だった。
「ごめんね。僕のヒキガエルを見かけなかった?」
 二人が首を横に振ると、男の子はメソメソ泣き出した。
「いなくなっちゃった。僕から逃げてばっかりいるんだ!」
「きっと出てくるよ」ハリーが言った。
「うん。もし見かけたら……」男の子はしょげかえってそう言うと出ていった。
「どうしてそんなこと気にするのかなあ。僕がヒキガエルなんか持ってたら、なるべく早くなくしちゃいたいけどな。もっとも、僕だってスキャバーズを持ってきたんだから人のことは言えないけどね」
 ねずみはロンの膝の上でグーグー眠り続けている。
「死んでたって、きっと見分けがつかないよ」ロンはうんざりした口調だ。
「きのう、少しはおもしろくしてやろうと思って、黄色に変えようとしたんだ。でも呪文が効かなかった。やって見せようか――見てて……」
 ロンはトランクをガサゴソ引っ掻き回して、くたびれたような杖を取り出した。あちこちポロボロと欠けていて、端からなにやら白いキラキラするものがのぞいている。
「一角獣のたてがみがはみ出してるけど。まあ、いいか……」
 杖を振り上げたとたん、またコンパートメントの戸が開いた。カエルに逃げられた子が、今度は女の子を連れて現れた。女の子はもう新調のホグワーツ・ローブに着替えている。
「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」
 なんとなく威張った話し方をする女の子だ。栗色の髪がフサフサして、前歯がちょっと大きかった。
「見なかったって、さっきそう言ったよ」とロンが答えたが、女の子は聞いてもいない。むしろ杖に気を取られていた。
「あら、魔法をかけるの? それじゃ、見せてもらうわ」と女の子が座り込み、ロンはたじろいだ。
「あー……いいよ」
 ロンは咳払いをした。
「お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」
 ロンは杖を振った。でも何も起こらない。スキャバーズは相変わらずねずみ色でグッスリ眠っていた。
「その呪文、間違ってないの?」と女の子が言った。
「まあ、あんまりうまくいかなかったわね。私も練習のつもりで簡単な呪文を試してみたことがあるけど、みんなうまくいったわ。私の家族に魔法族は誰もいないの。だから、手紙をもらった時、驚いたわ。でももちろんうれしかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いているもの……教科書はもちろん、全部暗記したわ。それだけで足りるといいんだけど……私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」女の子は一気にこれだけを言ってのけた。
 ハリーはロンの顔を見てホッとした。ロンも、ハリーと同じく教科書を暗記していないらしく、唖然としていた。
「僕、ロン・ウィーズリー」ロンはモゴモゴ言った。
「ハリー・ポッター」
「ほんとに? 私、もちろんあなたのこと全部知ってるわ。――参考書を二、三冊読んだの。あなたのこと、『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに出てるわ」
「僕が?」ハリーは呆然とした。
「まあ、知らなかったの。私があなただったら、できるだけ全部調べるけど。二人とも、どの寮に入るかわかってる? 私、いろんな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね……とにかく、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。二人とも着替えた方がいいわ。もうすぐ着くはずだから」
「ヒキガエル探しの子」を引き連れて、女の子は出ていった。
「どの寮でもいいけど、あの子のいないとこがいいな」
 杖をトランクに投げ入れながら、ロンが言った。
「へぼ呪文め……ジョージから習ったんだ。ダメ呪文だってあいつは知ってたのに違いない」
「君の兄さんたちってどこの寮なの?」とハリーが開いた。
「グリフィンドール」ロンはまた落ち込んだようだった。
「ママもパパもそうだった。もし僕がそうじゃなかったら、なんて言われるか。レイブンクローだったらそれほど悪くないかもしれないけど、スリザリンなんかに入れられたら、それこそ最悪だ」
「そこって、ヴォル……つまり、『例のあの人』がいたところ?」
「あぁ」
 ロンはそう言うと、ガックリと席に座り込んだ。
「あのね、スキャバーズのひげの端っこの方が少し黄色っぼくなってきたみたい」
 ハリーはロンが寮のことを考えないように話しかけた。
「それで、大きい兄さんたちは卒業してから何してるの?」
 魔法使いって卒業してからいったい何をするんだろうと、ハリーは思った。
「チャーリーはルーマニアでドラゴンの研究。ビルはアフリカで何かグリンゴッツの仕事をしてる」とロンが答えた。
「グリンゴッツのこと、問いた? 『日刊予言者新聞』にべ夕べタ出てるよ。でもマグルの方には配達されないね……誰かが、特別警戒の金庫を荒らそうとしたらしいよ」
 ハリーは目を丸くした。
「ほんと? それで、どうなったの?」
「なーんも。だから大ニュースなのさ。捕まらなかったんだよ。グリンゴッツに忍び込むなんて、きっと強力な闇の魔法使いだろうって、パパが言うんだ。でも、なんにも盗っていかなかった。そこが変なんだよな。当然、こんなことが起きると、陰に『例のあの人』がいるんじゃないかって、みんな怖がるんだよ」
 ハリーはこのニュースを頭の中で反芻していた。「例のあの人」と聞くたびに、恐怖がチクチクとハリーの胸を刺すようになっていた。これも、「これが魔法界に入るってことなんだ」とは思ったが、何も恐れずに「ヴォルデモート」と言っていた頃の方が気楽だった。
「君、クィディッチはどこのチームのファン?」ロンが尋ねた。
「うーん、僕、どこのチームも知らない」ハリーは白状した。
「ひえー!」
 ロンはものも言えないほど驚いた。
「まあ、そのうちわかると思うけど、これ、世界一おもしろいスポーツだぜ……」
 と言うなり、ロンは詳しく説明しだした。ボールは四個、七人の選手のポジションはどこ、兄貴たちと見にいった有名な試合がどうだったか、お金があればこんな箒を買いたい……ロンが、まさにこれからがおもしろいと、専門的な話に入ろうとしていた時、またコンパートメントの戸が開いた。今度は、「ヒキガエル探し」のネビルでもハーマイオニーでもなかった。
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